徳島から全国へ。人生に寄り添う女性税理士の歩みと展望

佐々木 梨絵(ささき りえ)|SSK税理士法人 代表税理士
大学卒業後、大手信託銀行にて融資・相続関連業務に従事したのち、都内の税理士事務所にて法人税務顧問、会社設立支援、経営改善支援など幅広い税務業務を経験。2016年に税理士登録。その後、東京、大阪の大手税理士法人相続・不動産税務を得意として、相続・資産承継・事業承継・株式評価を中心に数多くの案件を担当。
2024年2月、生まれ育った徳島にて税理士である父親と共にSSK税理士法人を設立。地域に根差した実務を大切にしつつ、常に進化し続ける姿勢を信条としている。
宮田:本日はお時間いただきありがとうございます。まず、税理士を目指されたきっかけからお聞かせください。
ありがとうございます。私の場合、きっかけは出産でした。大学時代に簿記や財務諸表の講義を取っていましたが、そのときは税理士を目指していたわけではなく、卒業後は銀行に就職しました。銀行では法人営業を担当し、中小企業のお客様の資金繰りや融資の相談に乗る日々でした。でも、結婚を機に転勤があり、退職して家庭に入りました。
宮田:その後、子育てに専念されたんですね。
はい、しばらくは専業主婦として育児に向き合っていました。ただ、子育てをする中でまた社会とつながりを持ちたい、働きたいという気持ちが強くなってきました。そのときに考えたのが「何を仕事にするか」。いくつか選択肢はありましたが、税理士なら子育てと両立しやすく、自分のペースでキャリアを築いていけるのではと思ったんです。
宮田:なるほど。税理士という仕事は、その柔軟さが魅力でもありますね。
そうですね、特に女性の税理士はまだ少ないかもしれませんが、実際私の周りでも「一度家庭に入った後に資格を取って税理士になった」という女性は結構います。特に子育てや介護と両立しやすいという面で、税理士は女性にとってもキャリアを築きやすい職業だと感じます。私の友人も、10年以上育児に専念してから復帰して成功している人がいます。
宮田:税理士としてのキャリアを東京でスタートされたとのことですが、どのようなお仕事から始まったのですか?
最初は税理士法人に所属して、法人税の申告業務を担当しました。中小企業のお客様が多く、日々の会計処理や決算書の作成、税務申告書の作成などを担当していました。その中で資産税、特に相続税や事業承継の案件に関わる機会が増えていったんです。
宮田:資産税にシフトしていったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
はい、法人税の仕事ももちろんやりがいがありましたが、資産税の案件に関わると「その方の人生や家族の歴史に触れる」ような感覚があったんです。お客様ごとに状況も課題も異なり、マニュアル通りにいかないところが面白くて。
例えば、非上場株の評価では「この会社は親族でどんなふうに受け継ぐのがいいのか」「後継者がちゃんと育っているのか」など、税務だけでなく経営や人間関係まで含めて考えないといけません。不動産の評価でも、家族間で価値の捉え方が違ったり、昔の登記のままで手続きが必要だったりと、調整や交渉の連続でした。
宮田:そんな中、どうして生まれ育った徳島に帰って税理士法人を開業されることになったのですか?
東京で資産税や相続税の案件を担当していく中で、「やはり自分でやりたい」という気持ちはずっと心の中にありました。ですが、私の場合子どももいるので、いきなり独立して収入が不安定になるのは現実的に難しいと感じていました。特に東京は競争も激しいですし、最初から顧客基盤を作るには時間も労力もかかります。
そこで考えたのが、徳島に戻って税理士である父と一緒にやりながら、自分のお客様を少しずつ増やしていくという道です。父は地元で長く税理士をしており、お客様との信頼関係も築いていましたし、その中で私が新しい風を入れることもできるのではと感じたんです。
戻ってからは、父と私の2人の税理士とパートスタッフ4名という体制で仕事をしています。父は長年地元に根ざしたお客様を担当し、私は東京時代のお客様や、徳島でも新たに相談に来てくださった方々を中心に対応しています。
徳島に戻る決断は、当初は悩んだ部分もありましたが、今は本当に良かったと思っています。地元で家族と暮らしながら、自分のやりたい税理士の仕事を続け、父と協力しながら地域に貢献できていることは、とても充実感があります。

宮田:現在、どのようなお客様が多いですか?
徳島で特に多いのは、やはり農業に関するご相談です。父が元JA職員だったこともあり、農業経営者の方とのつながりが強く、相続や法人化、補助金の相談を受けることが多いです。農業の世界では、高齢化や後継者不足で離農される方も多く、その際に周囲の農家が周りの農地を借りたり買ったりして、結果的に大規模化していく方が増えています。そうなると、税務面や法人化、資金繰り、補助金活用など、総合的なサポートが必要になります。
若い後継者の方が「この先も農業をしっかり続けていくために法人化したい」と言って相談に来られるケースなども多く、売上よりも利益の出方、そしてその継続性が重要だということをお伝えしつつ、そこを一緒に確認しながら法人化のタイミングやメリット・デメリットを丁寧に説明しています。
宮田:東京にいらっしゃった頃のお客様のご支援も継続されているのですか?
はい、東京や関西のお客様への支援では、定期的に電話やオンラインでの面談を行い、距離を感じさせないように心掛けています。実際、東京や関西の案件でも、相続や資産税の相談で「徳島のことを分かってくれている税理士に頼みたい」と言っていただくこともあります。私自身、東京で資産税を担当していた経験があるので、都市部と地方の相続・税務の違いや課題をしっかり理解した上で対応できることが強みです。
クラウド会計も積極的に活用していますので、徳島にいながら全国のお客様とスムーズにデータを共有し、迅速な対応ができる体制を整えています。地方だから、距離があるから、ではなく「どこにいても頼れる存在でありたい」というのが私の思いです。
宮田:お客様との関係性において意識されていることはありますか?
私自身が意識しているのは、税理士という仕事を「税金の計算をするだけの存在」にとどめないことです。税理士は、経営のことも人生のことも相談できる伴走者でありたいと考えています。実際にお客様からは「人生相談をしているようだ」と言われることも多いです。
例えば、相続のご相談で「この土地を子どもに残すべきか、それとも売却したほうがいいのか」「家族の将来のためにどんな準備をしておくべきか」といった、税金だけでなくその方の人生設計に関わるご相談を受けることがよくあります。
ただ数字を見て答えるのではなく、お客様のお話をじっくり聞いて、その方の立場に立って一緒に考えること。ときには時間をかけて、ご家族皆さんの思いを確認しながら進めることもあります。それができるのは、長期的な信頼関係を築くことを大事にしているからだと思います。
宮田:非常に頼もしい存在ですね。
私は女性税理士ということもあってか、「話しやすい」「相談しやすい」と言っていただくことも多いです。
特に相続のご相談では、相続人の方が女性であることも多く、同性だからこそ話しやすいと感じていただけるのかもしれません。
お客様から「こんなことを相談していいのかわからなかったけれど、聞いてもらえてよかった」と言っていただけることがあり、それが私にとっては何よりの喜びです。
また、クラウド会計やAIなどの新しい技術を積極的に活用しているのも、私たちの事務所の特徴の一つです。freeeやマネーフォワードを導入して、リアルタイムでお客様とデータを共有できる体制を整えています。地方だから、という理由で対応が遅れたり不便になったりしないように、効率化できるところは徹底的に効率化しています。AIの活用も進めていて、例えばChatGPTを使ってメールの下書きを作ったり、書類のひな型を作成したりしています。事務作業にかかる時間を短縮することで、その分お客様と向き合う時間を増やせるようにしています。
私は、税理士という仕事を通じて、お客様の不安や悩みを少しでも軽くするお手伝いがしたいと思っています。単なるサービス提供者ではなく、人生のパートナーとして信頼される存在でありたい。それが、私が他の事務所との差別化として意識していることです。
宮田:これから力を入れていきたい分野について、改めてお聞かせいただけますか?
これから私が力を入れていきたいのは、農業支援のさらなる充実です。徳島に戻ってきて、農業の現場を身近に感じるようになり「もっとできることがある」と強く思うようになりました。農業は地域の基盤であり、同時に全国の食を支える大切な産業です。だからこそ、経営としても持続可能でなければなりません。そのための法人化や資金計画、補助金活用、相続・事業承継といった幅広いサポートをこれからさらに強化していきたいと思っています。
最近は全国の農業経営者の方からオンラインで相談をいただくことも増えています。「法人化を考えているが、どこから手をつければよいかわからない」「後継者が決まったが、税務や手続きで悩んでいる」そんな声に応えられる存在でありたいです。徳島にいながら、全国の農業を支援できる。それが私の今後の目標のひとつです。
宮田:農業支援以外に、今後取り組みたいテーマはありますか?
地方で新たに事業を始めたい方や、地方への移住を考えている方の支援にも力を入れていきたいです。徳島に戻ってきて実感したのは、地方だからこその魅力と可能性です。首都圏で仕事をしなくても、地方で自分らしい事業をつくることができる。その選択を支える税理士でありたいと思っています。
私は税理士の仕事を通じて、お客様が安心して未来を描けるようお手伝いをするのが自分の役割だと思っています。単なる「税金の計算をする人」ではなく、人生や事業のパートナーとして、相談していただける存在でありたい。
宮田:最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
税理士を選ぶとき、料金や知名度だけで決める必要はありません。大切なのは「この人なら相談しやすい」「一緒にやっていけそうだ」という感覚だと思います。ぜひ、パートナー選びのつもりで税理士を選んでください。そして、もし少しでも私の話に共感していただけたなら、気軽にご相談いただけると嬉しいです。どこにお住まいの方でも、お役に立てることがあると思っています。