山中朋文(やまなか ともふみ):税理士法人bestax 代表社員 税理士
東京都出身。父親が税理士という環境で育ち、高校時代に税理士を志す。24歳で税理士試験に合格後、大田区大森の公認会計士事務所で10年間、相続・資産税を中心に中小企業顧問の実務を積み、2013年4月に山中朋文税理士事務所を開業、毎年スタッフを採用しながら着実に成長を重ね、2022年6月に税理士法人bestaxへ改組。自由が丘と飯田橋の2拠点で、法人顧問と相続・事業承継の2本柱を展開する。東京税理士会支部長、TKC東京都心会委員長を務め、業界の地位向上にも精力的に取り組む。
法人100社・相続対策の2本柱——自由が丘と飯田橋で専門性を分けた14名体制
税理士法人bestaxの現在の体制を教えてください。
役員2名、正社員11名、パート1名の14名体制です(2026年4月現在)。拠点は自由が丘と飯田橋の2つがあって、自由が丘が相続・事業承継チーム、飯田橋が法人チームという形で分けています。自由が丘には私と正社員3名、飯田橋にはもう1人の役員と残りのメンバーがいます。
自由が丘と飯田橋、この2拠点はどのように選ばれたのですか。
自由が丘は独立の時からですね。私自身がこの周辺の出身ということもありますが、私鉄が交わる場所で、週末になると人が集まる街なんですよね。お客様にもお越しいただきやすいですし、来たついでに買い物や食事もしていただけます。来てもらって魅力のある街に構えたかったんです。都心部も考えたのですが、自分自身の強みが相続ですので、この街の雰囲気のほうが合っていると感じました。
飯田橋は路線が5つ入っており、アクセスが非常に良いんです。埼玉や千葉からの採用もできますし、お客様にとっても便利です。全員が相続好きなわけではないので——うちのナンバー2は法人顧問が大好きなんですよ。それなら法人チームは彼に率いてもらおうと。拠点を分けたのは、スタッフのやりたいことを狭めないためでもあるんです。どちらかに特化してしまうと、そこに興味がないスタッフの活躍の場を奪ってしまうと考えています。
お客様の層はいかがですか。
地域は一都三県が中心で、一部関西のお客様も増えてきています。年商規模は1億円以下から5億円ぐらいの中小零細が7割ぐらい、残りが中堅企業ですね。業種にこだわりはありませんが、相続の色が強い分、不動産関連は多いです。あとはお客様からのご紹介で広がっていくので、人材系のお客様もいらっしゃいます。実は馬主さんもいらっしゃるんですよ(笑)。
年に1回のご馳走と父の書類——税理士の仕事を最初に意識した原風景
税理士を目指されたきっかけを教えてください。
父親が税理士だったことが大きいですね。母親は洋傘の販売店を営んでおり、年に1回、税理士さんがうちに来るんですよ。その日はいつもの食卓では見たことがないご馳走が並びます。そしてうちに来た税理士さんが酔っ払ってふらふらしながら、私の父親が作った書類を持って帰っていく。あれが税理士の原風景ですね。
高校の時に父親から「税理士とはどういう仕事か」をフラットに教えてもらったんです。私自身数学も好きでしたし、何より業種を問わず様々なところで役に立てるというのが魅力的だと感じました。その思いは今も変わっていません。
人生をかけて挑戦している中小企業の社長を応援したかった
24歳で税理士試験に合格された後、独立までの10年間はどのような修行時代でしたか。
大田区の大森にある事務所に入りました。10〜15名ぐらいの規模でしたが、税理士が6名もいる事務所でした。代表が公認会計士で、その先生が外部で上場企業の監査を担当されていたので、普通の会計事務所には来ないような高難度の案件が流れてきました。上場企業の連結決算、不動産会社の顧問経由で来る相続相談、信託銀行の相続案件——とにかく幅が広かったです。
その中で山中先生が一番興味を持たれたのが相続だったのですね。
はい。大企業の経理部長のような、安定した立場の方を支援する仕事には、正直なところあまり面白みを感じられなかったんです。むしろ担保に自宅を差し出して、この商売に失敗したら一巻の終わりという中小企業の社長のほうが、よっぽど応援したいと思いました。ですから中小企業の顧問をやりながら相続もやる、という働き方を選んでいました。代表も「好きなことをやれ」と言ってくれる方でしたから。
独立のきっかけは何でしたか。
ゆくゆくは独立したいとずっと思っていましたし、父の姿を見てそう思っていたところもあります。子供も3人いて末っ子が2歳でしたし、35歳で10年というのはちょうど良い区切りだなと。ただ正直、今振り返るともっと早くても良かったですね。独立してからのほうが圧倒的に経験は濃いんです。人間としての成長スピードが全然違いますから。
独立当初から今の規模を想定されていたのですか。
漠然と「毎年1人ずつ採用して、10年で10名ぐらいの事務所に」とは思っていました。実際にはナンバー2が前の事務所の後輩で、開業して半年ぐらいで参画してくれたんです。3人目はまた全く違うルートから入ってきました。そこで気づいたんですよね——いろんな人が入ってくると、いろんなキャラクターが生まれて、事務所の色が変わっていくのだなと。同じ事務所から来た人だけだと色が揃ってしまいます。違う背景の人が入ってきたことで「それなら色々なキャラクターの人がいる事務所を作ろう」と思えました。それが今の2本柱の原点でもあります。ちなみにこの初期メンバー3人は全員今もいるんですよ。みんな10年選手で、うちの屋台骨を支えてくれています。
黒字化70%・書面添付100%——「当たり前を徹底する」が最も難しい
法人顧問で特にこだわっていることを聞かせてください。
まず大切にしているのは、顔の見える関係、何でも相談できる関係です。その上で3つあります——お客様のDX支援、黒字化支援、そして書面添付です。DX支援は会計システムの運用から入っていく形で、「自計化」から「自動化」へとステップを踏んでいきます。お客様の中にはまだ紙で対応されている方もいらっしゃいますから、そこから丁寧に入って、クラウド会計を導入し、経理の仕組みごと変えていきます。
黒字化支援では具体的にどんなことをされていますか。
今の顧問先で黒字率は70%です。全国平均よりだいぶ高い数字だと思いますが、これを80%、その先へと持っていきたい。やっていること自体は単純なんです。社長に今の数字を見せて、目標との予実を見せて、ではどうするかを実直に話していく。全社、期首に1年間の経営計画を立てて、毎月きっちり振り返りを行っています。
それは大企業なら当たり前にやっていることですよね。
そうなんですよ。大企業はみんなやっています。でも中小企業ほど脆弱だからこそ、本当はやらなければいけないのに、余裕がなくてやれないのが現実です。ではそこを誰ができるのか——税理士しかいないと思っています。始めて3年が経って、だいぶ定着してきました。最初は「あ、今年の目標ね」ぐらいの温度感だったお客様も、今は向こうから「bestaxさんが来るから、そろそろ作らないと」と言ってくださるようになってきました。
書面添付制度も100%実施されているそうですね。
TKCの事務所として、質の高い決算書と申告書を作ることを徹底しています。これは法人でも相続でも変わりません。書面添付は税務署からの信頼、つまり外からの評価につながります。税務署がうちの申告書を信頼してくださり、お客様も「bestaxさんにお願いして良かった」と喜んでくださり、うちも質の高い仕事ができる。この三角関係をフライホイールのように回していくのが理想なんです。
相続は「申告」ではなく「全体設計」——税金の話より「どうしたいですか?」
相続・事業承継の分野で、bestaxならではの強みとは何でしょうか。
相続と聞くと皆さん相続税の申告をイメージされますが、私が一番力を入れたいのは相続対策のほうです。中でも最も重要なのが全体のグランドデザインです。これを描ける人が本当に少ないと思っています。
グランドデザインとは具体的にどういうことですか。
相続の話が始まると、いろんな方が営業に来ますよね。保険の方、不動産の方、証券の方。皆さん自分の売りたい商品を個別に売りに来られます。お客様からすると「勧められたからやりました」で終わってしまう。でもそれは個別最適であって、全体を見ると整合性が取れていないことがあるんです。
保険にも不動産にも株式投資にも、それぞれの良さと意味合いがあります。大事なのは、メリットもデメリットも全部並べた上で、この方の資産構成と家族構成と将来の意向に照らして、今何をやるべきか、何をやらないべきかを設計することです。それができるのは、自分では商品を売らない税理士という中立的な立場だからこそだと思っています。
早い段階で相談してもらうための工夫はありますか。
生前贈与や法人化といった対策は、年数を稼いだほうが効果が出るものなんですよ。だから60代半ばの方からもうお話をさせていただいています。「まだまだ」とおっしゃる方もいますが、別にまだまだ元気でいいんです。ただ、今の状況をまとめて、家族が共有できているかどうか——ここが大事なんですよね。
大抵、資産の全体像は世帯主だけが把握していて、奥様も娘さんもご存じないんです。心配をかけたくないという思いからかもしれませんが、「あなたのその『言わない』という決断自体がリスクなんですよ」とお伝えすると、「確かに俺以外誰も知らないな」とハッとされる方が多いですね。そこから資産の把握だけではなく、記録を作って、家族が見られるようにするところまで一緒にやっていきます。
資産を記録して家族に共有するところまで踏み込むんですね。
そうです。そしてその先に、どういう風に次の世代に伝えていくかというプランがあります。税金の話よりも先に「どうしたいですか?」という会話があるんです。相続も事業承継も、突き詰めれば次の世代に自分の思いをどう伝えていくかという話ですから。一緒に暮らしている家族ほど、実は面と向かって伝えづらいものなんですよね。そういったところの橋渡しをして、無理のないプランへと具現化していきます。私は税理士ですけれども、本質的には全体の設計士——そういう役割だと思ってやっています。
法人顧問と相続の両方をやっているからこその良さはありますか。
これは声を大にして言いたいのですが——大いにあります。最近は「法人はやるけれど相続の申告はやらない」「相続税の申告しかやらない」という事務所も増えていますよね。効率を考えればそのほうが収益性は高いかもしれません。でも、本当にお客様を伴走支援していく覚悟があるなら、両方やるべきだと私は思っています。法人の顧問をしていれば、その社長の家族構成も資産状況も自然と見えてきます。相続対策をしていれば、法人の事業承継計画にもフィードバックできます。どちらかしかやらないのは、お客様への伴走支援の覚悟がないのではないか——少し厳しい言い方かもしれませんが、同じ業界にいる人間としてそう感じることがあります。
若手の半数が20代——勉強会と案件共有で「1人で抱えない組織」をつくる
組織の半分が20代だとお聞きしました。育成面ではどんなことを意識されていますか。
業界未経験はもちろん、社会人未経験の新卒で入ってくる若手もいますので、社内での振り返りとフィードバック、勉強会を組織のベースに据えています。全社の勉強会が月に1回、チーム単位が2週間に1回です。それに加えて、個別の案件ごとに「このお客様の経営状況をどう見るか」「どんなリスクがあるか」「どんな提案ができるか」を一緒に議論する場が随時あります。
勉強会だけでなく、お客様への提案もチームで考えるんですね。
はい。他のTKC会員さんの事務所を見ていると、1人ひとりが担当を抱えて、皆さん一匹狼のように独立して動いているケースが多いんです。隣の人が同じような案件をやっていても、お互い知らないということがある。うちは法人だけで100社ぐらいありますから、横の繋がりがないともったいないんです。ナレッジの共有だけではなく、「この社長にどういうリスクがあるかな」というのをロールプレイ的にやったりもします。
20代が多いことのメリットは何ですか。
クラウドシステムに全く抵抗がないというのは大きいですね。新しいツールの導入もすんなり進みますし、むしろ彼らのほうが先に使いこなしていたりします。あとは税理士業界に限らず、時代によって身につけるべきスキルはどんどん変わっていきますので、DXでも何でも、流行りを食わず嫌いせずに勉強していこうという呼びかけは常にしています。私自身もう世代が2つぐらい上ですが、だからこそ業界の先頭に立って新しいものを取り入れていく姿勢を見せていかないといけません。定着率も良いですよ。基本的にみんな辞めないですね。
税理士全員に「良い税理士」になってほしい——業界活動と事務所の未来
東京税理士会理事やTKC東京都心会支部長など、業界活動に熱心に取り組まれていますね。その原動力は何ですか。
お客様から入ってくるお悩みに対して、より幅の広いソリューションを持っておきたいというのが第一の理由です。業界団体の活動を通じて、様々な専門家との繋がりが生まれますし、地元の金融機関とも全部繋がれます。時間はかかりますが、5年後、10年後にうちの強みになるものを今から仕込んでいる感覚ですね。特に海外案件はこれからどんどん増えていきます、間違いなく。その時に「うちはやりません」ではなく、今から会の活動を通じて国際税務の知見を蓄えておきたいんです。
「税理士の地位向上」にも強い思い入れがあるようですね。
結局、自分の考え方を発信して、どれだけ周りに影響を与えられるかだと思うんです。お客様にも幸せになってほしい、うちのスタッフにも成長してほしい。そして私の周りの税理士にもみんな良い税理士になってほしいんです。自分が業界の先頭に立つことで、関わるスタッフや周囲の税理士がより良い専門家へと成長できる環境を作りたい。そういう思いで全部やっています。
最後に、事務所の将来像を聞かせてください。
まずは今やっている法人支援と相続対策の相互連携をさらに強化していきます。その先に事業承継支援を据えたいんです。全国の事業承継に対応できる、国内屈指の事務所を作りたい。事業承継の案件もどんどんやっていきたいと思っています。
さらにその先——大きな話になりますが——日本を元気にしたい。日本の中小企業がいかに海外で外貨を稼げるか、というテーマです。土地に縛られない事業会社の海外展開を、税務面から支援していきたい。そのために今足りないのは語学力であったり、海外の法制度への理解であったりと、まだまだ課題は多いのですが。規模感としては着実に成長していくと思います。20年で30名・年商3億、30年で50名・年商5億といったところでしょうか。まだ46歳ですから、あと20年はバリバリ現役のつもりです。おそらくそれよりも先に、組織がさらに成長していくのではないかと思いますけれどね。
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取材後記
「どちらかしかやらないのは、お客様への伴走支援の覚悟がないのではないか」——山中先生がインタビュー中にふと漏らしたこの言葉が、bestaxという事務所の核心を突いています。法人顧問をしているからこそ社長の相続リスクに早く気づけますし、相続対策をしているからこそ法人経営にフィードバックできます。両方やるからこそ見える景色があるという確信が、自由が丘と飯田橋の2拠点体制を支えています。
「税金の話より先に『どうしたいですか?』」という姿勢も印象的でした。保険や不動産を売るのではなく、中立の立場から全体を設計する——個別最適ではなく全体最適を描ける税理士は、業界を見渡しても多くはありません。「税理士全員に良い税理士になってほしい」という言葉に、自分だけが良ければいいという発想がないことが伝わってきます。bestaxの歩みは、まだ始まったばかりです。