京都府

税理士450人が使う「道具」をつくる税理士——こがねむし®クラブ 近藤学氏が挑むAI時代の事務所経営

税理士450人が使う「道具」をつくる税理士——こがねむし®クラブ 近藤学氏が挑むAI時代の事務所経営

近藤 学(こんどう まなぶ):こがねむし®クラブ 隊長/税理士

1963年、京都市生まれ。老舗漬物店の次男。25歳頃にカナダ・バンクーバーへ渡り、現地の会計事務所に勤務。帰国後の1990年に税理士試験に合格し、PwC大阪事務所、大阪の公認会計士事務所を経て1996年に独立開業するも、主要取引先の倒産により2009年に事務所を解散。2015年に税理士向けのツール提供・勉強会コミュニティ「こがねむしクラブ」を立ち上げ、2022年の心筋梗塞を機に税理士業から引退して運営に専念する。会員は約450名。著書に『一番楽しい会計の本』(ダイヤモンド社)、訳書に『PROFIT FIRST』(ダイヤモンド社)など。

会員450名、9割以上が税理士——こがねむし®クラブという場

宮田:近藤さんはいま、新規の顧問契約も確定申告業務も受けておられません。まず、こがねむし®クラブとはどういう場なのか、そしてどんな先生が集まっておられるのかを教えていただけますか。

近藤:
会員は約450名で、9割以上が税理士です。一部に一般の企業やコンサルタントの方もいらっしゃいますが、基本的には税理士のコミュニティですね。やっていることは大きく二つあります。

ひとつはツールやアプリのサブスク提供で、役員報酬のシミュレーション、法人成りの判定、資金繰り表、月次推移の分析といったものを何本でも使い放題でお使いいただいています。これまではExcelベースのものが主流でしたが、この春からWeb化を進めていて、いまはクラウドで動くものに移しているところです。

もうひとつが勉強会で、完全オンラインでほぼ毎月開いています。昼に1時間ほどの軽いもの、夜に1時間半から2時間ほどの本格的なものという形で、講師は外部の方にお願いすることが多く、税理士向けのビジネスをされている企業の方や、いろいろな税理士の先生に登壇していただいています。そこにツールの説明を加えて、という組み立てですね。費用は月額2万円で、顧問先が何社あっても追加はいただきませんので、大きな事務所さんほどお得ということになります(笑)。

会員の中心は1名から10名くらいの規模の事務所で、中には大きな事務所の社員税理士の方もいらっしゃいます。悩みで一番多いのは、顧客獲得よりも単価アップですね。うちのツールは付加価値業務に使えるものが多いので、そこを求めて来られる方が多い。次に業務効率化、そして最新の情報のキャッチアップです。全体としては、新しいものを早く試したいというアーリーアダプター的な方が多い印象があります。

宮田:公式サイトでは「代表」ではなく、一貫して「隊長」と名乗っておられます。この肩書きにはどんな意味を込められているのですか。

近藤:
私自身も税理士ですから、上から教える立場ではないという気持ちがあります。一緒に戦って、一緒に前へ進んでいく。その意思表示として「隊長」と呼んでいます。
行き当たりばったりの開業だった——1996年、ロールモデルのない時代に

宮田:ここからは、これまでの歩みを伺わせてください。1996年に独立されていますが、当時はどんな事務所を目指しておられたのですか。

近藤:
正直に言いますと、特に考えもありませんでした。行き当たりばったりです。もともとカナダにいた時のご縁で、帰国後にPwCの大阪事務所に入れていただきましたが、日本の税務が何も分からない状態でした。そのあと大阪の公認会計士事務所に移りまして、社長室のような立ち位置で仕事をしていました。英語ができたものですから、社長のお嬢さんの英語の宿題を見たりもしていましたね(笑)。あれはあれで大変でした。

そこを辞めたころ、大阪に日本で初めての記帳代行の専門会社ができまして、税理士向けの雑誌にもよく出ていて流行っていました。その会社が大阪でセミナーをやっていたので参加して、社長と知り合って、下請けから始めさせてもらいました。低単価で顧問契約をいただくような座組でしたが、それが私の税理士としてのキャリアのスタートです。

最近は著名な事務所が積極的に事務所見学を開催していて、若い先生方には参考にできる事務所がたくさんあります。当時は本当に何もありませんでした。1996年はバブルが崩壊して、一方でインターネットが出てきて、という変わり目の時期です。何を目指せばいいのかが、そもそも見えていませんでした。
実家と叔父の会社が倒産した——事務所をたたむまで

宮田:その事務所を2009年に解散し、在宅勤務型に切り替えられています。「もう続けられない」と感じられたのは、どこだったのでしょうか。

近藤:
来る仕事は何でもやっていました。ただ、小さなお客様ばかりで売上があまり立たないところに、実家の漬物屋と、叔父がやっていたスーパーマーケットという、うちのメインの売上先が倒れてしまいました。この二つが大きかったですね。当時は京都の良い場所に事務所を構えていて正社員も2名ほどいましたから、売上の柱がなくなったまま固定費だけが残る形になりました。年間1,000万円近い赤字が続いて、借金も5,000万から6,000万円ほどあり、自己破産も覚悟するところまで行きました。それで2009年に事務所を解散して、在宅に切り替えました。

宮田:その経緯を、近藤さんは「私の税理事務所敗戦記」というタイトルでご自身で公開されています。ふつうは隠したくなる話だと思うのですが、なぜ書こうと思われたのですか。

近藤:
誰かの参考になったらいいなという気持ちが一番でした。それと、残しておきたいという思いもありました。書いてみて意外だったのは、自分の子供が読んでくれていたことです。家で見ている父親と、書いてあることのギャップがあったのでしょうね。それは、書いてよかったと思ったことのひとつです。
3時間かかっていた資金繰り表から——50代でVBAを覚えた

宮田:こがねむしクラブには前身があったと伺いました。ツールをご自身で作るようになった経緯とあわせて教えてください。

近藤:
mixiが全盛だったころですから、2008年ごろでしょうか。資金繰りに困っていた時期に、税理士向けのクローズドなmixiのようなものを作ろうとしました。税理士のコンサル化プロジェクトという名前で、月額3,000円くらいで50人ほど集まっていただきました。それが母体になって、2015年のこがねむしクラブにつながっていきます。

ツールのほうは、顧問先から「資金繰り表を作ってほしい」と言われたのが始まりでした。Excelできれいに作ったら、翌月も、また翌月も頼まれる。毎回3時間ほどかかっていたので、これはアプリにしたいと思って、パソコン教室でVBAを習い始めました。10回で5万円ほどのコースで、やりたいことを言えば先生がサンプルコードを書いてくれる形でしたが、5回目で作りたかったものができてしまいました。それに「こがねむし」と名前を付けました。

あまりに良いものができたのでオンラインでダウンロード販売してみたところ、2万円ほどで50本くらい売れたと思います。それで味を占めていろいろなツールを作り、10本ほど溜まったところで月額5,000円の会員制にしたのが、こがねむしクラブの始まりです。その後、税理士向けのセミナー会社に見つけていただいてタッグを組めたことで、会員を伸ばしていくことができました。

宮田:VBAを習い始めて翌年にはもう製品として販売されています。50代からゼロで始めて、そこまで早く形になったのはなぜだったと思われますか。

近藤:
いろいろ勉強はしてきました。税理士に向いていないと思っていたので(笑)、外のことばかりやっていたのですね。マインドマップのインストラクターの資格を取ったこともあります。その時に読んだ、マインドマップを作った先生の本に、脳はどんどん賢くなる、脳は無限だと書いてありました。短期記憶は落ちていきますけれど、それ以外は伸びると。私はそれを信じているので、できるものだと思っている。それが大きいのだと思います。
「これはチャンスだ」と思った——心筋梗塞と、税理士業からの引退

宮田:2016年に顧問先の一部を譲渡され、2022年に体調を崩されたことをきっかけに、税理士業から引退されています。長く続けてこられた仕事を手放すという判断は、どのように決められたのですか。

近藤:
2016年に、自分の担当以外のお客様をM&Aでお譲りしました。税理士業もそうですが、人を使うのがしんどいというのが、私にはずっとありました。そのあと2022年に心筋梗塞になりまして、そのとき、これはチャンスだと思いました(笑)。心筋梗塞だと言えば、お客様からも引き止められないだろうと。それで残りの顧問先も知り合いの税理士にお譲りして、税理士業からは完全に離れました。

宮田:いまはサブスクの売上が税理士業の売上を超えていると伺いました。顧問契約を積み上げるモデルと、会員制のモデルとでは、経営者としての感覚はどう違いますか。

近藤:
税理士の顧問契約はサブスクのように見えますが、定型化が難しいところがあります。お客様の性格も業種も状況も違いますから、サブスクのようでサブスクではない。一方でソフトの提供は、本当の意味でのサブスクです。一度作れば、対価が入ってきます。コロナ禍でオンラインサロンがたくさん立ち上がりましたが、いまはほとんど潰れています。参加した方がそれぞれ場を作ってくれるだろうと思って始めても、実際には受け取る側の方のほうが多いからですね。神戸に仲の良い不動産専門の税理士がいまして、彼は大家さん向けにシミュレーションのシステムを作って売っていました。彼が「絶対にシステムのほうがいい」と言っていたのが、いまはよく分かります。物に対してお金を払うというのは、分かりやすいですから。

作るものは完全にお客様の声ベースで決めていて、現場のニッチな話を拾って、ひとつずつ形にしています。私自身が税理士をやっていて現場が分かることと、Excelでいろいろ作ってきたことの両方があるので、要望を聞いた瞬間に「こう作ればいい」というイメージが湧きます。AIエージェントを使える人は増えましたが、経験と現場感でイメージできるかどうかが、結局は大事だと思っています。
Claude Codeが変えた開発と、税理士が持っている”冷蔵庫”

宮田:料金は月額2万円ですが、この値付けはどう決められたのでしょうか。開発の体制とあわせて教えてください。

近藤:
2026年1月に値上げをしまして、いまは少し落ち着いてきたところです。それまでは業者にシステム開発を依頼していましたので、コストを考えると値上げをしないと厳しいなと思っていました。ただ、3月か4月ごろからClaude Codeを使い始めて、自分で開発できるようになりました。運営側のコストは大きく下がっています。開発そのものもとにかく早くなりましたし、自宅にサーバーを立てて遠隔で開発できるようにしたので、土日でも旅行に行っていても、要望が来たら手を動かせる体制になっています。

宮田:記帳や申告の単価がAIで下がっていく中で、これからの税理士はどんな存在であるべきだとお考えですか。

近藤:
私は、パランティアモデルが税理士でもできると思っています。企業に入り込んで、要件定義をして、プログラムを書いて、問題を解決していくというモデルですね。税理士は会社のほぼすべての情報を持っています。お金のデータも、ご家族のことも分かる。それだけの材料を持っているのに、これまで同じものしか作ってきませんでした。食材の豊富な冷蔵庫を開けられる立場にいるのに、いつも同じ料理しか出していないようなものです。コーディングができるなら何でもできると思いますし、CFOからCIOになれると思っています。業務アプリを作って、その費用をいただくという形もあるでしょう。基幹業務に手を入れるのは怖いですが、バックオフィスの業務ならいくらでも解決の仕様があります。販売管理と給与のソフトがバラバラだ、というような話はどこにでもありますから。変わったコンサルタントが入ってぐちゃぐちゃになるよりも、アプリケーションという「物」のほうが重宝されると思っています。

宮田:アプリケーションへのこだわりは、どこから来ているのでしょうか。

近藤:
原点は実家の漬物屋です。経理の方が退職されて私が経理を手伝い始めたのですが、母が新しいもの好きで、パソコンを買ってくれました。そこでPCA会計を入れてみたら、これまでの手作業が一瞬で終わる。あれには感動しました。初代のMacintoshも買いましたね。当時は税理士試験に飽きていました。大学から勉強していて4科目までは合格していて、あとは余裕だろうと思っていたら、相続税で2年滑りました。それで開発の仕事に行きたいと思って、とりあえず英語を勉強しようとカナダに行ったのが25歳ごろです。向こうで日系三世の会計士の方と知り合って、「税理士に受かったら雇ってやる」と言われて、それでやる気が出ました。おかげで合格まで行けました。

そこから30年、税理士をやってきて、いままた開発に戻ってこられた。そこにClaude Codeが出てきて、いまが天職だと思っています

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取材後記

「ぜんぜん税理士業はやっていないのですが、大丈夫ですか?」——取材のご依頼をした際、近藤さんから最初にいただいたのがこの一言でした。結果として、この記事は税理士の方に読んでいただくためのものになりました。顧問先を紹介する記事ではありません。それでも、いや、それだからこそ、同じ業界で悩んでいる方に届くものになったと思っています。

印象に残っているのは、事務所をたたんだ時期のお話を、隠すでも脚色するでもなく、淡々と話されたことです。ご実家と叔父様の会社が倒れ、固定費だけが残り、自己破産も覚悟した。その話を「敗戦記」として自ら書き残されたのは、誰かの参考になればという思いからでした。そして、それを読んでいたのがご自身のお子さんだったというくだりには、こちらが胸を打たれました。

もうひとつ強く残ったのが、「食材の豊富な冷蔵庫を開けられるのに、同じものしか作っていなかった」という言葉です。税理士は顧問先のお金も家族構成も知っている。その情報を前に、これまでは決算書と申告書という同じ料理しか出してこなかったのではないか。AIが記帳や申告の単価を押し下げていく中で、この問いはこれから多くの事務所に突きつけられていくのだと思います。

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