税理士事務所だからこそ、M&Aで中小企業を救える——関与先242件・全国対応のエールパートナーが描く、財務分析で未来を語る伴走型経営支援

木戸 真智子(きど まちこ):税理士事務所エールパートナー 代表/税理士・行政書士
大阪府出身。関西大学経済学部および大学院経済学研究科を修了(経済学修士)。2015年4月に税理士事務所エールパートナーを設立。開業から11年で11名体制・関与先約242件にまで事務所を育て、対応エリアは東北から九州まで全国に広がる。不動産オーナー層・法人顧問を軸に、近年はM&A・事業承継支援に注力。2025年には士業サミットで財務分析による高付加価値提供としてノミネート、2026年3月には日本M&Aセンター主催「ACCOUNTING DAY 2026」で表彰を受けた。
まず、税理士事務所エールパートナーはどのような事務所か、改めて教えてください。主な顧客層や対応エリア、体制について聞かせてください。
もともと開業初期から不動産投資のセミナーを依頼していただいていたので、最初は不動産関連のお客様が多く増えていきました。そこからコロナが少し落ち着いてきたタイミングで、「会社を買いたい」というM&Aのご相談が入ってくるようになり、最近はM&A案件も大きな柱になっています。法人顧問のお客様ももちろんいらっしゃって、売上構成としてはほとんどが顧問料、そこに相続やM&Aといった一時的な売上が乗ってくる形ですね。
対応エリアはかなり広いとお聞きしました。
東北地方から九州地方まで広がっています。もともと東京で契約していたお客様が地方に移られても、そのまま顧問を続けさせていただくケースも多く、「場所を選ばなくてもいいんだな」と、お客様のほうから教えていただきました。
現在の体制はいかがですか。
正社員とパートで5名ほどで、今月で1名卒業予定のため雇用としては4名。ここ数年は専門的な案件が増えてきたので、OBの税理士の先生や会計士の先生に業務委託で入っていただくことが多くなりました。内製と外部の専門家の組み合わせで、深い論点にもしっかり対応できる体制にしています。
事務所として、どこに強みを感じていただいているとお考えですか。
試算表を作った「その後」の会話を一番大切にしています。数字を仕上げるのは当たり前で、そこからどんな話をするかが税理士の価値だと思っているので、何年か前から特に力を入れてきました。お客様と話すときは、財務分析のシステムを一緒に画面で見ながら、「原価率のこの動きが気になります」「このままだと資金繰りがこのタイミングで厳しくなりそうです」といった未来に向けた話を具体的にしています。そうした取り組みを評価していただき、昨年は士業サミットで財務分析による高付加価値提供としてノミネートをいただきました。
そもそも税理士を目指されたきっかけは何だったのでしょうか。
大学のゼミの友達に「TACに行こう」「大原に行こう」と同時に誘われて、とりあえずTACに通い始めたのが最初です。1年目で簿記論などに合格できて「いけそうかな」と思っていたら、今度はゼミの教授から大学院推薦のお話をいただいて、気づいたら税理士になっていた、という感じでした(笑)。誘ってくれた友達は税理士にはならず、誘われた側の私がなったんです。
乗ろうと思えたのはなぜだったのでしょうか。
姉が医師で大阪でクリニックを開業していることもあり、「女性でも資格を持っておいた方がいい」という感覚が自然とありました。両親も親戚も経営者という環境で育ったので、税理士という仕事自体が身近に感じられていたのだと思います。就職も氷河期に近かったので、「資格を取っておきたい」という気持ちも後押しになりました。
大学院修了後はすぐ税理士法人に就職されたそうですね。
はい。税理士法人での仕事自体はとても楽しかったのですが、就職して2年も経たないうちに結婚して、いったん退職することになりました。それでも新卒で最初に担当させていただいた社長様が、次の職場にまでついてきてくださったのは、今でも本当にありがたく覚えている出来事です。
結婚を機に一度働かない時期を経験されたと伺いました。その期間が独立にどうつながっていったのでしょうか。
結婚後、事情があってしばらく外で働けない時期があり、専業主婦として過ごしました。それまでずっと勉強と仕事をしてきたので、働かない生活が本当に辛くて、「どうしても税理士の仕事がしたい」という気持ちが初めて強く湧いてきたんです。
あの経験がなかったら、私は今、開業していなかったと思います。「働けない」と感じたことで、逆に「猛烈に働きたい」という気持ちが生まれた。不思議な感覚でしたが、これが独立に向けたエンジンになりました。
その後、全国各地を転々とされたとお聞きしています。
夫の仕事の都合でいろんな土地に暮らしながら、行く先々の会計事務所に勤めさせていただきました。各地で本当に良い先生方に出会えて、勤めをやめた後も遊びに伺うような関係を築けた方もいます。そして最終的に夫の仕事で東京に来たタイミングで、下の子どもが幼稚園に入園する時期と重なったんです。「子育てのペースを大事にしながら、自分のペースで仕事をしたい」という想いから、開業に踏み切りました。
開業から11年で11名体制・関与先242件に成長されています。ここまで広がってきた背景には、どんな転機があったのでしょうか。
正直に言うと、開業当初は「1人でのんびり、子育ての合間に仕事をしよう」と思っていたので、今の規模感はまったく想定していませんでした。転機のひとつは、開業3か月目にハウスメーカーからセミナー登壇のお声がけをいただき、その数か月後に日本政策金融公庫、さらに別の不動産会社からも登壇のご依頼が続いたことです。
そこから一気に広がっていったと。
ある不動産会社では毎月違う税理士を登壇させる企画をされていたのですが、私の回が過去最大の動員数になったということで、その後何度もリピートでご依頼をいただくようになりました。セミナーの広告が新聞に掲載されたこともあり、そこから不動産関連のお客様が一気に増えていったんです。
気持ちのうえでは、当時どんな状態だったのでしょうか。
実は10年のうち、前半の5〜6年はずっと気持ちが沈みながら仕事をしていました。「1人でのんびりやるつもりだったのに、どうしてこんなに忙しいんだろう」「子どもとの時間も取れないし、このままでいいのだろうか」と、ずっと考えていたんです。拡大しようと意図したわけではなく、目の前の仕事をこなすので精一杯で、考える余裕がなかった、というのが正直なところです。
その時期を抜け出した瞬間はいつだったのですか。
子どもたちが小学校高学年になった頃ですね。特に娘が「税理士になりたい」と言ってくれるようになって、「あ、忙しいお母さんの姿でも、子どもは肯定的に見てくれていたんだ」と気づいたんです。そこで初めて、前向きに事務所を拡大していこうと思えるようになりました。私にとっての判断基準は、結局のところずっと子どもたちなんです。
これまでを振り返って、一番大変だった時期はいつ頃だったのでしょうか。
税理士の仕事そのものというよりも、子育てとの両立が一番大変でした。仕事はある意味、自分の頑張り次第でどうにかなる部分がありますが、家庭との両立はそうもいかないので、バランスを取るのが本当に難しかったです。
昨年は体調も崩されたと伺いました。
はい、慢性的だった貧血が悪化して1週間入院しました。M&A案件で仕事が一気に重くなった時期で、ようやく落ち着いた瞬間に倒れてしまった形です。この経験があって、「自分一人で回す前提ではもう厳しい」と実感し、採用の軸を見直しました。これまではスタッフが全員女性だった事務所ですが、男性の採用も始めています。毎月新幹線で全国のお客様のもとへ伺う機会が増えたことも、体制を変える大きなきっかけになりました。
ホームページでも「オーダーメイドの対応」を掲げていらっしゃいます。お客様からはどのような点を評価していただいているとお感じですか。
顧問先が増えてくると、どうしてもサービスの品質をどう維持するかが大きな課題になります。私自身が全件担当していた頃は、きめ細やかさや正確性も自分の目で確認できていましたが、スタッフが増えるとどうしても個人差が出てきてしまう。そこをどう仕組みで担保するかは、今も試行錯誤を続けているテーマです。
そのうえで、木戸先生ご自身がこだわっていらっしゃることはどこでしょうか。
数字を仕上げたその先の会話です。お客様との打ち合わせでは、財務分析のシステムを一緒に画面で見ながら、「ここの原価率の動きが気になります」「このままだと資金繰りがこの時期に厳しくなりそうなので、今のうちにこう動きましょう」と、具体的な未来の話に落とし込むようにしています。試算表を渡して終わりではなく、その数字をもとに一緒に経営を考える時間にしたい、という想いがあります。
M&A支援、特に買い手側サポートに力を入れていらっしゃる理由を教えてください。
もともとはお客様からのご要望で始まったのがきっかけです。初めてデューデリジェンスを担当したときは、正直よく分からないまま終わった部分もあったのですが、それでも「面白い」と感じました。次もまた、次もまたとご依頼をいただくうちに慣れてきて、会社の中身を深く確認して分析していく過程そのものが本当に好きだと気づきました。
事業としての意義もお感じになっているのですね。
はい。M&Aは企業が存続し成長していくための有力な手段だと実感しています。従業員の雇用を守れますし、M&A成立後のPMI(統合後のプロセス)の中で会社の内部に入らせていただけるので、その会社が良くなっていく過程を伴走できる。これが一番の醍醐味です。その結果として、昨年は士業サミットで財務分析による高付加価値提供としてノミネート、今年3月には日本M&Aセンター主催「ACCOUNTING DAY 2026」で表彰いただきました。いずれもお客様のご要望に応えてきた積み重ねが形になったもので、本当にお客様のおかげだと思っています。
税理士事務所でM&Aまで踏み込むところは多くないと伺います。あえて自所で取り組む意義はどこにあるとお考えですか。
おっしゃる通り、M&Aを本格的に扱う税理士事務所はそれほど多くないと感じています。でも、だからこそ税理士事務所がこの領域に踏み込むことで、多くの中小企業をさまざまな場面で救えるのではないかと思っているんです。税務や財務を一番近くで見ている税理士が、事業承継やM&Aの選択肢を当たり前に提示できるようになれば、経営者は「選択肢としてのM&A」を自然に検討できるようになります。結果として雇用も守られますし、日本の中小企業全体の景気にもプラスに作用すると信じています。中小企業の経営者が事業承継を考えるときに、M&Aがごく自然な選択肢として並んでいる——そんな状態を目指していきたいですね。
今後のエールパートナーの展望を教えてください。
これまでは、正直に言うとかなり「流れに任せて」事務所を運営してきました。ですが一昨年、下の子どもの中学受験が終わって子どもたちがそれぞれ落ち着いた頃から、「自分でしっかり経営をしていこう」という意識に切り替わったんです。ちょうどその頃から土曜日に経営塾に通い始めたのですが、その翌年——つまり昨年は、売上が約1.5〜1.6倍に伸びました。本気を出せば事務所はまだまだ伸ばせる、と自分の可能性に気づけた1年でした。
これから力を入れていきたい分野は何でしょうか。
法人顧問を着実に伸ばしながら、きめ細やかな対応と財務分析に基づいた経営サポートで、お客様の「未来の会話」を増やしていきたいと思っています。そしてM&A・事業承継については、需要がある限り全力で伴走していきます。税理士事務所がM&Aに本気で取り組むことで、救える中小企業は本当に多い。その一翼を、エールパートナーとして担っていきたいです。
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取材後記
木戸先生のお話を伺って最も印象に残ったのは、ご自身の歩みを「流れに任せてきた」と謙虚に振り返られながらも、その一つひとつの節目で、目の前のお客様やご家族と真剣に向き合ってこられた姿勢でした。開業当初は「1人でのんびり」と考えていたという木戸先生が、11名体制・関与先約242件の事務所を率いるまでになった背景には、依頼してくださるお客様への誠実な応答と、子どもたちの視線から得た前向きな気づきがあったのだと感じます。
とりわけ、試算表の「その先」の会話にこだわり、財務分析の画面を一緒に見ながら未来の経営を語るというスタイルは、経営者が税理士に本当に求めている価値そのものではないでしょうか。さらに、多くの税理士事務所が踏み込みづらいM&A支援にまで領域を広げ、「中小企業を救う選択肢を当たり前に提示したい」と語る姿勢には、これからの中小企業経営を支える税理士像が凝縮されているように思います。
「自分の可能性に気づいた」という言葉で今後を語ってくださった木戸先生。経営塾で学び、採用の軸を見直し、事務所を次のフェーズへと押し上げようとするその歩みは、同じように「流れのなかで事務所が広がってきた」と感じている税理士の先生方にとっても、大きなヒントになるはずです。エールパートナーがこれから描く未来を、私たちも心から楽しみにしています。
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