米子市

まず、自分たちが変わる——山陰唯一のfreee5つ星認定アドバイザーが、地元老舗との統合で描く米子の未来・税理士法人UPWARD

税理士法人UPWARD 笠岡恒介氏

笠岡恒介(かさおか こうすけ):税理士法人UPWARD 社員税理士

鳥取県米子市出身。高校3年時、国税局を退職し税理士として独立開業する父・克巳氏の姿をきっかけに税理士を志す。東京の大学に進学し、専門学校とのダブルスクールで学んだのち米子へ戻り、父のもとで資産税の実務を積んで税理士登録。2019年頃から地域に先駆けてクラウド会計freeeを導入し、山陰唯一のfreee5つ星認定アドバイザーに。2026年4月には近隣の老舗事務所と統合し、税理士法人UPWARDとして新体制をスタートさせた。現在は米子市内2拠点・メンバー13名体制で、鳥取・島根の中小企業支援と相続を両輪に、地域密着の伴走支援を展開する。

米子2拠点・13名体制——月次の対話で山陰の中小企業に伴走する

まず、税理士法人UPWARDの全体像から教えてください。どのようなお客様を、どんな体制で支えていらっしゃるのでしょうか。

笠岡:
鳥取・島根の山陰両県を中心に、中小企業のお客様と個人のお客様をご支援しています。個人のお客様は、地主の方の不動産所得の確定申告から、それに続く相続税申告まで、資産税の分野を幅広くお受けしています。拠点は米子市内に2つあり、メンバーは合わせて13名。それぞれの拠点に税理士が1名ずついる体制です。

弊社では、月次の対話と自計化の伴走支援を強みにしています。年に一度だけの関係性ではなく、対面・オンラインを含めてお客様とお話しする場を設けて、リアルタイムな数字を一緒に作っていく。経験豊富なベテラン社員と、クラウドなど新しいツールに柔軟に対応する若手社員が融合して、経営者であるお客様がすぐに次の判断ができるよう寄り添っています。

お客様のエリアや業種には、どんな特徴がありますか。

笠岡:
ほとんどが山陰両県で、県外はあっても岡山県くらいです。クラウドを使っているので、東京のお客様も数社いらっしゃいます。ただ、方針として県外を積極的に増やしたいわけではなく、まずはこのエリアで存在感を出していきたい。「ローカル」というところを打ち出していきたいと思っています。

業種は特に絞っていませんが、多いのは医業と福祉ですね。地域の中では経験値を持っている方だと思うので、今後も強みとして伸ばしていきたい分野です。規模感でいうと、年商1億〜5億円、従業員30名以内くらいのお客様が中心です。
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高校3年の春に知った父の独立——「経営者に寄り添う仕事」としての税理士

恒介さんが「家業を継ごう」と決めたのは、いつ、どんなきっかけだったのでしょうか。

笠岡:
もともと税理士という仕事を知らずに高校まで育ってきたのですが、高校3年のときに、父が国税を早めに退職して独立開業すると聞いたんです。国税では一定期間働くと税理士になれる制度があって、そこで初めて税理士が身近な存在になりました。

もうひとつは、もともと経営やマーケティングの話が好きだったことです。テレビ東京のカンブリア宮殿のような番組が好きで、経営に興味がありました。税理士を調べてみると、経営者にいちばん近い存在だと分かって、意外と魅力的な仕事なのではないかと。それで目指してみようと思いました。
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そこから、実際に地元へ戻られるまでは、どんな道のりだったのですか。

笠岡:
大学進学で東京に出て、専門学校とのダブルスクールで税理士の勉強を始めました。実は兄も税理士で、BIG4に入って上場企業を相手に活躍していました。地方から子ども2人を東京の大学と専門学校に行かせてもらったので、父からは「退職金はお前たちに使った」とずっと言われています(笑)。2人で恩返しをしなければいけないですね。

父は国税の資産税課出身で、ほぼ1人で相続税を中心に手がけている事務所でした。同世代で相続税に特化して経験を積んでいる人は周りにいなかったので、実家に帰ったほうがそういう経験を積めるのではないかと考えました。兄は早くから「帰らない」と言っていたので、自分がなるべく若いうちに戻って、地元の基盤を作っていきたいという想いもありました。戻った当時は、父とスタッフ1名だけの小さな事務所でしたね。
相続一本から二軸経営へ——「若手というだけでは、価値にならない」

戻られた当初から、いまのような事務所の姿を描いていたのですか。

笠岡:
当初は相続でやっていけると思っていました。ちょうど相続税の改正で基礎控除が下がり、これから相続の時代が来るというタイミングに、人より一足先に取り組めていたので。ただ、相続税は人が亡くなって初めて発生するものです。税務顧問のように毎月必ず仕事があるわけではなく、小規模な事務所にとっては不安定さもある。その点はずっと考えていました。

そんなとき、地元の金融機関が若い税理士を探していたんです。創業のお客様だったり、代替わりを機に同世代の相談しやすい税理士に切り替えたいというニーズがあって、そこから法人の税務顧問がどんどん増えていきました。事務所の経営基盤としては、相続一本よりも一般的な税務顧問と合わせた二軸でやっていくべきだと実感しましたし、中小企業にも事業承継など資産税の場面は必ず来るので、相続の経験は法人支援にも生きると考えました。

地方で顧問先を増やしていく難しさは、ありませんでしたか。

笠岡:
ありましたね。田舎は創業や起業の数が少ないので、すぐに顧問先が増えるわけではありません。昔からお世話になっている老舗の税理士事務所が多く、お客様も「ずっとそこでやっているから」という方が多い。都会のように新しい事務所へ切り替える動きも、あまりない地域なんです。だから、「若手税理士です」というだけでは価値にならないと、早い段階から感じていました。自分の強みを新たに作っていく必要があったんです。

そこで出会ったのが、ちょうど出てきたクラウド会計でした。昔から新しいもの好きだったこともあって、2019年か2020年頃には、地域では一足先にfreeeを触り始めていました。その後、兄がBIG4を辞めて別の税理士法人に移り、中小企業や事務所経営の視点で相談ができるようになったんです。東京にいながら田舎の実家を気にかけてくれていて、「自分のところはfreeeを使っているよ」とfreeeの担当者の方を直接つないでくれたんです。そこからfreeeの方々に伴走支援をいただいて、「山陰地方には5つ星のアドバイザーがいないので、まずそこを目指しましょう」と目標を立てて、1年半ほどかけて自社の習熟もお客様の獲得も含めて取り組んでいきました。
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都市部の大手ではなく、地元同士で——2026年4月、統合という決断

近年は、地方の事務所が都市部の大手と統合するケースも増えています。そうした中で、近隣の事務所と一緒にやっていく道を選ばれた経緯と、その想いを教えてください。

笠岡:
ひとつは、大手と一緒にならなくても、情報やノウハウを得られる環境があったことです。兄が身近にいてくれて、日々情報共有ができていましたし、高度な案件や難しい案件があればサポートしてもらえるつながりもあります。

そして何と言っても、ここは田舎なので、都会の事務所が「こんなことができますよ」と来ても、地域の特色や文化、地元の空気感を知っている人がやるかどうかで、お客様の受け止め方は変わってくると思うんです。だったら、自分たちが田舎にいながら適切な情報提供やサポートができる環境を作って、できないことは他の士業や金融機関と連携すればいい。田舎でも、もっとできることがあると思って、地元同士の統合という道を選びました。

地元への想いは、昔から強かったのですか。

笠岡:
いえ、むしろ都会に憧れて出ていったタイプです(笑)。ただ、戻ってきて年々強くなってきていますね。いまは地元の商工会議所青年部に入って理事もさせてもらっていますし、この仕事をしていると、企業に元気に活動してもらいたい、経済を活性化してもらいたいという想いがどんどん強くなる。地元にいて、税理士という職業の責任も感じています。一度外に出たからこそ、だと思います。

統合された事務所から受け継ぎたいもの、そして自分たちの代で変えていきたいことを教えてください。

笠岡:
父も個人で20年ほど事務所をやってきましたし、統合した事務所は40年以上続く、地元では本当に歴史のあるレジェンド級の事務所です。そういう方たちは、お客様とのつながりをすごく大事にしてきた人たちなんですね。長年の信頼関係や、良き相談相手としての姿勢。そこは自分たちも見習い、維持して継承していく部分です。AI時代には、そうした関係性がもっと重要になると思っているので、これは財産だと捉えています。

一方で自分たちの代としては、いままでの良い仕事はもちろん続けながら、内部では属人化していた部分やデジタル化が進んでいなかった部分を、どんどん効率化できる体制にしていきたい。スタッフの残業を減らして、プライベートの時間をちゃんと作ってあげたいですし、そうして生まれた時間で、今度はお客様とのより深い対話や、将来に向けた提案に集中できると思っています。築いてきた関係性は変えずに、そこに集中できる環境を作っていく。それが自分の考えです。
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農地も、土地勘も——地元だからこそ寄り添える相続

相続も、UPWARDの強みのひとつと伺っています。改めて、その背景を教えてください。

笠岡:
もともと父が国税の資産税課出身で、開業当初から相続の専門性を打ち出して基盤を作ってきてくれました。地域の他士業とのネットワークもあって、「相続だったらあの事務所だよね」というイメージを作ってきてもらえたことが大きいですね。年間40件を超える相続税申告に対応してきています。

それから、地方特有の事情もあります。宅地の評価だけではなく、農地など特殊な不動産をお持ちの方が多いんです。そうした地主の方々とのつながりが多く、将来の資産承継に向けた不動産の管理といったお悩みにも、たくさん対応してきました。相続税評価には、土地勘がないと気づけない部分が確かにあります。だからこそ、相続も地元でやることが大事なのだと思っています。
まず自分たちが変わる——山陰唯一のfreee5つ星認定アドバイザーとして

freee導入の取り組みについて、もう少し詳しく伺わせてください。地方ならではの事情もあるのでしょうか。

笠岡:
「こういうツールを入れてみたい」というお客様は、実はいらっしゃるんです。ただ、都市部と違って、ベンダーさんと直接会えるとか、バックオフィス業務を効率化するシステムを扱う会社との接点が、そもそも少ない。そうなると、地方で中小企業にいちばん近い存在は税理士事務所なんですよね。自分たちにはそういう役割もあると思っています。

だから、まず自分たちが積極的に取り入れて、小さな成功体験を積み重ねる。そこで蓄積したノウハウやつながりを、お客様に提供していく。自分たちの効率化がメインではありますが、地域に還元するところにも重きを置いています。

統合後の新しい体制でも、その動きは始まっているのですか。

笠岡:
はい。私がもともといた拠点は、ほぼすべてのお客様がfreeeを使っています。統合した拠点は従来型の会計システムのお客様がまだ多いのですが、これまではどうしても、税理士側が決めたソフトをお客様に使っていただく形になりがちでした。お客様にとって良い選択肢をご提示したいと思っているので、ご希望があればfreeeへの移行をご提案しますし、いまのシステムのままでも、別のツールを組み合わせればもっと業務効率を上げられるケースもあります。実際、統合してすぐに何社か動いてくださっていて、「5つ星なら自分もfreeeを使ってみたかった」というお客様や、担当者からの提案に「ぜひ興味があります」と応えてくださるお客様もいました。

毎月お客様と面談しているからこそ、月次の監査だけではなく、お悩みを伺って次回に回答を持っていくことができます。何でも屋になる必要はないと思いますが、税務会計以外の観点でもお客様に喜んでいただける、地方ならではの関係性を作っていきたいですね。
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「UPWARDと一緒にやりたい」と選ばれる組織へ——同世代とつくる山陰の未来

最後に、5年後、10年後に向けて描いている未来像を聞かせてください。

笠岡:
これからこの地域を担う経営者さんやスタッフから、「UPWARDと一緒にやりたい」と選んでもらえる組織にしていきたいです。一緒に山陰の未来を作っていける組織ですね。そのためには、まず自分たちからです。ちょうど統合したところなので、組織の環境改善に自ら動いて、実行していく。実際、私が使っていたシステムやツールを全体に少し落とし込んだだけでもスタッフが「変わった」と実感してくれて、職場全体で更に前向きに取り組んでくれるようになりました。

事務所名のUPWARDには「上に向かっていく」という意味を込めています。共に向上して、未来に向かって成長していきたい。「UPWARDと組めば、もっと前向きに、未来を見据えて新しいことに挑戦できる」。そう思ってもらえる事務所にして、山陰で面白い事業に取り組んでいる企業さんを、一社でも多く伴走支援していきたいです。

山陰の税理士業界全体についても、想いをお持ちだと伺いました。

笠岡:
税理士業界は平均年齢が高くて、60歳を超えるとも言われています。そんな中で先日、この地域の30〜40代の税理士で勉強会をしようという流れができて、13名ほど集まりました。そこで出たのも、「昔ながらのやり方だけではだめだよね」「地域で若手税理士の価値をもっと高めていきたいよね」という話です。

せっかく希望を持って起業しても、記帳代行と税務申告のみでは、その成長を十分には支えられません。税理士事務所自身が本業に集中できる環境を整え、財務から税務まで幅広くサポートしていく必要があると思っています。自分の事務所だけを大きくしたいわけではなくて、同世代の皆でこの業界を盛り上げて、地方から適切なサポートができる税理士事務所を一つでも増やしていきたい。税理士法人になったからには、税理士2名だけではなく、もっと幅広い対応ができるよう組織を強化していきたいですし、機会があれば誰かと一緒になって強くしていくことも、選択肢のひとつだと思っています。
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取材後記

「まず自分たちが変わる」。取材を通じて、笠岡さんが一貫して語っていたのはこの姿勢でした。山陰唯一のfreee5つ星認定アドバイザーという実績も、地元同士での統合という決断も、すべては「自分たちが先に変わり、その変化をお客様と地域に届ける」という一本の軸につながっています。

印象的だったのは、「若手税理士というだけでは価値にならない」という言葉です。都会への憧れから一度地元を出て、戻ってきたからこそ見える地方のリアル。その上で、嘆くのではなく、自らの強みを作り、同世代の税理士たちと勉強会で刺激し合いながら、地域全体の底上げまで視野に入れる。UPWARD=「上に向かっていく」という名のとおり、地に足をつけながら上を向く経営者の姿がそこにありました。

「一緒に変わっていけそうだ」。山陰でそう感じられる税理士を探している経営者の方に、ぜひ読んでいただきたい取材でした。

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