受け継いだ55年を、さらに前へ——名古屋の老舗を「税理士」の枠を超えた成長支援企業「FLAGS」へ広げる30代代表

末松 和真(すえまつ かずま):税理士法人FLAGS 代表社員/税理士
祖父が創業し、父が引き継いだ名古屋の「末松会計事務所」を、2024年4月に「税理士法人FLAGS」へと刷新した三代目代表。2013年に数名規模のアナログな事務所へ入所し、約6年をかけてクラウド化と組織刷新を進めた。創業融資から税務顧問、補助金、BPO、経営改善、事業承継・M&Aまで、中小企業の成長段階に伴走するワンストップ体制を、現在は40名規模・2拠点で築く。月額2万円からの「スモールBizパック」で創業期の小規模事業者を支え、AI研究組織「FLAGS Lab」を率いて、2030年に向けた「黒字企業1,000社の伴走者」を掲げている。
まず、事務所の概要として、お客様の層と社内の体制を伺えますか。
お客様は、個人事業に近い小規模の方から、年商十数億円規模の企業まで幅広くいらっしゃいます。業種で多いのは建設業、不動産業、最近は美容業も増えてきました。地域としては東海エリア、基本的に愛知県がメインで、岐阜・三重が続きます。補助金や経理代行といった一部の業務では遠方のお客様もいますが、顧問は東海エリアが中心ですね。体制は40名ほどで、本社と名古屋駅前の2拠点です。名古屋駅前は2024年に開設したばかりで、まだ立ち上げの段階です。在宅勤務の者を除けば、基本は出社という体制で、チームは税務顧問を担う税理士法人とコンサルティング、それに総務という構成になります。
売上の構成と、今後の方針もあわせて伺えますか。
事業は、税務顧問を中心とした税理士法人と、コンサルティングの二本柱で成り立っています。今はコンサルティングの比率がやや大きいのですが、スポット業務に依存しすぎてしまった面があるので、税務、経理代行などのストックビジネスの割合を高めていきたいと考えています。売上はこれまで堅調に伸びてきたのですが、ストック型の継続顧問へ軸足を移すなかで、昨年はいったん踊り場を迎えました。継続契約に切り替えると一時的に報酬が下がるので、その期間は厳しかったんです。ただ今年は、昨年ストックで獲得したお客様の収益が積み上がってくるので、改めて成長軌道に戻していく計画でいます。

末松さんが家業に入る決断は、どんなタイミングで、どう下されたのでしょうか。
もともと大学院を修了したあと、父が税理士をやっているのは知っていましたが、そのまま家業に入るより、まずはどこか大手で修行しようと思っていたんです。ところがちょうど大学院2年の頃に祖父が事故に遭いまして、それなら他のエリアで就職するくらいなら、こちらに帰ってきて祖父が元気なうちに一緒に務めてはどうか、と親に勧められました。最初は迷う気持ちもありましたが、3代続くというのは確かにすごいことだなと思い直したんです。祖父は仕事の面だけでなく社会貢献で表彰を受けるような人で、子どもの頃からその姿を見ていたので、「すごい人なのだな」という思いもありました。それで、一度勤めてみようと決めて、2013年に入りました。

もともとは、どういった就職を考えていらしたのですか。
いわゆる4大事務所や、大手の税理士法人に行きたいと思っていました。大学院の同期もそういった先に進んでいたので、自分も一度は大手を経験してから戻るつもりだったんです。今振り返れば比較のしようもないのですが、結果的には良かったと思っています。ちなみに大学院は法学で、税理士になるために進んだわけではなく、もともと法律系だったんですよ。
入所されてから、どんな業務を経験され、事務所をどう変えてこられたのですか。
2020年までが一番大変でした。2013年に入った時点では、自分より上の世代しかいなくて、何かを変えようにもお金の決裁を取るだけで時間がかかる。もともと申告書を手書きで処理しているような職員さんもいる事務所だったので、IT化やクラウド会計と言ってもなかなか進みません。自分が手書きの帳簿を入力し直すところから始めていたので、とにかく時間がかかりました。それでも、自分が行きたかった大手の事務所には行かなかったぶん、だったら自分の事務所をちゃんとした企業にしたいという思いがあったんです。半ば力技も交えながら、少しずつ変えていきました。
クラウド会計も、入所の翌年にはマネーフォワード クラウドを入れていたのですが、なかなか推進できず、ごく一部の顧問先にとどまっていました。それが2021年頃から一気に広がりました。代表になり、決裁を自分で取れるようになってから、本格的に移行していった形です。それまでは通帳も代表印も持っていないので、ひとつずつ決裁を取らなければならず、採用費も出せない。求人もハローワークと専門学校くらいしか出せませんでした。
転機として大きかったのは、何年のどんな出来事でしたか。
2017年、27歳のときに、父が創業した保険代理店の代表を引き継いだことです。当時はまだ売上が300万円程の小さな会社でしたが、通帳を持って決裁を取れるようになり、自分の財布と会社の財布が完全に分かれました。これは本当に大きかったです。それまでは経費にできず個人で払っていたものもあったので。そこから自由にコンサルティングを始められて、その会社は今ではグループの主力の一つに育っています。右も左も分からないまま20代でやらせてもらえたのは、本当に大きな経験でした。父に本当に感謝しています。
その後、2020年に税理士法人化し、同時に代表に就任しました。自分で決裁できるようになって、採用も広告宣伝も設備投資も自由にできるようになったんです。オフィスを相応の投資をしてリニューアルしたのもこの頃でした。ちょうどコロナ禍と重なる時期で、人が出社しない状況でしたが、オフィスの整備と採用に振り切る判断をしました。今の自分をつくった、肝の据わった決断だったと思います。
商号変更のタイミングと、そこに至る経緯を伺えますか。
本当は2020年の法人化のときに変えたかったんです。ただ、当時はうちの事情が少し特殊で。祖父の事務所と父の事務所がもともと別で、同じオフィスで営業している状態でした。私が父側に在籍しながら、祖父のお客様の顧問契約を父の事務所へ移していく、いわば事業承継のPMIのような作業を4〜5年かけてやっていたんです。それが落ち着いたのが法人化のタイミングでした。
そこから2020年に代表を引き継ぎ、創業55周年にあたる2024年4月に変えようと決めました。ただ、父は当初反対で。「末松という名前をもっと売ればいいじゃないか」と言うんです。祖父の代から地元では知られた名前ですから。けれど、これから採用をして、より多くの人に来てもらおうとすると、会社として何をやっているのかを言語化できないと難しい。「会計事務所」というワード自体に、それしかやらないというイメージがどうしても付いてしまいます。そこを変えたかったんです。
「FLAGS」という名前には、どんな想いを込められたのですか。
FLAGSはFLAG×Supportersの造語です。FLAGは「旗を掲げる=目標を掲げる」という意味です。Supportersは「応援集団」という意味です。お客様が目標という旗を掲げる、その成長を支援できる会社でありたい。祖業である税理士業を「家業」から「成長支援企業」へと脱却させたいという思いが、社名につながっています。二代目・三代目の世代では名前を変える事務所が増えていますが、私たちもそうやって、企業として大きくなっていく道を選びました。

リブランディングに合わせて、サービスの全体像と、ターゲットとする層をあわせて伺えますか。
サービスは、創業期の融資支援から始まって、税務顧問、補助金、経理代行(BPO)、会社が苦しくなれば経営改善、さらに成長を目指すなら経営支援、そして最終的な出口として事業承継・M&Aまで、成長段階に伴走するラインナップを揃えています。社内でできないことは、パートナーと協力して対応します。逆に、すでに上場が決まっていて経営者が前に出てこないような大企業の顧問はほぼなくて、経営者と当社の担当が1対1で話せる規模感を、あえてターゲットにしているんです。その中で「スモールBizパック」は、創業期から数千万円規模の、小さなお客様に向けたものです。ここを狙う理由は、会社が小さいフェーズほど、横にいる伴走者によって成長が左右されるから。ある程度組織化できてしまうと、伴走者はだんだん頼られなくなります。一番頼りにされるのは、小さなフェーズなんです。多くの企業を見てきて、それは間違いないと思っています。経営者に「あなたがいなければ」と言ってもらえる仕事を、私だけじゃなく、スタッフ一人ひとりにも経験してほしい。それが、ここを主戦場に選ぶ理由です。
月額2万円という価格で、収益は成り立つのでしょうか。
顧問料自体は低いので、他の事務所は手を出したがらないゾーンです。ただ、融資支援や補助金、保険提案などを重ねていくことで、しっかり収益になると考えています。大事なのは、それがお客様にとって「営業された」ではなく「ありがとう」と言ってもらえる提案であること。手頃な顧問料のお客様に、必要な提案をして喜んでいただける、そういうことをやっていきたいんです。実際にスモールBizパックを始めて半年ほどですが、融資支援にもきちんとつながっていて、手応えを感じています。それに、立ち上げやアーリーステージの伴走は、すごくやりがいがあるので、うちの若いメンバーにとっても面白いはずなんです。変化のあまりない先をずっと担当するより、変化があって提案の余地もある。そこに価値を感じています。

今後のビジョンと、そこでの人とAIの役割を伺えますか。
まず、2030年に向けて「黒字企業1,000社の伴走者」を掲げています。ポイントは、社員数をひたすら増やして達成するのではなく、できるだけ少ない人数で実現すること。AIを活用しながら、少人数でも回せる仕組みを少しずつ仕掛けています。今は小規模なお客様から大きな法人まで人が対応していますが、たとえば比較的小さな規模のお客様はAIが担い、人はより大きな法人やコアな部分に集中する。そんな共存の組織体制をつくっていきたいんです。
AI活用として、社内では具体的にどんなことをされているのでしょう。
もともと2019年から、部門横断のプロジェクトチーム制度を運用していて、数名のチームで生産性向上などのテーマに取り組んでいます。その一環で、昨年(2025年)からAIプロジェクトを立ち上げ、全員がAIをアシスタントとして使えるよう浸透を図っています。
ただ、この3月・4月でAIと各種ツールの連携が一気に進み、業界が大きく変わっている最中です。プロジェクトだけでは足りないと感じて、「FLAGS Lab(ラボ)」という研究チームを別に立ち上げました。取り組んでいるのは業務の自動化です。データをどう組み合わせれば、手作業がなくても回るのか。それを研究し、「このお客様ならこう自動化できる」という事例を今年1年でつくって、来年に社内展開する構想です。メンバーは公募制で、昨年入社の若手から選びました。時間外も含めて自発的に取り組む必要があるので、意欲のある人でないと続かないんです。若手にこそチャレンジさせられるのが、うちの誇れるところだと思っています。若手スタッフのAIの使いこなしは本当にすごくて、機会さえ与えれば驚くほど伸びますから。
ただ、短期で今あるものを使って仕上げても、結局はまた変わってしまう。だから、何月までに何を出すと決めるのではなく、日進月歩で探求し続ける文化をつくるほうがいいと考えています。師匠からも「AIで何かを決めるのはまだ早い、成熟するまで動くな」と言われていて、実際そうだなと感じます。会計ソフトが淘汰されて少数に集約されていったように、それまでは研究を続けながら待つ。業界のトレンドに乗ってバズるより、自ら技術を探求し続ける。そこが僕らのポリシーです。

最後に、末松さんが特に伝えたい思いと、これから一緒にやっていきたい相手があれば伺えますか。
私が独立して自分の事務所を新しく立ち上げるのではなく、祖業を引き継ぎながらチャレンジしている意味は、ここにあると思っています。これからの税理士事務所は、古い事務所を誰かが継いだり、どこかが引き受けて変えていかない限り、業界の慣習は変わらない。新規で立ち上げる難しさもありますが、古いところを変えることも、同じように、また違う難しさがある。それを自分たちの中でやってきました。だからこそ、「いいな」と思ってくださる事務所や、同じように悩んでいる事務所と、業務提携やチームを組んでいきたいんです。
私たちのビジョンは、うちだけで実現しようとは思っていなくて、どこかと一緒に取り組むのも十分にありだと考えています。世代を問わず、これから事業を継ぐ若い世代が「自分でやるのはしんどい」と感じているなら、一緒にサポートできたら面白い。こういう記事を通じて、思想に共感してくださる方とつながれたら嬉しいですね。

100年企業を目指す、というお考えはありますか。
それが、100年は自分の代では考えていないです(笑)。まずは2030年のビジョンを達成して、そこから先は時代も変わっているので、また新しいビジョンを描きたい。早めに事業を承継して、自分自身は新しいものにチャレンジしたいという思いもあります。グループとしてなのか、別の形でなのかは分かりませんが、達成したらまた次へ向かっていきたいと考えています。
税理士法人FLAGSの詳細はこちら
取材後記
「30代の三代目が、創業55年の老舗をリブランディングした」という事前情報から、華やかなブランド刷新の物語を想像していました。けれど実際にお話を伺うと、その裏側にあったのは、紙とアナログの町の会計事務所を、ひとつずつ決裁を取りながら6年かけて変えていった、地道で泥くさい歩みでした。27歳で初めて握った決裁権、自分の財布と会社の財布が分かれた瞬間。末松さんが「肝が据わった」と語る転機の数々は、どれも華やかさとは無縁の、実務の積み重ねの中にありました。
印象的だったのは、「会計事務所」という言葉そのものを脱ぎ捨てようとする姿勢です。父の反対を越えてまで「FLAGS」という旗を掲げたのは、家業を成長支援企業へと立ち上げ直すためでした。創業期の経営者に手頃な価格で伴走し、若手だけのFLAGS Labで業務の自動化に挑む。そのどれもが、「一番頼られるのは、お客様が小さなフェーズのときだ」という確信と、「探求し続ける文化をつくる」というポリシーに貫かれているように感じました。
そして何より心に残ったのは、「古い事務所を誰かが継いで変えていかない限り、業界は変わらない」という言葉です。ご自身は早めに次の世代へ承継し、また新しいチャレンジに向かいたいと笑う末松さんの姿に、祖父・父から受け継いだ旗を、さらに次へと渡していこうとする三代目の覚悟を見た気がしました。同じ志を持つ事務所との連携を、これから末松さんがどう広げていかれるのか、楽しみに見守っていきたいと思います。
あなたに合った税理士、見つかります
インタビューで気になった税理士への相談も、他の税理士の紹介も、すべて無料。
良い税理士のコンシェルジュにお任せください。
※ 本インタビューの内容は取材時点のものです。事務所の体制やサービス内容は変更される可能性があります。最新の情報については各事務所に直接お問い合わせください。