事業承継「絶対支援」 ——非親族承継を経た代表の覚悟。金沢・北陸第1号の税理士法人中山会計

小嶋 純一(こじま じゅんいち):税理士法人中山会計 代表社員税理士
横浜の大学を卒業後、税理士法人中山会計へ入所。2022年9月、代表社員税理士に就任。税理士法人中山会計は1967年創業、2002年に北陸地域第1号の税理士法人として法人化。2027年に創業60周年を迎える。
宮田:まずは、中山会計さまの現在の体制と、お客様層からお聞かせください。
本社は金沢市に置いていまして、2021年に開設した駅西店と合わせて、現在は約60名の体制になります。正社員とパートのメンバーに加えて、税務調査の局面でお力をお借りする税理士の先生方が4名、地元のIT企業から週2回出向して来てくださる方、そして東京に在住の外注メンバーが2名と、関わってくださっている方を含めますと、もう少し広い陣容で動いています。
社内の体制としては、お客様対応をメインに担う「会計部」がいちばん大きく、人員の8割ほどがここに所属しています。そのほかに、税務という名前ながら実際にはほとんどが資産税の領域を扱う「税務部」が5名、担当を持たずに補助金やIT化、MAS監査などのプラスアルファのご支援を担う「支援部」が4名、そしてバックオフィスを担う「総務部」が4名、という構成です。
宮田:北陸地域で第1号の税理士法人として2002年に設立され、来年で創業60周年を迎えられます。
はい、1967年に創業者の中山が開業しまして、2002年に北陸第1号の税理士法人として法人化しています。歴史の重みは私自身がいちばん感じている部分でもありまして、お客様にも従業員にも、その重みを次の世代へきちんとお渡ししたいと思っています。

宮田:小嶋先生ご自身は、どういった経緯で税理士の道に入られたのでしょうか。
税理士を目指そうと思ったのは、大学4年生のときでした。大学は横浜にありまして、いったんは就職活動も考えたのですが、内定期間のオリエンテーションで、自分の将来があまりに見えすぎてしまうように感じてしまったんです。面白みを感じられない、というのが正直なところでした。
原点に立ち返ってみますと、私はもともと経営者になりたいという気持ちがありました。ただ、自分自身に特別なスキルがあるわけでもなく、家業を継ぐ立場でもなかったので、何かライセンスを持ったほうがいいのではないかと考えました。当時は雑誌を読んでいたのですが、その中で税理士という仕事は、納税のサポートにとどまらず経営の支援にまで踏み込める仕事だと知り、加えて難関資格としてのやりがいもある、というところに惹かれました。
宮田:そこから、どのように中山会計に入られたのでしょうか。
大学をそのまま卒業しまして、試験勉強に専念しました。アルバイトをしながらTACに2年間通い、2年で5科目合格を目指すパックを本気で受けていたのですが、結果としては2年で1科目しか受からなかったんです。働くことも視野に入れて実家のある金沢に戻ったのですが、当時の私の経歴では、事務所経験者や科目合格者という基準が高く、就職のイメージがなかなか湧かない状況でした。25年ほど前の話になります。
そうしたタイミングで、たまたま中山会計がパートの募集を出していました。いったん中に入ってしまえば「経験者」と言える、というのが当時の私の判断でした(笑)。そこから科目合格を積み重ねて正社員になり、マネージャ、統括マネージャ、役員、常務、専務、社長というステップを、一段ずつ踏ませていただいた、という流れになります。節目ごとにやることが少しずつ変わってきた、というのが実際のところです。

宮田:2022年9月に代表社員に就任されました。創業家以外への承継というのは、北陸でも稀有なご決断だったと思います。「自分が代表をやる」と腹を括ったタイミングを教えてください。
前代表者には親族はおりましたが、後継者という立場の方はいませんでした。前代表者からも、常々「誰か別の人間に」というお話をされていたんです。ですので、私の中ではかなり早い段階から、「自分でやる(独立する)か、ここを継ぐか」の2択として整理されていました。先ほどお話しした、役員から常務、専務と進んできたステップを踏んでいきましたので、自然と「自分なのかな」という気持ちには近づいていきました。
宮田:引き継ぎの過程で、いちばん気を配られたこと、あるいは感謝されていることはありますか。
実は、気を配ったことは多くなかった、というのが正直なところです。逆に、気を遣わなくてよかったとも言える状況でした。私はもともと経営者になりたいと考えていた人間ですし、自分で事務所を立ち上げる選択はいつでもできる、という整理もありました。
ただ、ここで私が動かないと、いくつかの責任を引き受ける人がいなくなる、という現実がありました。中山会計は来年で60年です。私が自分でゼロから立ち上げていたら、この規模・この歴史にはたどり着けません。それから、お客様への影響もあります。私が辞める判断をすれば、お客様は新しい事務所に行くか、中山会計に残るかをご自身で決めないといけなくなります。これは、お客様にとってハッピーな状況ではありません。従業員も同じで、自分が採用して育ててきたメンバーもいる中で、彼らの居場所をなくしてしまう選択は、私の中では選びにくいものでした。
会長への感謝としては、一つはパートだった私を拾ってくれたこと、もう一つは、私が社長になってから口を出してこないこと、この二つが本当にありがたいと感じています。
宮田:創業者の中山博先生、前代表の中山雅人先生から、明文化されていない”中山会計らしさ”として受け継いだものは何でしょうか。
これは、「自由にやらせてもらえる」という文化です。私はパート時代から現在に至るまで、本当に自由にやらせてもらってきました。これはとても良いことだと思う一方で、自由だからこそのプレッシャーもあると感じています。だからこそ、人としての成長もできる文化だと思っています。
これを是認するのは、代表者として相応の覚悟が要ります。それでも、私自身を振り返ったときに、自由にやらせてもらえたからこそ育ってきた側面が大きい、という実感がありますので、ここは代表となった私がいちばん大事にしたい部分だと思っています。

宮田:親族外承継をご自身で経験されたからこそ、お客様の事業承継支援で「ここは絶対譲れない」と思われていることは何ですか。
私たちは、事業承継を「煽る」ことはしていません。たとえば、現社長が亡くなるまで自分でやりたい、というお気持ちであれば、「やったらいいですよ」とお伝えしています。もちろん対外的には、60歳になったら早めの対策を、というお話はメンバーから出しているはずです。ただ、ご本人の中にまったく承継のイメージがないときに、こちらから無理に動かすことはしません。
私の感覚としては、今の会社を作り上げてこられたのは、ほかでもない今の社長です。ですから、その社長がやりたいようにされるのを、私たちはサポートすべきだ、というのがスタンスです。煽って動かすのではなく、社長ご自身の中で「考えたい」というスイッチが入ったタイミングで、具体のお話に入っていく——この順番を、私はとても大事にしています。
宮田:「煽らない」を貫きながら、現場ではどのように事業承継のお話に入っていかれるのでしょうか。
私はずっと現場主義です。他の税理士法人の代表の方々と比べても、私は圧倒的に現場主義のほうだと思っています。代表になってからも、お客様にお会いする時間は、自分のスケジュールの中でいちばん大事にしてきた部分です。
そのうえで、お客様にお会いするときに何より意識しているのが、「忙しいと思わせない」ことです。代表が分刻みのスケジュールで動いているように見えてしまうと、「先生、お忙しいでしょうから」と社長は遠慮されてしまって、本当に話したいことが言葉になりません。ですので、お会いするときは、こちらの予定をきちんと整えたうえで、ゆっくり、しっかりお会いする——そこは徹底しています。
宮田:そのなかから、事業承継の会話は、どのように立ち上がっていくのでしょうか。
たとえば、社長が「自分は90歳までやりますよ」とおっしゃる場面は、よくあります。そこで、私は否定はしません。代わりに、「90歳までやられるとして、その間の採用はどうしましょうか」と、社長と一緒に少し具体に踏み込んでみるんです。「最近は、紙の求人を見て応募してくる時代ではないですよね」と、いまの世の中の感覚も共有しながら。
そういう会話を重ねていきますと、ある時点でふっと、「もし自分が亡くなったら、どうなりますかね」というご質問が、社長ご自身の口から出てくる瞬間があります。これはこちらから誘導したものではなくて、ゆっくり、しっかりお話ししてきたからこそ、社長の中で順番に整理が進み、自然と出てきたご質問です。
そこで、「では、いまやれることを、一つずつやっておきましょう」という具体のお話に入っていきます。煽って入るのではなく、社長ご自身の中で「考えたい」と思われたタイミングで、初めて具体の支援に踏み込む——これが、ゆっくり、しっかりお会いし続けることで作っている、私たちの現場の進め方です。
宮田:代表メッセージとして「事業承継絶対支援」を掲げていらっしゃいます。これを現場のプロセスに落とすと、どのような動きになっているのでしょうか。
旗印として全社で「事業承継絶対支援」を掲げて、メンバーには支援に必ず立ち会うという話をしています。そのうえで具体的な動きとして、株式評価を全社標準として行う運用にしています。
通常の決算業務だけを回していると、株式評価という数字はそもそも出てきません。そこを意識的に出すように標準化しまして、毎回お客様に「今の貴社の株価はこうなっています」とお伝えするようにしています。今のタイミングで株を移したほうがいいのか、移すとしたら誰に移すのか——こうした会話のフックを、株価という具体的な数字から作っていく形です。そこから、具体の事業承継のお話に進んでいくケースがたくさんあります。
宮田:北陸エリアの事業承継の傾向として、感じていらっしゃることはありますか。
金沢を含めた北陸の特徴として、情報の入り方は少し遅い、という感覚はあります。日本全体で流行っているもののキャッチが、地域に届くまでに時間がかかる傾向があると感じます。
ただ、遅れてやって来ることは必ず来る、というのが私の見方です。金沢は特にそうなのですが、ローカルではあるものの、決して「アンチ都会」の土地ではなく、都会であろうとしている街なんです。だいたい2〜3年ほど前に流行ったものが、いまの金沢に入ってきます。そして、金沢で進み始めると、その後で周辺の市町村が反応していく、というかたちで広がっていきます。事業承継のテーマも、こうした波の中で、少しずつ「自分ごと化」される経営者の方が増えてきている印象です。
宮田:後継者問題を抱えていらっしゃる経営者の方が、最初の一歩として何を始めるべきだと、お伝えされていますか。
後継者問題は、すべての税理士が得意なわけではない領域だと、私は思っています。ですので、まずは得意な方に1回ご相談いただく、というのは非常にいいことだと思います。
普段使いされている顧問の先生はそのままお付き合いされながら、特殊で大きなイベントの局面では、ほかの専門家にも頼ってみる——そういうパートナーを並行して置きながら考える、というのはとても大事なことだと感じています。私自身、富山や加賀方面まで、事業承継のスポット相談に伺うことが多くあります。地域の中に、相談できる相手をもう一つ持っていただく、という考え方で十分だと思います。
宮田:来年2027年で創業60周年を迎えられます。どんな節目にされたいですか。
この10年、私たちは新卒採用を仕込んできました。いまのスタッフの半分は、新卒で入ってくれたメンバーです。そして、10年キャリアのメンバーがどんどん出てくる時期に差しかかっています。ここから先、お客様への還元の幅が一気に広がっていく、という手応えを感じています。
具体的な展開で言いますと、これまで中山会計は金沢を中心に活動してきましたが、近隣エリアへの展開も視野に入れています。富山や福井です。M&Aも一つの選択肢として考えていますし、それを待たずに、自分たちで出していく道も考えていきたいと思っています。これは、採用の選択肢を広げるためでもありますし、メンバーの働く場所という観点でもあります。富山出身のメンバーもいますので、地元の近くに職場があれば、そのほうが本人にとっても良い環境になるはずです。

宮田:採用サイトの「自分だけのストーリー/個性の追求」というメッセージが印象的でした。中山会計が育てたい人物像、欲しい人物像はどんな方でしょうか。
これは社内でもいつも議論になるところなのですが、私の中で「こういう人がほしい」というものは、あまりカチッとは固まっていません。採用面談にも出ていますが、見ているのは「この会社で長く働けるかどうか」というところです。
「なんとなく会計事務所で働きたい」というぼやっとした動機ではなく、「自分はどういう事務所が良いと思っているか」というところまで言葉にできるかどうか。そこが私たちの方向性とすり合っていれば、私はその方を採用したいと思っています。
それから、私はやはり個性がある方ほど武器になると思っています。標準形のメンバーだけが増えていく組織は、面白くなくなってしまいますので。会社が自分に何を期待していますか、と聞いてくるのではなく、自分で考えて、自分でやりたいことを掲げてくれる人であってほしい、という気持ちが強いです。
たとえば、対人関係が苦手な方は、税理士として独立するのは難しい部分もあると思います。けれども、組織の中であれば、メンバーに支えられて、その方の専門性を最大限に発揮していただけるシチュエーションがあります。昔はテトリスのような感じだと表現していたのですが、それぞれの形がうまくハマって、全体で見るときれいに揃う——そういう組織を作っていきたいと思っています。
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取材後記
「自分の中では、独立するか、ここを継ぐかの2択でした」——インタビューの序盤で小嶋先生が淡々と語られたこの一言が、お話を伺い終えたあとも、いちばん深く心に残りました。創業家以外の人物が、北陸第1号の税理士法人を率いる立場を引き継ぐ、というご決断の重みを、本人がここまで自然体で受け止めていらっしゃる姿に、現場で積み上げてこられた25年の年輪を感じました。
特に印象に残ったのは、「事業承継を煽らない」というスタンスです。代表メッセージとして「事業承継絶対支援」を掲げていらっしゃる事務所が、現場では「現社長が亡くなるまでやりたいなら、やったらいい」と寄り添うところから入る——この振り幅の大きさが、中山会計の現場主義の正体なのだろうと感じました。そして、そのフックとして株式評価を全社標準にされている運用は、抽象的な旗印を具体のプロセスに落とし込まれている良い例だと思います。
来年2027年、創業60周年。バトンを受け取った代表として、これから一気にお客様へと還元されていく時期に入られると伺いました。北陸で後継者問題を抱えていらっしゃる経営者の方、そして「自分だけのストーリー」を持って税理士の道を歩みたい有資格者の方に、ぜひ手に取っていただきたいインタビューになりました。
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