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「ご縁が人をつなぎ、組織を育てる」――やまぐちで50名規模の組織を築くまで

「ご縁が人をつなぎ、組織を育てる」――やまぐちで50名規模の組織を築くまで

河口 雅邦:税理士法人やまぐちパートナーズ 代表社員

甲子園を目指す野球少年として、野球の名門として知られる、地元の商業高校へ入学。そこで簿記と出会い、後の人生を決める会計の道へと進む。大学商学部卒業後、地元の信用金庫に入庫。融資担当として中小企業の資金繰りを支援する中で、公認会計士・税理士の道を志す。退職後、約1年間の勉強期間を経て公認会計士試験に合格。その後、監査法人に勤務し、2012年に山口県宇部市で独立開業。2020年に税理士法人やまぐちパートナーズを設立。現在は山口県内3拠点・東京1拠点、役職員50名の体制で地域に根差した会計・税務サービスを提供している。

融資の現場で芽生えた「経営者の隣に立ちたい」という想い

河口先生は信用金庫ご出身とのことですが、税理士を目指されたきっかけを教えていただけますか。

河口:
信用金庫では融資業務を担当していました。中小企業の経営者と向き合い、資金繰りや資金調達の相談を受ける毎日。仕事自体は楽しかったんです。ただ、金融機関の立場というのは、あくまで「企業を評価する側」なんですよね。

決算書の数字を見て、融資するかしないかを判断する。それは大切な仕事だとわかっていましたが、経営者がどれだけ苦労しているか、どんな想いで事業をしているか――そういう部分に触れるたびに、「この人たちに寄り添って、サポートする仕事がしたい」という気持ちが膨らんでいきました。

商業高校時代に簿記を学んでいたので、公認会計士や税理士という資格の存在は知っていました。でも当時は「自分には難しいだろうな」と思っていて、本気で目指そうとは考えていなかった。

転機は27歳のころです。「このままサラリーマンとして生きていくのか?」という、20代後半特有の衝動というか、葛藤のようなものが湧き上がってきて。それが資格取得への挑戦を決めた瞬間でした。やるなら後悔しないようにやろう、と。振り返れば、あのときの自分の「やってみて後悔しよう」という気持ちが、今の事務所経営にもつながっているのかもしれません。
税理士法人やまぐちパートナーズ
「人と地域とつながる」――生まれ育った町・宇部で事務所を構えた理由

2012年に宇部市で独立されていますが、開業の地として宇部を選ばれた理由は何だったのでしょうか。

河口:
やっぱり地元なんですよね。お世話になった方も多いですし、地域に根差して事業をされている人たちの顔が見える。応援してくれる方たちへの恩返しもしたかった。

宇部市は大手化学メーカーの城下町で、製造業やその関連会社が多い地域です。山口大学医学部附属病院もあるので、そこから独立される開業医の先生も多く、開業支援からお付き合いが始まるケースもあります。

顧客層はかなり幅広いですね。

河口:
そうですね。個人事業主の方から、年商100億円を超える企業まで。業種も製造業、建設業、飲食業、医業と本当にさまざまです。ボリュームとしては年商1億円くらいまでの企業が一番多い層ですね。

地方の総合会計事務所として、「うちはこの業種しかやりません」とは言いたくないんです。目の前のお客様が困っていたら、そこに応えたい。領収書の整理から経営計画まで、お客様ごとの課題に寄り添いながら対応するというのが、開業当初から変わらないスタンスです。

相続税にも直近は力を入れていて、専門的に対応ができるように、部署を設けています。売上に占める割合はまだ5%ほどですが、地方の事務所としては多い方だと思いますし、もう少し伸ばしていきたいと考えています。金融機関や郵便局と連携して勉強会や無料相談会も企画していて、メンバーが中心となって本気で取り組んでいます。

お客様は、宇部市、山陽小野田市を中心に9割は山口県内です。やっぱり地元の方に支えていただいているなという実感がありますね。最近ではWeb面談にも対応しており、全国対応の実績もあります。
税理士法人やまぐちパートナーズ

やはり紹介経由のお客様が多いのでしょうか。

河口:
もともとは、お客様や地元の金融機関、他の士業の先生方からのご紹介が中心でした。ただ最近は、freeeの導入実績が積み上がってきたこともあって、freee経由でのお問い合わせも増えてきています。山口県で唯一の五つ星認定の事務所であり、優先的にご紹介いただけるようになりました。その結果、エリアを問わず全国からのご相談も多くなり、昨年は北海道から沖縄まで、文字通り全国各地のお客様が増えてきています。業種や事業形態も様々で、個人事業主から公益法人まで、幅広く対応しています。

税務においては、保守的な姿勢を基本とし、正確で信頼性の高い対応を心がけています。「攻めの節税」を求めるお客様よりは、堅実に、確実に申告をしたいという方と相性がいい。当たり前のことを当たり前にやる。それが結局、お客様の経営基盤の強化へつながり、信頼関係の土台にもなると感じています。

財務支援にも力を入れ始めていて、MAS(経営計画策定支援)の専門グループを設けています。すでに7〜8社をご支援しており、グループリーダーが「5年後にはこの部門だけで売上1億円にする」と豪語するぐらい、本気で取り組んでいます。
3つの事務所統合から法人化へ――組織の未来を守る決断

2012年の開業から2020年の法人化まで、どのような転機があったのでしょうか。

河口:
開業してから少しずつお客様も職員も増えていき、2016年には事務所統合を経験し、20名体制になりました。さらに2019年には30名体制にまで拡大していたのですが、税理士の資格者は自分ひとりだけだったんです。

当時30代でしたが、ふと「もし自分に何かあったら、この30名の職員と300社のお客様はどうなるのだろう」と考えるようになりました。税理士事務所は資格者がいなければ業務そのものが続けられません。リスクへの備えが十分ではないことに、経営者としてどこか負い目を感じていました。そうした危機感を強く持つようになったことが、大きな転機でした。

そこから法人化のスピードが非常に速かったと伺っています。

河口:
2019年の年末には、もう動き始めていました。税理士会の宇部支部には60名ほど税理士がいるのですが、その中でも年齢や考え方、波長が合う2人に声をかけました。

実は福岡の監査法人で一緒に働いていた頃から、「いつか一緒にやろう」と冗談半分で話していた仲間もいたのですが、最終的に法人化を共に進めることになったのは、地元で活動していたこの2人でした。

構想から8ヶ月で、3つの事務所が統合し「税理士法人やまぐちパートナーズ」が誕生しました。周囲からは「早すぎるのでは」と言われましたが、自分としては「鉄は熱いうちに打て」という感覚でした。あのとき動かなければ、タイミングを逃していたかもしれない。あのスピード感の中で、一緒に決断してくれる仲間がいたのはありがたかったですね。今の組織の土台は、あのときの法人化から始まっていると感じています。

法人化したことで資格者体制も整い、組織としてより安定した形でお客様を支えられる基盤ができました。資格取得を目指したときもそうですが、やってみて後悔するほうが、やらずに後悔するよりずっといい。それが自分の行動原理なんです。
拠点拡大の挑戦――小野田事務所開設で得た学びと、東京進出の葛藤
河口:
法人化から1年後の2021年10月、山陽小野田市に小野田事務所を開設しました。振り返ると、このときが法人運営の中で一番大変だったかもしれません。

当時すでに拠点は3つありましたが、そのうち宇部市内の1拠点を閉鎖し、パートナー税理士とその拠点の職員、また本店の職員に小野田事務所へ移ってもらう形で、新しい体制をスタートさせました。

本店には当時30名の職員がいましたが、そのうち山陽小野田市在住の職員を中心に10名に移ってもらいました。本店から車で15分ほどの距離で、通勤時間も短縮されることもあり、大きな反発があったわけではありません。

それでも、一人ひとりの気持ちを丁寧に汲み取る余裕が、あのときの自分にはなかった。それは今でも反省しています。

組織が大きくなるというのは、嬉しいことばかりじゃないんですよね。自分の判断ひとつで、皆の働く環境が変わる。その重みを、小野田事務所の開設で改めて痛感しました。さまざまな葛藤を抱えながらのスタートでしたが、小野田事務所もおかげさまで開設5周年を迎えます。租税教室やインターンシップなどの地域貢献活動を通じて、新たな人や地域とのつながりも生まれました。小野田事務所を開設したからこそ広がったご縁であり、その広がりを日々実感しています。

その後、2024年には東京・練馬にも進出されていますね。「人と地域とつながる」という理念との間で、葛藤はありませんでしたか。

河口:
正直、ありました。「地域を大切にする」と言いながら、東京に出るのは理念に反しているんじゃないかと。山口に拠点を増やすほうが筋は通る。でも、経営者として冷静に考えたとき、地域経済がこの先どうなるかはわからない。人口が流入し続ける東京に拠点を持つことは、集客や情報収集の面でも、人材採用の面でも意味がある

もうひとつ、実際に増えてきたのが「地方出身者が東京に出たまま、親の相続が発生する」というケースです。山口から上京して、そのまま戻らずに暮らしている方が、実家の相続税申告をどこに頼めばいいかわからない。そういうニーズに応えられるのは、地方に根を持つ事務所ならではだと感じました。

東京の拠点は、仲介会社を介しての初めてのM&Aでしたが、2024年4月に構想し始めて、5月には相手先が決まり、6月に契約、9月には開設。構想から5ヶ月で実現しました。そのスピード感に周りは驚いていましたが、私自身としては自然な流れだったと感じています。チャンスは待ってくれるものではありませんし、タイミングを大切にしたいと考えていたからです。
「お客様が使いたいものに合わせる」――IT活用と現場主導の組織づくり

貴法人はTKC所属でありながら、freeeや弥生、マネーフォワードにも対応されていますね。複数のソフトを扱うのは負担も大きいのではないでしょうか。

河口:
税務申告はTKCを使っていますが、それ以外の会計ソフトについてはお客様が使いたいものに合わせるというスタンスです。「うちはTKCしか対応しません」と言ってしまったら、それは税理士側の都合でお客様の選択肢を狭めていることになりますよね。お客様がfreeeを使いたいと言うなら、freeeに対応する。弥生がいいなら弥生で。それが本来あるべき姿だと思っています。

もちろん、最初から全員が賛成だったわけではありません。経験の長い職員ほど、慣れ親しんだやり方を変えることに抵抗がありました。ただ、うちの事務所には「新しいものを使っていこう」という風土が根付いていると感じています。freeeの導入を推進した際には、ベテラン職員をリーダーに据えて現場から動かしてもらいました。トップダウンで「やれ」と言うのではなく、現場のメンバーが主体的に広めていく形をとったんです。

今では職員の半分弱がfreeeを使いこなせるようになっていて、そうなると組織全体の空気が自然と変わっていくんですよね。

50名規模の組織で、現場主導を実現するのは簡単ではないと思います。どのような工夫をされていますか。

河口:
自分が現場のすべてに関わるのは難しいので、グループ活動・委員会活動という仕組みをつくっています。3〜5名のチームで、freee推進、財務コンサルティング、保険提案など、テーマごとに活動してもらい、リーダーに一定の権限を持たせて自分たちで推進するようにしています。この取り組みは、2016年に20名体制になったころから始めました。
税理士法人やまぐちパートナーズ
巡回監査についても、TKC所属の事務所としては珍しいかもしれませんが、KPIには設定していません。お客様によって毎月訪問が必要な方もいれば、オンラインで十分な方もいます。訪問の頻度や形式はお客様のニーズに応じて柔軟に決める方針です。すべてのお客様に同じ型を当てはめるのではなく、一社一社に合わせる。それが、当事務所のやり方です。
技術より人間力――「一緒に働きたい人」と、これからの展望

今後、注力していきたい分野はありますか。

河口:
特別に新しいことを始めようというよりは、今やっていることの延長線上に答えがあると思っています。関与先の数を着実に増やしていけば、その先に自然とチャンスは広がっていく。業種や規模にこだわりすぎず、目の前のお客様に丁寧に向き合い続けることが一番大切です。

その中で、今後さらに力を入れていきたいのが、DX支援やオンライン対応の強化です。お客様の経理業務のDX化をサポートすることは、税理士事務所の業務とも非常に親和性が高く、今後さらに取り組みを強化していきたいと考えている分野です。

場所を問わずつながることができる時代だからこそ、遠方のお客様にも安心してお任せいただける体制を整え、信頼関係を築いていきたいと考えています。

最後に、税理士を探されている方、そして一緒に働きたいと思ってくださる方へメッセージをお願いします。

河口:
お客様に対しては、「人と地域とのつながり、ご縁を大切にする」――これが私たちのスタンスです。東京にも拠点はありますが、山口出身の方や山口にゆかりのある方には特に力になれると思います。もちろん、それ以外にも全国からご相談をいただいていますし、地域を問わずお気軽にお声がけください。上場企業の関与実績もありますので、高度な税務にも対応可能です。

求職者の方には、ひとつだけ伝えたいことがあります。当事務所が採用で一番大切にしているのは、技術でも知識でもなく「人間力」です。挨拶ができる、礼儀正しい、周りへの気配りができる。そういった人間性を何よりも重視しています。技術や知識は入社してからいくらでも身につきます。だからこそ、人間力を一緒に磨いていける人と働きたい。

私自身、少年時代から野球をやってきたので、チームワークの大切さが体に染みついているんです。誰かが休んだら他の誰かがカバーする。一人ではできないことも、チームならできる。それは野球もこの仕事も同じです。

地方だからといって環境が劣るわけではありません。むしろ、人と地域とのつながりが見える場所だからこそ、自分の仕事の意味を日々実感できる。信用金庫の融資窓口で「この人たちに寄り添いたい」と思ったあの日から、やっていることの本質は何も変わっていないんです。

目の前の人を支える。それを、チームでやる。それだけです。
税理士法人やまぐちパートナーズ

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取材後記

信用金庫の融資窓口で「経営者の隣に立ちたい」と願った青年が、山口の地で50名のチームを率いるまでの道のりを伺いました。技術より人間力、効率より目の前の人。言葉にすると当たり前に聞こえることを、本気で実践し続ける組織の強さを感じたインタビューでした。河口先生、ありがとうございました。

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