社外CFOのように、数字に踏み込む——大手税理士法人・経営コンサルを経て川崎で独立した北山史朗税理士事務所

北山 史朗(きたやま・しろう):北山史朗税理士事務所 代表/税理士
石川県出身。慶應義塾大学総合政策学部(SFC)を経て、同大学院経営管理研究科(MBA)を修了。外資系の大手税理士法人で国際課税・組織再編に携わったのち、経営コンサルティングファームへ移り、M&Aアドバイザリーや事業再生、大規模投資補助金の申請支援などに従事。財務と税務の双方に軸足を置いたキャリアを積み、2026年7月、川崎の地に自身の事務所を開いた。「税務申告や記帳の代行にとどまらず、数字を創るために伴走するパートナーでありたい」を信条に、若手経営者や二代目、海外から来た起業家まで、業種を問わず幅広く支援している。
まず、いまの事務所の概要を教えてください。お客様のエリアや規模、業種などに特徴はありますか。
業種を問わず、どんな会社でも対応できるというのが一つの特徴です。お客様の層もこちらから限定はしていませんが、多いのは比較的若い経営者の方ですね。ご自身で起業された方もいれば、二代目として創業者から引き継いだ方もいらっしゃいます。もう一つは、海外から日本へ進出した方です。私自身、英語を話せるので、コミュニケーションの面で強みになっています。日本語が苦手な方には、提出資料をそのまま出すのではなく、翻訳した資料を添えたり、論点の意図をかみ砕いてお伝えするようなサービスも顧問契約の範囲内で行っているので、一般的な会計事務所にプラスアルファになる部分かなと思っています。
いまはお客様を何件くらい持たれているのですか。
開業したてということもあって、件数は多くはないです。お問い合わせは月に2〜3件ほどいただいていますが、今はご依頼いただいたお客様と丁寧に向き合える余裕があります。他士業からの紹介や、地域コミュニティを通じてお話をいただいている段階です。
ご提供されているサービスとして、一般的な税務顧問に加えて特徴的な部分はありますか。
税務顧問については、面談回数に特に制限を設けず、本当に必要に応じていつでも対応可能な形にしています。その分、単価には少し反映させていて、同業の方と比べると割高な部分はあるかもしれません。ただ、その分をサービスの量を充実させ、丁寧な対応という質の両方でお客様に価値を還元するスタイルにしています。
ここからは開業までの歩みも伺いたいのですが、そもそも税理士を志したきっかけはどんなところだったのですか。
正直、「税理士になりたい」と具体的に考えた時期はあまりなくて、就職活動の成り行きで税理士法人に入ったというのが実際のところです。ただ、その手前の大学院でファイナンスを勉強していたこともあって、キャリアとしてはCFOのようなことをやりたいという思いは、なんとなくどこかにありました。社会人としてのキャリアを税理士法人でスタートして、税務の知識を活しながらサポートできる人材になることが、目標を実現する良い手段になるのではないかと考えました。
独立を意識されたのはどのあたりからですか。
ここには2つのステージがあります。1つは学部時代に在籍していたSFCですね。この環境が他の大学とは、少し変わっていて、「独立したい」という尖ったマインドを持った方が、学生にも多く、教授陣もそういった人材を育てたいという風土がありました。私自身も起業家マインドという面は、SFCに在籍した4年間でかなり影響を受けていて、この期間でいつかは自分の名前で商売がしたいという思いが形成されていきました。
もう1つは、コンサルの前に在籍した税理士法人での経験です。この期間はどちらかといえば自分と対話する期間になりました。業務は与えられた作業をして、上司のレビューを受けて、指摘を受けるサイクルの繰り返し、という日々で、お客様と直接接する機会があまり持てませんでした。日々パソコンと向き合って、上司がお客様のような立ち回りになってしまう。そんな日常になんとなく違和感を覚えていたことがあり、「自分はここで良いんだろうか?」と自問自答するようになっていました。もっと直接お客様と接して、その中で多方面から刺激を受けながら自分のスタイルを確立していきたい、という思いがだんだん募っていったんです。
その後、事業再生などに携わられるわけですね。
はい。税理士法人を2年半ほどで退職して、経営コンサルティングファームに移りました。転職先は非常にやりがいがありましたが、激務でもあって、体力的にも大変な時期が多かったです。ただ、辞めた理由が激務だったからというわけではなくて、自分の中で一区切りついた感覚があったんです。前職でできなかったお客様と実際に対峙して、課題を特定し、課題解決に向けて一緒に走っていく、という一連の経験ができたことが、自分の中では価値のあるものとなりました。それを自分自身の形で作り上げていきたいと思うようになりました。年齢としてはまだ30歳ですが、自分にとっては節目のタイミングだと感じていて、独立してこの地域を盛り上げていきたい、と考えています。
SFCから大学院へ進まれたのは少し珍しい経路にも思えます。
本当は海外の大学院に行きたかったんですよ。入学したのが2020年、ちょうどコロナの年で、オファーをいただいていたアメリカの大学院からビザが下りなかったんです。オンラインで2年間やるかという話になったのですが、さすがにそれは抵抗があって。必死に代替案を探した中で一番良かったのが、慶應のMBAでした。MBAは実践を重視する教育課程なので、社会人経験者が経営者を目指したり、キャリアチェンジをする手段として使われることが一般的です。経験がなくても、ビジネスを考える上での基礎はこの段階で身についたと思っています。本音を言えばそれをもっとグローバルな環境で学びたかったのですが、ビジネスについての知識はしっかり得られましたし、いま独立という形が実現できているので、そこは良かったと思っています。
税務顧問以外にも、ご経歴を活かしたさまざまな支援ができるとのことですが、強みとして掲げていきたい部分を教えてください。
一つは組織再編まわりです。前職では、会社を「買いたい」、「売りたい」という方に対して第3者のアドバイザーとして入り、財務デューデリジェンスや事業デューデリジェンス、株価算定を通じて、売買を広くサポートしてきました。財務諸表の分析が中心ですが、紙面やデータだけを見ても相手の会社の中身が分からず不安が残るだけです。そこを深掘りして、相手の会社にどういったリスクがあるのかを客観的な視点から診断する支援をします。M&A自体はかなり高度な専門知識が必要になるため、法務・契約書周りはどうしても弁護士の方にも入っていただき連携する必要があります。
ほかにはいかがですか。
政府の補助金の申請支援も経験していました。経済産業省が主催する投資額が数十億円に上るような設備投資を対象とした補助金です。たとえば投資額が100億円であれば、その3分の1にあたる規模が補助される、というようなものです。かなり大掛かりな事業計画の提出が求められますし、審査担当者がどこを見ているのかといったポイントなどもお伝えしながら、経営者の方々と一緒に計画を取りまとめていきます。ここで大切なのは、事業計画の精度そのものに加えて、その投資を通じて社会に何を還元したいのかというメッセージの部分です。煩雑なので、街の税理士事務所ではなかなか手をつけられない領域なので、ノウハウとして持っているのは中小企業をサポートする上での強みになると思っています。
もう一つ、事業再生にも取り組まれてきたと伺いました。
はい。業績が良くない会社や、業績自体は良くても資金繰りが厳しい会社に対する、金融機関との調整役のような役割です。返済猶予を交渉する際にも、「何を原資として返済していくのか」「会社は何を努力して現状の課題を打破するのか」を強く求められます。会社が単独で何を言っても金融機関はなかなか信用してくれないので、第三者の立場から間に入り、双方の主張の落としどころを見極めて進めていく。会社の資金繰りや経営管理の体制に課題を抱えていることが多いので、窮境要因を特定し、対応策を立案して、キャッシュ・フローがどれだけ改善するかを計画に落とし込む支援をしていました。
関与した案件数としては決して多くはありませんが、再生案件は1件当たりの関与期間が非常に長く、年単位になることもあります。会社の社員のように社内に足を運んで支援を進めてきました。いい経営者も、そうでない経営者も、両方を見てきたので、ビジネスが人によってどれだけ左右されるかを強く実感しています。だからこそ、人対人できちんとぶつかり合う瞬間を大切にできる税理士になりたい、という思いに立ち返るんです。
手厚くサポートされる設計だと思うのですが、面談に上限を設けないという形にしようと思われたのは、どういう考えからですか。
私自身の考えとして、税理士は税務のアドバイスができることは大前提として必要ですが、それ以上に、お客様の事業では、どういうタイミングで資金需要が発生して、どこにリスクを抱えているビジネスなのかを理解する必要があります。これらを考えずに仕訳だけをチェックして試算表や申告書を作成して終わりではなく、それ以上の価値につなげたい思いがあります。お客様にとっても、税金を含めていつお金がどう動いているのかを知るいい機会になると考えています。
面談や資金繰り表策定の支援を通じて、私もそうですが、お客様自身が数字に対する責任感を意識づける機会にもなると思っています。前職で事業計画策定やデューデリジェンスに関与してきて、数字を見ること・作り込むことには強い関心があるので、その精度をあげるためにも、お客様の会社を深く知って、財務や税務のアドバイスに落とし込んでいきたい、という思いがあります。お客様にとっていい仕事をすればそれだけ信頼関係にも繋がります。
実際には、お客様ごとに関わり方を変えているのですか。
そうですね。定期的に面談を設定しているというより、ご要望があったときにスポットで対応する形が中心です。税理士という立場上、社内の人間ではないので、距離感は考えます。営業の提案ばかりして自己の利益だけを追い求める、というスタンスは個人的には違うと思っているので。逆に、些細なことでも教えてほしいという方とは、LINEやチャットツールも活用して、密に連携を取らせていただいています。即答できないことがあれば、調べて、後日まとめた説明資料を共有する、という形で柔軟に対応しています。個人の意見にはなりますが、どちらかといえば来ていただきたいのは、積極的にサポートを求めてくださる方や、オープンに情報を共有してくださる方ですね。私たちは税務当局ではないので(笑)、警戒せずに接していただけると、良い関係性が築きやすいと思います。
ホームページの「やらないこと6選」を拝見して面白いと思いました。開業のタイミングでここまで言い切るのは勇気が要ったのではないですか。
ここは、基本に立ち返って、お客様同士の不公平をなくしたいという思いがあります。値引きは、全員にするかしないかの二択しかないと私は思っています。同じような売上規模や業種業態なのに値段が全然違う、ということはやりたくないんです。だから公平性という観点から、値引きはしないと言い切りました。この業界は交渉ごとできまるのが慣習としてあるので、「安くしてほしい」という話にはなりますが、いまのところお受けしていませんし、今後も受けないと思います。
「一人ひとりのお客様に対して手厚いサービス」を心がけているので、回転率重視(いわゆる薄利多売)の同業の方と比較されても、やっていることが全然違うというのが本音です。
完全ペーパーレスやキャッシュレスも掲げられています。この辺りはこだわって取り組まれているのですか。
事務所の運営をするにあたって、創業の段階からDXを意識しています。紙ベースや郵送の作業に慣れてしまうとそこから離れられなくなってしまうので、最初から徹底しています。とはいえ、お客様の中には、デジタルに抵抗のあるお客様もいらっしゃると想定はしています。正直、慣れるしかないと思っていて、全く分からないという方には、こうやって使うんですよ、という導入の部分もしっかりとサポートします。「できないから、この事務所は無理だ」と思っていただくのではなく、紙媒体からの移行を検討している方はサポートさせていただきますので、是非お問合せください。
今後の事務所の将来像について、考えていらっしゃることがあれば伺いたいです。
まず3年間でフル稼働を目標にしています。フル稼働とは、お客様でいうと20件ほどを抱えられる状態ですね。そんなにスピードが速いわけではなく、比較的ゆっくりやっていきたいと思っています。手厚いサポートを掲げている以上、一人で見られるのは20社くらいが限界かなと。決算期は法人だと時期が重なりやすいので、その時期でも分け隔てなく対応できる体制を整えたいんです。その先、5年後には組織化を考えています。いまは個人事業として北山史朗税理士事務所をやっていますが、法人化して、まず2〜3名ほど採用したいですね。
採用された方には、どのように関わっていきたいですか。
教育に力を入れたいと思っています。税理士資格をお持ちでなければ、試験の予備校費用の補助なども手厚くサポートしたいですし、私自身の利益は当初目標のフル稼働分くらいで十分で、それ以上についてはきちんと従業員に還元したいです。近隣の街の税理士事務所と比べても、うちのほうが圧倒的に良い、という水準を目指したいんです。昨今は賃上げも進んでいますが、それに負けないくらいの事務所を作っていきたいと思っています。
そこまで思えるのは、なぜなのでしょう。
自分自身が、そうされてきた側でもあるからですね。前職ではかなりハードな環境に身を置いた経験があるので、従業員に同じことを求めたいとは思いません。それに、税理士事務所で働く方の多くは、最終的にはご自身で事務所を構えることになると思うんです。そのステップアップの過程としてうちを使ってほしい、という思いもあります。独立は、私自身がやっているくらいなので、むしろ応援したいです。そういう方が別の環境でも活躍してくれるように支援したいですし、だからこそ、従業員がきちんと報われる会社をしっかり作っていきたいと思っています。
20社を3年でという、少しゆっくりめのペースにも意図があるのですね。
一点目は、サービスの質を絶対に落としたくないからです。急に拡大して、前の税理士事務所からの引き継ぎもあって、今月はすみません、動けません、という状態になるのが嫌なんです。まずは自分が地に足をつけて、特に、お客様に迷惑をかけない体制でやっていく。数をこなす中でプロセスを効率化し、常に適切な稼働を確保できる組織体制を維持しながら、徐々にスピードを上げていければと考えています。2〜3か月に1社ほど成約するペースです。それくらいであれば業務の傍らで提案も丁寧にできますし、新規・既存の双方のお客様に対して量と質を担保できる。仕事の質は、投入する時間に大きく左右されると思っています。時間は誰もが同じだけ持っているものなので、その時間をどう工夫して価値として還元するかが大切だと考えています。
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取材後記
「数字だけを追うのは、いかがなものかと思うんです」。インタビューのなかで北山さんが口にしたこの一言に、事務所の姿勢が凝縮されているように感じました。SFCで芽生えた起業への思い、コロナ禍で進路を変えて進んだMBA、大手税理士法人での違和感、そして事業再生や補助金といった「数字の修羅場」。一見バラバラにも見える経歴が、「人対人でぶつかり合える税理士になりたい」という一点に収れんしていく様子は、聞いていてとても腑に落ちるものでした。
印象的だったのは、開業してまだ日が浅いにもかかわらず、「値引きはしない」「質を落とさないためにあえてゆっくり広げる」と、迷いなく言い切る姿です。それは頑なさではなく、お客様一人ひとりに向き合う時間を守るための、静かな覚悟のように見えました。将来採用する従業員への還元や独立の応援にまで話が及んだとき、この方が見ているのは自分の事務所の損得だけではないのだと伝わってきました。
川崎という街で、若い経営者や海外から来た起業家に伴走しながら、腰を据えて事務所を育てていく。北山さんの「数字を創る伴走者」という言葉が、これからどんな物語を積み重ねていくのか。その第一歩に立ち会えたことを、うれしく思います。
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※ 本インタビューの内容は取材時点のものです。事務所の体制やサービス内容は変更される可能性があります。最新の情報については各事務所に直接お問い合わせください。