スタッフ同士の助け合いが、評価になり成長を促進する——顧問先1,200社超を擁する「あすか式生産管理制度」と、1.5代目が引き受けた30年

加藤 知子(かとう ともこ):あすか税理士法人 代表社員/税理士
北海道伊達市出身。代表社員税理士・法学修士・租税訴訟補佐人。前職の縁から、創業間もない川股税務会計事務所(現・あすか税理士法人)に正社員第一号として入社し、今年で30年目を迎えた。創業者の川股修二氏とともに経営を担い、独自のスタッフの育成評価制度「あすか式生産管理制度」を構築した。以来、15年間事務所は高成長を続け、現在はG全体で約100名、税理士15名、顧問先1,200社を数える道内有数の規模に。学術的には租税史料館からの論文受賞歴を持つ。
まず、あすか税理士法人がどんな事務所なのか、全体像から教えてください。
顧問先は現在1,200社ほどで、ほとんどが北海道のお客様です。札幌市内に3拠点、千歳、苫小牧と道内に拠点を置く5拠点展開です。個人の確定申告から法人の決算、M&Aや事業承継まで、税理士が多く、得意分野を持つスタッフ層も多いため特定ジャンルを絞らずにお受けしています。業種比率でいうと、資産税専門部門を持っている関係で不動産業や建設業のお客様が多いですね。グループ全体で約100名、税理士が15名在籍し、令和8年も24名が税理士試験を受験し、職員の3分の1は何かしらの資格を持っていると思います。多くの事務所が避けたがる税務訴訟も、納税者の方々が納得いかない結果となった時には、私たちは積極的にお受けしています。「税務訴訟を一緒にやるならあすか税理士法人」と言っていただくこともあります。
それだけの規模とスタッフさんの幅があると、1社1社にどう関わっているのかが気になります。
基本的に、お客様のニーズに合わせています。一般的な事務所は、事務所側のスタイルをお客様に強いることが多いのではないでしょうか。”毎月必ず訪問、この会計ソフトを使ってください”というように。新規のお客様のニーズをくみ取ると、本来、旧税理士から提案されているはずであった内容が不足していた事も多いです。ですので、弊所では、お客様のニーズに合わせ、複数名でチームを組み提案をする事も多いです。ただ、チームで動くというのは、言うほど簡単ではありません。それを可能にしている仕組みが、弊所にはあるんです。
その仕組みの話を伺う前に、加藤さんご自身のことを聞かせてください。この事務所の第一号の正社員として入られたそうですね。
はい。そして、私は経営者としては1.5代目と思っています。もともと前職が創業者の川股と一緒の事務所で、私が税理士試験を受けるために退職し、試験が終わって前の事務所に戻りたいなと思ったら「もう人が足りている」という状態で。ちょうどその頃に川股が独立していたので、挨拶がてらに訪問したら「明日から働いて」と(笑)。そこから今年で30年目です。最初の10年ほどは北広島市に事務所があり、規模も10名ほどでした。そこから新さっぽろに進出して、自社ビルも購入しました。川股は営業力もすごいのですが、同時に研究肌で、高度な案件をやりたいタイプでした。税務訴訟や補佐人制度といった法学寄りの研修も受けていました。その後、ある程度、事務所がひと段落したところで「次は法学博士になりたい」と言い出して、大学院に通い始めたんです。そのタイミングで税理士法人にして、経営は私が引き受けるという体制になりました。
経営を引き受けると決めたとき、何を考えていらっしゃいましたか。
これは難しいぞ、と思っていました。10年以上、そばで経営を見てきましたから。しかも女性の税理士はそもそも数が少なく、普通のやり方をなぞっても、うまくいかないだろうと感じていました。だから、私一人がリーダーシップを振るって営業して回るのではなく、スタッフを巻き込んで、事務所の全員が営業マンになるような盛り上がりをつくりたいと思ったんです。それで、給与や待遇まで含めた評価制度をゼロからつくりました。それが「あすか式生産管理制度」です。

その制度の中身を教えてください。何が他と違うのでしょうか。
一言でいうと、社内に「内部通貨」があるんです。たとえば事業承継の案件を100万円でお受けしたとします。新人が一人で完結できる仕事ではないので、先輩や上司に手伝ってもらうことになりますよね。そのときに「手伝ってくれたら30万円分配します」「1時間相談に乗ってもらったら10万円」といった具合に、社内で貢献度に応じて成果を分配しあうんです。実際の現金ではなく、成果配分ですね。つまり人の手伝いをすればするほど、自分の評価が上がっていく。先輩の側からしても、手伝えば自分の評価につながるとわかっているので、積極的に手を貸す文化になりました。先輩後輩同士がつながって、お客様にとってベストな提案を追求するために。社内営業をすればするほど報われ、いい提案ができる。その分配による評価が、自分の給与・賞与に跳ね返る形にしたんです。冒頭でお話しした「チームで動く」は、この仕組みがあるから成り立っています。
評価制度は、ともすれば競争を煽る方向にも働きます。助け合いのほうに振り切れたのは、なぜだったのでしょうか。
会計事務所には、一般企業でいう、お喋りが得意な営業タイプの人は少ないと思います。でも、言葉は少なくても、お客様を思い、いい仕事をする人がすごく多い。そういう方々が貢献した分を、きちんと表現できる仕組みをつくりたかった。それが根底にあります。1人で完璧なサービスをお客様に提供できるとは限りません。私は若い頃から心理学の本を読むのが好きでした。みな自身の頑張りは報われたいし、得意なことは得意な人に任せたいと思っていると思います。その延長線上にある制度なんです。15年前この制度を導入したとき、制度に反目した人が大量退職をして、そこに新人が入ってきたので、制度が受け入れられやすかった面はあります。運が良かったのかもしれません。その後、ぐっと事務所が成長路線を辿っていったので、最初につくった仕組みが社員のモチベーションを上げる事のできるものだったとは感じています。微細なアップデートはしていますが、制度導入後、ずっと事務所が毎年成長を続けているので、根幹は今も変えていません。
制度を入れてから、事務所はどう変わりましたか。
初年度から10年ほどは成長率120%位が続きました。その後も途切れずに成長しています。売上目標を強く掲げた事はありません。評価制度の下、自然にみんなが、毎年自身のベストを尽くすという感覚で、仲良く仕事をしていこうというスタイルで進めてきた結果、自然と事務所が大きくなってきた。成長・向上意欲が高いスタッフが多いので、さぁ行けるところまで行こう!という文化でここまで来ました。
内部通貨で評価するとなると、誰が誰をどれだけ手伝ったかを把握し続ける必要があります。運用の難しさはどこにありますか。
誰がどう行動して成果を出しているかを把握するには、業務日報が必要になるんです。kintoneで全員に書いてもらっています。時間単位で何の業務をしたか、どのお客様のところへ行ったか、勉強したか、社内で誰に相談したか。また、新規のお客様を獲得したら、その実績表も別に記載してもらいます。日報は、まず支店長や管理職が最初にそれぞれの担当領域の分を見ています。その後、今でも私が全員分、毎日目を通しています。
約100人分を毎日、というのは相当な時間です。それでも続けている理由は何でしょう。
数字だけを見ていても、その人がいま伸びているのか、悩んだり、モチベーションが下がっているのかはわからないからです。印象に残っている日報があります。インターンに来ていた、税理士になりたいという大学生の子でした。初めて実務の現場を見て、本当の領収書、本当の請求書に触れて感動したと。その気持ちを、日報欄にまるで小説のように書いてきたんです。その後、入社し、今ではトップクラスの提案力をもった人材になっています。こういう瞬間に立ち会えるのは、日報を読んでいるからこそだと思っています。

冒頭で、不動産業や建設業のお客様が多いというお話がありました。資産税に力を入れてきた経緯を聞かせてください。
もともと川股が相続を得意としていたことが大きいです。某大手企業に呼ばれ数多くのセミナーをしていました。私自身も、お付き合いを始めた建設会社さんが「営業マンが足りない」とおっしゃっていて、アパートを販売するのに相続対策の話をすると話が進むというので、営業も兼ねて月20名ほどの方とお会いしていた時期もありました。そうやって現場に出ていると、見えてくることがあるんです。不動産をお持ちの富裕層の方々は、周りからは「不労所得だから経営の課題もあまりないでしょう」と見られがちなんですね。でも実際には、資産をどう守るか、相続をどうするか、相談したいことをたくさん抱えていらっしゃる。それなのに、きちんと相談できる相手がいなく、税理士に不満を持っていた方も多いんです。
その不満は、どこから生まれているのでしょうか。
法人の決算をきちんとやるだけでは、片手落ちだからだと思います。オーナー個人の資産まで含めて考えないと効果の出ないスキームがありますし、そこには相続税の知識がないと踏み込めない。一昨年の事業計画では、個人の富裕層の方の資産防衛をテーマに掲げました。ホールディングスをつくったり、合併をしたり、事業承継の形を整えたり。今では、新規のお客様に、初回の面談で決算書を見せていただいた段階で、提案事をピンと浮かぶケースが多く、こちらからご提案できることはかなりあります。逆に言えば、特に不動産業のお客様は、提案が手つかずのまま来てしまっている方が多いということでもあります。
北海道ならではの事情はありますか。
北海道は、土地の権利関係が大都市圏ほどそれほど複雑ではないケースが多いです。今は苫小牧・千歳・札幌という、私たちが拠点を置いているラインに、大きなプロジェクト(千歳のラピダス・恵庭のファイターズ2軍拠点等)が続き、大きな波が来ています。札幌には、大都市圏程、資産税に特化した部署をもった事務所がそれほど多くないんです。資産家の方などの法人のスキームを組むにしても、経営者等の個人に影響が出るケースも多いです。所得税、法人税、相続税——少なくともこの三税を総合的に検討した「三方良し」の提案ができる事務所は、少ないと感じています。法人にも個人にも良いスキームを考えることが、私たちの役割だと思っています。社内向けに「あすかCollege」という学習の場を10年前から設けており、税務会計だけではなく、資産税に関する事や、お客様とのコミュニケーションの取り方や、業種特有のお悩み、保険等を使った節税、経験がないとわからない部分を補完する場として続けています。

ここまで伺ってきた「幅」と「厚み」を、これからどこへ向けていくのでしょうか。
いま中小企業でもデジタル化に関心を持つ方が増えています。会計まわり、総務まわりを整え効率化したいというご相談ですね。私たちはデジタル専任部門に7名のスタッフを置いていて、経理の合理化などをはじめ、会社の業務効率化を直接お手伝いしています。これはお客様からの反応が非常に良いです。AI活用は会計事務所業務ととても相性が良いと考えています。まずはAIで効率化を進める。そこで生み出した時間を、お客様へのコンサルティングに充てていきたいんです。単に試算表で数字をお見せするだけではなく、本質的な課題を一緒に共有できる関係になっていけると思っています。すでにAIに関しての取り組みは、最先端の外部講師に研修をお願いし、20名超が講習を受けました。Claude Codeの活用も始まっています。そこまでたどり着けないメンバーは、士業向けの汎用的なAIから使い始めているところです。今年度中に活用成果を形にし、その成果をお客様に還元したいと考えています。
会計事務所は、人数規模で競う時代から、いかにお客様に高付加価値のサービスができるかを競う時代になっていくと思っています。新規のお客様と契約して、そのために人を採って、無難に税務会計のサービスを提供するという旧来の拡大のスタイルではなく、お客様の満足を第一に考えていきたい。すべてはお客さまにとって最良のサービス——そこに立ち返ると、自然とそういう結論になりました。
幸運なことに、新卒は、北大生をはじめとして、優秀なスタッフの在籍を意図的に増やしてきたので、これからもお客様のための事務所経営を続けたいと思っています。

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取材後記
約100名分の日報を毎日読んでいる、と聞いたときは正直驚きました。しかもその中から、インターン生が書いた小説のような文章を覚えていらっしゃる。数字で人を管理するのではなく、人の状態を見るために制度がある——そう受け取りました。
税理士をお探しの経営者の方には、規模の大きさよりも、その裏側にある仕組みや、向上心の高いスタッフが在籍しているかどうかのほうに目を向けていただきたいと思います。一人の担当者に委ねきりにせず、チームで提案を組み立てる体制がある。あすか税理士法人の体制は、きちんとスタッフが誠意をもった仕事をする育成が設計された仕組みで支えられています。北海道で税理士を探すとき、最初に会っておいて損のない一社だと感じました。
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