年収900万円の壁は誤解?税理士が解説する所得税・住民税・社会保険の実態
「年収900万円を超えると所得税が一気に増える」は大きな誤解です。超過累進課税の仕組みと各種控除を正しく理解すれば、実際の税負担率は想像よりずっと低いことがわかります。
「年収900万円の壁」はなぜ生まれたのか?
最近ネットなどで「年収900万円の壁」という言葉を目にすることがあります。年収が900万円を超えると税金の負担が大きくなると言われていますが、これには大きな誤解があります。所得税率のからくりを紐解いていけば、実際に負担する税金の金額がよくわかります。
まず、なぜ年収900万円を超えると所得税が一気に増えると言われているのかを見ていきましょう。所得税は累進課税(厳密には超過累進課税)で計算されます。累進課税とは、所得が大きくなればなるほど高い税率が適用されていく課税方式のことです。
所得税にかかる税率は課税所得に応じて設定されています。今回注目していただきたいのは、330万円から1,800万円までの範囲です。
| 課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
この表を見ると、課税所得が695万円を超えても税率は3%しか変わりません(20%→23%)。しかし、課税所得が900万円を超えると税率が一気に10%も上がります(23%→33%)。これが「年収900万円を超えると所得税が一気に増える」と言われている理由です。
⚠️ 注意
「年収900万円を超えたら損をするから、あえて年収を900万円以下に調整しよう」と考える方もいますが、これは大きな勘違いです。累進課税制度の計算対象になるのはあくまで「課税所得」であり、年収(額面収入)とは異なります。
📝 このセクションのまとめ
- 所得税は超過累進課税で計算され、課税所得が900万円を超えると税率が23%→33%へ10%上昇する
- 「年収900万円の壁」という言葉が独り歩きしているが、実際には大きな誤解が含まれている
- 税率が適用されるのは「年収」ではなく「課税所得」である点が重要
課税所得とは何か?年収との違いを理解しよう
累進課税制度の計算対象になるのは、あくまで「課税所得」です。課税所得とは、所得からさまざまな控除を差し引いた後の金額のことです。そのため、課税所得は実際の所得(いわゆる年収)よりもかなり少なくなります。
特に会社員・アルバイト・パートなどの給与所得者の場合、給与所得控除が適用されるため、実際の所得よりも課税所得がかなり少なくなります。給与所得控除は給与所得の金額によって次のように変化します。
| 給与収入金額 | 給与所得控除額 |
|---|---|
| 162万5,000円以下 | 55万円 |
| 162万5,000円超〜180万円以下 | 収入金額×40%−10万円 |
| 180万円超〜360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
| 360万円超〜660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
| 660万円超〜850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) |
例として、年収600万円の人で見てみましょう。給与所得控除は「600万円×20%+44万円=164万円」となります。つまり課税所得金額は「600万円−164万円=436万円」になります。これだけでもかなり減りますね。
ただし、控除はそれだけではありません。給与所得控除以外にも、さまざまな所得控除が適用できます。
- 基礎控除:無条件に48万円の控除が得られる
- 社会保険料控除:支払った社会保険料の全額が控除される
- 配偶者控除:配偶者がいる場合に適用可能
- 扶養控除:扶養家族がいる場合に適用可能
先ほどの年収600万円の例で、確実に適用される基礎控除と社会保険料控除を計算に加えてみましょう。東京都在住・40〜64歳の場合、社会保険料の年額はざっくり約90万円になります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年収 | 600万円 |
| - 給与所得控除 | 164万円 |
| - 基礎控除 | 48万円 |
| - 社会保険料控除 | 90万円 |
| 課税所得金額 | 298万円 |
📌 ポイント
年収600万円でも、各種控除を差し引くと課税所得金額は約298万円と、実際の所得の約半分になります。このように課税所得は年収よりもかなり少なくなるため、年収900万円の人が税率の大幅な上昇に困るということは実はありません。
📝 このセクションのまとめ
- 課税所得=年収から給与所得控除・基礎控除・社会保険料控除などを差し引いた金額
- 給与所得者の課税所得は年収の約半分程度になることが多い
- 税率が大幅に上がる課税所得900万円に達するのは、年収が約1,300万円の人
実際に税率が跳ね上がるのは年収いくらから?
課税所得が900万円に達するのは、年収が約1,300万円の人です。年収1,300万円で計算してみると、課税所得金額が900万円を超えてくるため、ここで所得税率が大きく増えることになります。
| 項目 | 金額(年収1,300万円の場合) |
|---|---|
| 年収 | 1,300万円 |
| - 給与所得控除 | 195万円 |
| - 基礎控除 | 48万円 |
| - 社会保険料控除 | 約150万円 |
| 課税所得金額 | 約907万円 |
このように、「年収900万円の壁」という表現は正確ではなく、正しくは「課税所得900万円の壁」であり、実際には年収約1,300万円の人が該当します。
📝 このセクションのまとめ
- 課税所得が900万円を超えて税率が33%になるのは、年収約1,300万円の給与所得者
- 年収900万円の給与所得者は、課税所得がそこまで達しないため、税率の急上昇は起きない
超過累進課税とは?「丸ごと33%」にはならない仕組み
仮に課税所得金額がちょうど900万円だったとして、「税金が約300万円も持っていかれる?」と思う方もいるかもしれませんが、そういうことではありません。
所得税に適用されているのは超過累進課税です。これは単純な累進課税とは違い、それぞれの金額帯に対して設定された税率を個別に適用する方式です。
例えば、課税所得金額が950万円だったとすると、次のように計算されます。
| 課税所得の範囲 | 対象金額 | 税率 | 税額 |
|---|---|---|---|
| 195万円以下の部分 | 195万円 | 5% | 97,500円 |
| 195万円超〜330万円の部分 | 135万円 | 10% | 135,000円 |
| 330万円超〜695万円の部分 | 365万円 | 20% | 730,000円 |
| 695万円超〜900万円の部分 | 205万円 | 23% | 471,500円 |
| 900万円超〜950万円の部分 | 50万円 | 33% | 165,000円 |
| 合計税額 | 950万円 | — | 約159万9,000円 |
課税所得が950万円あっても、実際の税率は約16.8%程度に収まります。所得全体に33%がかかるわけではないのです。
ただし、この計算は複雑で間違いやすいですよね。そのために用意されているのが所得税の速算表に記載されている控除額です。課税所得に税率をかけた上で控除額を差し引くことによって、面倒な計算をせずに正確な税額を出すことができます。
📌 速算表を使った計算例(課税所得950万円の場合)
950万円 × 33% − 控除額153万6,000円 = 約159万9,000円
段階ごとに計算した結果と一致します。速算表を使えば簡単に正確な所得税額を算出できます。
ここに住民税が加算されて、その年の基本的な税金が決まっていきます。
住民税は、課税所得金額に一律10%をかけたものに5,000円を加えた金額になります。なお、住民税の計算上は基礎控除が43万円になるなど、所得税とは課税所得金額の算出に用いる所得控除の金額に若干の違いがありますが、ざっくり10%で考えておけば問題ありません。
📝 このセクションのまとめ
- 超過累進課税では、所得全体に最高税率がかかるのではなく、各金額帯ごとに税率が適用される
- 課税所得950万円でも実際の実効税率は約16.8%程度
- 速算表の控除額を使えば、複雑な段階計算をせずに正確な所得税額を算出できる
- 住民税は課税所得×10%+5,000円(概算)
年収別シミュレーション①:年収500万円の税負担
ここからは年収別の税負担について具体的にシミュレーションしていきます。今回は年齢が40代・東京都在住と仮定して計算します。なお、個人事業主の方の場合は給与所得控除がない代わりに所得から必要経費を差し引くことができます。また青色申告特別控除などの特有の控除もあります。特に必要経費によって課税所得金額が大きく変動するため、課税所得金額を確認の上、ご自身に近いシミュレーションを参考にしてください。
まず年収500万円の場合を見ていきましょう。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年収 | 500万円 |
| - 給与所得控除 | 144万円 |
| - 社会保険料控除(概算) | 約75万円 |
| - 基礎控除 | 48万円 |
| 課税所得金額(所得税) | 233万円 |
課税所得金額が233万円の場合、所得税率は10%、控除額は9万7,500円なので、所得税額は13万5,500円となります。
住民税については、住民税の基礎控除が43万円になるため課税所得が若干異なりますが、同様に計算すると住民税額は約24万3,000円となります。
📌 ポイント
年収500万円では、超過累進課税である所得税と違って住民税は課税額全体に10%がかかるため、住民税の方が所得税より高くなります。
| 税目 | 金額 |
|---|---|
| 所得税 | 13万5,500円 |
| 住民税 | 約24万3,000円 |
| 所得税+住民税の合計 | 約37万8,500円 |
| 実際の税負担率(税のみ) | 約8% |
| 社会保険料 | 約75万円 |
| 税+社会保険料の合計負担 | 約112万8,500円 |
| 年収に対する総負担率 | 約23% |
所得税と住民税を合算しても実際の税負担率は約8%と、所得税率の10%より少なくなります。ただし手取りで考えると社会保険料の負担75万円もあるため、負担額はトータルで約112万8,500円、年収の約23%を支払っていることになります。思ったより負担が大きいと感じる方も多いかもしれません。
📝 このセクションのまとめ
- 年収500万円の課税所得は約233万円(所得税率10%)
- 所得税+住民税の合計は約37万8,500円、実質税負担率は約8%
- 社会保険料を含めた総負担は年収の約23%
年収別シミュレーション②:年収1,300万円・2,000万円の税負担
続いて、所得税率が大幅に上がるライン、年収1,300万円の場合を見ていきましょう。
| 項目 | 金額(年収1,300万円) |
|---|---|
| 年収 | 1,300万円 |
| - 給与所得控除 | 195万円 |
| - 社会保険料控除(概算) | 約150万円 |
| - 基礎控除 | 48万円 |
| 課税所得金額 | 約907万円 |
| 所得税率 | 33% |
| 控除額 | 153万6,000円 |
| 所得税額 | 約145万7,100円 |
| 住民税額 | 約91万7,000円 |
| 所得税+住民税の合計 | 約237万4,100円 |
| 実際の税負担率(税のみ) | 約18% |
| 社会保険料 | 約150万円 |
| 税+社会保険料の総負担 | 約387万4,100円 |
| 年収に対する総負担率 | 約30% |
社会保険料を足しても、所得税率の33%より実際の総負担率は低いことがわかります。
次に年収2,000万円の場合を見ていきましょう。
| 項目 | 金額(年収2,000万円) |
|---|---|
| 年収 | 2,000万円 |
| - 給与所得控除 | 195万円 |
| - 社会保険料控除(概算) | 約170万円 |
| - 基礎控除 | 48万円 |
| 課税所得金額 | 約1,587万円 |
| 所得税率 | 40% |
| 控除額 | 279万6,000円 |
| 所得税額 | 約355万2,000円 |
| 住民税額 | 約159万7,000円 |
| 所得税+住民税の合計 | 約514万9,800円 |
| 社会保険料 | 約170万円 |
| 税+社会保険料の総負担 | 約684万9,800円 |
| 年収に対する総負担率 | 約34% |
年収2,000万円になると、法人実効税率と同じかそれ以上の負担率になってきます。税金の負担を考える時は、単なる所得税率だけでなく実際の総負担率が重要です。
📌 年収別・実際の総負担率まとめ
- 年収500万円:総負担率 約23%
- 年収1,300万円:総負担率 約30%
- 年収2,000万円:総負担率 約34%
年収が増えるほど負担率が増加します。経営者はこの点も考慮して自分の給与を設定することが重要です。
📝 このセクションのまとめ
- 年収1,300万円では課税所得が約907万円となり、所得税率33%が適用されるが、実際の総負担率は約30%
- 年収2,000万円では実際の総負担率が約34%となり、法人実効税率と同水準以上になる
- 税負担を考える際は「所得税率」ではなく「所得税+住民税+社会保険料の総負担率」で判断することが重要
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 社長の資産防衛チャンネル の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 社長の資産防衛チャンネルを応援しています!
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