税理士側と、クライアント側。両方の目線を持つために——ビッグ4を経て事業会社へ、国際税務で経営者に伴走する窪田了介税理士事務所

窪田 了介(くぼた りょうすけ):窪田了介税理士事務所 代表/税理士
大学卒業後、光学機器メーカーで約6年にわたり海外営業を担当。海外に携わる仕事のなかで自身の専門性を高めたいと考え、簿記の学習をきっかけに税理士を志す。税理士試験の科目合格を経て都内の税理士事務所へ転職し、中小零細企業を中心とした税務顧問を約6年経験。その後、デロイト トーマツ税理士法人の国際税務・M&A部門で約6年にわたり高度な国際税務案件とデューデリジェンスに携わり、マネージャーとして組織のマネジメントも担う。2025年12月からは事業会社に籍を置き、グループの税務コンプライアンスや海外子会社対応に従事しながら、2026年に窪田了介税理士事務所を開業。ビッグ4で培った国際税務の知見を武器に、タックスヘイブン対策税制やクロスボーダー取引の相談に応じる。英語での対応も代表本人が行う。
まず、どのような事務所を目指されているのか伺えますか。
開業したばかりですので、正直なところ、お客様の層がはっきり見えているわけではありません。ただ一つ決めているのは、ただ単に作業をして終わるような税理士事務所にはしたくないということです。申告書を作る、決算を組む、それだけで完結してしまう関わり方ではなく、お仕事として関わらせていただくのであれば、しっかりとコミュニケーションを取って、痒いところに手が届くようなサービスを提供していきたいと考えています。
軸となるのは、やはり国際税務でしょうか。
そうですね。国際税務を主軸に置きつつ、インバウンド、つまり日本で開業したいという海外のお客様への対応もできますし、その反対にアウトバウンドで海外へ進出される日本企業の支援もできます。ビッグ4で長く扱ってきた領域ですので、普通の税理士があまり手掛けない国際税務まわりに、しっかり関わっていきたいというのが正直な思いです。
日本で会社を立ち上げたい海外の方となると、税務以外の手続きも絡んできますね。
そのとおりで、税務だけでは完結しない場面が出てきます。実際に、日本での会社設立をお考えの海外のお客様をご紹介いただいた際には、英語で対応できる司法書士事務所をお探ししてお繋ぎしました。ご自身で言語の壁を越えて手続きを進めるのは負担が大きいところですので、必要に応じてそうした専門家と連携しながら、窓口として整理していく形も取っています。
国際税務が絡まない、一般的な中小企業の税務顧問も受けられるのですか。
ご縁があればぜひお受けしたいと思っています。デロイトに移る前の事務所で中小零細企業の顧問を数多く担当していましたので、比較的小さな規模のお客様にも、日々の税務についてさまざまなアドバイスができるかなと思います。
今はボーダーレス化が進んでいて、どんな規模の会社にも海外と関わる可能性がある時代だと思っています。海外から仕入れる、海外へ売る、海外の会社と資本関係を持つ、あるいは海外のお客様から相談を受ける。そうした場面は、規模の大小にかかわらず、これからどんどん増えていくはずです。ところが、いざその段階になったときに、国内の顧問業務と国際税務の両方を一人で見られる税理士は、実はそれほど多くありません。普段の顧問業務を見ながら、海外の話が出てきたときにもそのまま相談できる——そういう存在でありたいと思っています。
税理士を志したきっかけと、これまでのキャリアを教えてください。
最初の勤務先は光学機器メーカーで、6年ほど海外営業をしていました。学生時代から海外に行くことが好きで、海外に携われる仕事をしたいと思ってこの仕事を選んだんです。ただ、勤めているなかで、自分自身の専門性がまだ希薄だと感じるようになりました。営業として海外を飛び回ってはいるけれど、自分に何が残っているのだろうか、と。何か強みを持ちたいと考えたときに、まずは会計のスキルが欲しいと思って、簿記の勉強を始めました。そこから少しずつ、税理士の資格を取れたらいいなと思うようになっていきました。
数ある分野のなかで、会計を選ばれたのはなぜだったのですか。
勉強したことがなかった、というのが素直なところです。とはいえ営業でも数字は見ますし、事業計画をきちんと読めないと仕事にならない場面もありましたから、どうしても必要なスキルでもありました。やってみたら、これが楽しかったんです。恥ずかしながら大学は商学部でしたので、本来は勉強しているはずなのですが、当時はほとんど身についていませんでした(笑)。社会に出てから、必要に迫られてようやく面白さがわかった、という順番です。
そこからどのようにキャリアを重ねてこられたのですか。
税理士試験は5科目に合格する必要があるのですが、2科目に受かった時点で本格的に税理士の世界へ飛び込みたいと思い、最初の会社を辞めて都内の税理士事務所に勤めました。そこでは中小零細企業のお客様を中心に、約6年ほど一般的な税務顧問を経験しています。月次から決算、申告まで、事業に伴走する仕事の基本はこの時期に身につけました。
そして試験にも目処がついてきたところで、やはり英語を使いたい、国際税務に関わる仕事がしたいという思いが強くなり、デロイト トーマツ税理士法人へ転職しました。最初の会社で海外営業をしていた頃の関心が、形を変えて戻ってきたような感覚でした。
デロイトでは、国際税務にがっつり取り組まれたのですね。
国際税務とM&Aの部門でした。M&Aのほうは、実は最初まったく興味がなかったんです。ところが、やっていくうちにとても専門性が高くてやりがいがあると感じるようになりまして、この2つを軸に頑張っていこうと決めました。ここも約6年で、最後はマネージャーを務めています。案件そのものの面白さに加えて、チームを預かるマネジメントの経験を積めたという意味でも、非常に良い時間でした。
デロイト時代の国際税務は、話せる範囲でどのような領域を担当されていたのですか。
移転価格税制と、グローバルミニマム課税(Pillar 2)を除けば、基本的に国際税務は全般的に担当していました。あわせて税務デューデリジェンスも、日本経済新聞に載るような大型案件から非常に小さな案件まで、国内のものもクロスボーダーのものも含めて幅広く携わってきました。案件の規模によって論点の出方も進め方もまったく違いますので、その両極を経験できたことは今の財産になっています。
現在は事業会社に在籍しながら開業される、という働き方を選ばれています。その理由を伺えますか。
2025年12月から事業会社に籍を置いています。最初の事務所からデロイトまで、10年以上を税理士側で仕事をしてきたなかで、クライアント側の目線で仕事をした経験がありませんでした。税理士として「こうすべきです」とお伝えする立場は長く経験してきましたが、それを受け取る側が社内でどう動き、何に困るのかは、外からでは見えづらい部分があります。まずはそれを経験してみたい、というのが大きな動機でした。事業会社で働くというクライアント側の目線を得ながら、同時に開業もすることで、両方の経験を短い時間で積むことができると考えました。
現在、事業会社ではどのような業務を担当されているのですか。
グループ内の税務コンプライアンスや、他部署からの税務に関する問い合わせ対応が中心です。加えて海外子会社との連絡調整や、海外子会社を売却・清算するプロジェクトにも関わっています。こうしたプロジェクトは、税務だけを切り出して考えるわけにはいかず、事業側の事情や社内の意思決定とセットで進んでいきます。現場で実際に何が起きているかを、事業会社の内側から見られるのは、税理士としての視点を確実に広げてくれています。
いきなり独立一本ではなく、並行という形を選ばれたのですね。
いきなり開業するのは少しリスクがあると感じたので、ゆっくり進めたいというのが一つです。加えて、海外税務は規模の大きな会社ほど需要がありますから、自分の力がすぐに活かせるフィールドが事業会社側にもあるというのも、正直なところの理由です。ビッグ4で身につけた知見を寝かせておくのではなく、日々使いながら磨いていける環境に身を置いている、という言い方もできるかもしれません。
国際税務のなかでも、特にご自身が強いと感じる領域はどこですか。
国際税務周りで一番強いのはタックスヘイブン対策税制です。デロイト時代にかなりの数を手掛けてきました。かなり複雑な税制ですので、通常は見落とされてしまうような部分が意外と多いんです。そうした潜在的な論点を拾い上げてきた経験が、自分のなかに蓄積されているという実感があります。この知見は、事業会社に入ってからも実際に役立っている場面があります。
不勉強で恐縮ですが、タックスヘイブン対策税制とは、どのような場面で問題になる税制なのでしょうか。
簡単に言うと、海外にペーパーカンパニーを作り、事業の実態がないにもかかわらず外観だけを整えて、本来は日本で稼げる利益を税率の低い国に移してしまう、といった過度な租税回避を防ぐための税制です。そうしたペーパーカンパニーが稼いだ利益は、日本の親会社の所得として扱いますよ、というものです。
制度が複雑なので、顧問税理士の先生でも国際税務の知見がなく、どこに問題が潜在しているか分からないというケースは少なくないと思います。しかも厄介なのは、表面上は特に問題なく処理が回っているように見えても、実は必要な書類が漏れていた、といった形で潜んでいることがある点です。過去から踏襲してきた処理だから大丈夫だろう、という前提が、ある年に一気に効いてくることもあります。また、事業側の方でも税務や経理部門の方が海外の子会社に必要な事実を確認する際に、専門的な日本語を英訳するのに非常に苦労されるかと思います。その点も前職で私自身がクライアントの海外子会社と直にやり取りをした経験があるのでしっかりサポートできると考えています。
経営者や税理士が見落としがちなポイントはありますか。
クロスボーダーの取引は今後どんどん増えていくと思いますので、国際税務はより身近になってきます。それだけに、本来はヘルスチェックのような形で一度確認しておくべきなのに、皆さんやっていないというのが、見落としがちなポイントかなと思います。健康診断と同じで、何も起きていないうちに見ておくから意味があるものです。
顧問の先生が気づかないままになってしまうこともあるので、顧問契約はそのままに、その部分だけを切り出してご相談いただく、セカンドオピニオンのような形も歓迎しています。先生を替えていただく必要はまったくなくて、海外の論点だけ横から見る、という関わり方で十分にお役に立てると思っています。
アウトバウンド、海外進出の支援では、企業はどのタイミングで相談すべきでしょうか。
現地で会社を立ててしまった後だと、なかなかコントロールが効かなくなってしまうので、進出を検討している段階でご相談いただくことがまず大事です。会社ができてしまうと、そこに置く人員や業務の内容も固まってきます。
たとえば、税制上ある要件を満たしていれば課税されずに済むのに、実際の組織がその形になっていない、というケースがあります。後から組織を変えるにはコストがかかりますし、変えるまでの間は潜在的なリスクを抱えたままになってしまいます。実行段階の前に、計画をしっかり練っておくことが、結果として一番コストを抑える方法だと思います。ここはタックスヘイブン対策税制とも密接に関わってくる部分です。
国際税務まわりで、ほかに「こういう相談にも対応できる」という領域はありますか。
源泉税と租税条約の話は、海外進出をしていなくても実務ではよく出てきます。たとえば日本から海外へ使用料を支払う場合、通常は日本側で源泉税を取らなければなりません。ところが租税条約の減免規定を適用することで、その課税をなくしたり軽減したりできる場合があります。この点は支払の受取側から対応を依頼されることが多いのですが、相手国から適切な書類を受け取る必要があるもののその内容がわからずうまくコミュニケーションができないといったことが実務上あるかと思います。よって、いざ自社でやろうとするとハードルが高く感じられがちですので、適切にアドバイスできる部分だと思います。
将来的には、いつ頃までに開業一本にしたいという思いはありますか。
3年後か5年後というのが一つの目安だと思っています。その間に、独立を今後も続けていくのが良いのか、そうではないのかを判断しようと考えています。年齢的にも、そのくらいで決めたほうがいいのだろうという感覚です。それまでは事業会社に在籍しながら、自分で受けられる案件を並行して進めていくスタイルを続けるつもりです。少数のお客様と丁寧に向き合える体制ですので、その点はむしろ強みにしていきたいと思っています。
最後に、海外展開や国際税務でお悩みの経営者へメッセージをお願いします。
取引が今後どんどんクロスボーダーになっていくと見込まれるなかで、国際税務と聞くと一気にハードルが高くなるような印象があるかもしれません。ですが、身近になっているからこそ、しっかり検討しなければいけない領域でもあります。
判断に迷う段階でも、まずは論点があるかどうかを一緒に整理するところからお手伝いできます。ご相談いただく際には、ビッグ4で培った知見からも適切なアドバイスを提供していきたいと思っていますので、ぜひお気軽にお声がけいただければ嬉しいです。
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名称:窪田了介税理士事務所
代表:窪田了介(税理士)
取材後記
「一番強いのはタックスヘイブン対策税制です」。専門用語がずらりと並ぶ会話のなかで、窪田さんが迷いなく言い切ったこの一言に、ビッグ4で積み上げてきた6年間の厚みが凝縮されているように感じました。海外にペーパーカンパニーを作る過度な租税回避を防ぐ、複雑で見落とされやすい領域。表面上は問題なく回っているように見えても実は論点が潜んでいることがある、というお話は、専門家でなければ気づけない世界の一端を見せていただいたようでした。
印象的だったのは、税理士側とクライアント側、その両方の目線を短期間で手に入れようとする窪田さんの戦略性でした。事業会社の内側から海外子会社の売却や清算に関わりながら、同時に自分の事務所を育てていく。遠回りに見えて、実は国際税務の相談相手として最も説得力のある立ち位置を選んでいるのだと思います。光学メーカーの海外営業から会計の世界へ移り、また海外に戻ってきたキャリアの筋も、一本の線でつながっていました。
ボーダーレス化が進むなかで、海外と関わる可能性はもう大企業だけのものではありません。普段の顧問業務を見てもらいながら、海外の話が出てきたときにもそのまま相談できる税理士は、これから確実に貴重になっていくはずです。海外進出を考えている、あるいは海外子会社を持っているけれど税務が不安だという経営者の方は、会社を立てる前の段階でこそ、一度相談してみてはいかがでしょうか。「立ててしまった後ではコントロールが効かない」という言葉が、きっと後から効いてくるはずです。
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