「数字を経営の武器にする」——数学教師志望の公認会計士が、福岡で創業期の経営者と歩む道を選んだ理由

奈須大貴(なす ひろき)|奈須大貴公認会計士・税理士事務所 代表
中学校の数学教師を志して大学に進学するも、ビジネスへの関心が芽生え、大学を中退して公認会計士試験に挑戦。わずか1年8ヶ月の勉強期間で短答式・論文式ともに一発合格を果たす。監査法人トーマツ福岡事務所にて4年間の監査業務に従事した後、IPO支援会社Faroで上場申請書類の作成支援や内部統制構築を経験。29歳で独立し、福岡市中央区に事務所を構える。「数字を経営の武器にする」を信条に、創業期の経営者に寄り添う伴走型の税務・会計支援を行っている。
まず、現在の事務所の体制やお客様の特徴について教えていただけますか。
現在は私一人で運営しています。お客様は福岡に限定しており、業種はさまざまですが、共通しているのは創業して数年以内の方が多いという点ですね。今は10社少々を担当させていただいています。
創業期のお客様が中心になっているのには、何か理由があるのでしょうか。
私自身がまだ若いということもあって、同世代や、同世代より少し下の経営者の方と一緒に歩んでいきたいという思いが根底にあります。初めて税理士をつけるような方に対して、最初の段階から「数字を経営の武器にする」ことの大切さをお伝えしたいんです。将来的に、支援先の中から上場を果たすような会社が出てきてくれたら、これほど嬉しいことはないですね。そのときには、公認会計士としての経験も存分に活かせると考えています。
最初の一歩から上場まで、長い目線での伴走を見据えていらっしゃるのですね。
はい。記帳代行から税務顧問、さらにはIPO支援まで一気通貫で対応できるのは、監査法人とIPO支援会社の両方を経験しているからこそだと思っています。税務だけ、監査だけという専門家は多いですが、その両方の視点を持って経営者と向き合えることが、私の特徴だと考えています。
もともとは中学校の数学教師を目指して大学に進学されたと伺いました。そこからなぜ、公認会計士という全く異なる道を歩むことになったのでしょうか。
大学には数学の教員免許を取るために入ったのですが、いざ学び始めてみると”大学の数学”がどうにも面白くなくて。正直なところ、ダラダラと過ごしてしまっていた時期がありました(笑)。ただ、そうした日々の中で漠然と「自分で何か事業をやってみたい」という気持ちが芽生えてきたんです。テレビドラマの影響だったのか、きっかけは正確には覚えていないのですが、ビジネスの世界に惹かれるようになっていました。
とはいえ、事業を始めるにしても、当時はまだ具体的なアイディアがあったわけではなかったのですね。
おっしゃるとおりです。やりたいことはあるけれど、具体的なアイディアもなければ行動力もない。そんな状態のときに、友人から公認会計士という資格の存在を教えてもらいました。受験資格が不要であること、そして会計という分野が経営に直結する学問であることに可能性を感じて、「これなら将来事業をやるときにも役立つはずだ」と考えて目指すことにしたんです。
大学を退学してまで挑戦するというのは、大きな決断だったのではないですか。周囲の反応も気になります。
そもそも教師になるという方向性ではなくなっていたので、試験勉強に専念しようという気持ちは固まっていました。ただ、母子家庭で私立の理系学部に通っていましたから、金銭的な事情も現実としてありましたね。大学の友人たちからは「お前アホか?」と言われましたけど(笑)、母親だけは違いました。私の性格をよくわかってくれていて、「目指すなら応援するよ」と背中を押してくれたんです。あの言葉がなかったら、踏み出せていなかったかもしれません。結果として1年8ヶ月ほどの勉強期間で、短答式試験も論文式試験もどちらも一発で合格することができました。

合格後は監査法人トーマツの福岡事務所に入所されていますが、最初のキャリアとして振り返ってみていかがでしょうか。
非常に良い環境でスタートを切れたと思っています。大手の監査法人であることはもちろんですが、何よりも配属されたチームのメンバーに恵まれました。主任は会計基準の細部にまで精通している専門性の高い方で、副主任は周囲から少し敬遠されるぐらい求める基準が高い方でした。正直、当時はついていくのが精一杯でしたが、その厳しさのおかげで自分の能力がしっかりと磨かれたと感じています。
具体的に、トーマツでの経験が今のお仕事にどのように活きていると感じますか。
一番大きいのは、「自分で調べて、自分なりの結論を出して、それをもってお客様と対話する」というプロセスが体に染みついたことです。税務に関しては、実はほとんど経験がないまま独立したのですが、それでもスムーズに業務を進められているのは、あの4年間で身につけた基礎的な思考力と調査力のおかげだと思います。トーマツだから、というよりも、あの環境で出会った方々のおかげですね。
4年で監査法人を離れるという決断は、何がきっかけだったのでしょうか。
もともと入所した時点から、いずれは独立して自分でやりたいという思いは持っていました。4年というタイミングに深い理由があるわけではなく、あと1年続けても、3年続けても、10年やったとしても、その後のキャリアに大きな差は生まれないだろうと感じたんです。それなら早い方がいいかなと。次のステップとしては、監査業務とは異なるコンサルティング的な仕事に携わりたいという思いと、独立した会計士・税理士がどのように仕事をしているのかを間近で見たいという思いがあって、IPO支援を手がけるFaro社に転職しました。
Faroではどのような業務に携わっていらっしゃったのですか。
主に上場申請書類——いわゆる「Ⅰの部」と呼ばれる、有価証券報告書に相当する書類の作成支援や、各種説明資料の作成を担当していました。加えて、内部統制の構築支援や内部監査のアウトソーシングにも携わっています。合計で3〜4社を並行して支援していて、そのうち1社が上場を果たしたタイミングで独立を決めました。
監査法人時代は「チェックする側」だったのが、Faroでは「数字を作る側」に立場が変わったわけですよね。その違いはどのように感じましたか。
監査法人にいた頃は、どうしても「あるべき論」を主張しがちだったんです。会計基準や規則に照らして「こうあるべきだ」と指摘する立場ですから。ところが、会社側に立ってみると、あるべきだけでは現場が回らないという現実に直面しました。内部統制にしても、ルールを厳格にしすぎると、かえって日常の業務が止まってしまう。理想と現場の両方を知ったうえで、落としどころを見つけながら最適解を一緒に作っていく——その姿勢が、Faroでの経験を通じて身についたと思います。
その経験が「自分でもやっていける」という確信につながったのですね。
そうですね。監査とは異なる領域の仕事を実際にやってみて、仕事さえ取ることができれば、十分にやっていけるという手応えを感じました。当初はコンサルティング的な業務を中心に独立したいと考えていたのですが、想像以上にこの領域の仕事を獲得するのは難しくて。まずは足元をしっかり固めようということで、税務顧問の仕事にも正面から取り組むようになりました。
奈須先生は「黒字決算を実現させる税理士」というコンセプトを掲げていらっしゃいます。この言葉に込められた思いを聞かせていただけますか。
多くの方が税理士に対して「記帳や申告といった作業をやってくれるところ」というイメージを持っていると思うんです。でも、私はそれだけでは不十分だと考えています。公認会計士として上場企業の対応をしてきた経験からすると、経営計画を立てて、予算と実績を毎月比較して、改善のサイクルを回していくというのは、企業として当たり前のことなんですよね。
その「当たり前」が、特に創業期の企業にはまだ浸透していないと感じていらっしゃるのですね。
Faro時代に忘れられない光景があるんです。クライアントから領収書をドサッと預かって入力する。気がつけば半年前の試算表すらまだ手元にない、なんてことがザラにある。正直に申し上げると、これは税理士の側が経営をダメにしているのではないかとすら感じました。経営者が自社の数字を把握できていない状態というのは、本来あってはならないことだと思うんです。
お客様とは具体的にどのような形で数字に向き合っていらっしゃるのですか。
顧問先の皆さまとは毎月数字を一緒に確認するようにしています。会社ごとに「この数字が経営の生命線だ」というポイントがありますので、そこを繰り返しお伝えしながら、改善の方向性を話し合っていくんです。毎年きちんと利益を出して、一歩ずつ成長していく。私はそのためのパートナーでありたいと思っています。
以前ホームページで提供されていた「サブスクChat税理士」という月額5,000円のサービスも、そうした思いから生まれたものだったのでしょうか。
あれは実は、今は畳んでしまっています(笑)。実際に始めてみたところお問い合わせは1件だけで、数ヶ月で契約も終わってしまいました。今の状況ではAIなどで代替できる部分もありますし、規模の小さい事務所には向いていなかったと感じています。とはいえ、やってみなければわからないことは多いので、チャレンジしたこと自体は後悔していません。
今後の事務所の方向性について、お考えをお聞かせください。
まず直近では、今年中に最低1名の採用を実現したいと考えています。現状、自分一人で担当できるのは20社程度が限界だと感じていますので。ただ、今の事務所の強みは私がすべてのお客様に直接対応していることにありますから、人を増やしたときにサービスの質をどう維持するかというのは、正直なところ悩ましいテーマではあります。
記帳代行に対するお考えも、以前とは変わってきたそうですね。
はい。以前は記帳代行は良くないものだと考えていました。お客様から資料をお預かりしても、結果的に数ヶ月後にならないと試算表を出せないという課題がありましたから。しかしAIの技術が進歩したことで、記帳代行をお引き受けしてもすぐに数字を把握できる環境が整いつつあるんです。重要なのは誰が作業を担うかというフローの問題ではなくて、経営に必要な数字をリアルタイムに把握できるかどうか。そこさえ担保できるのであれば、記帳代行も積極的にお引き受けしていこうという方針に切り替えました。TKCもAIの導入に力を入れていますし、業界全体の業務フローが大きく変わっていくだろうと感じています。
昨年はマリンメッセ福岡で開催されたD EXPO福岡でセミナーに登壇されたり、雑誌のananにも掲載されたりと、積極的に情報を発信されていますよね。

若い世代の経営者に届けたいという思いがありますので、親しみやすさは大切にしたいんです。堅苦しいイメージではなく、気軽に相談できる存在でありたいですね。YouTubeで運営している「会計リテラシー向上委員会」もその一環です。福岡という地域から、数字の力で経営者を支える、これまでにない税理士事務所の形を発信していけたらと考えています。
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取材後記
取材を通じて最も印象に残ったのは、「半年前の試算表すら手元にない、なんてことがザラにある。これは税理士が経営をダメにしているのではないか」という言葉です。監査法人で「あるべき姿」を学び、IPO支援の現場で「あるべきだけでは回らない」という現実を身をもって経験されたからこそ、奈須先生の「数字を経営の武器にする」という言葉には深い説得力があります。
チェックする側と作る側、理想と現実、その両方を知る公認会計士が税務顧問として伴走してくれる。創業期で初めて税理士を探している方、数字の見方がわからないまま経営を続けてこられた方にとって、奈須先生は最初の一歩から長く寄り添ってくれる、心強いパートナーになってくださるのではないでしょうか。
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