書面添付で税務調査リスクを軽減——国税出身の税理士が月次決算で西三河・名古屋の企業を支える

深谷 尚生(ふかや なおき):深谷尚生税理士事務所 代表/税理士
1980年生まれ、愛知県刈谷市出身。高校卒業後の2000年に名古屋国税局へ入局し、浜松の税務署で所得税の相談・確定申告・税務調査を5年担当したのち、名古屋国税局査察部で通算10年、脱税事件の調査に従事。その後、資料調査課や富裕層を扱う部門を経て、2023年に国税局を退職し、地元・刈谷で開業した。月次決算と毎月の面談を軸に、決算内容の信頼性を高め、税務調査のリスクを下げる申告を目指して書面添付を標準業務としている。TKC全国会会員、認定経営革新等支援機関。
まず、事務所の体制と、お客様の層から教えてください。
有資格者は私1人で、正社員が1人、パートが1名の3人体制です。正社員は半年ほど前に入ってもらいました。
お客様は、基本的には創業された方が多いですが、毎月の面談を行う当事務所の方針に魅力を感じていただき、他の事務所から移ってこられた方もいらっしゃいます。税務調査の関係でお手伝いすることになった、愛知県外の方も若干いますが、これからやりたいのはやはり「毎月、直接お会いして」というところなので、刈谷周辺から名古屋エリアを中心に広げていきたいと思っています。業種や規模の偏りは今のところ特になく、何々専門という形ではやっていません。
基本のサービスはどのように組んでいますか。
毎月の月次決算を活用した税務・経営支援サービスが基本です。月次決算を組むことで、常に最新の業績を確認することができ、現在、業績は順調なのか。利益率は改善されているのか。などを確認することができます。月単位で確認することで、業績変化の原因を特定しやすいというメリットがあります。月次決算を行うためには、税理士が記帳代行を行うのではなく、顧問先様自身で記帳を行う自計化が大前提となりますので、その自計化を当事務所が支援しています。
そのほかに、帳簿や書類を確認する巡回監査を行い、税理士が「どうやって計算したのか、何を確認したのか。」などを記載した書面を申告書に添付する書面添付制度を利用し、決算書の品質を高め、税務署や金融機関からの信頼性を高める取り組みも行っています。書面添付されている場合、税務署は原則、税務調査を行う前に税理士に意見を聴取する必要があり、意見聴取の内容によっては税務調査に移行せずに済むというメリットがありますが、書面添付制度を知らない方は多く、実際に利用しているのは法人で約1割、個人だと2%弱くらいの割合になるため、もっと活用されてもよい制度だと思います。
自計化を行い、毎月の月次決算で適時・適正な会計処理をすることが前提になりますが、うちは書面添付制度を標準業務にしていて、別料金はいただいていません。
それに加えて、企業防衛の観点で保険提案も行っています。経営者に万が一のことがあった場合、借入の返済資金や運転資金を準備するための備えです。決算書を毎月見ていますので、必要な保障金額を試算して提案するサービスも行っています。
いろいろなサービスについてお話ししましたが、これらが提供できるのも、記帳代行ではなく、自計化をしている企業だからこそ提供できるサービスです。顧問料は、記帳作業の対価ではなく、毎月の数字を経営に活かし、経営者の次の一手を支えるためにいただくものだと考えています

ここからはご経歴を伺います。国税局に入られた経緯と、入ってからどんな経験を積まれたのかを教えてください。
高校を卒業してから入っています。当時なりたかったかというと、恥ずかしながら、そんなに高い志があったわけではないというのが実際のところです。就職氷河期でしたし、公務員試験は全体的に人気でした。受けて合格したので、自然とその道に進んでいったというのが正直なところです。
最初の1年は研修で、税法やいろいろな法律を勉強します。そのあと浜松の税務署に勤務して、所得税の相談、確定申告、個人事業の方の税務調査などを中心に従事していました。その後、名古屋国税局の査察部に配置換えになり、通算で10年くらい査察部にいました。
普通は所得税の部署ならその系統ばかりに従事するのですが、各税系統の出身者が集まる査察部や富裕層担当に従事したりもしました。
査察部というのはどういう世界だったのでしょうか。
査察部は脱税事件に関する強制調査を行い、刑事罰を求めるため検察官に告発する部署になります。なぜ査察部に行くことになったのかは分かりませんが、周りからも大変だと言われているところでしたし、配属された当初は肉体的にも精神的にも苦労しました。何とか数年が経ち、部署に慣れてきた頃には、新聞に掲載されるような事件を処理していることもあってやりがいを感じていました。分析や資料作成など地道な作業もかなり多いですが、尾行や張り込み、強制調査の現場などドラマのような刺激的なこともあり、とてもいい経験ができたと思っています。
23年を振り返って、今のご自身に一番つながっている経験は何でしょうか。
やはり査察部が長かったのでそこでの思い入れが強いですが、国税の中でいろいろな部署を経験できたことですね。同じ部署ばかりでなく、いろいろな業務に従事できましたので、何事にもチャレンジしたり、対応していく力がついたのかな、と思っています。
独立開業は、いつ頃から、どういう流れで決められたのですか。
国税に23年勤務すると税理士試験免除になる制度がありますので、試験免除されるタイミングで退職することは30代から意識していました。定年退職後に税理士をやる人が多い中で、将来的に税理士になるなら、体力的なことも考えて、若いうちにチャレンジしておきたいという気持ちがありましたし、1年でも早くという考えで、早期退職を決意しました。
開業地に刈谷を選ばれたのは、どんな思いからでしょうか。他の選択肢もあったのですか。
刈谷は出身地であり、自宅があるからですね。税理士の仕事は、企業の発展やそこで働く方々の暮らしにも関わる重要な仕事であり、地元で地域貢献をしたいという思いもありました。そのためか、刈谷市以外での開業は考えていなかったです。ほぼ一択でした。わざわざ電車通勤をしたくない、というのもありますが(笑)。
国税の中にいたときと、今、顧問として関わる中で、中小企業の見え方は変わりましたか。
国税のときは、脱税や不正を発見することに意識がいくので、そういう目線ばかりで考えていたと思います。少なくとも、自分の顧問先には、国税時代に税務調査の現場で目にしたようなつらい思いをしてほしくないと思っています。また、帳簿の管理が十分でないケースを見る中で、日頃から税理士がしっかり関与し、会計処理や経理の仕組みを整えていくことで、防げることも多いのではないかと感じるようになりました。だからこそ、こちらが日頃からしっかり関与することが大切だと考えています。
国税出身の税理士は「税務調査に強い」を前面に出す方が多い印象ですが、深谷さんはあまり押し出されていませんね。今のスタンスはどう決まっていったのでしょうか。
一番最初は、そちらで掲げていました。今は書面添付制度を掲げて、税務調査に入られるリスクを少しでも下げたいと思っています。そもそも、税務調査が来ると経営者たちの時間も取られますし、精神的な苦痛も大きいと思います。適時・適正な会計処理を行っていることを分かるようにして、税務調査のリスクを下げることができるのなら、書面添付をした方がいい。それが業績の把握にもつながって経営にも良い効果を与える訳ですから、税務調査が行われることを前提にして、調査に強いということはあえて掲げていません。
書面添付のメリットを、改めて教えてください。
税務調査が省略される可能性がある、というところです。書面添付をしていると、例外はありますが、いきなり税務調査はできず、まずは関与税理士に事前に意見聴取をしなければいけません。そこで税務署側の疑問が解決できれば、調査に移行しないで済む。これが大きなメリットです。書面添付を作成するうえでも、国税にいた経験は強みになると思っています。
あと最近思っているのは、金融機関からの信頼にもつながると考えています。いろいろな金融機関の方とお話ししていますが、書面添付がついていると「いろいろ詳しく書いてあっていいですね」という声をいただくので、金融機関へのアピールとしても使っていきたいと思っています。

ホームページの「受け身の経理から攻めの経理へ」という言葉が気になりました。具体的にはどういう状態を目指しているのでしょうか。
私がずっと感じていたのは、税理士がどちらかというと『確定申告書を作るためだけの人』と捉えられ、その申告の基になる帳簿や数字というデータが十分に活用されていないということです 。確定申告のためだけに帳簿を作るような状態を、私は「受け身の経理」と捉えています
会計はもともと、商人が自分の商売の状況を把握し、経営に役立てるために発展してきたものですし、税務申告は、その会計情報の一つの使い道にすぎないと私は思っています。その会計を、年に一度の申告のためだけでなく、毎月の経営判断に使っていく。そのための仕組みが月次決算です。経営者の方にも業績に関する数字に興味をもってもらい、どんどん活用してほしいです。そして、経営者の方が数字を通して自分の事業を、例えば金融機関に説明できるような力をつけていただきたい。それを「攻めの経理」という形で表現しています。
TKCの事務所として、月次巡回監査のシステムは全先で統一されているのですか。クラウド会計がこれだけ伸びている中で、そこは悩まれませんか。
システムはTKCで統一しています。実際には、他のシステムを希望されて対応できず、離れていかれた方もいらっしゃいます。
TKCにもクラウド会計はありますし、それぞれのシステムに良いところがあると思っています。ただ、私が重視しているのは、単に会計処理を効率化することだけではなく、毎月税理士が関与し、月次決算をきちんと確定させていくことです。そうした月次巡回監査の運用まで含めて考えると、今のところTKCが私の考え方に最も合っているというのが結論です。
TKCでは、月次巡回監査を行い、いつ月次決算を確定したかという履歴がシステム上に残ります。その記録に基づき、株式会社TKCから記帳適時性証明書が発行されますので、毎月継続して税理士が関与し、数字を確認していることを客観的に示しやすくなります。
経理事務の効率を高めることは、もちろん大切です。ただ、効率だけを追い求めた結果、毎月数字を確認することや、決算書の信頼性を高めるという本来大切な部分がおろそかになってしまっては意味がないと思っています。
これから会計システムはさらに便利になっていくと思いますし、効率化の部分は工夫次第で改善できます。それ以上に私は、正しい月次決算を積み重ね、その結果として書面添付なども活用しながら、決算書の信頼性を高めることと、会計を経営に活かせる環境づくりを大切にしていきたいと思っています。
立ち上げたばかりの会社だと、いきなりTKCシステムによる自計化を導入しても回らない場合もありますよね。月次巡回がうまく回るために、どんな工夫をされていますか。
初期指導をしっかり行うことを心掛けています。売上の集計方法から請求書の作り方、事業用口座への集約、現金の管理方法まで、なるべくシンプルに、そしてTKCのクラウド会計と連携しやすい体制をつくっていきます。
レジシステムやネットバンキング、クレジットカードなども、できるだけシステム同士を連携できるものを基本にご案内しています。まずは請求書や領収書などの書類の流れ、銀行口座、現金管理といった経理の基本的なルールを整えて、無駄な作業が生まれないようにします。
スマートフォンで領収書などを撮影して経費データを取り込める機能もありますので、フォルダの保存方法や用途ごとの分け方まで含めて、一緒に仕組みをつくっていきます。
もちろん、業種によって使うシステムも資金管理の方法も違います。現金を扱うのか、従業員がいるのかによっても変わります。会計処理を効率化するだけではなく、お客様自身の業務の流れまでシンプルにできることもありますので、お客様ごとに何を整えるべきかを考えるようにしています。
また、当事務所で利用しているシステムには、会計だけでなく、請求書を作成する販売管理や給与計算などの機能もあります。給与明細を給与日に自動配信したり、税金を電子納税したりと、日々の事務を効率化できる仕組みもあります。
ただ、こうしたシステムも導入するだけでは意味がありません。どの機能をどう使えばお客様の事務負担を減らせるのかまで一緒に考えて、実際に活用できるところまで支援する。それも当事務所の役割だと思っています。

今後、事務所をどうしていきたいか、見えている景色を教えてください。
基本的には地域に根ざした形でやっていますので、この地域で「あの事務所なら安心だ」と思っていただけるような、存在感のある事務所にしていきたいと思っています。
そのためには、これからスタッフも増やしていく必要がありますし、事務所としての体制もしっかり整えていきたいですね。
もちろん、規模を大きくすること自体が目的ではありません。今日、お話ししたような、毎月お客様とお会いして、月次決算を行い、数字を経営に活かしていただく。そうした支援を大切にしながら、それを事務所の強みとして、地域の中で少しずつ信頼を積み重ねていきたいと思っています。
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取材後記
取材前、深谷さんのサイトで一番印象に残ったのは、国税出身なのに「税務調査に強い」という言葉がほとんど出てこないことでした。代わりに並んでいたのは、毎月の訪問、月次決算、そして書面添付。取材でその理由を伺うと、答えは明快でした。「税務調査のリスクは下げることができる」。査察部で10年、脱税事件の側から帳簿を見てきた人が出した結論が、経営のためにも調査のリスクを下げるための会計を毎月積み上げることだった、という点に、この事務所の芯があります。
書面添付を標準業務にし、その前提となる月次巡回監査の締め日をシステムで証明する。金融機関からも「ついているといい」と言われる。手間のかかるやり方を、深谷さんは「効率化よりも大事な根本」と言い切ります。
西三河や名古屋周辺で、決算が終わるまで数字が分からない、税務調査が漠然と不安、という経営者の方は多いと思います。調べる側を23年知り尽くした人が、地元で毎月隣に座ってくれる。その価値は、一度会って確かめてみる意味があるはずです。
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※ 本インタビューの内容は取材時点のものです。事務所の体制やサービス内容は変更される可能性があります。最新の情報については各事務所に直接お問い合わせください。