社員を業務委託にしてインボイスを取れば節税できる?税理士が解説する実態判定の落とし穴
インボイスを取らせれば業務委託になる、は大きな誤解。実態判定で雇用契約と認定されれば節税どころかペナルティのリスクがあります。
業務委託と雇用契約、2つの依頼方法とは
昨今あらゆる業界で人手不足が進んでいます。人に仕事を依頼する時、その依頼方法としては2パターンあります。
- 雇用契約:給与として支払う方法。受け取る側は会社員の立場として仕事をする。
- 業務委託(外注費):外注費としてその対価を支払う方法。受け取る側は会社員ではなく、個人事業主として活動する。
業務委託契約にした方が節税やあらゆる面で会社にとっての資金繰りが非常に有利になるということで、業務委託を好む経営者が非常に多くいました。ところが、この両者の境界線は非常に曖昧なのです。
この2023年10月にインボイス制度がスタートしたことで、「社員を業務委託に切り替えてインボイスを取らせれば、れっきとした個人事業主になり外注費として経費処理が可能なんじゃないか」というご質問が増えてきました。
⚠️ 注意
業務委託に切り替えてインボイスを取らせればいい、そんな簡単なことではありません。インボイスの有無は業務委託か雇用契約かの判断とは基本的に関係がありません。実態判定によって判断されます。
📝 このセクションのまとめ
- 仕事の依頼方法は「雇用契約(給与)」と「業務委託(外注費)」の2種類
- 業務委託の方が会社にとって資金繰り面で有利になるケースが多い
- インボイスを取らせるだけで業務委託になるわけではない
業務委託にするメリット・デメリットを整理する
物事の判断をする時は必ずメリット・デメリットの両面から比較することが大切です。
【会社側(発注側)のメリット】
- 消費税の節税が可能:給与として支払うよりも業務委託として支払った方が消費税の節税が可能になる(詳細は次セクションで数字を使って説明)
- 労働基準法の適用除外:社会保険への加入が不要。会社にとって社会保険料の負担は税金よりも非常に重たく、これが解消できるのは大きなメリット
- 年末調整が不要:雇用契約ではないため年末調整の手間がかからない
- 退職金の支払い義務なし:一事業者同士の対等なお付き合いとなるため、退職金を支払う義務は基本的にない
【働く側(受注側)のデメリット】
- 源泉徴収税率が高め:10.21%という税率が適用されることが多い(ただし業務の種類によって源泉徴収が必要なものと不要なものがある)
- 社会保険に自分で加入が必要:国民年金・国民健康保険への加入が必須となり、会社が保険料の半分を負担してくれることもない
- 自分で確定申告が必要:年末調整はなく、自分で確定申告をしなければならない。インボイス番号を取得した場合は消費税の申告も必要になる
📌 ポイント
業務委託は会社側にとってのメリットが大きい一方、働く側にとってはデメリットが多いという構造になっています。強制的に雇用契約から業務委託に切り替えさせることは、税務上の問題だけでなく労働問題にも発展するリスクがあります。
📝 このセクションのまとめ
- 会社側は消費税節税・社会保険料削減・年末調整不要・退職金不要などのメリットがある
- 働く側は源泉徴収税率が高く、社会保険も自己負担、確定申告も自分でやる必要がある
- メリット・デメリットを両面から理解した上で判断することが重要
数字で見る!業務委託にした場合の消費税節税効果
業務委託の最大のメリットである消費税の節税効果を、具体的な数字で確認してみましょう。
前提条件:売上1,000万円、人件費(給与または外注費)550万円、法人税率約25%、消費税率10%
| 項目 | ①雇用契約(給与)の場合 | ②業務委託(外注費・インボイスあり)の場合 |
|---|---|---|
| 売上 | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 人件費(税抜) | 550万円(消費税なし) | 500万円(外注費税抜) |
| 利益 | 450万円 | 500万円 |
| 法人税(約25%) | 約112.5万円 | 約125万円(約12.5万円増) |
| 受け取った消費税 | 100万円 | 100万円 |
| 支払った消費税(仕入税額控除) | 0円(給与は課税対象外) | 50万円(外注費500万×10%) |
| 納付消費税 | 100万円 | 50万円 |
| 合計税負担 | 約212.5万円 | 約175万円 |
📌 ポイント
雇用契約から業務委託に変えるだけで、この試算では約38万円の節税効果が生まれます。さらに、雇用契約の場合は会社負担の社会保険料も発生しますが、業務委託ではそれがないため、実質的なメリットはこの38万円をさらに上回ります。
なお、インボイス番号を取得していない場合は、この50万円の仕入税額控除を引くことができませんので、消費税の負担は同じく100万円となります。ただし経過措置として、インボイスがない場合でも当初3年間は支払った消費税の80%を控除することができるため、一定のメリットはあります。
📝 このセクションのまとめ
- 給与は消費税法上「課税対象外」のため、仕入税額控除ができない
- 業務委託(外注費)はインボイスがあれば消費税を控除でき、今回の試算では約38万円の節税効果
- 社会保険料の削減も加えると実質的なメリットはさらに大きくなる
- インボイスなしでも経過措置として当初3年間は80%控除が可能
インボイスがあれば業務委託と認められる?実態判定の判断基準
ここからが本題です。「インボイスを取っているということは自営業として認められたんでしょ?インボイスを取ればとりあえずOKでしょ」と言われる方が多いのですが、それは間違いです。
業務委託か雇用契約かは、インボイスがあるかどうかではなく、「実態判定」によって判断されます。以下の表に判断基準をまとめました。
| 判断基準 | 雇用契約(給与)の特徴 | 業務委託(委任契約)の特徴 |
|---|---|---|
| 業務遂行の拒否権 | なし(会社から指示された仕事は基本的に断れない) | あり(案件を選択・拒否できる) |
| 会社への専属性 | 高い(基本的に一社専属) | なし(複数社と取引可能) |
| 勤務場所の指定 | あり(指示された場所で働く) | なし(どこで仕事をしてもよい) |
| 勤務時間の拘束 | あり(9時〜17時など) | なし(自己責任で自由に設定) |
| 報酬の算定根拠 | 時間基準(時給・月給制) | 成果・案件基準(1案件いくら) |
| 請求書の有無 | なし(給与明細が発行される) | あり(請求書の発行が必須) |
| 業務の指揮監督 | 強め | 弱め |
これらの要素を総合的に判断して、実態がどちらに近いかを見ていくことになります。
【建築業界の事例】例えば建築業界では、ほぼ一社専属の状態でその会社に常駐している、限りなく雇用契約に近い大工さんがいます。このような場合、業務委託契約書があってもインボイスを取っていても、実態は雇用契約と判定されるリスクがあります。
【業務委託と認められる事例】一方、例えばYouTube動画の編集やサムネイル制作を社外の信頼できる外部の方にお願いしているケースでは、専属性もなく、勤務場所・勤務時間の指定もなく、1案件につきいくらという取り決めをしているため、完全に業務委託契約であると言えます。
⚠️ 注意
事実関係をとりあえず置いておいて、形だけを外注にして節税をしたいという経営者が非常に多いですが、これは絶対に避けてください。インボイス番号は自営業者のためのものではありますが、独立していることが前提であるとはいえ誰でも取れるものです。インボイス番号があることが直接イコール自営業となるわけではありません。当事者間における契約形態などの事実関係を踏まえて実態判定をするということで、無理やりインボイス番号を取らせて支払いをしたとしても、給与として扱われて仕入税額控除を否定される事例が起こっています。
📝 このセクションのまとめ
- インボイスの有無は業務委託・雇用契約の判断基準に関係ない
- 拒否権・専属性・勤務場所・勤務時間・報酬算定根拠・請求書の有無などを総合的に判断する
- 形だけ外注にして実態が雇用契約であれば、仕入税額控除を否定される
- 業務委託として認められるには契約書・請求書(インボイス対応)の整備が最低条件だが、それだけでは不十分
税務調査で狙われやすい!外注費・支払手数料の注意点
業務委託に関する費用は、経理上の勘定科目では「外注費」または「支払手数料」で処理するパターンが多いです。水道光熱費や減価償却費で処理することはまずありません。
⚠️ 注意
外注費・支払手数料は、税務調査において最も怪しまれる勘定科目のひとつです。何か不正をしようという人が使う科目がまさにこれらだからです。これらの勘定科目の金額が大きければ大きいほど目立つことになり、当然そこにチェックが入ることになります。業務委託として処理するのであれば、必ず実態判定をクリアしていることが必要です。
この業務委託対給与の論点は、税務調査でほぼ確実にターゲットになってくる箇所です。働き方の実態をヒアリングして、総合的に判断をしていくことになります。
📝 このセクションのまとめ
- 外注費・支払手数料は税務調査で最も注目される勘定科目
- 金額が大きいほど調査対象になりやすい
- 業務委託として処理するなら実態判定のクリアが必須
税務調査で給与認定された場合のペナルティ
もし税務調査で実態判定の結果、業務委託ではなく給与として認定されてしまった場合、どのようなことが起こるのでしょうか。
- 節税分の返還:先ほどの試算で約38万円節税できたとしても、その分がそのまま追徴課税として返金を求められる
- 重加算税のリスク:明らかに雇用契約なのに業務委託にしていたと判断された場合、重加算税という非常に重たいペナルティが課され、負担額がさらに大きくなる可能性がある
- 見解の相違の場合:本当に曖昧な契約で見解の相違という形であれば大きなペナルティはかからないが、それでも節税できた分は返還せざるを得ない
- 源泉徴収義務の発生:給与として認定された場合、源泉徴収義務も発生する可能性がある
- 強制解雇として訴えられるリスク:会社が強制的に雇用契約から業務委託に変えた場合、税金の問題だけでなく社会保険の問題として強制解雇で訴えられるリスクもある
📌 ポイント(働く側への注意)
もしインボイス番号を取得して消費税をずっと納めてきていた場合、実態判定で給与と認定されると、納付してきた消費税の還付を受けられる可能性があります。この点は働く側にとって救済措置となり得ます。
なお、税務調査の場合、年金事務所と連携することはほとんどないため、社会保険料が遡って課されるということはほぼないと考えていただいて大丈夫です。ただし、それでも非常に大きな負担が発生することには変わりありません。
⚠️ 注意
無理やり書類だけを整えて外注費にして節税をすることは絶対に避けてください。まずは実態判定の表に照らし合わせて、本当に業務委託として成立しているかを確認することが大切です。
📝 このセクションのまとめ
- 給与認定された場合、節税分の追徴課税+重加算税のリスクがある
- 強制的に業務委託に切り替えさせた場合は、労働問題として訴えられるリスクも
- 税務調査と年金事務所の連携はほぼないが、それでも税務上のペナルティは非常に重い
- インボイスを取って消費税を納付していた場合、給与認定されると消費税の還付を受けられる可能性がある
【番外編】自社に外注費を支払う節税スキームはどうなる?
最後に、こんな発想をした方の事例を紹介します。「自分が経営する合同会社から役員報酬を取っているが、来期からダブルで外注費も払えば、合同会社の消費税の節税になるし、外注費として受け取る自分自身も儲かる、これはめちゃくちゃいいアイデアでは?」という考え方です。
⚠️ 注意
この考え方は非常に危険です。自分が経営する会社から自分自身に外注費を支払う行為は、実態として雇用契約(役員報酬)の二重払いに過ぎず、税務調査で確実に問題となります。形式だけを整えた節税スキームは、実態判定によって否認されるリスクが極めて高いと言えます。
📝 このセクションのまとめ
- 自社から自分自身への外注費支払いは実態判定で否認される可能性が高い
- 形式だけを整えた節税スキームは税務調査のターゲットになりやすい
- 節税を考えるなら実態を伴った正当な方法で行うことが不可欠
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
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