「税理士と、クラウドやAIの話が通じない」をなくす——受託開発・SES・SaaS・ECに特化した、IT企業の税理士・佐久間元気(NOMERA会計事務所)

佐久間 元気(さくま げんき):NOMERA会計事務所 代表/税理士・公認会計士
1995年生まれ。中央大学経済学部卒業後に公認会計士試験に合格し、PwC、太陽有限責任監査法人で上場企業・IPO準備会社・金融機関などの監査に従事。2021年、26歳で独立。受託開発・SES・SaaS・広告・ECなど、IT・デジタル領域の企業に特化し、クラウド会計とオンライン完結を前提とした税務顧問を全国に提供している。2026年4月、事務所名を「NOMERA」に改め、東京・西新宿に移転。
税理士とのやり取りが、紙と電話とメールの往復で終わっていく——IT・デジタル領域の経営者からよく聞く不満である。
NOMERA会計事務所(東京・西新宿)の佐久間元気氏は、受託開発・SES・SaaS・広告・ECといったIT企業に特化し、クラウド会計とオンライン完結を前提にした税務顧問を全国に提供している。役員報酬のシミュレーション、月次分析レポートの動画化、仕訳を入力する前に見られる資金繰り表。その多くは、自分たちで作ったものだ。
「速さは、人の頑張りでは作らない」。設計で解く、という一貫した姿勢について聞いた。
まず、どんな事務所で、どんな会社が顧問先なのかを聞いた。
まず、事務所の全体像から伺えますか。
東京・西新宿にあるNOMERA会計事務所です。IT・デジタル領域に特化していて、受託開発、SES、SaaS、広告、ECといった業種が中心になります。クラウド会計とオンラインで完結する前提なので、対応地域は全国です。
お客様には、年齢層の偏りがありますか。
20代・30代の経営者の方が中心です。最初は紹介だけでやっていたので、いろいろな業種・年代のお客様がいらっしゃいました。そのなかで進め方が合う先と合わない先がはっきりしてきて、今の層に落ち着いた、という流れです。
チーム体制は。
私を含めた少人数のチームで、正社員、業務委託、学生スタッフがいます。人数を増やすこと自体は目的にしていません。残業しなければ回らない状態になったら、お客様を追加で取らない。そう決めているので、体制と受注はセットで考えています。
サービスのラインナップはどうなっていますか。
中心は税務顧問です。そのなかで融資や補助金の対応をしていて、助成金が必要なら社労士におつなぎします。あとはDX、業務改善、AI導入ですね。今日もマネーフォワードとAIを連携して、どう仕訳を自動化していくか、という打ち合わせをしていました。
特化の理由は、本人がITに強いから、というだけではない。
IT・デジタルの領域に絞ったのは、ご自身がITに強いから、というだけではなさそうですね。
長くお付き合いするうえで、使っている道具が揃っているかどうかが、かなり効くんです。クラウド会計、Google Workspace、Web会議、チャット。ここが前提として共有できていると、確認の往復が減って、本来話すべき数字の話に時間を使えます。逆にここが合わないと、毎月のやり取りそのものがお互いの負担になる。
紹介中心だった頃は、そこがばらついていたと。
紹介だと、相性よりも人のつながりで決まることがあります。仲良くなって契約して、でも進め方が合わずにお互い苦しい、ということが起こる。だったら最初から「クラウド会計とオンラインで完結させます」と打ち出して、その進め方を選びたい会社と組んだ方がいい。
IT・デジタル系の経営者のなかには、税理士とのやり取りが紙と電話ばかりで、そこに小さなストレスを溜めている方が少なくないと思うんです。Google Workspace、クラウド会計、Web会議でやります、と最初から寄せてしまった方が、そういう方に届く。数年やってきて、そう考えるようになりました。
Webでの発信は、最近始められたそうですね。
これまではほぼ紹介だけでした。ITが得意だと言っているのだから、もっと早くからWebに寄せてもよかったなとは思います。
決算・申告の料金まで月額に均している。その設計思想を聞いた。
料金設計も特徴的だと思いました。決算申告の料金まで月額に均している。
うちの行動指針に「Keep it Simple.」があるんですが、料金も同じです。複雑な税務や会計を、シンプルに、スマートに。
以前は顧問料、記帳料、決算料、法定調書、源泉と、細かくオプションで分かれていました。そうすると定期的に「これは何の料金ですか」という問い合わせが来る。お互いにストレスですし、こちらにも計算の手間がある。ITに強いと言っているのだから、ITのサブスクと同じように同一料金にまとめた方がいい。年間にかかる料金を全部出して、それを12で割っているだけです。給与計算も一定人数までは顧問料の中に含めるなど、従量の部分もある程度まとめています。
月額だけを並べると、一瞬高く見えることはありませんか。
決算料が別建ての事務所と月額だけを比べれば、そう見えることはあります。ただ年額で並べれば相場の範囲です。見かけの月額だけで比較して安い方に行く方とは、そもそも進め方が合わないので、それはそれでいいと考えています。
顧問先に渡しているツールの多くは、自分たちで作ったものだという。
役員報酬の計算ツールを自作されているとも拝見しました。
うちでシミュレーションを回して、お渡ししています。役員報酬は毎年決める必要があるので、感覚ではなく、きちんと理論立てて数字にする。月次の分析レポートも、AIで動画にしてお渡ししています。
最近追加したものは、どんなものがありますか。
AIからマネーフォワードを操作できるようになったので、資金繰り表を作りました。私たちが仕訳を入れる前の状態でも、リアルタイムで資金繰りが見られます。
細かいところだと、資料依頼リストですね。以前はドライブのリンクを貼って「ここに入れてください」と出していたのですが、「この資料はどこに出せばいいんですか」という質問が結構多かった。今はGASを組み込んで、必要書類があれば、入れるべきドライブのリンクが自動で生成されるようにしています。
EC系はどうしても処理量が多くて、普通に仕訳をしていたら料金が膨らんだり、確認が遅れたりします。そこは、うちで作った仕入台帳や、マクロ・GASを組み込んだものをお渡しして、棚卸が自動でできるようにしています。1社だけならとても作れませんが、同じ業種が何十社もあるから、大元を作って配れる。これを税務顧問の料金の中でやっているので、実質ITコンサルが込みになっているような位置づけだと思います。
作る時間は、どう捻出しているのですか。
私が顧客対応をフルでは持たず、なるべく自分の時間を空けるようにしています。その分、新しい業務改善を作れている。引っかかっているところを、インパクトが大きそうなところから1つずつ潰していく感じです。エンジニアとしての知識は全然足りていないんですが、今はAIでなんとかできています。
税務の外側の相談も、まず受ける。
IT・ECの経営者に対して、事務所の強みを言語化するとどうなりますか。
1つは、サービスが常にアップデートされていることです。AIが賢くなるにつれて、前は難しかったけれどこれはできるよね、というものが出てくる。常にお客様に「どういうものが欲しいですか」とヒアリングしながら出しています。
もう1つは、うちとのやり取りコストが低いことです。税理士を変更したことのある方なら分かるかもしれませんが、本当に紙がない。何回も聞き直したり、メールで何往復もしたりがない。料金自体は相場の範囲ですが、経理事務の人件費まで含めた総額で見れば、低く収まっているはずです。
税務以外の相談も受けるのですか。
労務や法律の質問も一部受けますし、保険や補助金も。小さい会社であれば、困ったらまずうちに聞けばなんとかなる、という位置でいたいと思っています。「労務だから、うちは社労士じゃないので分かりません」とは言わない。分からない内容でも調べて、調べた範囲ではこうなので、こうしましょう、と提案まではします。
お客様とのコミュニケーションで意識していることはありますか。
社内に言っているのは、結論から言うことと、相手が中学生でも分かるレベルで説明することです。小学生と言うと失礼かなと思って(笑)。専門用語はどうしても使いがちで、私も気を抜くと出てしまう。永遠の課題ですが、AIが答えを出せる時代だからこそ、ここは逆に重要になってくると思うので、社内研修として体系化していきたいですね。

2026年4月、事務所は名前を変え、西新宿に移転した。
リブランディングには、どんな思いがあったのですか。
実は変える予定はなかったんです。ただ今後Web集客でMeta広告を打つとなったときに、以前の名前がイニシャルで重なっていて、色味もFacebookに似ていた。それが障壁になるんじゃないか、と。西新宿に移転するタイミングでもあったので、じゃあ名前から考え直そう、ミッション・ビジョン・バリューも見直そう、となりました。類似の商品や会社がないか、商号が取られていないかを全部AIで調べて、組み合わせて作った造語です。
「NOMERA」には、どんな意味が込められているのですか。
NOMOS(原理原則)と、ERA(時代)です。原理原則を、新しい時代に変えていく。ノモスのOとSはOS、つまり基盤でもあるので、その基盤を新しい時代に変えていく、という意味を持たせています。
最後に、これから先の話を聞いた。
これから見えている目標はありますか。
会計事務所は残業が多いところが多いですし、友人が働いている法人もかなり大変そうだと思っていたので、スタッフがなるべく残業しない仕組みは作りたいと思っています。残業しなければ回らないんだったら、お客様を追加で取らない。利益を追求して無理をしても、結局お客様への処理の質が下がりますから。
一方で、少人数だと1人抜けたときの影響が大きい。今も誰かが抜ければ私がカバーに入って回すので、その分、新しいサービスや業務改善が止まってしまう。お客様にとってもスタッフにとっても安定した体制を整えたい、というのが当面の目標です。
サービスの範囲でいうと、相続やM&Aですね。顧問先の経営者の年代が上がるにつれて、必ず必要になる領域なので、外部と提携しながらきちんと受けられるようにしていきたいです。
「AI時代の会計事務所」という言葉も使われていますね。
これから会計事務所に求められるのは何なのか、どうすれば中小企業にとっていいポジションでいられるのか、というのは考え続けています。
数字を作る部分は、AIが担う範囲がこれからも広がっていくと思います。そのときに残るのは、そもそも何を作るべきかを決めることと、経営者と同じ言葉で話せることじゃないかと。そこを事務所として持ち続けたいですね。
NOMERA会計事務所の詳細はこちら
事務所名:NOMERA会計事務所(NOMERA株式会社)
代表:佐久間 元気(税理士・公認会計士)
所在地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿5-8-2 惠徳ビル804号室
対応領域:受託開発・SES・SaaS・広告・ECなどIT・デジタル領域の税務顧問(オンライン完結・全国対応)
取材後記
取材前、佐久間さんのサイトで一番気になっていたのは、役員報酬のシミュレーションを自作していることでも、決算料を月額に均していることでもなく、採用ページに書かれた「即レスは評価対象外」という一文でした。お客様の声には「レスポンスが速い」と書かれているのに、です。
答えは取材の中で自然に出てきました。速さを人の頑張りで作らない。紙をなくし、資料の置き場をGASで自動生成し、質問が多いところから1つずつ潰していく。そうすると、そもそも往復が減ります。「料金は相場の範囲でも、経理事務の人件費まで含めた総額で見れば低く収まる」という言葉は、その設計の帰結でした。
IT・デジタル領域で、税理士とのやり取りに小さなストレスを溜めている20代・30代の経営者にとって、同じ言語で話せる会計事務所は多くありません。まずは一度、話してみてほしいと思います。
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