「税金で悩むより、お金で悩んでいる経営者の方が多い」 ——同じ失敗をしてほしくないから、財務の話をする

末松 侑樹(すえまつ ゆうき):E.カレッジ税理士事務所 代表/税理士
1990年生まれ。立教大学経済学部会計ファイナンス学科卒業。都内の会計事務所に約9年間勤務し、中小企業の税務会計実務を担当。勤務時代に飲食店経営を経験してコロナ禍で廃業し、貯金ゼロ・借入約1,000万円を抱えた状態から、令和3年(2021年)に税理士登録、令和4年(2022年)6月に独立してE.カレッジ税理士事務所を開業した。現在は8名体制で関与先およそ100社を支援。資金調達・資金繰り改善を軸とした財務支援を強みとする。東京税理士会葛飾支部所属、経営革新等支援機関認定。
まず、いまの事務所の体制とお客様について教えてください。
スタッフは私を入れて8名です。正社員が6名と、アルバイトが1名。関与先はおよそ100社で、内訳は法人が90社ほど、個人事業主の方が10社ほどという構成になっています。ほかにスポットのご依頼もいただいていますが、継続してお付き合いしているのがこのくらいの数ですね。
業種を絞ってはいません。ご紹介いただいた会社様に、そのままお付き合いさせていただくというスタンスです。ただ、私自身が資金調達や資金繰りの改善を大事にしているので、結果として設備を抱えなければいけない業種——飲食業や運送業などが比較的多くなっています。金融機関からどうやってお金を借りればいいのか、より多く調達するにはどういう決算書を作ればいいのか。そういうご相談をいただくことが多いので、そこが私の色になっているのだと思います。
地域は東京・埼玉・千葉・神奈川の1都3県が中心ですね。ただ、基本的にオンラインで完結する形にしていますので、遠方のお客様にも問題なく対応できます。実際、全国のお客様からご依頼をいただいています。
年商規模に傾向はありますか。
1,000万円から20億円まで幅広いのですが、一番多いのは5,000万円から1億円くらいの会社です。「これから頑張って1億、2億、3億と伸ばしていきたい」という意欲のある会社様が多いですね。私自身が36歳ということもあってか、20代後半から40代半ばくらいの経営者が多く集まってくださっています。
そもそも税理士を志したきっかけを伺えますか。
高校生の頃です。うちは母がシングルマザーで、私と弟を1人で育ててくれていたのですが、その母が運送会社で経理をしていました。
私が中学3年生くらいのときに、母から「会社が潰れてしまうかもしれないから、転職しないといけないかもしれない」という話をされたんです。なぜなのかと聞いたら、ちょうど代替わりで2代目の社長に切り替わったタイミングで、会社のお金がどんどん減っていたと。経理として中を見ていた母は、この会社は危ないのではないかと思ったわけです。
ところが高校2、3年生の頃になって、「うちの会社、なんとかなるかもしれない」という話に変わったんです。何があったのかというと、当時の顧問税理士が弁護士とタッグを組んで、企業再生をやってくれたと。社長には退いていただいて、まったく関係のない第三者の方に社長として入っていただき、社内の整備もいろいろとしてくださったそうです。それで業績が回復して、その会社はいまも存続しています。母もいまだにその会社で働いていますし、当時は功労者のように言われたと聞きました。
そこから、その税理士に会いに行かれたそうですね。
弁護士はドラマの主人公になったりするのでイメージが湧きますが、税理士というのは結局何をしている職業なのか、まったくわからなかったんですよね。それで母を通じてお願いして、その先生にお話を聞かせていただきました。お礼を言いたかった気持ちもあったのだと思います。
そうしたら、その先生が立派な一戸建てにお住まいで、車で会社に乗りつけて、ご家族で海外旅行にも行っていらっしゃると。「人の役にも立って、しかもこんなに稼げる仕事があるのか」と、正直そこで一気に興味を持ちました(笑)。それで進路を決めて、大学は経済学部の会計ファイナンス学科に入りました。まず会計を学ぼう、簿記を学ぼう、と。
入学してすぐに専門学校とのダブルスクールも始めました。昼は大学、夜は専門学校です。大学に入ると、一度ゴールを迎えた気持ちになるものですよね。受験勉強を勝ち上がってきたので、みんなアルバイトやサークルや飲み会で遊ぶわけです。3年の後半までは就職のことも考えない。でも私は、この時期にしか勉強できないと思っていました。アルバイトもサークル活動もほとんどせず、1日10時間以上、勉強ばかりしていて、それでようやく在学中に2科目取れたという感じでした。
卒業後は都内の会計事務所に入られます。どんな事務所だったのでしょうか。
修行させていただいたのは、その1社だけです。歴史のある事務所でした。
ただ、いま振り返ると、長く働くことが前提の職場でしたね。繁忙期はほとんど休みがなく、業務もかなりアナログでした。
そのなかで、入社して半年ほどで15社ほど持たされました。1年目のときに中堅の先輩が2人まとめて辞めてしまって、その方たちが抱えていた60社ほどが宙に浮いたんです。「みんなパンパンだから、お前が15社持て」と言われて、「行ってこい」と。
辞めた先輩にはもう聞けません。他の先輩方も忙しくて、なかなか取り合ってもらえない。それでもお客様からは「先生、先生」と呼ばれて、「税務署からこういう書類が来たのですが、どうしたらいいですか」とご相談をいただくわけです。わからないなりに自分で調べて、隙を見て先輩に聞いて、という日々でした。
そうやって働きながら勉強を続けて、残りの科目を取ることができました。受験を始めてから資格を取るまで、通算で10年かかりましたね。
そこから独立されたきっかけは、どのあたりだったのでしょうか。
じつは私自身、愛社精神のようなものもありましたし、その事務所が好きだったので、「独立してやろう」と考えていたわけではなかったんです。
ただ、9年目に入る頃、自分のキャリアを考え直すタイミングがありました。
そこで思ったのが、資格者のスタッフとして何かをするよりも、税理士として自分の判断に責任を持ってお客様に向き合った方が説得力がある、ということです。自分の責任で仕事をしたい、という気持ちですね。
それともうひとつ、業界の働き方への引っかかりがありました。当時は離職率がとても高くて、同世代の仲間が次々に辞めていきました。その転職先が、ほとんど事業会社の経理なんです。税理士事務所にいると30社、40社と担当しますから、当然大変です。それなら、残業が少なくて待遇のいい事業会社で経理をやった方がいい、という判断になる。つまり、みんな税理士業界を嫌いになって出ていってしまうわけです。私は、それがすごく嫌でした。
とはいえ、歴史のある組織を中から変えるのは難しい。デジタル化にしても、働き方にしても、一気にガラッと変えることはできません。それならば、自分が理想と思う事務所を一から作った方が早いのではないか。そう思ったのが、独立の決め手でした。
独立される前に、飲食店を経営されていたそうですね。
はい。勤務時代に2,000万円ほどかけて、カフェとイタリアンのお店を出しました。
なぜかというと、「経営者に寄り添う」と言いながら、自分はサラリーマンなわけです。相手は経営者でリスクを取っている、こちらはノーリスクの存在です。その状態で本当に対等に話ができるのかと思ってしまって。
税理士として数字は見られます。でも、その数字の裏側で経営者が何を感じているのかは、外から見ているだけではわからない。であれば、自分もリスクを取ってみるしかない、と考えたんです。
ただ、昼間は自分が現場に出られませんので、料理長を雇って任せる形になります。結果として、人のマネジメントがうまくいきませんでした。時期もコロナ禍と重なってしまい、1年で畳むことになりました。
店を閉めるときにリースなどは整理しましたが、銀行からの借入が1,000万円ほど残りました。手元の貯金はゼロです。ですから独立は、ゼロからではなく、マイナスからのスタートでした。その返済は、いまもまだ続いています(笑)。
ただ、あの経験があったからこそ、いまの仕事があるとも思っています。売上がゼロになる恐怖、お金がどんどん減っていく感覚、金融機関からお金を借りるということ。全部、身をもって知りました。
だからこそ、お客様に対して「そうならないでほしい」と言えるんです。
先に手元にお金を置いておくために、いま借りておいた方がいいのではないか。これから継続的に借りられる関係を築いていくために、決算書をどう作っていくべきか。そういうお話ができるのは、あのときの経験のおかげだと思っています。
節税よりも財務を重視される、というスタンスですね。
税理士というと、どうしても節税の話が大きくなります。ただ節税は、経費を使って利益を圧縮して、税金を安くするという話です。たとえば100万円使って30万円税金が安くなっても、手元からは100万円出ていく。次に使えるお金はありません。
それに、決算書の上でも利益が圧縮されているということですよね。決算書は、経営者にとっての通信簿だと思っているんです。行き過ぎた節税というのは、自分でオール5を4や3にしにいく行為でもある。金融機関から見れば「この内容ではちょっとお出しできません」となってしまうかもしれません。
もちろん、使える制度をきちんと使うのは大事です。ですから、そのバランスがすごく大事だということを理解していただくよう、強く意識しています。きちんと利益を出して、金融機関からの評価を上げて、交渉力を持つ。借りて返してを繰り返して、信用を積み上げていく。
100万円しか手元になければ100万円の意思決定しかできませんが、1億円あれば1億円の意思決定ができます。しかも意思決定の幅という意味では、自分で稼いできたお金だろうと、借りたお金だろうと変わりません。もちろん借りたお金には返済がありますが、自由に使えるお金があるということが、経営者にとってすごく大きい。
コロナのようなパンデミックや経済的な世界恐慌などは、10〜20年ぐらいに1回は起こりうると思っています。そのときに、きちんとお金を借りて事業を続けられる状態にしておくことが本当に大事だと思っています。手元に余裕ができれば、それをまた事業に投資していただくこともできますし、資産の置き場所という観点で考える余地も出てきます。そうやって、いろいろなリスクに備えることが経営者の責任だと思うんです。
経営者の仕事は意思決定をすること。その判断材料をお出しするのが、私たち税理士の仕事だと思っています。お金にまつわる意思決定について、A案・B案・C案をご用意して、選んでいただく。そういう関わり方をしています。
こうした財務支援の延長で、創業融資のご相談も多くいただきます。経営革新等支援機関の認定を受けていますので、創業計画書の作成から金融機関との交渉まで一貫してサポートできますし、資金調達を最短3週間で実行できたケースもあります。
普段のコミュニケーションはどのような形でしょうか。
訪問は基本的にせず、オンライン会議とペーパーレスを軸にしています。無駄なことは一切やらない、というのが事務所の方針です。AIなどに任せられる仕事は任せてしまう。もちろん、最終的な判断と責任は必ず人間が持ちますが、作業として効率化できるところは徹底的に効率化します。
そのうえで、人間にしかできないことはコミュニケーションだと思っているので、無駄なことを全部落として、空いた時間で社長と無駄話をするんです。そこからしか、税理士としての打ち手の提案は出てこないと思っていますので。
もうひとつ、安請け合いはしないようにしています。安い顧問料で何でもやります、という形にすれば、お客様には喜んでいただけます。やってあげたくなる気持ちも当然あります。でも、それをやると従業員が疲弊するんです。まさに前職がそうでした。それをやって気持ちがいいのは、代表である私だけなんですよ。ですから、提供するサービスに見合った顧問料をきちんといただいて、そのぶん面談の回数を増やす。そういう形にしています。
ありがたいことに、この形にしてから、お客様のほうから解約されるということはほとんどありません。きちんとお時間をいただいて向き合うほうが、結果的にご満足いただけるのだと思っています。

「葛飾区で一番」を掲げていらっしゃいますが、何をもって一番だとお考えですか。
ナンバーワンの定義は、私が決めることではなくて、従業員が決めることだと思っています。
スタッフにもいろいろな価値観があります。給料が高い方がいいという人もいれば、仕事の面白さを取る人もいる、知名度やステータスを大事にする人もいる。そういうさまざまな価値観を持ったスタッフに、「もう一度税理士事務所を選ぶとしたら、どこがいいと思いますか」と聞いたときに、「うちでしょ」と言ってもらえる状態。それが、私のなかでのナンバーワンです。もちろん売上も件数も大事ですが、給料も待遇も働きやすさも、そのすべてにおいて、ということですね。
数字でわかりやすく言えば、売上3億円から4億円でしょうか。このエリアには大手の事務所がありませんので、その規模になれば、数字の上でも一番になれるはずです。人数でいうと、30名くらいの体制ですね。業界の平均は1人あたり1,000万円と言われますが、生産性はもっと上げられると思っています。
そのためにも、いま一番の課題は採用です。前職を反面教師にして、勉強と仕事を両立できる環境や、何ができればどう評価されるのかが明確な制度を整えてきました。同じ思いを持てる方に、ぜひ来ていただきたいと思っています。
最後に、これから税理士を探される方へメッセージをお願いします。
私はお客様に「何でも相談してください」とお伝えしています。経営をしていると、税金で悩むことよりも、お金で悩むことの方が多いんですよね。
資金調達をどうすればいいのか、返済をどうすればいいのか、保険は結局どういう意味があるのか。将来的な相続や事業承継をどう考えるか。そういうお金にまつわるご相談すべてが、税理士の仕事だと思っています。
それこそAIのように、何でも投げていただける事務所になりたいと思っています。そうしたお客様のお悩みから、私たち自身も成長していけますので。「こんなことを聞いてもいいのかな」ということも含めて、ぜひご相談いただきたいです。
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取材後記
取材のなかで、思わずメモの手が止まった言葉がいくつかありました。
ひとつは「無駄なことを全部落として、空いた時間で社長と無駄話をする」。効率化の話として聞き始めたのに、着地したのは真逆の場所でした。オンライン、ペーパーレス、AIの活用——そうやって削って生まれた時間を、末松さんは会話に戻しています。打ち手の提案は雑談の中からしか生まれない、という言葉には実感がこもっていました。
もうひとつが「税金で悩むより、お金で悩んでいる経営者の方が多い」という一言です。節税は経費を使って利益を圧縮する行為であり、決算書という通信簿の評点を自ら下げにいくことでもある。その代わりに、金融機関からの評価を上げ、手元の資金を厚くして、意思決定できる幅を広げていく。100万円しかなければ100万円の判断しかできないが、1億円あれば1億円の判断ができる——この考え方の背景には、飲食店の廃業を自ら経験されたという事実がありました。
そして印象に残ったのが、「だからこそ、そうならないでほしいと言えるんです」という言葉でした。貯金ゼロ、借入だけが残った状態からの独立。その経験があるからこそ、目の前の経営者に同じ思いをさせたくないと本気で言える。取材中、この部分を語るときの声色だけが少し違っていたのが忘れられません。
同世代の仲間が業界を嫌いになって辞めていく姿を見て、それを反面教師にした事務所を作る。ナンバーワンの定義を、自分ではなくスタッフに委ねる。末松さんの言葉は、一貫して「働く人」と「経営する人」の両方に向いていました。資金繰りや銀行対応に不安を抱えている経営者の方、そして数字の相談相手を探している方にとって、心強い伴走者になるはずです。
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