「地元広島の中小企業を元気にしたい」——税理士法人山根総合会計事務所が60名・600社で実装する社外CFOという解

山根 陽介(やまね ようすけ):税理士法人山根総合会計事務所 代表社員/税理士
1980年広島市生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、辻・本郷税理士法人、髙野総合会計事務所で税務とコンサルティングの実務を積み、2013年に広島で独立。2021年に税理士法人化し、現在は社員約60名・顧問先約600社の事務所を率いている。税務顧問に加えて財務コンサルティング(社外CFO)も担い、年間6,500万円規模の社外CFO業務を地元・広島の経営者に届けている。13年連続で売上を伸ばしながら、数値目標ではなく「唯一無二のサービスができるコンサルティングファームになる」をビジョンに掲げ続けている。
まず、事務所の全体像と、いま最も力を入れていらっしゃることを教えてください。
本店は広島市中区に置いてあり、現在は社員約60名、顧問先約600社の規模になります。お客様は起業1年目の創業期の方から、年商100億円を超える企業様、業歴100年を超える老舗企業様まで、本当に幅広くお付き合いをさせていただいています。
私たちが軸にしているのは、税理士法人としての税務顧問業務と、もう一つは財務コンサルティング、いわゆる社外CFOのサービスです。社外CFOの売上は年間で7,000万円ほどになっていまして、税理士事務所のなかで、税務以外の単独サービスがこの規模に育っている例は少ないと感じています。だからこそチャレンジしていきたいと感じています。
「地元である広島の中小企業を元気にしたい」という言葉を、繰り返し公表されています。
これは、私が独立した2013年からずっと変わっていないモチベーションです。私自身、広島で生まれ広島で育ちましたので、地元の経営者の方々にとことん向き合いたい、という気持ちが事業の出発点になっています。

山根先生はお父様も税理士でいらっしゃいますが、最初から跡を継ぐおつもりはなかったと伺いました。
父のことは尊敬していたのですが、最初は、父の背中を見て「税理士はなんだかよく分からないけれど良さそうな仕事だな」というくらいの軽い気持ちでした。私は早稲田大学の政治経済学部にいて、当時は普通にマスコミや上場企業を志望していたんです。
ただ、父からあるとき急に税理士のパンフレットが送られてきて「これを勉強するように!」と暗に言われまして、その流れで勉強を始めたのが入り口でした。スイッチが完全に入ったのは、辻・本郷税理士法人に入って実務を始めた瞬間です。ご家族にも話さないようなすべての資料を、税理士は見せていただけて、しかもそこに伴走できる——こんなにいい仕事はないと思いました。同時に、税金の計算は一円のミスも許されない、責任の非常に重い仕事だということも、肉体的なハードワークも含めて痛感しました。
辻・本郷税理士法人時代に得たもののなかで、いまもずっと指針になっている言葉はありますか。
本郷先生のお言葉で、「税務にこだわるな、されど税務から離れるな」というものがあるんです。税理士が税務だけにこだわってはいけない、けれども必ず税務を軸にお客様に貢献しなさい、という意味だと受け取っています。この言葉は、いまの自分の事業の根幹にずっと当てはめさせていただいています。
その後、税理士法人髙野総合会計事務所に移られたのは、どういう理由だったのでしょうか。
理由はとても明確で、税務だけでは本質的にお客様を救えないと感じたからです。リーマンショックの局面で、クライアントの損益計算書が明らかに悪くなったとき、税務の話だけでどうアドバイスができるだろうか、と悩みました。髙野総合会計事務所は事業再生に非常に強い会社でしたので、税務を超えたコンサルティングのスキルを身につけたい、という思いで転職をさせていただきました。いまでもこの2つの事務所には、本当に感謝しています。会計人としての足腰や考え方の土台は、この2つの事務所で教えていただいたと思っています。
2013年に独立されますが、最初からお父様の事務所を継ぐ形ではなく、ご自身でゼロから立ち上げていらっしゃいます。この選択の背景を教えてください。
父の事務所は、当時は社員10名ほどで、いわゆる「街の税理士事務所」と呼ばれる規模感でした。所長と担当者の方々で回していく形ですね。一方で私がやりたかったのは、税理士事務所はこれからコンサルティングファームに変わっていかなければいけない、という考えを軸にした組織でした。税務だけではクライアントを救いきれない、という自分の体験から来ている確信でした。
そうしますと、父の事務所に副所長として入って何かを変えていく、というやり方では、おそらくその組織は作れません。ですから、ホームページを自分で立ち上げて、理念を載せて、独立直後からすぐに新卒採用に動きました。社外CFO、つまりクライアントのCFOになるべき税理士、という組織のコンセプトを、ゼロから作るということを決めたかたちです。父のことは尊敬していましたし、いまもしていますが、自分が作りたい組織はその延長線上にはありませんでした。
独立から2年後の2015年に、お父様の事務所と統合されています。これは順調に進んだのでしょうか。
ありがたいことに、独立直後からお仕事を増やしていただいて、お客様も人員もどんどん増やしていく途上だったので、統合自体の負担はそれほど大きくありませんでした。一方で、経営のことを真剣に考える人間が2人いる状況になりますから、考え方のずれは当然ありました。両方とも不正解ではない、けれども異なる2つの方向性をどう一つにまとめるか——この経験は、ゼロからの起業家の方々に比べると、自分は多めに通ってきたかもしれません。
ただ、これはいまとなっては、本当にやってよかった経験だと感じています。事業承継のご相談をお客様からいただいたときに、「親子で組織を一つにする難しさ」を自分自身が体験しているので、両方の気持ちが分かるんです。私はよくお客様に「自分が実験台になります」とお伝えしているのですが、自分が体験したからこそ伝えられることがある、と思っています。
独立から13年、ずっときれいに伸び続けてこられているように外からは見えます。事業の根っこにある考え方を、改めて言葉にしていただけますか。
私たちが根幹に据えているのは、「クライアントファースト」という言葉です。税理士は専門職ではありますが、私たちはサービス業でもあると思っています。お客様に喜んでいただくこと——これが、絶対に必要な軸だと考えています。
最近、世の中の求人を拝見しますと、「残業はありません、土日祝も全部お休みです」という打ち出しが増えてきました。働き方として大切なのはもちろんなのですが、私が逆に何かを依頼する立場で考えると、例えばですが、「土日はしっかり休んでいてあまり最新の医学について学んでいません」というドクターより、「土日もご自身で勉強をしていらっしゃるドクターにお願いしたい」というのが正直なところです。私たちはサービス業として「クライアントファースト」を掲げる以上、専門家としての矜持を持ち続けることも、同じくらい大切にしたいと考えています。
そのスタンスをぶらさずに置いているからか、社員には勉強意欲のあるメンバーが多く集まってくれています。20代で税理士登録までたどり着いてくれているメンバーもいます。専門家としての自己研鑽と、顧客本位で物事を考えること——この2つを徹底することで、結果としてご紹介がずっと続いてきた、という実感があります。

いまの事務所を語るうえで、財務コンサルティング、いわゆる「社外CFO」のサービスは欠かせない柱になっています。これはどういうきっかけで始まったのでしょうか。
いちばんのきっかけは、コロナ禍です。2020年に、リーマンショックのときと同じく、お客様の損益計算書が一気に悪くなる局面に直面しました。赤字になってしまったお客様には、もう法人税の話では救える幅がほとんどありません。
ただ、資金調達、資産運用、補助金のサポートといった財務面の論点は、まだ救える幅が大きく残っていました。お客様の資金繰りを整え、いまある資金の活用方針をご一緒に考え、補助金の獲得を支援する——これらを総称して、私たちは「財務」と呼んでいます。この財務面のサポートを徹底したことで、コロナ禍でも倒産されたクライアントを出さずに済みました。
「税務にこだわるな、されど税務から離れるな」——冒頭で申し上げた本郷先生のお言葉を、自分自身がもっとも深く痛感したのが、このタイミングでした。税理士の守備範囲はここまで広いんだ、ということを、現場で改めて身をもって学ばせていただきました。
社外CFOを始めるにあたっては、ご自身が現場のプレイヤーに戻られたとお聞きしました。
はい。税務の領域は、ある程度のチェックや守りの仕事を中心に、メンバーに任せていける体制を作れていました。ただ、社外CFOを立ち上げる局面では、自分が完全にプレイヤーに戻り、がっつり現場でお客様に伴走する、というかたちを選びました。極論、自分一人になっても続けられる状態を作ることを、自分のなかで大切にしています。私は経営者になりたいわけではなくて、専門家として現場にいたい、という気持ちのほうがずっと強いのだと思います。
広島の地で60名規模の組織を維持されていることに、率直に驚きました。採用と育成で、どんなことを大切にされていますか。
大前提として、「自己研鑽をしたい」と思える方を、入口の段階で選ばせていただく仕組みにしています。勉強をしたくない方は、そもそも入口で入らない設計にしているイメージです。
そのうえで、入社いただいた方には1人ずつメンターをつけて、年次の近い先輩が伴走するかたちを取っています。研修も外部に任せず、私自身が講師に入ったり、ベテランのメンバーが講師を務めたりして、研修の内製化を徹底しています。例えば、サッカーや野球の強豪校は、そもそも「ここで本気でやりたい」という方が集まる場所ですよね。私たちもそういう「登りたい山が同じ方」が集まる組織でありたいと思っていますし、そのために自分自身が大学や専門学校に出向いて、採用活動を行っています。採用は経営者にとってのトップ営業だと位置づけて、いまも自分が動いています。
税理士向けに「社外CFO養成講座」を開講されているのも、同じ考え方の延長でしょうか。
おっしゃるとおりです。私たちが直接お会いできるお客様の数には、どうしても限界があります。けれども、社外CFOの考え方やノウハウを共有させていただいた税理士の先生方が、それぞれの地域でお客様にサービスをお届けくださるなら、結果として届けられる企業の数は何倍にも広がります。同業の先生方に対しても、自分たちが、学び、そして実践してきた軌跡とリソースをオープンにしていきたい、というのが、この講座を続けている理由です。

広島の中小企業の経営環境について、肌感覚でどんな変化を感じていらっしゃいますか。
いちばん大きいのは、やはり人口減少です。広島で生まれた若い方々の多くが、東京や関西の大学に進学して、そのまま戻ってこない、という構造があります。そうなると、企業様としても採用が難しく、規模を伸ばしづらい局面が確実に増えていく、と見ています。
その状況のなかで、税務だけでは救えない課題が、これからはもっと増えていくと考えています。だからこそ、資金調達や資産運用といった「いまある資金を使って収益を生み出す仕組み」を、企業様の中に導入していくことが必要になります。私たちはこれを、「PL(損益計算書)だけではなく、BS(貸借対照表)を活用する」という言い方で社内外にお伝えしていまして、社外CFOの中核に据えているコンセプトの一つです。
事務所として、中期経営計画や数値目標は掲げていらっしゃいますか。
実は、開業時から数字の目標は持っていないんです。理由はシンプルで、売上を伸ばすこと以上に、サービスの質を保つことのほうが、最後にはずっと大切だと思っているからです。
そのうえで、事務所として掲げている方向性は、「唯一無二のサービスができるコンサルティングファームになる」ということです。たとえばドクターの世界では、「このオペはこの先生にしかできないから、全国、ときには全世界から人が頼って来る」という方がいらっしゃいますよね。私たちが目指している理想形も、実はそこにあります。マーケティングに頼らずとも、課題を抱えた経営者の方が口コミで話を聞きに来てくださるようになる——その状態を本気で目指しています。
論語と算盤ではないですが、利益を追うことと顧客に喜んでいただくことは、両方できたほうが必ず良くなります。事業も伸ばす、お客様にも喜んでいただく、根っこの考え方も持ち続ける——これを継続できれば、結果は自然についてくると思っています。実際、私たちは13年連続で売上を伸ばし続けていますが、それは数字を上に追ったというよりも、顧客満足度を追い続けてきた結果だと感じています。
外から拝見していると、山根先生は経営者として見られがちな立場にいらっしゃいます。一方で、ご自身はプレイヤーとしての感覚を強く持ち続けていらっしゃいます。これは意識して両立されているのでしょうか。
はい、両方を持ち続けることは、意識して大切にしています。経営者の視点だけで考えれば、「6時以降のクライアント対応は翌日に回す」と意思決定したほうが、残業も減って合理的なはずです。一方で、プレイヤーの視点で考えると、夜9時でも10時でも、社長さんが本当に困っていらっしゃるのなら、即レスでお応えしたほうがいい、という気持ちが私にはあります。
この二つは、確かに相反するんです。けれども、その相反するものをどうバランスさせるかが、経営の難しさであり、面白さだと思っています。「うちはホワイト企業です」と打ち出すのは簡単ですが、その代わりにお客様がすぐ知りたいときに対応できないのであれば、私たちが目指したい姿とは少しずれてしまいます。社員にも、このバランスのことはよく話をしています。
私がいちばん大切にしているのは、「自分が経営者だったら頼みたい事務所にしたい」という基準です。自分が経営者の立場で「この人にお願いしたい」と思える事務所はどんなサービスを提供しているか——それをいまもずっと考え続けています。
社員の方々が新規のお客様の増加をポジティブに受け止めている、というお話が印象的でした。
これは私自身、最近とても嬉しい変化として感じていることです。新規のお客様が増えると「また忙しくなる」と受け止めてしまう組織もあるかもしれません。ただ、お客様が頼ってくださる状態は、とても健全でありがたいことです。これを忘れない組織でありたい、と思っています。
具体的な例で言いますと、税務担当のメンバーから社外CFOチームへの「トスアップ」(顧客紹介)が、最近どんどん増えてきています。「このお客様は社外CFOに興味を持っていらっしゃるので、ぜひ説明に行ってください」と税務担当者がつないでくれる。すると、トスアップを受けた社外CFOチームのメンバーが、本当に喜ぶんです。「期待に応える仕事を絶対にしよう」と燃える。逆に、財務チームからは「トスアップしてくれた税務担当者の評価や報酬を、ちゃんと数字で見てあげてください」と私が頼まれるくらいです。
新規のお客様の増加を、組織全体がポジティブに捉えられる連鎖——これが、いま私たちが作ろうとしているサービスの姿です。まだ完璧にはできていませんが、その方向に進んでいる手応えは、確かに感じています。
これからの成長を考えたとき、いまの最大の課題はどこにあるとお感じですか。
これは間違いなく、AIを活用した業務効率化だと思っています。クライアントに直接触れない部分の作業を、いかに圧縮するか、というところです。
たとえば、これまで10時間かかっていた仕事が1時間で終われば、残りの9時間をすべてクライアント対応に充てることができるんです。年に2回しかお会いできていなかったお客様にも、財務コンサルティングのご提案ができるようになりますし、サービスのレベルそのものも引き上げられます。
私たちの仕事は、受注して終わりではなく、「頼んでよかった」と思っていただけるところまで届けて、初めて一つの仕事だと思っています。だからこそ、業務効率化はサービスの品質に直結します。社員にも「こんなに賢いAIがあるのに、なぜ私たちはまだ手で仕訳を打っているんだろう」と話しているくらいです。
時代に合わせて今後ますますサービス品質が磨かれていきそうですね。本日はありがとうございました!
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取材後記
「広島の中小企業を元気にしたい」——インタビューの冒頭から最後まで、山根先生のお言葉の端々から滲んでいたのは、独立から13年経ってもまったく色褪せていない、地元へのまっすぐな想いでした。辻・本郷税理士法人時代に出会った本郷先生の「税務にこだわるな、されど税務から離れるな」というお言葉を、コロナ禍の社外CFO立ち上げで自ら証明されてきたご経緯を伺い、長く一本の軸を持ち続けるご経営の凄みを感じました。
特に印象に残ったのは、新規のお客様の増加が、組織全体に「トスアップが起きるポジティブな連鎖」として波及している、というお話でした。新規受注を「また忙しくなる」と受け止めるか、「期待に応えよう」と燃えるかで、組織の未来は大きく変わります。山根先生が数値目標ではなく「唯一無二のサービスができるコンサルティングファーム」を掲げ続けていらっしゃる理由の一端に、ここで触れさせていただいた気がしました。
「税務だけでは救えなかったお客様を、財務まで踏み込んで救えた」——この実感を、税務の枠を越えた事業として制度化されているのが、税理士法人山根総合会計事務所の最大の強みだと感じます。広島で経営の伴走者を探していらっしゃる経営者の方、そして地域に根ざしながらサービスの幅を広げていきたい同業の先生方には、ぜひ手に取っていただきたいインタビューになりました。
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