この記事でわかること ミニマムタックス(2025年分から導入された高所得者への追加課税 )の仕組みと計算式 現行制度では、所得が株式の譲渡益だけなら約10億円超 から対象 2027年分からの強化 (特別控除3.3億円→1.65億円、税率22.5%→30%)で、約3.3億円 から対象に数億円規模の会社売却・M&Aを見据える経営者が、売却の規模と実行時期 をどう考えるべきか 会社売却やM&Aで数億円規模の譲渡益を見込む場合、通常の株式譲渡の税率(約20.315%)とは別に、知っておくべき制度があります。2025年分の所得税から導入された、通称「ミニマムタックス」です。
導入時点では、対象は所得が極めて大きい一部の人に限られていました。しかし2027年分からは制度が強化され、対象になるラインが大きく下がります 。株式の譲渡益だけなら約3.3億円——スモールM&Aでも十分に射程に入る水準です。
この記事では、ミニマムタックスの仕組みと計算方法、2027年からの変更点、そして会社売却を見据える経営者がいつ・何を考えておくべきかを整理します。
ミニマムタックスとは — 「1億円の壁」の是正株式譲渡の所得税等15.315%という税率は他の所得と比べて低いため、所得が極端に大きい人ほど税負担率が下がるという不均衡(いわゆる「1億円の壁」)がありました。これを是正するため、2025年分から「ミニマムタックス」制度が導入されています。
正式には「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」と呼ばれ、令和5年度税制改正で創設されました。給与や事業の所得は累進課税(最高約55%)である一方、株式の譲渡益は金額にかかわらず一律約20.315%です。このため所得が1億円を超えるあたりから実質的な税負担率がむしろ下がっていく現象が生じており、その是正を目的とした「最低限の負担率」を課す仕組みです。
計算の仕組み — 「通常の税額」との差額を追加で納める基準となる所得から特別控除額(2025・2026年分は3.3億円)を差し引いた額に一定率(同22.5%)を掛けた金額が、通常の所得税額を上回る場合、その差額を追加で納めるしくみです。
(基準所得金額 − 3.3億円)× 22.5% − 通常の所得税額 = 追加で納める所得税 ※基準所得金額:株式や不動産の譲渡益など分離課税の所得も含めて合算した、その年の所得の合計(申告不要を選択した所得も含めて計算)
ポイントは、これが「全員に一律にかかる増税」ではなく、通常の税額が"最低ライン"を下回る場合にだけ、差額を納める という構造であることです。現行では、所得が株式の譲渡益だけなら約10億円を超えるあたりから追加課税が発生します。
2027年分からの強化 — 対象ラインが約3.3億円まで下がる2027年(令和9年)分からは特別控除額が1.65億円、税率が30%に強化され、株式の譲渡益だけなら約3.3億円から対象になります。なお、この分岐点は所得のすべてが株式の譲渡益である場合の目安であり、給与などの総合課税の所得が混ざると分岐点は高くなります。
現行(2025・2026年分) 2027年分から 特別控除額 3.3億円 1.65億円 税率 22.5% 30% 対象の目安(所得が株式譲渡益のみの場合) 約10億円超 約3.3億円超
この強化は令和8年度税制改正(2026年3月31日成立)によるもので、2027年(令和9年)分以後の所得税に適用されます。導入時は「超富裕層の一部だけの話」だった制度が、数億円規模の会社売却なら現実に影響し得る制度 に変わります。
会社売却にどう影響するか会社売却の譲渡益は、複数年に分けて実現することが難しい「一括で立つ所得」です。給与のように毎年分散されないため、売却した年だけ基準所得金額が跳ね上がり、ミニマムタックスの対象に入りやすい構造があります。
たとえば株式譲渡益5億円の売却を考えます。この制度は「(基準所得金額 − 特別控除)× 税率」が「通常の所得税額」を上回った差額を追加で納めるものです。譲渡益5億円なら通常の所得税額は約7,500万円(5億円 × 15%)。現行制度では(5億円 − 3.3億円)× 22.5% = 約3,825万円で、通常の所得税額を下回るため追加課税は発生しません。しかし2027年分以後は(5億円 − 1.65億円)× 30% = 約1億50万円となり、通常の所得税額7,500万円を上回るため、その差額約2,550万円が追加負担 になります。同じ5億円の売却でも、実行する年によって手取りが変わることになります。
1億円規模の売却であれば直接の影響はありませんが、売却の規模と実行時期次第で変わってくるため、億単位の売却を見据える方は頭の片隅に置いておきたい論点です。
いつ・誰に相談すべきかミニマムタックスへの向き合い方は、特別なテクニックというより「売却の規模と実行時期を、制度を知ったうえで設計する」ことに尽きます。売却のタイミングは本来、事業の状況や買い手との交渉で決まるものですが、数億円規模の譲渡益が見込まれるなら、税制の適用年がいつになるか も意思決定の材料に加えるべきです。
そしてこれは、本編でお伝えした原則と同じです。打ち手のほとんどは「早く対策した人」だけが使えるもの。オファーが来てからではなく、出口を意識し始めた段階で、遅くとも売却の2〜3年前には専門家に相談することをおすすめします。
よくある質問(FAQ) Q. ミニマムタックスはいつから適用されていますか?A. 2025年(令和7年)分の所得税から適用されています。特別控除1.65億円・税率30%への強化は2027年(令和9年)分からです。
Q. 対象になるのはどんな人ですか?A. 基準となる所得が特別控除額を大きく超える人です。所得が株式の譲渡益だけの場合、現行では約10億円超、2027年分からは約3.3億円超が目安になります。給与など総合課税の所得が混ざると、この分岐点は高くなります。
Q. 1億円で会社を売却した場合も対象になりますか?A. 1億円規模の売却であれば直接の影響はありません。売り方による手取りの違い(株式譲渡・事業譲渡・法人売却)のほうが影響がはるかに大きいため、まずはそちらの設計が重要です。
Q. 2027年より前に売却すれば強化の影響は受けませんか?A. 制度上は、2026年分までの譲渡益には現行制度(特別控除3.3億円・税率22.5%)が適用されます。ただし、税負担だけを理由に売却を急ぐことはおすすめしません。 M&Aは交渉・調査・契約に数か月〜1年以上かかることが多く、年内クロージングを狙って準備不足のまま進めれば、税で得た以上に売却価格や条件で失いかねません。売却時期は、事業の状況・買い手との交渉・受け取り方の設計を含めた総合判断で決めるべきものです。数億円規模の譲渡益が見込まれる場合に、実行年を"意思決定の材料の一つ"として認識しておくということが重要です。
まとめミニマムタックスは「1億円の壁」を是正するために2025年分から導入された追加課税で、現行では株式の譲渡益だけなら約10億円超が対象の目安です。2027年分からは特別控除1.65億円・税率30%に強化され、約3.3億円から対象 になります。
数億円規模の会社売却を見据えるなら、売却の規模と実行時期が手取りに直結します。1億円規模であれば本制度より「売り方」の設計(株式譲渡か事業譲渡か、個人か法人か)のほうが重要です。いずれの場合も、早めに専門家に相談し、出口を設計しておくことが最善の準備になります。
※本記事の内容は、執筆時点での一般的な情報に基づき作成されています。税理士資格を持たないライターが執筆しており、最新の税法や個別の事情に対応していない可能性があります。正確な情報や判断については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。