一生に一度の「事業承継」に、時間をかけて伴走する ―富裕層税務を経た税理士が、オーダーメイドでデザインする事業承継の世界

武本 寛(たけもと かん)|武本寛税理士事務所 代表
福岡県出身。九州大学卒業。コンサルティング会社を経て税理士登録。KPMG税理士法人、メガバンクウェルスマネジメント部への出向、外資系法律事務所Withers、MID税理士法人を経て2025年10月に独立開業。税務顧問業務を行いながら、非上場会社オーナーグループを対象とした組織再編や資本政策および国際資産税等業務に従事。
インタビュアー: 開業から半年弱とのことですが、まずは事務所の今の様子を教えていただけますか。
昨年の10月に独立して半年弱になりますが、ありがたいことに現在30社ほどの法人顧問やスポット案件をご支援させていただいています。独立したばかりの今は、まず税務顧問を中心に目の前のお客様へ安定した価値を提供し、事務所としての土台を丁寧につくり上げる時期だと捉えています。
今年の夏ごろにはそのサポート体制も盤石になる見込みですので、そこからは次のステップとして、私の本来の強みである「事業承継」や「国際資産税」といった高度な分野の支援に、より本格的に注力していきたいと思っています。
インタビュアー: 半年弱で20社以上というのは、お一人で運営されていることを考えるとかなりの件数ですよね。何か工夫されていることはあるんですか。
現在のお客様は、コンサルティング会社やIT系、不動産賃貸業、メディア関係、あとは以前から知見のある公益法人様などが多いですね。過去の私の経験やキャリアをHPやSNSで知ってお問い合わせくださる方が多いため、自然とそうした業種が集まってきているという感覚です。
その他、実店舗を運営されている方や、スタッフを雇ってビジネスをされているお客様もいらっしゃいます。ただ、ITや不動産といったお客様は、クラウド会計などを使ったデジタル化との親和性が高く、スムーズに回りやすい側面も実際にはあります。私の得意分野と、お客様の求めるものが、結果的にすごく綺麗にマッチしている状況ですね。
また、当然ですが一人ですべてを回していくため、月次業務やコミュニケーション方法なども効率化していくことが重要です。作業に近い業務や共通化できるプロセスにはAIを組み合わせて効率化し、より税務的な判断やお客様の今後の計画に沿ったプラン検討に時間を充てるようにしています。
インタビュアー: 法人税務顧問はフルリモートと伺いました。今の時代、リモートで完結できるのはお客様にとっても移動時間がなくなるメリットがあると思いますが、実際のところはいかがですか。
はい、法人税務顧問は原則フルリモートです。「一度お会いできますか」と言われることもありますが、基本的にはチャットやビデオ通話でスピーディにやり取りをしつつ、ご希望のお客様にはオプションで対面でのご面談もできるようにしています。基本的にチャットやメールなどでこまめにやり取りをしているので、対面でなくても信頼関係は十分に築けると感じていますね。また、資料の受け渡しもデータ化して共有フォルダで管理することで情報を一元化し、クラウド会計を使い情報をリアルタイムに反映させることで効率化を図っています。
ただし、事業承継や資本政策の案件は別で、地方であっても必ず対面で行うようにしています。事業承継は、オーナーご本人だけでなくご家族の意向や感情が深く絡む仕事です。株式の評価額がいくらだとか、組織再編のスキームがこうだとか──数字の話だけでも複雑なのに、そこに「オーナーの本音」や「後を継がない他の子どもたちの気持ち」などのセンシティブな要素が重なってくる。そういう繊細な話や声のトーン、その場の空気感を画面越しだけで進めるのは難しいと思っています。
インタビュアー: 武本先生はもともとIT・人事コンサルをされていて、そこから税理士の道に進まれたんですよね。かなり大きな方向転換に見えますが、何がきっかけだったんでしょうか。
もともとITや人事のコンサルタントをしていましたが、大きな転機になったのは、マーサーの人事コンサル時代に参加した2014年ダボス会議のプロボノ(社会貢献)企画でした。そこで中高年人材のリスキリング問題に取り組んだ際、経営者の高齢化に伴う「中小企業の事業承継」がいかに日本経済の喫緊の課題であるかを痛感しました。
当時のコンサル業務にもやりがいはありましたが、もっと経営者の懐に入り込み、この事業承継という課題に直接的に貢献したいという思いが強くなりました。そのためには、単なるアドバイスで終わらない、資格に裏付けされた専門性が必要です。働きながらでも目指せると資格学校の口車に上手く乗せられ(半分騙される形で・笑)、税理士資格を取得する決意をしました。
もう一つの理由として、「将来的には地元の福岡に帰って働くという選択肢も持っておきたい」という、自分なりのライフプランもありました。ただ、当時やっていた大企業向けのコンサルの業務内容やスキルは、地方の中小企業にはそのまま活用はしにくいとも感じていました。そう考えて税理士資格を取ろうと決めたのが、2013〜14年ごろのことですね。
インタビュアー: そこからKPMGやAGS、Withersと、かなり多彩なキャリアを積まれていますよね。それぞれの経験がどうつながっているのか、教えていただけますか。
税務キャリアの最初はKPMG税理士法人で法人税務を経験しました。大手で申告をはじめとした税理士業務の基礎動作や考え方を身につけたいというのが大きかったです。外資を含む企業の税務や準備書面の作成や条文の引き方など税理士試験では習わない、税務実務のベースを築くことができました。その年の12月に官報合格を果たしたこともあり、本来やりたかった事業承継の道へ進むことにしました。しかし当時、KPMGの中に明確な事業承継の専門部隊がなかったので、AGS税理士法人に移りました。
AGSでは、国内の事業承継にがっつり取り組んだ時期ですね。株価評価から始まって、自社株の移転スキームを設計し、実際にオーナー一族と向き合いながら合意形成まで持っていき、多くの案件で実行支援まで行いました。机上の計算だけではなく、「この株を誰に渡すか」という家族の問題に踏み込む経験を、ここで初めてしました。
その後、Withersで国際資産税──日本に住む外国人富裕層や、日本に資産を持つ海外の外国人のための税務アドバイザリーや相続対策に携わりました。各国のWithers事務所と情報をすり合わせながら最適なスキームを組むというかなり特殊な領域ですが、国際税務と資産税を掛け合わせた視点で仕事をすることができました。
最後に緑川正博先生の事務所であるMIDストラクチャーズで再び国内の事業承継実務に戻りました。事業承継という軸はずっと一貫していて、対象や切り口が少しずつ違う──そうやって経験を増やしてきた感じです。
インタビュアー: 独立されたのが2025年の10月ということですが、いつ頃から独立を意識されていたんですか。
実は1年前まで、具体的に独立しようとは考えていなかったんです。MIDでは組織再編を伴う事業承継や財団法人の案件など、幅広い経験を積ませてもらいました。
ただ、組織にいる以上、どうしても「案件を数多く獲得し、スピーディにこなしていくこと」が優先されがちです。一方で、事業承継というのはお客様の人生やご家族の感情が絡むため、数年単位の長期的な視点が必要になります。無理に案件を進めるのではなく、お客様の本当の状況やタイミングに寄り添って、長く伴走し続けたい、そう考えるようになったのが一番のきっかけですね。
インタビュアー: ご家族もいらっしゃる中での独立ですから、踏み切るのは簡単ではなかったのではないですか。
もともと石橋を叩いて渡るタイプというのもありますが(笑)、無謀な独立はしませんでした。事業承継という「数年単位の長期戦」にお客様のペースで伴走するには、まず私自身の事務所の足元が安定していなければ、どうしても目先の売上や案件獲得に走ってしまいます。
ですから、最初は売上を急がなくても、お客様と向き合えるだけの体力を作ってから踏み切りました。家族にも以前から「いつか自分の事務所を立ち上げたい」という話もしていたので比較的スムーズに独立することができました。
インタビュアー: 今振り返ってみて、このタイミングでの開業はどうでしたか。
今で良かったと思っています。もともと事業承継を本業にしたくてキャリアを重ねてきたので、その経験を十分に積んだ上で独立できたのは大きいです。事業承継の世界は、やっぱり「場数」や「厚み」を見られるんですよ。相手は何十年も会社を経営してきたオーナーさんですから。20代で「事業承継のご相談を承ります」と言っても、当然に信用して本音を打ち明けてはもらえない。少なくとも今ぐらいの年齢とキャリアがあって、ようやく「この人になら話してもいいかな」と思ってもらえるようになった。自分の得意分野として胸を張れる状態で独立できたのは、結果的にベストだったと感じています。
インタビュアー: 実際に開業されてみて、「思っていたのと違った」ということはありましたか。
やはり「待っていても何も起きない」ですね。組織にいた頃は、看板があって、営業部隊がいて、案件が回ってくる仕組みがありました。でも一人で始めると、自分から能動的に動かなければ何も始まらない。頭では分かっていましたが、実際に体験して初めて腹落ちしました。
一方で、自分の価値観でお客様にアドバイスできる自由度の高さは独立してよかったと思う部分です。組織のサービスラインにとらわれず「この施策は急がなくていいですよ」とか「まずはこっちを優先しましょう」と、自分の判断で提案できるのは大きいです。
あと、開業当初、お客様へのご提案資料や契約書のひな型など、ファームとしての「土台(インフラ)」をゼロから作る作業量が想像以上に膨大だったことですね。
そこでAIをフル活用して乗り切ったんです。スライド作成、料金の分析、契約書のひな型──半日かかりそうなスライドが10分でたたき台ができる。もちろん法的な確認や実務に合わせた修正は必要ですけど、ゼロから作るのと、たたき台を直すのとでは天と地の差があります。AIがなかったら、正直ここまで来られていなかったですね。
インタビュアー: 武本先生はAI活用にかなり積極的な印象ですが、税務以外でも何か活用されているんですか。
年始にスモールビジネスを自分で作ってみたんですよ。日本に住んでいて日本語が読めない外国人向けに、行政手続きの書類をAIに判定させて、具体的なアクションを案内するサービスです。WhatsApp、Make、Stripeなどを組み合わせてノーコードで構築しました。
これは普通にAIに聞いてもわかる部分も多いのですが、例えば日本の社会保険料の納付書って納付していないのに、「領収済通知書」ってタイトルになっていたりします。一般的なAIに何も教えずに読ませると、「領収済と書いてるので何もしなくてOK!」と誤った回答が来てしまいます。そこでこのビジネスでは学習済AIを用いてユーザーが新しいアプリを入れることなく普段使っているWhatsAppで写真を送るだけで判断、案内してくれるようにしました。また、集客、決済、サービス提供まで完全自動で回るようにして自分の業務を圧迫しないよう設計しました。
元々コンサル時代にSAPの設計・開発などを手掛けていた土台はありますが、AIを開発パートナーとして対話しながら進めたため、あっという間に完成しました。子供を寝かしつけた後、夜な夜な作っていました(笑)
確定申告が終わったらAIを普段の業務にもっと本格的に組み込んでいきたいと思っています。一人事務所だからこそ、AIは「もう一人のパートナー」みたいな存在ですね。
インタビュアー: ここまでお話を伺ってきて、武本先生が事業承継に強い想いを持っていらっしゃることがよく伝わってきました。改めて、どんな税理士でありたいと考えていますか。
一つの理想の形として、「顧問税理士先生の力になれる、事業承継・資本戦略のパートナー」であれたらと思っています。例えば、税務顧問を中心にされている先生のところに、数億円規模の事業承継や組織再編のご相談が来たとします。ただ、この分野は日常の税務とは異なる知識が求められます。そこで、先生とお客様の信頼関係はそのままに、事業承継の専門家として先生と一緒にサポートしていくのが自分のありたい姿だと思っています。
組織にいた頃は、どうしても案件獲得のために実行提案をする場面もありました。
でも独立した今は、組織再編や実行ありきではなく、お客様とじっくり話して決められるんです。「まだ焦らなくて大丈夫ですよ」と言えるし、「3年後にこういう状態を目指しましょう」と長期で計画を一緒に作っていけます。時間の縛りがなく、3年、5年のスパンで伴走できることが、一人で独立した一番の強みだと思っています。
インタビュアー: 事業承継は数字やスキームだけではなく、家族の間の感情も大きく関わりますよね。武本先生はその部分にどう向き合っていますか。
ここが一番大変で、一番やりがいがあるところです。何ヶ月もかけて実行計画を緻密に作り上げても、オーナーの一言で全部ひっくり返ることは珍しくありません。「やっぱりやめます」と。お子さんと話したら反対されたとか、奥様に相談したら不安がられたとか、理由はさまざまです。それ自体は受け入れるしかないのですが、提案の段階で「ひっくり返されにくい設計」をしておくことはできます。
特に気をつけているのは、承継しないお子さんたちへの配慮です。会社の株式を長男に集中させるとなったとき、「じゃあ次男と長女はどうなるんだ」という話は必ずなります。たとえば、会社の株式は長男に渡すけれど、不動産は次男に、金融資産は長女に──というように、資産や納税など全体のバランスを見た分割案を最初からセットで提案することが大事です。それぞれのお子さんに「なぜこういう設計になったのか」を論理的に説明できる状態にしておかないと、オーナーも安心して決断できないですし、後々トラブルの種になります。
最初の段階では、事業承継をしなかった場合に起こり得るリスクを丁寧にお伝えするところから始まります。「このまま何もしないと、相続が発生したときに株式が分散して、会社の意思決定ができなくなるかもしれません」「場合によっては、会社を手放さなければならない事態も考えられます」──そういった現実を、あくまでお客様の状況に即した形でお話しするんです。オーナーご自身の一言が家族全体の方針になるご家庭も多いですから、ご本人が納得するだけでなく、家族全員が腹落ちした上で進めることを何より大切にしています。
インタビュアー: 最後に、事業承継を考え始めている方や、まだ漠然と「いつかは」と思っている経営者の方に向けて、メッセージをお願いします。
これまで数多くの企業をご支援してきて痛感するのは、「自社に深刻な事業承継のリスクが潜んでいることに、そもそも気づく機会がない」経営者様が非常に多いということです。
パッと決算書を拝見しただけで「このまま対策を打たないと、後継者やご家族に大変な負担がかかるな」と分かる状態でも、身近にそれを指摘して伴走してくれる専門家がいないために、問題が放置されてしまっているケースが後を絶ちません。
事業承継は、早ければ早いほど選択肢が広がります。10年前から取り組めば、グループ会社間の組織再編や、持株会社の設立、段階的な株の承継など、さまざまな手法を組み合わせて検討できます。でも直前になると、使える手法が限られるだけでなく、税務リスクも高くなってしまう。高齢になればなおさらです。
「うちはまだ大丈夫」と思っているときこそ、一度専門家の話を聞いてみてほしい。動ける余裕があるうちに選択肢を知っておくことが、ご自身とご家族の将来を守る第一歩になると思います。ぜひお気軽にご相談いただけると嬉しいです。
取材後記
「ITコンサルから税理士」へ。一見すると大きなキャリアチェンジに見えますが、武本さんの中では「事業承継に貢献したい」という軸が終始一貫していました。KPMG、AGS、Withers、MIDと異なる環境で事業承継の経験を積み重ね、「自分の強みとして胸を張れる状態」で独立を選んだ判断力は、まさにコンサルタント出身ならではの戦略的思考です。
印象的だったのは、事業承継における「ひっくり返されにくい設計」という言葉。数字やスキームの正確さだけでなく、承継しない子どもたちの感情まで最初から織り込んで提案する──そこに、武本さんが何年もかけて磨いてきた真の専門性が表れていました。AIを「もう一人のパートナー」として活用しながら、一人事務所でありながら30社の顧問を回す効率性も見事です。事業承継に悩むオーナーにとって、時間をかけて伴走してくれる心強い存在だと感じました。
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