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上場企業の社外取締役が、大阪の中小企業30社に伴走する理由 ——数字を見える化し、30社に伴走する太田公認会計士・税理士事務所

上場企業の社外取締役が、大阪の中小企業30社に伴走する理由 ——数字を見える化し、30社に伴走する太田公認会計士・税理士事務所

太田 晶久(おおた あきひさ):太田公認会計士・税理士事務所 代表/公認会計士・税理士

大学卒業後、不動産業を営む事業会社で6年間、経理として決算・月次処理から金融機関とのやり取りまでを担当。中小企業で働くなかで自身の成長に限界を感じ、退職して公認会計士試験に挑み、28歳で大阪の監査法人に入所。5年間にわたり監査業務と内部統制の構築支援に従事。2006年に独立し、太田公認会計士・税理士事務所を開設。現在は関与先およそ30社の月次支援と社外CFOとしての経営支援を軸に、上場企業の社外取締役・社外監査役、中小企業活性化協議会の外部専門家も務める。

関与先およそ30社・大阪を中心に関西圏——「心ある中小企業」に絞ってきた理由

まず、どんなお客様に囲まれた事務所なのか教えてください。

太田:
法人のお客様が中心で、およそ30社にお付き合いいただいています。個人の方は、これから法人成りを予定されている方がいらっしゃるくらいですね。規模で言いますと、売上1億円から20億円くらいの会社が多いです。業種は特に絞っていません。エリアは大阪市内が中心で、広げても京阪神の範囲に収まっています。

これまで広告のようなことは一切していなくて、すべてご紹介でいただいたお客様です。10年以上お付き合いが続いている会社が多いですね。

お客様を選ばせていただいているつもりはないのですが、ホームページには「心ある中小企業に、本物の伴走者を。」という言葉を掲げています。この「心ある」というのは、私なりに基準があるんです。

私は事業再生のお手伝いをすることが多いのですが、そのなかで見えてきたものがありました。再生した後に業績が回復して、いまも良いお付き合いが続いている会社がある一方で、喉元を過ぎれば…という状態に戻ってしまう方もいらっしゃるわけです。そういう経験を重ねるうちに、誰でもお手伝いするというのは違うのではないか、と感じるようになりました。従業員のことを考えていて、給与を上げていきたいという意志を持っている。そういう志のある経営者を優先してご支援したい。「心ある」という言葉には、その意味を込めています。

その30社を、どのような体制で見ていらっしゃるのでしょうか。

太田:
昨年末に体制を見直しまして、現在はリモートワークのアウトソーシングが中心です。愛知、埼玉、長野と、それぞれ離れた場所にいる方に、月100時間前後の稼働でお願いしている形ですね。事務所に出ているのは私と妻くらいです。

以前は、自分の目が届く範囲でやってきた結果、事務処理能力のところで社数の限界を迎えていました。ただ、AIの活用で効率化が進んできたので、これからは新規のお客様の獲得にも力を入れていこうと考えています。
中小企業で感じた成長の限界——「動かないリスク」を取らなかった30代

会計士になられる前のキャリアから伺えますか。

太田:
もともとは監査法人に入る前に、一般の事業会社にいました。6年ほど、経理を担当していました。小さな会社でしたが、そのぶん、いろいろなことをやらせてもらいました。決算や月次処理はもちろん、不動産業でしたので銀行とのやり取りや、土地の決済の準備まで携わっていました。

ただ、その一方で、中小企業で働くなかで自分の成長に限界を感じていたんです。それで会社を辞めて、会計士試験を受けることにしました。

いま思えば無謀な決断に見えるかもしれませんが、私のなかでは、動くことのリスク以上に動かないリスクを感じていました。このまま環境を変えずにいたら、自分は埋もれていってしまうのではないかという恐れがあったんです。とはいえ無限に続けるわけにもいきませんので、チャンスは2回までと決めて勉強しました。運良く1回で受かることができましたが、背水の陣ではありました。

じつは同じ時期に、妻もOLを辞めて医療系の専門学校に通っていたんです。その卒業のタイミングと私の退職が重なりましたので、夫婦そろって無職という時期もありました(笑)。

そして28歳で、大阪の監査法人に就職しました。
「忙」=心を亡くす——救急車を呼んで気づいた働き方

監査法人ではどのような業務を経験されたのでしょうか。

太田:
5年間在籍しまして、一般的な監査業務に加えて、J-SOX(内部統制報告制度)にも関わりました。ちょうどエンロンの会計不正があった頃です。会社が自分たちで決算書を作り、正しく機能する仕組みをどう作るのか、というテーマですね。

売上を上げるにしても、受注のフロー、伝票の起票、回収するための仕組みがある。ビジネスそのものの仕組みを理解する機会になりました。あれは、いまの仕事の土台になっていると思います。

その2年後、2006年に独立されています。何がその決断の背中を押したのでしょうか。

太田:
退職の直前にやっていたその内部統制の仕事が、かなり期限の厳しいものでした。毎日、深夜まで仕事をして、半年間休みはほとんどなかったと思います。家のことは何もできていませんでした。

当時、妻は2人目の子どもを生んで半年か1年ほど経ったタイミングでした。夏休みに家で仕事をしていて、明日も仕事だという夜に、妻が「しんどい」と横になったんです。そのまま救急車を呼びました。診断は過労でした。

一番近くにいるパートナーの変調にすら気づくことができない働き方は、おかしいのではないか。そう思いました。監査法人の仕事自体は非常に楽しかったですし、周りの人にも恵まれ、収入面にも満足していました。それでも、収入が減ってもいいから家族と向き合いたいと考えて、2006年に独立を決めました。

振り返ってみると、事業を大きくしたいという欲があまりないまま独立して、家族との時間を作れるようにバランスを取りながらやってきた20年でした。そこは、いまも変わっていません。
現状把握・スピード・わかりやすさ——会社が良くなるためのステップ

「見える化」を掲げていらっしゃいます。月次の支援で、経営者には何が最初に見えるようになるのでしょうか。

太田:
会社が良くなるためのステップがいくつかあると思っていまして、最初は現状把握です。まず会社の状況を知っていただく。

そのうえで大事にしているのが、スピードとわかりやすさの2つです。2、3か月前の話をされても、経営者は忘れてしまいます。ですから、できる限り毎月お会いできる形で支援していくのがベースです。

わかりやすさについて言えば、税務署や銀行に提出する書類は、そのままでは非常にわかりにくいものです。ですから、図やグラフを使って説明するようにしています。ここは先行している事務所のやり方を学びながら、少しずつ自分の型を作ってきたところです。

現状が把握できて初めて、問題点の改善に進めます。そして、どうやっていきたいのかという目標やビジョンを作っていく。この順番だと思っています。

そのステップのなかで、いま特に力を入れたいと考えていらっしゃる領域はありますか。

太田:
中期計画のサポートです。単年度の計画だと、どうしても今の延長線上になってしまうんです。たとえば人件費がどんどん上がっていくインフレの状況下では、延長線上のままでは立ち行かなくなります。3年から5年後の未来像を先に描いて、そこと現在とのギャップを埋めるための壁打ちをしていく。そういう関わり方に、もっと注力していきたいと考えています。これは、再生のお手伝いと通じる部分でもあります。
再生で一番大事なのは、社長のスイッチ——社外CFOという関わり方

社外CFOとして関わる場合、通常の顧問とは何が変わるのでしょうか。

太田:
踏み込んでやると、関われる社数は少なくなります。そのぶん、深く知ることができます。

具体的には、社内の会議に出たり、役員の方を交えた会議に入ったり、社長と1対1でお話ししたり。評価制度を作るところまでサポートすることもあります。

そうした深い関わり方の原型は、事業再生の現場にあるように感じます。再生では、何が分岐点になるのでしょうか。

太田:
社長のスイッチが入るかどうかだと思っています。

私の場合、金融機関からのご紹介で入ることが多かったのですが、そうすると社長からすれば「銀行から言われたことだから断れない」という状態なんです。そこから人間関係を作って、本気になってもらう。ここが一番難しいところです。きれいなことだけを言っていても始まりませんので、言いたいことは言います。そのうえで信頼していただいて、行動に移してもらう。短期間でその会社のことに詳しくなって、問題点を伝えて、あるべき姿を描いて伝える。それを相手の立場を踏まえたコミュニケーションでやっていく必要があります。

数字の面から言いますと、中小企業では、自分の会社が儲かっているのか儲かっていないのか、わかっていない経営者が意外と多いのです。売上や利益率をすらすら言える方は、そう多くないと思います。ですから、現場ごとの利益率を見える化するだけでも、動きが変わってきます。私たちは数字のプロではありますが、数字だけを見ていてもだめで、事業そのものを理解しながら動いていくことが必要だと感じています。
「会社の常識は世間の非常識」——上場企業の社外役員として見てきたもの

上場企業の社外取締役・社外監査役も務めていらっしゃいます。そこで得た視点のうち、中小企業にこそ持ち込みたいものはありますか。

太田:
説明責任です。上場企業では、なぜこの意思決定をするのかを、エビデンスも含めて外部に説明することが求められます。

会社というのは放っておくと「会社の常識は世間の非常識」になりがちですので、外部の視点から客観的な意見を述べることの重要性を、社外役員の立場で強く感じています。

そして、中小企業がこうした意思決定をしていけば、もっと良くなっていくと思っているんです。自分の会社ではありますが、上場企業のように説明できる意思決定をしていれば、銀行に対しても従業員に対しても、説明する機会を持てるわけですから。

外の視点という意味では、AI活用についても発信されています。会計事務所の現場で、どう位置づけていらっしゃいますか。

太田:
セキュリティに気をつけることは大前提としたうえで、ほとんどの場面で活用しています。従業員にやってもらうことと同じような感覚ですね。記帳のサポート、経営資料の作成、業務のマニュアル化などです。この半年ほどで、仕事のやり方は本当に変わったと思っています。

最初はチャット形式で相談するくらいでした。昨年の後半、AIエージェントという言葉が出始めた頃に、詳しい方にコーチングしてもらいながら勉強していきました。業務の標準化が進んだことで、人間がやるべき業務に集中できるようになったという手応えがあります。可能性は、まだまだ広がっていくと思っています。
これから——「良くなる種」を育てられるポジションにいる

これから事務所として実現したいことを教えてください。

太田:
再生のお手伝いをしていた頃から、ずっと感じていたことがあります。中小企業には、だいたい税理士がついているんです。それなのに、会計の専門家がついているのに業績が悪くなっていくケースを、私は何度も見てきました。

会社がおかしくなる前に気づいて、フォローして、軌道修正したい。そして逆に、良くなる種を育てていきたい。それができるポジションに、税理士や会計士が一番近いところにいると思っています。それなのに、やろうとしていない人も多い。もったいないと感じています。

そのために、いま考えている目標があります。関与先は30社ありますが、がっつり支援できているのは10社ほどです。30社すべてに同じ深さで関われたらと思っています。そのためには、いまは私自身による支援が中心になっているところを、再現性を高めてチームとして支援できる形にしていく必要があります。そこは、これからの課題ですね。

最後に、伴走者を探している経営者へメッセージをお願いします。

太田:
私が関わったお客様には、豊かな時間を過ごしてもらいたいと思っています。お給料の面もそうですし、やりがいや成長といった部分も含めてです。会社を良くしたい、従業員の給与を増やしていきたい、成長していきたい。そう考えていらっしゃる経営者の方に、税金の相談だけではなく、経営のことを何でも相談できるパートナーとして関わっていけたらと思っています。

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取材後記

「会計の専門家がついているのに、業績が悪くなっていく会社がある」。太田さんのこの一言が、取材のなかで最も強く残りました。税理士がついているのに会社が傾いていくという光景は、事業再生の現場に立ち会ってきた方だからこそ、繰り返し目にしてきたものなのだと思います。

印象的だったのは、そこで語られる打ち手が、決して特別なものではないことでした。毎月きちんと会う。図やグラフでわかるように伝える。現場ごとの利益率を見えるようにする。どれも派手さはありませんが、「自分の会社が儲かっているかどうかわからない」という状態から抜け出すには、まずここからなのだという説得力がありました。

深夜まで働き続けた末に、奥様の変調に気づけないまま救急車を呼んだ夜。そこから「収入が減ってもいいから家族と向き合いたい」と独立を決めた20年前の判断が、いまの支援スタイルの根っこにあるのだと感じます。事業を大きくすることよりも、関わる会社に豊かな時間を過ごしてもらうこと。その順番を20年間変えずにきた方が、いま「30社すべてに同じ深さで関わりたい」と語っている。そこに、この事務所の本気を見た気がしました。

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