新事業承継税制で自社株の相続税・贈与税をゼロにする方法を税理士が解説
非上場の自社株に高額な相続税がかかる問題を、新事業承継税制(特例措置)で解決できます。要件・デメリット・取消事由まで詳しく解説します。
事業承継とは何か――自社株問題が経営者を悩ませる理由
事業承継とは、後継者に会社をバトンタッチすることです。主にお子さんや親族であることが多いですが、社内で働いてくれている第三者に引き継ぐケースもあります。そのためには次のような準備が必要です。
- 中長期の経営計画の作成
- 後継者の育成計画
- 自社株対策(相続税の計算とも深く絡む)
相続税の計算では、個人の財産目録を作成します。現金・株式・不動産などのプラスの財産から、借金などの負債を引いた純財産に対して課税されます。財産が大きければ大きいほど相続税の負担も大きくなります。
会社を経営しているオーナー社長にとっては、自分の会社が上場していなくても自社株は立派な相続財産になります。ずっと黒字決算を続けて純資産がたくさん溜まっている会社では、株の評価が非常に高くなり、相続税の負担も非常に高くなります。
⚠️ 注意
上場企業の株と違い、非上場の自社株は簡単に換金できません。そのため相続税の支払い原資に充てることもできず、非常に悩んでいる中小企業が多いのが現状です。
📝 このセクションのまとめ
- 事業承継には経営計画・後継者育成・自社株対策の3つが必要
- 非上場の自社株は相続財産として高く評価されることがある
- 非上場株は換金できないため、相続税の支払いに困るケースが多い
新事業承継税制(特例措置)の仕組みと全体像
新事業承継税制とは、会社を引き継いだ後継者が事業の継続などの要件を満たすことを条件に、本来かかるであろう相続税・贈与税を全額猶予(一時保留)してもらえる制度です。さらに次の世代へバトンタッチができて初めて免除になります。
正式名称は「非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予・免除の特例」といいます。一般措置と特例措置がありますが、ここでは特例措置について解説します。
📌 特例措置の重要期限
- 2024年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出する必要がある
- 2027年12月31日までに贈与などを行う必要がある
バトンタッチの方法は贈与または相続のみです。株の売却やM&Aはこの制度の対象外となります。後継者は親族でなくてもOKです。また3代目がまだ確定していなくてもOKです。
所有株数の3分の2以上を渡さなければならないなど、株数に関する要件もあります。
具体的な手続きの流れは以下のとおりです。
- 中小企業が「特例承継計画」を都道府県に提出し確認を受ける
- 株式の承継(贈与または相続)を行う
- 都道府県知事の認定を受ける
- 特例承継計画認定書の写しとともに税務署へ贈与税・相続税の申告を行う
⚠️ 注意
承継計画を提出してバトンタッチしてもすぐに税金が免除されるわけではありません。あくまでも「猶予(一時保留)」です。次の世代へのバトンタッチができて初めて免除されます。また、猶予される税額に見合った担保の提供も必要です。
📝 このセクションのまとめ
- 相続税・贈与税を全額猶予し、次世代への承継で免除になる制度
- 特例承継計画の提出期限は2024年3月31日、承継実行期限は2027年12月31日
- バトンタッチは贈与・相続のみ(売却・M&Aは不可)
- 猶予税額に見合った担保提供が必要
4つの厳しい要件①――先代経営者と後継者の条件
新事業承継税制には非常に厳しい要件があります。大きく分けると次の4つです。
- 先代経営者と後継者の要件
- 会社の要件
- バトンタッチ後5年間守るべきルール
- 猶予から免除にするための要件
まず先代経営者(渡す側)の要件です。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 代表経験 | 過去に会社の代表取締役を経験したことがある |
| 筆頭株主 | 贈与または相続直前に会社の筆頭株主(株を最も多く持っていた)であること |
| 代表退任 | 贈与後において代表取締役ではないこと(代表を降りること) |
⚠️ 注意:代表権の有無に注意
「代表取締役会長」や「相談役」への就任は代表を降りることを意味するのでOKです。しかし「代表取締役会長」のように代表権を持ったままの役職はアウトです。登記上の肩書きをよく確認してください。
次に後継者(受け取る側)の要件です。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 年齢 | 18歳以上であること |
| 代表就任(贈与) | 贈与を受ける時点で代表取締役になっていること |
| 筆頭株主 | 贈与・相続を受けることで筆頭株主になること |
| 役員歴(贈与) | 贈与を受ける前に3年間継続してその会社の役員であること |
| 役員歴(相続) | 相続発生時に役員であること |
| 代表就任(相続) | 相続発生から5ヶ月以内に代表取締役に就任すること |
⚠️ 注意:株式移転と代表権移転の順番
先に株式だけを後継者に移してから代表権を移すのはアウトです。贈与の場合、代表就任が先であることを必ず守ってください。
贈与の場合は3年間の役員歴という要件があり、計画を立ててコントロールできます。一方、相続は緊急に発生するものなので、相続発生時に役員になっていないと手遅れになる場合があります。だからこそ、この制度を使おうと考えている方は事業承継計画を早めにしっかり練っておくことが重要です。気まぐれでできるほど甘い制度ではありません。とりあえずの後継者候補を先に登記しておくというのも一つの方法です。
📝 このセクションのまとめ
- 先代は代表を降りることが必須(代表権を持ったままはアウト)
- 後継者は18歳以上・筆頭株主・代表就任が必要
- 贈与は3年間の役員歴が必要、相続は5ヶ月以内の代表就任が必要
- 相続は緊急発生するため、早めの計画立案が不可欠
4つの厳しい要件②――会社の条件(中小企業・業種など)
会社の要件として、次の4つのいずれにも該当しないことが必要です。
- 上場会社(この制度は中小企業向けの特例)
- 中小企業者に該当しない会社
- 風俗営業会社
- 資産管理会社
「中小企業者」の基準は以下のとおりです。下記のいずれかを満たせば中小企業に該当します。
| 業種 | 資本金基準 | 従業員数基準 |
|---|---|---|
| 製造業・建設業など | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 小売業・サービス業など | 5,000万円以下 | 50人以下 |
なお、従業員数のカウントは基本的に社会保険加入者の人数で判定します。
資産管理会社の判定については、有価証券・自らが使用していない不動産・現金預金などの特定資産の割合が総資産の70%以上である会社が該当します。ただし例外があります。
📌 資産管理会社でも適用可能な例外
以下の3条件をすべて満たす場合は「事業実態のある会社」として制度を利用できます。
- 血縁関係のない従業員が5人以上いること
- 事務所・店舗・工場などがあること
- 3年以上事業を継続していること
不動産賃貸だけを行っている相続対策会社などはアウトです。
📝 このセクションのまとめ
- 上場会社・風俗営業会社・資産管理会社は対象外
- 中小企業の基準は資本金または従業員数で判定(業種により異なる)
- 資産管理会社でも従業員5人以上・事務所あり・3年以上の事業実態があれば適用可能
4つの厳しい要件③④――バトンタッチ後5年間のルールと免除の条件
バトンタッチ後5年間、後継者が守るべきルールがあります。これが「ガジガラメ」と言われる最大の理由です。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| ①代表者であり続ける | 後継者が会社の代表者であり続けること |
| ②株式の保有継続 | 会社の株式を保有し続けること |
| ③雇用8割の維持 | 承継時の雇用の80%を維持すること(後述の緩和措置あり) |
①の「代表者であり続けること」は、代表を降りられない理由として挙げられています。例外として、身体障害者手帳1級・2級または精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているなど、特別な事情がある場合はOKです。
③の「雇用8割の維持」については、以前はこの要件があるために制度が広がらないと言われていました。例えば10人の会社が8人を解雇して7人体制になった時点でアウトになるため、「何が起こるか分からない経済環境でそれは無理」と尻込みする経営者が非常に多かったのです。
📌 雇用8割維持の緩和措置(実質撤廃)
税制改正により、以下のように大幅に緩和されました。
- 雇用8割の維持は5年間の平均で判定するように変更
- 経営状況の悪化など正当な理由があれば、要件を満たせなくても打ち切りにならない
- 認定支援機関による雇用が減少した理由の所見記載が必要(手間はあるが回避可能)
事実上、雇用8割維持の要件は撤廃されたと考えてよいでしょう。
そして要件④、猶予から完全免除にするためには、後継者が次の代にさらに事業承継をすること(相続または贈与でバトンタッチ)が必要です。ここで初めて納税免除が確定します。
会社を廃業する場合は、5年間の経過後に廃業するのかどうかがポイントになります。会社を継続してバトンタッチしていかない限り、完全な税の免除にはなりません。
📝 このセクションのまとめ
- 5年間は代表を降りられず、株式保有継続・雇用8割維持が必要
- 雇用8割維持は税制改正で事実上撤廃(5年平均・正当理由で回避可能)
- 完全免除には次の世代へのバトンタッチが必要
新事業承継税制のデメリット①――途中で諦めると利子税が発生する
事業の継続が困難になり廃業してしまうと、猶予されていた贈与税・相続税を支払うことになります。さらに利子税(利息)が加算されます。
この利子税の利率は現在年0.7%で計算されます。また、5年経過後はその5年分の利子税は完全に免除されます。
📌 利子税を恐れすぎない
利率が0.7%と低いため、途中で猶予が打ち切られても大幅に税額が増えるわけではありません。それよりも納税するタイミングを遅らせることができるメリットの方が大きい場合があります。自社株の評価額が高ければ高いほど、この制度を申請するメリットは大きいと言えます。
📝 このセクションのまとめ
- 途中で廃業すると猶予税額+利子税(年0.7%)が発生
- 5年経過後は5年分の利子税が免除される
- 利率が低いため、可能性があるなら申請するメリットは十分ある
新事業承継税制のデメリット②――毎年の届出と専門家コストが大きい
M&Aができなくなるというわけではありません。M&Aをすると納税猶予がなくなるだけです。M&Aで会社を売却すれば、その資金で相続税・贈与税を支払える可能性が出てきます。
厄介なのが毎年の届出書の作成・提出です。最初の5年間は毎年、継続の届出書を都道府県と税務署の両方に提出しなければなりません。これはまあまあのボリュームがある届出書で、通常は税理士に依頼する形になります。
⚠️ 5年経過後の届出は「3年に1度」で失念リスクが高い
5年経過後は届出が3年に1度になります。一見楽に思えますが、3年に1度だと管理が甘くなり届出を忘れるリスクが非常に高くなります。届出を1日でも忘れると猶予が打ち切りになり、何ら救済措置はありません。しっかりとした管理体制が必要です。
また、この制度に対応できる専門家が非常に少ないことも大きなデメリットです。通常の税理士事務所でも対応できないケースが多く、事業承継税制に対応している事務所はさらに絞られます。肌感覚では対応可能な事務所は全体の1〜2割程度と言われています。
コストについても、自社株の評価額や削減額にもよりますが、100万円・200万円、あるいはそれ以上の費用がかかるのが一般的です。
📝 このセクションのまとめ
- 最初の5年間は毎年、都道府県と税務署への届出が必要
- 5年経過後は3年に1度の届出になり、失念リスクが高まる
- 届出を1日でも遅れると猶予が打ち切り(救済措置なし)
- 対応可能な専門家は全体の1〜2割程度、費用は100万円以上が一般的
様々な取消事由――5年以内と5年経過後で異なるルール
新事業承継税制には様々な取消事由(打ち切り要件)があります。承継後5年以内と5年経過後で異なります。
【承継後5年以内の取消事由】
| 取消事由 | 内容・例外 |
|---|---|
| 後継者が代表者でなくなった | 身体障害者手帳1・2級、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている場合は例外OK |
| 平均従業員数が承継時の80%を下回った | 経営環境悪化など正当な理由があり都道府県に報告すればOK(認定支援機関の所見記載が必要) |
| 後継者と同族関係者の議決権が総議決権の50%以下になった | 後継者が筆頭株主でなくなることを防ぐためのルール |
| 後継者以外の親族などが後継者より多く株を持った | 完全打ち切り |
| 納税猶予対象の株式を一部でも売却した | 完全打ち切り |
| 組織変更・会社の解散 | 完全打ち切り |
| 都道府県・税務署への届出を怠った | 1日でも遅れるとアウト(救済措置なし) |
| 資産管理会社に該当した | 完全打ち切り |
| 売上(収入金額)が0になった | 完全打ち切り |
| 資本金・準備金の額が減少した(欠損填補) | 完全打ち切り |
| 上場会社になった | 完全打ち切り |
| 風俗営業会社になった | 完全打ち切り |
⚠️ 登記懈怠による強制解散に注意
株式会社では役員の変更登記を行わずに12年間放置すると、強制的に登記上「解散したとみなされ」ます。当然この納税猶予は打ち切りになりますので、登記管理にも十分ご注意ください。
【5年経過後(免除確定まで)の取消事由】
| 取消事由 | 内容 |
|---|---|
| 納税猶予対象株式の一部譲渡 | 完全打ち切りではなく、譲渡・売却した株に対応する税額だけが打ち切り(5年以内より緩和) |
| 資産管理会社に該当することになった | 6ヶ月以内に資産管理会社以外に戻ればOK(緩和措置あり) |
| 本業の収入が0円になった | 利息・配当収入のみでもアウト |
| 税務署への届出を怠った | 3年に1度の届出を忘れるとアウト |
| 欠損填補など | その他細かい要件あり |
5年を経過すると、一部の取消事由から外れる項目も出てきます。例えば後継者が代表者を退任することや、筆頭株主でなくなることもOKになります。ただし完全にバトンタッチを次の後継者にしなければ納税免除には至りません。
📝 このセクションのまとめ
- 5年以内は取消事由が非常に多く、まさに「ガジガラメ」状態
- 5年経過後は一部の取消事由が緩和されるが、免除には次世代へのバトンタッチが必要
- 登記懈怠による強制解散にも注意が必要
この制度を使うべきか――自社株評価額で判断する
納税が免除になるという画期的な制度である新事業承継税制ですが、誰もが使うべきとは限りません。まずは自社株の評価額と相続税の試算を行い、税額がどれくらいになるかを確認することが先決です。
- 普通に払えるレベルの税額であれば、コストと時間をかけてこの制度を使う必要はないかもしれません
- 業歴が長く企業規模も大きい非上場会社は、自社株評価が何億・何十億になることがあり、この制度を検討するメリットが大きいです
一度この事業承継税制を選ぶとガジガラメになってしまいますが、必要性があれば検討する価値は十分あります。自社株の評価額が高ければ高いほど、最終的に税金を免除してもらえる可能性を残すことは大いなるメリットです。
📌 まとめ:新事業承継税制を検討すべき会社の特徴
- 業歴が長く、純資産が多く積み上がっている
- 非上場で自社株の評価額が数億円以上になる
- 後継者候補が明確で、長期的な事業継続の意思がある
- この制度に対応できる税理士事務所と連携できる
📝 このセクションのまとめ
- まず自社株評価額と相続税の試算を行うことが最初のステップ
- 税額が普通に払えるレベルなら無理に使う必要はない
- 自社株評価が高額になる非上場会社こそ、この制度の恩恵が大きい
- 対応可能な専門家を早めに探すことが重要
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。 本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
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