会社設立1年目の役員報酬の決め方を税理士が解説|失敗事例と3つのパターン
法人化したばかりの経営者が陥りやすい役員報酬の失敗と、賢い決め方を徹底解説します。
個人事業主と法人では「利益の扱い」がまったく違う
個人事業主の場合、売上から経費を引いた残りの利益がそのまま生活費の財源になります。たとえば売上1,000万円・経費500万円であれば、残った500万円に対して所得税・住民税・事業税が課税され、税負担は稼ぎに応じて約15〜60%と幅があります。儲けが大きくなればなるほど税率も上がる、超過累進課税の構造です。
一方、法人を設立すると話が大きく変わります。法人と社長(個人)は法律上の別人格になるため、「給与」という概念が登場します。社長は自分自身に役員報酬を支払う形になり、法人に残った利益をプライベートで自由に使うことはできません。
たとえば先ほどの例で、利益500万円を全額役員報酬として受け取った場合、法人の利益はゼロになります。一見、法人税の節税になるように見えますが、今度はその500万円に対して個人の所得税・住民税・社会保険料がかかります。法人税と個人の税負担、この両方をセットで考えることが必要です。
📌 ポイント
法人の利益に対する税率はほぼ一定で、年間利益800万円まで約25%、それを超えると約32%に近づきます。一方、個人の所得税は最高45%、住民税は一律10%と、高所得になるほど個人の税負担が重くなる仕組みです。
📝 このセクションのまとめ
- 個人事業主は残った利益がそのまま生活費の財源になる
- 法人化すると、社長の生活費の財源は「役員報酬」になる
- 法人の利益をプライベートに使うことはできない
- 法人税と個人の税負担をダブルで検討する必要がある
役員報酬を経費にするための2つの要件(法人税法のルール)
役員報酬を法人の経費として認めてもらうには、法人税法上の要件を満たす必要があります。シンプルに整理すると、以下の2つです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 定期同額であること | 一定期間を通じて同じ金額でなければならない。利益が出たから増やす・赤字だから減らすは原則NG |
| ② 不相当に高額でないこと | 同業種・同規模の他社の役員報酬と比べて、あまりにも高すぎないこと |
①の「定期同額」について補足します。役員報酬の金額を変更できるのは、原則として決算終了後3ヶ月以内(たとえば3月決算であれば6月末まで)に限られます。業績が好調だからといって途中で増額したり、赤字だからと減額したりすることは、基本的に認められません。
②の「不相当に高額でないこと」については、全責任を負う創業社長であれば、高い役員報酬を受け取ってもその分の所得税・住民税を納めているわけですから、中小企業の実務においてここが問題になるケースは非常にまれです。
📌 ポイント:業績悪化時の例外規定
コロナ禍のように業績が著しく悪化している場合は、事業年度の途中でも役員報酬の減額改定が認められるケースがあります。ただしこれはあくまでも例外的なレアケースです。
なお、「事前確定届出給与」という制度を使えば、役員がボーナスを受け取ることも一応は可能です。ただし手続きが非常に煩雑であるため、活用する場合は事前に税理士に相談することをおすすめします。
📝 このセクションのまとめ
- 役員報酬を経費にするには「定期同額」かつ「不相当に高額でない」ことが必要
- 金額変更は決算後3ヶ月以内が原則
- 業績悪化時の減額改定は例外的に認められる場合がある
実際によくある3つの失敗事例
役員報酬の設定に失敗するパターンは、大きく3つに分けられます。会社設立から数ヶ月後に税理士事務所へ相談に来られる方に、特に多く見られる事例です。
失敗事例① 役員報酬を決めないまま決算を迎えてしまった
役員報酬を何も決めないまま決算期を迎えてしまうと、法人に利益がまるまる残ります。その結果、法人税の負担だけが発生し、社長がお金を取れないという最悪の状況になります。
⚠️ 注意
役員報酬の金額を決めて「未払い」の状態になっているのであれば問題ありませんが、そもそも何も決めていない場合は経費として認められません。また、役員報酬が決まっていないと社会保険料も確定できず、社会保険料の未納問題も発生します。
失敗事例② 強気な高額設定で報酬を払えなくなった
「毎月100万円取ろう」と意気込んで設定したものの、実際には会社が大赤字になってしまい、給与を受け取れなかったというケースです。役員報酬の設定は変えられないため、高い報酬を設定したまま個人の税負担(所得税・住民税・社会保険料)だけが重くのしかかるという事態になります。業績の見通しが甘いと、このような失敗を招きます。
失敗事例③ 源泉徴収の漏れ・納付漏れ
会社を設立すると、社員だけでなく社長自身への給与支払い時にも、源泉徴収(所得税の徴収)と納付の義務が会社に生じます(所得税法第183条)。これを知らずに忘れてしまうケースが非常に多いです。
実務では、給与支払い時に以下のものを徴収・納付する必要があります。
- 源泉所得税(翌月10日までに税務署へ納付)
- 健康保険料・厚生年金保険料(年金事務所へ)
- 雇用保険料(社員がいる場合のみ)
- 住民税(市区町村へ)
なお、源泉所得税の金額は「源泉徴収税額表」(国税庁が公表)を使って、月給と扶養親族の数に応じて計算します。
📌 ポイント:納期の特例を活用しよう
給与の支払人員が常時10人未満の事業所は「納期の特例」を申請できます。この特例を使うと、半年分をまとめて納付することが可能になります。
- 上半期(1〜6月支払分):7月10日が納付期限
- 下半期(7〜12月支払分):翌年1月20日が納付期限
申請するには「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出する必要があります。ただし、申請書を提出した月に支払った給与の源泉所得税は翌月10日までに納付しなければならず、初月は特例が適用されません。
⚠️ 注意:ペナルティに注意
源泉徴収義務は給与を「支払った時点」で発生します。支払いが遅れただけであれば問題ありませんが、支払ったにもかかわらず徴収・納付を怠った場合はペナルティの対象になります。くれぐれも注意してください。
📝 このセクションのまとめ
- 役員報酬を決めないまま決算を迎えると法人税だけが発生し、社長がお金を取れなくなる
- 業績見通しが甘い高額設定は、個人の税負担だけが重くなるリスクがある
- 役員報酬支払い時の源泉徴収・納付は会社の義務。漏れるとペナルティあり
- 納期の特例(10人未満)を活用すると半年分まとめて納付できるが、初月は適用外
賢い役員報酬の決め方:3ステップで考える
失敗しない役員報酬の決め方は、次の3ステップで進めます。
- 事業計画を立てる(簡易版でOK):売上・仕入原価・役員報酬・家賃・水道光熱費・人件費など、1年間の見通しを立てる
- 生活費を確保できる手取り額を算出する:毎月いくらあれば個人として生活できるかを確認し、会社のお金に手をつけないようにする
- 法人と個人のトータル税負担をシミュレーションする:法人税と個人の所得税・住民税・社会保険料を合算して比較検討する
大層な事業計画書を作ろうとすると途中で頓挫しがちです。まずは簡易版で構いません。売上と主要経費の見通しを1年分並べるだけでも、役員報酬の適正額が見えてきます。
📝 このセクションのまとめ
- まず簡易版の事業計画で1年間の収支を見通す
- 個人の生活費を確保できる手取り額を先に計算する
- 法人・個人トータルの税負担でシミュレーションして判断する
役員報酬の設定パターン:A・B・Cの3択
シミュレーションの結果をもとに、自社の方針に合ったパターンを選びます。
| パターン | 方針 | 役員報酬の水準 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| A:税負担最小化 | 法人・個人トータルの税負担をとにかく低くする | 法人税率と個人税率が交差するラインに設定 | 税負担を最優先で抑えたい経営者 |
| B:事業拡大優先 | 利益をできるだけ法人に残して設備投資・人員確保に充てる | 低め(生活費分のみ) | 将来の事業拡大を見据えている経営者 |
| C:個人取得最大化 | 個人でたくさん給与を取り、株式投資等の個人資産運用に充てる | 高め(年収2,000万円超も) | 個人投資・プライベートを重視する経営者 |
パターンCについて補足します。個人が行う株式投資の税率は、特定口座(源泉徴収あり)を選べば約20%の税負担で済みます。超過累進税率が適用されないため、高額所得者にとっては非常に税負担の軽い投資手法になります。そのため、個人に多くのお金を残して株式投資を積極的に行いたいという経営者には、役員報酬を高めに設定するパターンが合っています。
📌 ポイント:具体的な数値シミュレーション例
たとえば初年度の売上が5,000万円の場合に役員報酬を年収400万円、1億円の場合に800万円と設定すると、いずれも法人の利益がほぼゼロになり法人税はかかりません(ただし法人住民税の均等割として都道府県・市区町村合計で約7〜8万円が発生します)。あとは個人の社会保険料・所得税・住民税をシミュレーションして、トータルの税負担を比較します。
📝 このセクションのまとめ
- A:税負担最小化/B:事業拡大優先/C:個人取得最大化の3パターンがある
- どれが正解かは会社の状況・経営者の方針によって異なる
- 個人の株式投資は約20%課税のため、高額所得者には有利な選択肢になりうる
年収別・税負担率シミュレーション(大阪府在住・40歳以上・扶養0の場合)
個人の税負担率(社会保険料+所得税+住民税)を年収別に見ると、以下のようになります(大阪府在住・40歳以上・扶養家族0人の場合)。扶養家族が多い方はもう少し税負担が下がります。
| 年収 | 個人負担率(社保+所得税+住民税) |
|---|---|
| 1,000万円 | 約 27.7% |
| 1,500万円 | 約 32.3% |
| 2,000万円 | 約 35.3% |
法人税率は利益800万円まで約25%、超過分は約32%です。個人の税負担率と法人税率が交差してくるのが、おおむね年収1,500万〜2,000万円のラインです。
純粋に税負担を最小化したいのであれば、このラインを意識して役員報酬を設定することが一つの目安になります。実際、多くの中小企業の経営者は年収2,000万円前後で役員報酬を止めているケースが多く見られます。
📌 ポイント:社会保険料の決まり方
社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)は、都道府県ごとに用意されている「保険料額表」をもとに、役員報酬の月額によって決まります。表に記載されている個人負担分は、同額を会社も負担します(会社負担分は法人の経費に算入)。
⚠️ 注意:ミクロ法人スキームの安易な活用は危険
「役員報酬を月5万円にして社会保険料を最低限に抑え、個人事業との併用でコストを下げる」いわゆるミクロ法人スキームをネットで見かけることがあります。社会保険料の負担を抑える効果がある一方、適切に運用しないと税務・社会保険上のリスクが生じる場合があります。安易に実践する前に、必ず専門家に相談してください。
📝 このセクションのまとめ
- 個人の税負担率は年収1,000万円で約27.7%、1,500万円で約32.3%、2,000万円で約35.3%
- 法人税率(約25〜32%)と個人税負担率が交差するのは年収1,500万〜2,000万円のライン
- 税負担最小化を狙うならこのラインを目安にする
- ミクロ法人スキームは安易に実践せず専門家に相談を
役員報酬の決め方:全体のまとめ
役員報酬の決め方に「これが正解」という唯一の答えはありません。100社あれば100通りの決め方があるのが実態です。大切なのは、自社の状況と経営者自身の方針に合った選択をすることです。
以下のフローで考えることをおすすめします。
- 簡易版の事業計画を立てて、1年間の売上・経費の見通しを出す
- 個人の生活費として毎月必要な手取り額を確認する
- 法人・個人トータルの税負担をシミュレーションする
- A(税負担最小化)・B(事業拡大優先)・C(個人取得最大化)のどれを重視するかを決める
- 定期同額・不相当に高額でないというルールを守って役員報酬を設定する
また、会社設立のスタート時点から顧問税理士をつけておくことで、役員報酬の設定ミスや源泉徴収漏れといったトラブルを未然に防ぐことができます。特に設立1年目は判断すべきことが多いため、専門家のサポートを活用することを強くおすすめします。
📝 このセクションのまとめ
- 役員報酬の決め方に唯一の正解はなく、自社の方針次第
- 事業計画→生活費確認→税負担シミュレーション→方針選択の順で進める
- 設立1年目から顧問税理士をつけることでミスを防げる
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
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