『数字以外の話の方が長い』NPO特化税理士・金子尚弘さんが実践する、真の経営者伴走とは

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金子尚弘|会計事務所プロースト 代表

1987年愛知県豊橋市出身。立命館大学大学院修了後、名古屋市内の税理士法人へ入社。中小企業への税務・会計コンサルティングを経験し、2018年10月に会計事務所プローストを設立。

現在はNPOなどソーシャルセクターへの税務・会計のアドバイスやフリーランスの確定申告の相談などを中心に業務を行っている。顧客のビジョンを共有し、伴走型の関わり方を得意としている。

愛知県の離島で学んだ「地域振興」の本質

インタビュアー:金子さんが税理士を目指したきっかけから教えていただけますか?

金子さん:
最初から税理士を目指していたわけではありません。大学の学部は経営で、専門は観光のゼミでした。そこで出会ったのが愛知県の日間賀島という島です。

日間賀島は漁業の町で、フグやタコなどが有名なのですが、漁業のみでは大きな収入を呼び込むことができないという課題を抱えていました。

そこで地元の旅館や民宿が「フグを食べに観光客を呼び込めないか」という6次産業化に取り組み始めたんです。最近は星野リゾートのような大資本による地域開発事例が多いですが、この島は違いました。地元の事業主や中小企業の組合がアイデアを出し合って進めた、東海3県では有名な成功事例です。

インタビュアー:そこから税理士という職業につながったのはどのような経緯だったのでしょうか?

金子さん:
卒論でこの島を題材にする中で、「地域を盛り上げたい」「地域で何かしたい」という中小企業や事業者をサポートするなら、税理士が良い選択肢だと思ったんです。もともと商業高校出身で簿記を学んでいたので、培ってきたスキルとやりたいことが、税理士という職業でつながると感じました。

大学4回生の1月に大原に通い始め、大学院にも進学。大学院1年目の夏に簿財2科目に合格し、2年目で法人税に受かって論文免除という流れでした。大学院時代は論文と授業、税理士試験の勉強で忙しかったですが、目標が明確だったので頑張れました。

地域の中小企業支援への想いと商業高校で学んだスキルが組み合わさって、税理士という道が見えてきた。この時は将来NPO支援に特化するとは思ってもいませんでしたが、地域貢献への関心の原点は確実にここにありました。
結婚を機に決断した独立への道

インタビュアー:大学院卒業後は税理士法人に就職されたということですが、どのような環境だったのでしょうか?

金子さん:
100名程度の大きな事務所でした。一般的な税理士補助として記帳代行から、株式会社や個人事業主の申告・月次サポートを担当し、さらに資金繰り支援や事業計画作成といった経営寄りの業務もやらせてもらいました。

6年半の経験は貴重でした。大手だからこそ様々な業種のクライアントを担当でき、システマチックな業務の進め方も学べました。ただ、中堅的な立場になり後輩育成や会社での役割が増える中で、お客さんに向き合う時間をもっと使いたいという想いが強くなりました。

もう一つの要因が働き方の問題です。当時は夜遅くまで働くのが普通で、体力的にもきつかった。将来への不安もありました。

インタビュアー:独立を決断されたタイミングが結婚した年だったということですが、それは偶然だったのでしょうか?

金子さん:
偶然ではありません。結婚というライフイベントが独立を後押ししました。この働き方で子供ができると厳しいと思い、一つのタイミングだと判断したんです。今思えば勇気のいる決断でしたが、周りの開業税理士を見て「やれないことはないだろう」という感覚はありました。

2018年10月に開業して初年度こそ赤字でしたが、2年目には生活できるレベルになりました。勤務時代の経験があったからこそ、求められるサービスや適切な料金設定の感覚が身についていたのが大きかったと思います。

最初の顧客獲得は友人関係や地域活動の中で「税理士を探している」という相談をいただいたのがきっかけだったので、人とのつながりの大切さもこのとき再認識しましたね。
NPOと子育て起業家への特化で見つけた独自ポジション

インタビュアー:NPOや個人事業主との関わりが深いと伺っていますが、改めて現在の顧客層について教えてください。

金子さん:
NPOや一般社団法人といった非営利型法人と、同世代の個人事業主、特に子育てしながら事業をやっている方が中心です。私自身と同じ悩みや課題を抱えているので、自然と集まってきている感じですね。

観光ゼミでの経験がここでもつながってきます。「地域を盛り上げよう」という活動の中で税理士としてサポートできないかと考え、地域の起業家や活動家の勉強会に参加者として参加したんです。ローカルでやっている人たちのニーズを知るためです。

そこでNPO経営者とのつながりが増え、独立開業後に「NPOに詳しい税理士に相談したい」という声をもらうようになりました。開業1・2年目からお客さんが増えていきました。地域は限定しておらず、名古屋圏近辺が多いですが、岩手や新潟など遠方のクライアントもいます。

インタビュアー:NPOや一般社団法人特有の課題にはどのようなものがありますか?

金子さん:
NPOは収益事業に当たれば法人税が発生するという特殊性があるので、新事業開始時に「これが収益事業に当たるかどうか」の相談が多いですね。一般企業とは税制上の扱いが全然違うので、その判断が重要です。

また、助成金や補助金を活用する機会が一般企業より多いため、その相談も頻繁にあります。申請サポートまではやりませんが、AIエージェントに顧問先の地域名や規模感を入力してリサーチし、情報提供しています。一人でやっているからこそ、こういった自動化などにも精力的に取り組んでいます。

何より特徴として感じるのは、NPO経営者の姿勢です。「地域でこういうことをやりたい」「こういう課題があるからアクションを起こしたい」とミッションが明確な方がほとんど。「節税したい」というより、事業を継続させることが第一にあります。そういう方とはすごくマッチします。

個人事業主も同様で、特に子育て中の方は時間の使い方や働き方について共通課題があります。実体験に基づいたアドバイスができるのは強みです。
事業計画から始まる経営者との伴走スタイル

インタビュアー:具体的にはどのような業務サポートを提供されているのでしょうか?

金子さん:
現在、年1回決算のみも含めて30社弱のクライアントがいます。基本的に提案しているのは、まず事業計画を作ることです。

事業計画作りは重要で、PLの計画と資金計画は違います。しっかりした計画を作った上で、例えば3月決算なら7・8月までの実績と3月までの計画値で着地予想を出し、資金繰りがどうなるかを常にウォッチしています。全件タイムリーにできているわけではありませんが、経理状況が整えばそこまでやろうと話しています。

打ち合わせは四半期ごとに実施するクライアントが多いですね。毎月や隔月のクライアントもいますが、1〜2時間しっかり打ち合わせするのは四半期ごとでも支障ないと思っています。

その分、日頃のコミュニケーションは、SlackやChatworkで「気軽にメッセージください」という感じです。

インタビュアー:日常的なコミュニケーションではどのような相談が多いのでしょうか?

金子さん:
経営者も毎月時間をブロックされるのはしんどいので、「気になることがあればいつでもメッセージを」という関係性でやっています。小規模のお客さんが多く、経営者との距離は近いです。

数字以外の話をしている時間の方が長いかもしれません。つい先日もInstagramの使い方やXアカウントからどうやって予約サイトに誘導するかといった導線設計の話をしました。マーケティングの話まで含めて相談に乗っています。

自分も開業して売上作りや戦略を考えているので、お客さんと共通する部分があります。どういうサービスを誰に届けて、どこを強みにアピールするかという根本的な話をよくします。

NPOで地域ニーズを拾いながら新しいチャレンジを続け、着実に成長し続けていたり、子育て中の個人事業主の方が忙しい中で時間を捻出して、毎年売上を伸ばしている方もいます。「こういうことをやりたい」という明確な意志があって結果がついてくるお客さんとは、次の戦略も含めて話が盛り上がりますよね。
子育て税理士としての今後の展望

インタビュアー:今後の展望について教えてください。

金子さん:
基本的には今の延長線上が軸です。地域課題解決に取り組むNPOや同じ状況のフリーランス・個人事業主としっかり付き合っていきたいです。

プラスアルファで意識しているのは、周りの人たち同士をつなげることです。いろんな分野の専門家が相談し合える、つながれる場を作れると面白いと考えています。地域関係なく、SNSも活用して各分野で面白いことをやっている人が入るコミュニティのようなものです。

現状維持だと衰退するので、新しいことを仕掛けていかないといけません。AIの活用は積極的に取り組んでいます。顧問先を中心に還元して、お客さんの労力が減れば、もっと意味のある仕事に集中できます。AIは確実に普及するので、キャッチアップしてお客さんに還元することが一つの軸です。

インタビュアー:子育てをしながらのお仕事について、今後の活動への影響は?

金子さん:
直接的な仕事ではありませんが、子育てしながらフリーランスや会社経営をしている人たちがもっと活躍できるよう、工夫や情報の発信をやっていきたいです。

これ自体でマネタイズというより、私個人のブランディングの意味合いもあります。子育て中の女性起業家も増えていますが、例えば専業主婦の奥さんがいてガンガン仕事をしている税理士とは、リアルな温度感で悩みを共有できないことがあります。

仕事と家族・子育ての両立に関する発信は続けていきたいです。私の場合、結婚してすぐ独立し、翌年に子供ができました。赤字の年に子供ができることがわかって大変でしたが、同じような境遇の方は多いんです。働き方が多様化し、子育てしながら起業する方も増えています。

実体験に基づいたアドバイスができる税理士がいることは価値があると思います。時間の使い方、スケジュール管理、保育園のお迎え時間を考慮した業務設計、急な子供の病気への対応など、子育て中の事業者特有の課題は多いです。

こうした発信を通じて同じ境遇の方とのつながりが深まれば、結果的にお客様獲得にもつながる。Win-Winな関係が築けると考えています。
税理士選びで重要なのは「自分のニーズの明確化」

インタビュアー:最後に、税理士を探している方や乗り換えを検討されている方へのアドバイスをお願いします。

金子さん:
まず事業者自身のニーズを明確にすることが一番大事です。

記帳代行をお願いしたいか、どういうお付き合いをしたいか。最低限の資料提出で試算表や決算書ができればいいという方もいれば、幅広く何でも相談したい、気軽にコミュニケーションを取りたいという方もいます。

どういう業務をお願いしたいか、どういうやり取りをしたいか、資料はアナログかデジタルか。自分の状況や税理士に何を期待するかをしっかり明確にしないと、ミスマッチが起こります。「この事業者にはいい税理士だったが、別の事業者にはいい税理士じゃない」ということが起きてしまいます。

SNSでよく「いい税理士さんいませんか」という質問を見ますが、これは答えるのが難しい質問です。「いい税理士」の定義が人それぞれ違うからです。料金最優先の方、親身な相談対応重視の方、ITに強い税理士を求める方、昔ながらの対面重視の方など様々です。

税理士を探す際は、まず自分が何を求めているかを整理してから、その条件に合う税理士を探すことをお勧めします。そうすることで、本当に自分にとって「良い税理士」と出会える可能性が高まるはずです。

インタビュアー:大事な考え方ですね。本日はありがとうございました!

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