iDeCo上限引上げと退職所得控除改悪を税理士が解説|5年ルールが10年に延長
iDeCo増額の朗報の裏に潜む「出口課税ルール改悪」の全貌を解説します。
iDeCoとは?基本のおさらい
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、年金制度の一種です。自営業の方は国民年金、会社員の方は厚生年金に加入していますが、それらの上乗せとして、さらに老後の貯蓄を増やしたい方が自らの意思で申し込み、追加で掛金を支払っていく仕組みです。よく「3階建て」と表現されます。
NISAは投資による配当や売却益が非課税になる制度ですが、iDeCoは年金制度であり、性質が全く異なります。iDeCoも資産運用(投資)をしている点では同じですが、最大のメリットは掛金が個人の所得税・住民税の節税に直結する点です。経費のような扱いで所得控除が受けられます。
📌 iDeCoの3つの税制優遇
- 掛金支払い時:全額が所得控除となり、所得税・住民税を節税
- 運用時:運用益が非課税(通常の株式投資では利益に課税される)
- 受取時:一括受取は退職所得、分割受取は雑所得として優遇税制あり
📝 このセクションのまとめ
- iDeCoは年金制度であり、NISAとは性質が異なる
- 掛金・運用・受取の3段階すべてで税制優遇がある
- ただし、受取時に優遇が受けられないケースもある(後述)
【朗報】iDeCo掛金上限の大幅引上げ
今回の税制改正の大きな目玉が、iDeCoの掛金上限の大幅引上げです。現行制度と改正後を比較すると以下のようになります。
| 加入者の区分 | 現行の上限(月額) | 改正後の上限(月額) |
|---|---|---|
| 自営業・フリーランス | 6万8,000円 | (変更なし) |
| 企業年金制度がない会社員 | 2万3,000円 | 6万2,000円(約3倍) |
| 企業型DC加入者 | (既存上限) | 6万2,000円(企業型DCと同額) |
特に注目すべきは企業年金制度がない会社員の上限が月額2万3,000円から6万2,000円へと約3倍近くに引き上げられる点です。これまで会社員はiDeCoの恩恵が非常に限られていましたが、今回の改正で大きく変わります。
もちろん、上限まで必ず掛けなければならないわけではありません。ご自身の家計状況に合わせて無理のない範囲で活用してください。
この掛金引上げによる節税効果は以下の通りです(掛金を上限いっぱいまで拠出した場合の試算)。
| 税率(所得税+住民税) | 現行(月2.3万円)の年間節税額 | 改正後(月6.2万円)の年間節税額 |
|---|---|---|
| 約15%(最低税率) | 約4万1,400円 | 約10万円超 |
| 約43%(高税率) | 約10万円超 | 約30万円超 |
大まかな目安として、年収500万円程度の方で年間約15万円、年収1,000万円程度の方で年間約25万円の節税効果が期待できます(家族構成や各種控除の状況によって変わります)。
📌 ポイント
仮に資産運用がうまくいかず大して儲からなかったとしても、掛金支払い時の節税メリットだけで相当な恩恵を受けられます。税率が高ければ高いほど、また長期運用するほどメリットが大きくなりやすいのがiDeCoの特徴です。
📝 このセクションのまとめ
- 会社員の掛金上限が月2万3,000円→月6万2,000円へ約3倍に引上げ
- 年収500万円で年間約15万円、年収1,000万円で年間約25万円の節税効果
- 上限まで掛ける義務はなく、自分のペースでOK
退職所得控除の基本的な仕組み
iDeCoを一括で受け取る場合、「退職所得」として課税されます。退職所得の計算式は以下の通りです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 退職所得控除を計算 | 勤続20年以下の部分:1年あたり40万円 勤続20年超の部分:1年あたり70万円 |
| ② 課税対象額を計算 | (退職金額面 ー 退職所得控除額)× 1/2 |
| ③ 税率をかける | 分離課税で約15%〜55% |
例えば、40年間同じ会社に勤めた方の退職所得控除は最大2,200万円(40万円×20年+70万円×20年)にもなります。退職金が2,200万円以内であれば所得税・住民税はゼロです。
さらに課税対象額を1/2できること、そして給与所得などと合算しない分離課税であることから、退職所得は非常に優遇された税制となっています。
⚠️ 注意
「退職所得の受給に関する申告書」を会社で作成・保存していない場合、一律約20%の源泉徴収となります。必ず会社に申告書を提出してください。
なお、終身雇用制が崩壊しつつある現代においては、将来的に退職所得控除の縮小(例えば70万円の部分を40万円に引き下げるなど)が行われる可能性も十分考えられます。今後の税制改正の動向にも注意が必要です。
iDeCoの解約金も「退職所得」に含まれる
重要なのは、iDeCoの解約金(一括受取)も退職所得の収入金額に含まれるという点です。退職金とiDeCoを合算して退職所得控除を超えているかどうかを確認しなければなりません。
具体例で見てみましょう。40年勤務の会社を65歳で退職し、退職金2,000万円+iDeCo解約金500万円(月1万円を積み立てた場合)を受け取ったとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職金+iDeCo解約金の合計 | 2,500万円 |
| 退職所得控除(40年勤務) | 2,200万円 |
| 控除後の残額 | 300万円 |
| 課税対象額(×1/2) | 150万円 |
| 所得税 | 約7万7,000円 |
| 住民税 | 約15万円 |
| 合計税負担 | 約23万円 |
23万円という数字は大きく感じるかもしれませんが、これは1/2課税のおかげです。もし退職所得の1/2ルールがなければ税負担は2倍以上になります。それだけ退職所得が優遇されているということです。
📝 このセクションのまとめ
- 退職所得控除は勤続年数に応じて最大2,200万円(40年勤務の場合)
- iDeCoの一括受取も退職金と合算して退職所得として計算される
- 課税対象は1/2に圧縮され、分離課税のため税負担が抑えられる
- 申告書の未提出は一律20%源泉徴収になるので要注意
「退職金とiDeCoを別の年に受け取れば節税できる?」→調整ルールがある
ここで多くの方が考えることがあります。「退職金とiDeCoを別々の年に受け取れば、それぞれ退職所得控除をフルに使えるのでは?」という発想です。
残念ながら、この方法は認められていません。勤務期間とiDeCoをかけていた期間が重複している場合、その重複部分の控除は除外して計算する「調整ルール」が設けられています。
調整ルールの具体例(訂正版)
40年勤務の会社を65歳で定年退職して退職金2,000万円をもらい、その1年前(64歳)にiDeCo解約金500万円を受け取ったケースで見てみます。
iDeCo受取時(64歳・iDeCo加入期間39年)の計算:
| 項目 | 内容・金額 |
|---|---|
| iDeCo解約金 | 500万円 |
| 退職所得控除(39年分) | 2,130万円 |
| 課税対象 | 0円(控除内に収まる) |
| 税負担 | 0円 |
退職金受取時(65歳)の計算では、iDeCoをかけていた期間と勤務期間の重複分を調整します。iDeCo解約金500万円を退職所得控除の1年あたり40万円で割ると12.5年→切り捨てで12年となり、この12年分の控除(40万円×12年=480万円)を全体の退職所得控除から差し引きます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職金 | 2,000万円 |
| 本来の退職所得控除(40年分) | 2,200万円 |
| 調整額(40万円×12年) | △480万円 |
| 調整後の退職所得控除 | 1,720万円 |
| 課税対象額(2,000万円-1,720万円)×1/2 | 140万円 |
| 合計税負担(所得税+住民税) | 約21万円 |
つまり、退職金とiDeCoを別々の年に受け取っても、同時に受け取った場合(約23万円)とほぼ変わらない税負担になります。「別の年に受け取れば節税できる」というのは誤りで、調整ルールによって抜け道は塞がれています。
⚠️ 注意
「退職金とiDeCoを別の年に受け取れば退職所得控除をそれぞれフル活用できる」という考えはNGです。勤務期間とiDeCo加入期間が重複していれば、その分の控除は除外されます。
📝 このセクションのまとめ
- 退職金とiDeCoを別の年に受け取っても、重複期間の控除は除外される調整ルールがある
- 同時受取と別年受取で税負担はほぼ変わらない
- 「分けて受け取れば節税できる」は誤解
退職所得控除をフル活用できる2つの方法(改正前)
調整ルールを回避して退職所得控除をそれぞれフルに活用できる方法が、改正前は2パターン存在しました。
- パターン①「20年ルール」:先に退職金を受け取り、その後20年以上空けてiDeCoを受け取る
- パターン②「5年ルール」:先にiDeCoを受け取り、その後5年以上空けて退職金を受け取る
なお、個人事業主・フリーランスの方には退職金がありませんが、小規模企業共済が会社員の退職金と同じ扱いになります。
5年ルールの活用例(改正前)
例えば、60歳でiDeCoを解約し、65歳で退職金を受け取るケースを見てみます。
| タイミング | 内容 | 税負担 |
|---|---|---|
| 60歳:iDeCo解約 | 加入35年分の退職所得控除(1,850万円)を活用 | 0円 |
| 65歳:退職金受取 | 40年分の退職所得控除(2,200万円)をフルで活用 | 0円 |
受け取りのタイミングを5年ずらすだけで、どちらも税負担ゼロにできたわけです。このような調整をしていた方が多くいましたが、今回の改正でこの方法が使いにくくなります。
📝 このセクションのまとめ
- 改正前は「20年ルール」と「5年ルール」の2パターンで控除をフル活用できた
- 5年ルール(先にiDeCoを受け取り、5年後に退職金)が最も使いやすかった
- 個人事業主は小規模企業共済が退職金と同じ扱いになる
【改悪】5年ルールが10年ルールに延長(令和8年〜)
今回の税制改正の「落とし穴」がここです。令和8年(2026年)以降に受け取る退職金・iDeCo解約金から、「5年ルール」が「10年ルール」に延長されます。
つまり、先にiDeCoを受け取った場合、退職金受取まで10年以上空けないと退職所得控除の調整が行われてしまうということです。
改正後の2パターンを現実的な年齢で確認してみます。
| パターン | 内容 | 現実的かどうか |
|---|---|---|
| 20年ルール(先に退職金) | 例:55歳で早期退職→75歳でiDeCo受取 | 75歳まで生存・管理が必要で長期スパン。難しい |
| 10年ルール(先にiDeCo) | 例:60歳でiDeCo解約→70歳で退職金受取 | 70歳まで退職金が出る会社は少ない。現実に即しにくい |
20年ルールのパターンは、75歳まで長生きできるかどうかという非常に長期のスパンが必要で現実的ではありません。一方、10年ルールのパターンも、70歳まで退職金が出る会社はほとんどなく(通常は60歳〜65歳)、こちらも現実に即した改正とは言えません。
⚠️ 注意
この10年ルールへの改正は令和8年(2026年)から適用されます。退職が近い世代の方は特にご注意ください。大企業にお勤めでiDeCoをフル活用している方は、退職所得控除を超えて課税される可能性があります。
一方で、中小企業にお勤めの方の場合、40年勤務でも退職所得控除の上限は2,200万円ほどです。退職金がそれほど大きくなければ、iDeCoと合算しても控除内に収まるケースも多く、全員が増税になるわけではありません。
📝 このセクションのまとめ
- 5年ルールが10年ルールに延長(令和8年〜)
- 先にiDeCoを受け取る場合、退職金受取まで10年以上空ける必要がある
- 現実的には10年・20年の間隔を空けるのは困難なケースが多い
- 退職金が大きい大企業勤務者ほど影響を受けやすい
10年・20年空けられない場合の出口対策3パターン
10年・20年の間隔を空けることが難しい場合でも、完璧ではありませんが他にも対策があります。
対策① iDeCo解約金を分割で受け取る(年金受取)
一括で受け取ると退職所得になりますが、分割(年金形式)で受け取ると雑所得として扱われます。雑所得には「公的年金等控除」が適用されます。
| 年齢 | 公的年金等控除の最低額 |
|---|---|
| 65歳以上 | 最低110万円 |
| 65歳未満 | 最低60万円 |
年金収入が大きくなるほど控除も大きくなります。ただし、雑所得は総合課税なので、公的年金(国の年金)をたくさんもらっている方は他の所得と合算されて税負担が高くなりやすい点に注意が必要です。公的年金が少ない方には分割受取が有利なケースがあります。
また、分割受取をしている間も資産運用が継続されるため、運用効率が最も高くなる可能性もあります。
対策② 一部一時金+残額を分割の組み合わせ
一部をまとめて一時金(退職所得)として受け取り、残りを分割(雑所得)で受け取るという組み合わせも可能です。退職所得控除の余裕分は一時金で受け取り、超過分を分割にするなど、柔軟に対応できます。
📌 出口対策の3パターンまとめ
- 一括受取+10年(または20年)間隔を空ける:最も節税効果は高いが、現実的に難しいケースも多い
- 全額を年金形式(分割)で受け取る:総合課税だが、公的年金が少ない方には有利
- 一部一時金+残額を分割:退職所得と雑所得を組み合わせて柔軟に対応
なお、iDeCoは受取方法をある程度柔軟に選択できる点が大きなメリットです。まだ受取まで時間がある方は、将来の退職金の見込み額やご自身の税率を考慮しながら、じっくり検討してみてください。
iDeCoを受取前に亡くなった場合は?
iDeCoを受け取る前に亡くなってしまった場合、iDeCo資産は相続財産となります。相続においては法定相続人1人あたり500万円の非課税枠(死亡保険金等の非課税枠)がありますので、その点はご安心ください。
📝 このセクションのまとめ
- 10年・20年空けられない場合は「分割受取」「一部一時金+残額分割」の組み合わせを検討
- 分割受取は雑所得(総合課税)となり公的年金等控除が適用される
- 受取前に亡くなった場合はiDeCo資産が相続財産となり、相続人1人あたり500万円の非課税枠あり
今回の改正をどう評価するか
今回の税制改正は、iDeCoの掛金上限引上げという大きな朗報と、出口課税ルールの改悪という悪報がセットになっています。
- 掛金増額を喜んでいる方も多いと思いますが、出口の税負担も意識しておく必要があります
- 「出口が改悪されるからiDeCoはやめておけ」という意見もありますが、掛金支払い時の節税メリットは依然として大きく、やめる理由にはなりません
- 節税は「入口(掛金時)」だけでなく「出口(受取時)」まで意識して初めて完結します
📌 ポイント
退職所得控除の縮小(改悪)は今回の改正では見送りになりました。これは一定の朗報です。ただし、終身雇用制の崩壊とともに、将来的に退職所得控除の縮小が行われる可能性は否定できません。今後の税制改正の動向を引き続き注視することが重要です。
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。 本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
関連記事
iDeCo改正の落とし穴を税理士が解説|掛金上限引上げと退職所得控除改悪の影響
iDeCo2027年から最大月7万5000円に拡充!節税効果と出口課税の罠を税理士が解説
東京エリア
千代田・中央・港区から副都心各区まで、東京の優良税理士法人ランキング
関西エリア
大阪・京都・兵庫・岡山など関西圏の信頼できる税理士法人ランキング
関東エリア
首都圏の神奈川・埼玉・千葉・北関東で実績のある税理士法人ランキング
中部エリア
製造業の集積地、中部・北陸圏で企業支援に強い税理士法人ランキング
九州・沖縄
九州・沖縄地域で地域密着型サービスに定評のある税理士法人ランキング
その他地域
北海道・東北・中国・四国地方の地域に根ざした税理士法人ランキング
