「地方から時代をつくる」——事業承継のプロが山口で挑む、システム×コンサルのハイブリッド戦略

清水敦也(しみず あつや)|ジダイオ税理士事務所 代表税理士 / JIDAIOコンサルティング株式会社 代表
山口市秋穂出身。愛知県の大学・大学院を経て、新卒で税理士法人山田&パートナーズに入社し、約4年間にわたり事業承継・相続対策を中心としたスポット案件を数多く経験する。山口県の後継者不在率がワースト2位という記事に背中を押され、27歳でUターンを決意。2020年1月、同じく事業承継を専門とする妻の唯さんとともに開業。税務顧問・相続税申告・事業承継コンサルに加え、自社開発の株価試算Webサービス「かんたん株価試算」を無料・匿名で全国に提供。テクノロジーとコンサルティングを掛け合わせた独自のスタイルで、事業承継の裾野拡大に取り組んでいる。
まず、ジダイオ税理士事務所さんの事業内容と現在の体制について教えてください。
売上の構成としては、税務顧問が2割、相続税申告が4割、事業承継コンサルが2割、そしてシステム事業が2割という割合です。体制は正社員6名とパート2名の従業員7名に、役員が2名。開業して6年目で、ここまでの規模になりました。お客様の9割5分は山口県内の方です。
相続税申告が最も大きな柱なのですね。どのようにご相談が来るのでしょうか?
ほとんどが金融機関と司法書士さんからのご紹介です。ありがたいことに、地元の銀行さんからは年間10件以上の案件をいただいていますし、司法書士さんからも同じくらいご紹介いただいています。東京で事業承継の実務を経験していたことが、山口での信頼につながったのかなと思います。あとは商工会議所にも顔を出させていただいてからは、事業承継関連のご相談もいただける状態になりました。それだけ山口県内では「誰に相談したらいいかわからない」という状況だったんだと思います。
東京の税理士法人ではどのようなお仕事をされていたのですか。
新卒で東京の大手税理士法人に入社して、約4年ほど在籍しました。税務顧問の仕事もありましたが、銀行などの提携先からご紹介いただく事業承継案件、相続・相続対策といったスポット案件も多く担当させてもらいました。特に事業承継の分野に力を入れている法人でしたので、規模の大きい案件にも携わらせていただきました。
そこから山口に戻ろうと思われた決め手は何だったのでしょうか。
戻る半年前くらいに、山口県の後継者不在率が全国ワースト2位だという記事を見たんです。「後継者不在率 ≒ 事業承継の課題感が強い」ということだと捉えています。東京で大きい案件をやらせていただいてはいたんですけど、やっぱり地元に戻りたいという思いはずっとありました。あの記事を見た瞬間に、「今戻らずにいつ戻るんだ」と。すぐに決めましたね。27歳の時でした。
かなり弾丸での決断ですね。奥様の唯さんも同じく事業承継のご専門とのことですが、ご夫婦での創業はどのように決まったのですか。
別々に働くという選択肢は特になかったですね。妻は当時東京の大きな税理士法人に在籍していて、ちょうど出向の話が来ていたんです。出向でキャリアを積むか、山口に一緒に行くかという天秤でした。でも、独立して最初は大変だろうから一緒にやろうという結論になったんです。
「事業承継が得意な税理士は多くない」というお話を伺いましたが、どのあたりに難しさがあるのでしょうか。
事業承継というのは、法人税、所得税、消費税、相続税といった税務に加えて、民法や信託といった法律の知識まで横断的に求められる分野です。日常の税務顧問業務とは求められるスキルセットがかなり違うので、やりたくてもなかなか手を出しづらいという方が多いのだと思います。そもそも事業承継は「未来をどう設計するか」という話ですから、過去の処理を正確に行う通常の税務とは考え方自体が異なるんですよね。
東京と山口で、事業承継をめぐる状況に違いはありますか。
実務を通じて分かってきたのですが、事業承継が進まない原因は大きく2つに分かれます。1つはニーズが顕在化されていないこと。もう1つは、対応できる専門家の数が限られていることです。
東京であれば、事業承継に精通した税理士や専門家がそれなりにいますから、顧問の先生の専門外であっても、セカンドオピニオン的に相談できる環境が整っています。でも地方ではそうした受け皿がまだまだ少ないんです。事業承継に日常的に携わっている税理士は、山口では感覚的には10%もいないのではないでしょうか。経営者の方が「そろそろ事業承継を考えたい」と思っても、身近に相談先が見つからないという状況がある。これは税理士側の問題というよりも、地方全体の構造的な課題だと感じています。
清水さんが東京での経験を持ち込んだことで、変化が生まれているのですね。
弊所では決算後に必ず株価試算をお出しするようにしているのですが、それだけで「こんなにやってくれるんですか」と驚かれることがあります。東京では珍しくないことなんですが、地方ではまだそうしたサービスが行き届いていないということなのだと思います。事業承継は突き詰めると相続の問題でもあるんです。このまま放置しておいたら相続で困るという話ですから、「相続税がどれくらいかかりそうか」「相続人の中にご関係が難しい方はいないか」といったところまで踏み込んでお話しすることを大切にしています。顧問として信頼していただいているからこそできることだと思いますね。
自社開発のWebサービス「かんたん株価試算」について伺います。開発のきっかけは何だったのでしょうか。
M&Aの支援に失敗した経験がきっかけです。銀行からご紹介いただいた、72歳の工場を経営されている社長さんの案件でした。支援を進めている途中で社長の体調に問題が出てしまい、案件がブレイク——つまり破談になってしまったんです。
この方は本当にいい社長さんで、「自分の給料なんかいいから、仕事をするのが楽しいんだ」とおっしゃっていました。でも奥様もいらっしゃる。体調を崩して廃業となると、今後の生活資金をどうするのかという問題が出てきます。うまく承継できていればまとまった退職金が入るはずでしたが、体調の問題で別の買い手を探すことも難しくなってしまった。あの方にはもっと何かできたんじゃないかと、ずっと考えていたんです。
もっと早い段階で動けていれば、結果は違ったかもしれないということですね。
はい。もっと早く気づくことができていたら、この方は事業承継できたんじゃないかと。そこで考えたのが、株価を試算するだけでなく、そこに紐づく税金まで見せるということでした。株価が3,000万です、5,000万ですと言われてもあまりピンとこないんですが、「このまま相続が起きたら自社株が1億円で、相続税が2,000万円かかるかもしれません」と言われたら、さすがに「ちょっと税金まずいな」と動きますよね。税理士をやっていると、決算のたびに「こんなに税金かかるの」というリアクションをいただくんです。だったら、その税金への反応をきっかけにニーズを顕在化させていこうと考えました。
とはいえ、思いつくことと実際に作ることの間にはハードルがあると思うのですが、なぜ開発に踏み切れたのでしょうか。
あの工場経営者の体験が大きかったのと、周りの60歳くらいの経営者に聞いてみたら、「税理士に頼むと時間もかかるしお金もかかるから、本当にざっくりでいいから簡単に知りたいんだけどね」という生の声があったんです。ニーズはある、でも既存のサービスにはない。じゃあやっちゃえと。計算式自体は国税庁が公表しているものなので、それをExcelに起こして、エンジニアさんに実装してもらいました。「ありそうでないよね」とよく言われるんですが、おそらく普通は顧問の税理士に相談して済ませてしまうので、わざわざサービスにしようと考える人がいなかったんだと思います。
サイトのデザインもとても作り込まれていますね。
実は、マネーフォワード社のデザイン部長さんが山口に住んでいらっしゃって、その方に作っていただいたんです。「チーム山口」ですね(笑)。
「かんたん株価試算」は無料・匿名で利用できるとのことですが、有料化や見込み顧客の獲得に活用しようとは考えなかったのですか。
いろいろな方から「これは実名にしないとお金にならない」とは言われました。でも、有料にしたり実名にしたりすると、ちっちゃくまとまるだけだなと思ったんです。あの工場経営者の方のことを考えると、日本中に困っている経営者が絶対にいっぱいいるはずなので。まずは「自分の会社の株価を試算してみる」という文化自体が広がらないと意味がないと思っています。自分のことだけを考えて有料にするよりも、困っている人を救えるという方が個人的にはやりがいになりますから。
実際にどのように広がっていったのですか。
ありがたいことに自然に、という感じです。途中で少し広告も出しましたが、基本的には自然にちょっとずつ、毎月微増していくような広がり方をしていきました。ただ、最近はもう少しコンテンツを充実させたり、試算後の導線を強化したりしないといけないなとは感じています。
今後このサービスをどのように発展させていきたいとお考えですか。
経営者に直接使っていただくのもありがたいのですが、むしろ税理士さんや商工会議所さん、金融機関さんといった「支援する側」の方々に使っていただきたいと思っています。経営者が自分で見つけて使うよりも、支援者側がこのツールを知って「これいいね」となって、顧問先に案内してくれた方が広がりは早いですから。
実際に、税理士向けには10年分の株価シミュレーション機能をサブスクリプション形式で提供しています。たとえば「3年後に事業承継を考えているけど、退職金を5,000万円出したら株価はどう変わるか」というシミュレーションは、既存のツールではなかなかできないんですよ。弊所のサービスならそれができます。顧問の税理士さんがこのツールを通じて事業承継への関心を高めてくださって、実際にコンサルが必要になったらうちが黒子としての支援もできる。ノウハウは減るものではないので、どんどん還元していって承継支援が地域に浸透していく。そういう構造を目指しています。
顧問税理士さんがお客様に「かんたん株価試算」を案内するのも大歓迎ですし、このツールをきっかけに「自分も事業承継の支援をやってみようかな」と思ってくださる税理士さんが増えたら、それが一番嬉しいですね。
社名の「ジダイオ」にはどのような想いが込められているのですか。
地元に戻るからといって、個人でこぢんまりやるつもりはなかったんです。地方から時代を作っていく、それぐらいの意気込みでやりたかった。「時代(ジダイ)」「次代(ジダイ)」に、私の出身地である秋穂(アイオ)を掛け合わせた造語です。ただ、電話ではめちゃくちゃ聞き返されるのが悩みですね(笑)。でも一回覚えていただいたら絶対に忘れられないので、そこは逆にいいかなと。
開業される時に、規模感や売上の目標はあったのですか。
規模の目標は特に置いていませんでした。ただ、地域創生というか、地域が元気になるということはずっと意識していて。街づくりという観点で言うと、私は「人づくりが街づくり」だと思っているんです。この税務業界で言えば、たとえばDXができるような人材を育てて、地域に送り出していく。「次代」という言葉にはそういう想いも込めています。
スタッフを育てて「卒業」してもらうモデルも構想されていらっしゃいますね。
はい。私はスタッフを社内に抱え込みたいとは思っていなくて、もっと外に出て広い世界を経験してもらいたいんです。自分自身が地方から東京に出て、考え方もやり方も全然違う世界を知れてよかったと思っているので。
実際に、山口大学の学生で、大学2年生で会計士試験に合格した方が弊所で働いてくれていたんですが、「うちで働くよりも外を経験した方がいいよ」と言って、別の監査法人で働くことを勧めました。他にも在学中に税理士資格を取った方にも、「まず一度、外の世界を経験しておいで。困ったらいつでも来てくれていいから」と送り出しています。自分たちだけが得をするのではなくて、広い世界を見た人材が地域に戻ってきて、地域を豊かにしてくれる方がずっといいと思っています。

ご夫婦ではどのように役割分担をされているのですか。
妻は総務経理をやりつつ、普通に案件も担当しています。
事業承継というのは、大きく分けると「経営承継」と「株の承継」の2つの側面があります。経営承継というのは、現社長と後継者の想いをすり合わせたり、世代間のコミュニケーションを取り持ったりする、正解のない定性的な仕事です。一方で株の承継は、株価の計算や税務の設計といった、ある程度正解がある定量的な仕事。税理士事務所は一般的に経営承継の部分が苦手なのですが、妻はそこがとても得意なので担当してもらい、私は株の承継のほうをやるという分担です。
現社長と後継者では、年齢も違えば生きてきた時代も違いますから、そもそも言語が全然違うんですよね。その間をうまくつなぐ役割を妻がやってくれています。私と妻はお互い考え方が違うのでケンカも多いんですが(笑)。
最後に、今後の事務所の展望について教えてください。
売上目標とか従業員数とか、規模の数値目標は置いていません。ただ、定性的な目標としては、事業承継のコンサルティングとシステム開発を掛け合わせたハイブリッドな対応力は、私たちにしかない独自の強みだと思っているので、それを広げていきたいと思っています。
今ちょうど、いわゆる「10人の壁」にぶつかっているところです。自分一人では管理しきれなくなってきたので、マネージャーを置いたり組織体制を整えたりする必要が出てきました。でも、システム開発でもそうだったんですが、最初は全然わからなくても、一個一個対応していったら結果的に「やってよかったな」と思えることが多かったんです。自然に拡大していって、結果として大きな事務所になっているかもしれないし、ならないかもしれない。どちらにしても、自然体で一つ一つやっていけばいいんじゃないかなと思っています。
読者の方に向けて、お伝えしたいことはありますか。
「かんたん株価試算」は、経営者の方が無料・匿名で自社の株価と、それに紐づく税金のインパクトを試算できるWebサービスです。顧問の税理士さんが顧問先にご案内するツールとしても、ぜひ使っていただきたいと思っています。
事業承継というのは「まだ先の話」と思いがちなんですが、早く気づけばそれだけ選択肢が広がります。あの72歳の社長さんのように、気づいた時にはもう手遅れだったということにならないために。まずは一度、自分の会社の株価がどうなっているのか、知るところから始めていただけたらと思います。
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取材後記
「目標は置かない。自然に、一個一個やっていくだけ」と語る清水さんですが、その「一個一個」の中身がすごいと感じました。72歳の社長を救えなかった後悔からWebサービスを開発し、無料・匿名で全国に公開する。優秀な学生には「うちで働くより外を見ておいで」と送り出す。すべてが「自分だけが得をしない」方向を向いています。山口という地方から時代を作ろうとする清水さんご夫婦の挑戦を、これからも応援していきたいと思います。
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