インボイス制度で交際費5000円基準が縮小|個人飲食店の3大苦境を税理士が解説

インボイス制度で交際費5000円基準が縮小|個人飲食店の3大苦境を税理士が解説
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インボイス未登録の個人飲食店が直面する3大苦境と、接待交際費5000円基準の縮小問題を徹底解説します。

飲食店・小売店が直面する「インボイス3大苦境」とは

今回のテーマは、飲食店および飲食店を利用する会社員・個人事業主の方に向けた、インボイス制度による影響についてです。個人経営の飲食店がインボイス未登録のままだった場合に起きる「3つの苦境」を中心に解説していきます。

📌 インボイス未登録飲食店の3大苦境

  1. インボイス登録済みの法人・個人事業主のお客様にとって、消費税の負担が増える
  2. 飲食店に対してクレームや値下げ交渉が起きる可能性がある
  3. 会社の接待飲食費5000円基準が実質的に下振れする

これら3つの問題が重なることで、インボイス未登録のままの飲食店は今後避けられる時代になりつつあります。逆の立場から言うと、個人事業の飲食店を利用して経費計上しようとしていた会社員・個人事業主にとっても、めちゃめちゃ関わってくる問題です。

📝 このセクションのまとめ

  • インボイス未登録の飲食店には3つの苦境が待っている
  • 飲食店を利用する会社員・個人事業主にも直接影響する問題

インボイス制度(適格請求書制度)とは何か

インボイスの正式名称は「適格請求書制度」です。2023年10月からスタートする、請求書・レシート・領収書などの取引に伴う消費税に関する制度です。

今後は国が定めたインボイス(適格請求書)を使って取引をしなければなりません。そのインボイスには、必ず税率・税額・登録番号を記載するというルールが設けられています。

📌 インボイス導入の理由

  • 表向きの理由:財務省が消費税を正確に把握したい。現状、手書きの領収書には8%・10%の区分が書かれていないことが多く、それを整理するため
  • 裏向きの理由:単純に増税したい(詳細は後述)

このインボイス制度の非常に迷惑な部分として、登録するかどうかが任意であるという点があります。消費税を普段納めていない免税事業者はインボイス登録に参加しないことも選べます。ただし、年間売上1000万円以下の免税事業者が日本には何百万人もいるわけですが、登録すれば消費税を納税しなければならない課税事業者になってしまう、というのが最大の悩みです。

区分インボイス登録消費税の納税
免税事業者(年商1000万円以下)未登録不要
課税事業者(インボイス登録済み)登録済み必要

このように、インボイス制度の導入によって「インボイス未登録=免税事業者のまま」「インボイス登録=課税事業者として納税スタート」という構図が成り立ちます。世の中の飲食店は現状でも免税事業者と課税事業者に分かれていますが、今後はさらにインボイス未登録・登録という違いも加わり、これが大きな問題を引き起こすことになります。

📝 このセクションのまとめ

  • インボイスは2023年10月スタート。税率・税額・登録番号の記載が必須
  • 登録は任意だが、登録すれば課税事業者として消費税納税が始まる
  • 免税事業者のままでいるか、登録するかという選択を迫られる

消費税「税のバトンリレー」と納税の連帯責任

インボイス開始前の消費税の流れを確認しておきましょう。今回の主人公は飲食店です。飲食店は食材などを問屋から仕入れており、お客様(ここでは会社の接待利用者)がいます。

消費税の流れとしては、取引先→お客さん→飲食店→問屋という順番で代金が支払われていき、消費税も同時に渡されていきます。それぞれの事業者は受け取った消費税から支払った消費税の差額を税務署に納める、これが原則です。この仕組みは「税のバトンリレー」とも呼ばれます。

📌 課税事業者同士の消費税計算例

  • 取引先から仕事の対価として1万円+消費税1,000円を受け取る
  • インボイス登録済み飲食店で飲食し4,000円+消費税400円を支払う
  • この会社が納める消費税:1,000円-400円=600円

問題は、飲食店が免税事業者のままインボイス登録しないを選択した場合です。この場合、税金のバトンリレーは行われたとしても、飲食店からお客さんに対してインボイスが発行されません。

その結果、バトンリレーの中で誰かが免税だった場合、周りが連帯責任として税金を納めなければならない「納税の連帯責任」が発生します。

飲食店の状態インボイス発行お客さん(会社)の消費税計算お客さんの納税額
課税事業者(登録済み)発行できる1,000円-400円600円
免税事業者(未登録)発行できない1,000円-0円1,000円(400円の損失)

⚠️ 注意

免税事業者の飲食店でインボイスなしで飲食した場合、お客さんである会社は400円多く消費税を納めることになります。これは本来飲食店が納めるべき消費税を、お客さんが代わりに負担している状態です。税務省の試算では、この仕組みによって年間約2,480億円の増税になる見込みとされています。

ただし、この納税の連帯責任にも例外があります。飲食店が免税事業者で、かつそのお客さんも一般消費者・免税事業者・そもそも事業者でない場合は、消費税を納めないわけですから連帯して納める必要はありません。

インボイス制度は、飲食店が登録したら登録したで納税が発生し、登録しなかったら代わりに誰かが負担するという、増税の仕組みとしては非常に巧妙な仕組みになっています。

📝 このセクションのまとめ

  • 消費税は「税のバトンリレー」として各事業者が差額を納税する仕組み
  • 飲食店がインボイス未登録の場合、お客さん(会社)が消費税を余分に負担することになる
  • 相手が一般消費者・免税事業者の場合は連帯責任は発生しない

インボイス登録する・しない問題:飲食店はどう判断すべきか

インボイスを登録するかしないかの判断は、飲食店の状況によって異なります。

事業者の状況インボイス登録の判断
年間売上が1,000万円超の課税事業者もともと消費税を納税しているため、登録しても特に変化なし。ほぼ全員が登録済みと思われる
年間売上が1,000万円以下の免税事業者で、対企業取引が多い登録すると課税事業者として消費税納税がスタート。登録しないと売上が減る可能性あり
年間売上が1,000万円以下の免税事業者で、対一般消費者が中心基本的にインボイス登録しなくても変化なし

飲食店にとって一番の問題は、相手がインボイスを求めているのか求めていないのかが、実際にはわからないという点です。領収書を求められた時に初めて「あ、この人は会社の人で経費にするつもりだったんだ」とわかることもありますが、今どきの会社や個人事業主はレシートでもOKだったりするので、本当に判断が難しいのです。

  • どうやら会社の接待で使われそうだと思ったら→インボイス登録した方がいい
  • 誰も経費にしないだろうと思ったら→インボイス登録しなくてもいい

非常に感覚に頼った判断になりがちというのが難しい点です。よくわからないからインボイス登録するという方は、しばらくは2割特例なども使えるので消費税負担が少し軽くなります(詳細は別動画参照)。

📌 ポイント

「よくわからないからインボイス登録しないでおこう」という選択をした方には、2023年10月以降に苦境が待っています。次のセクションで詳しく解説します。

📝 このセクションのまとめ

  • 課税事業者はほぼ全員インボイス登録済みで変化なし
  • 免税事業者は客層によって登録すべきかどうかが変わる
  • 飲食店は客がインボイスを求めているかどうかを事前に判断しにくいのが難点

苦境その2:クレーム・値下げ交渉問題

免税事業者を選択した飲食店にとって非常に厄介な問題が、クレーム・値下げ交渉問題です。

2023年10月以降も領収書やレシートは発行すると思いますが、その際にはインボイスではない領収書でも消費税が乗っています。お客さんである課税事業者の会社や個人事業主は、「この領収書に登録番号がない=インボイスじゃない=免税事業者だ」とバレてしまいます。

そうなると、次のようなクレームや交渉が起きる可能性があります。

  • 「免税事業者なのに消費税を取るな」というクレーム
  • 「消費税分を値下げしろ」という値下げ交渉

📌 免税事業者でも消費税を請求できる理由

消費税法上、事業者が国内で取引をしたら消費税が課税されるというのは大原則です。免税事業者・課税事業者に関係なく、事業をしている人が物を売ったりサービスを提供したりすれば消費税が原則かかります。つまり消費税は商品・サービス価格の対価の一部として含まれているという考え方です。

「自分は消費税を取っているつもりはない」という個人経営の方もいるかもしれませんが、そういう場合でも税込みという扱いになります。さらに、領収書やレシートに消費税を記載することも、インボイス制度が施行された後でも免税事業者は「区分記載請求書」を発行するのが原則です(税込み・税別どちらでも可)。

ただし、お客さんに「この消費税も対価の一部だから払ってください」と説明しても伝わりにくい場面もあるでしょう。その場合は、「飲食店だって仕入れや家賃でちゃんと消費税を払っているので、その分を請求しています」という説明が一番納得してもらいやすいと思います。

📝 このセクションのまとめ

  • インボイス未登録の飲食店は、領収書の登録番号がないことで免税事業者だとわかってしまう
  • 消費税分のクレームや値下げ交渉が発生する可能性がある
  • 免税事業者でも消費税は請求できる。「仕入れや家賃でも消費税を払っている」という説明が有効

苦境その3:接待飲食費5000円基準が実質縮小する仕組み

飲食店ならではの問題として、法人税上の「接待飲食費5000円基準」の問題があります。これは法人税で定められているルールです。

📌 接待飲食費5000円基準とは

1人当たりの接待飲食費が税抜きで経理をしている場合、5,000円以下なら「会議費」、5,000円超なら「接待交際費」として扱われます。

  • 会議費:全額損金算入できて有利
  • 接待交際費(中小企業):年間800万円を超えた部分は税金がかかる
  • 接待交際費(大企業):50%部分に関して税金がかかる

例:4人で接待飲食をした場合、5,000円×4人=20,000円以下なら会議費として全額経費にできます。

この5,000円基準がインボイス制度の開始によって非常に厄介なことになります。

接待場所が免税事業者の飲食店だった場合、免税事業者に対してはインボイスがないため「消費税を払ったとみなされない」、つまり免税事業者への支払いは税込みの扱いになってしまいます。

その結果、5,000円基準を税込みベースで考えることになり、税抜きに換算すると基準が下がります。経過措置を踏まえた具体的な数値は以下の表のとおりです。

期間消費税の仕入税額控除の認定割合実質的な税抜き換算の上限額(1人当たり)
インボイス制度開始前(〜2023年9月)100%5,000円
2023年10月〜2026年9月(3年間)80%(経過措置)4,902円
2026年10月〜2029年9月(3年間)50%(経過措置)4,762円
2029年10月以降(経過措置終了後)0%4,545円

⚠️ 注意

5,000円基準そのものは変わりません。しかし免税事業者の飲食店での接待については、消費税10%分を割り戻して計算しなければならないため、実質的な上限が下がります。経過措置が完全に終わる2029年10月以降は、税抜き換算で4,545円が上限となります。4人での接待なら4,545円×4人=18,180円以下でないと会議費として扱えなくなります。

同じ金額の飲食をするなら、課税事業者の飲食店で食べた方が有利ということになります。一番危惧されるのは、大企業などから「免税事業者の飲食店で飲食するな」というお達しが出た場合です。現時点ではそういった話は聞こえてきていませんが、今後どうなるかはわかりません。

この5,000円基準の計算が非常にややこしくなることから、企業によっては飲食に関わるエクセルの計算シートを作成しており、「接待した場所が免税事業者だったらこの基準になります」と確認できるようにしているところもあるそうです。

📝 このセクションのまとめ

  • 免税事業者の飲食店での接待は、税込み扱いになるため5,000円基準が実質縮小する
  • 経過措置終了後(2029年10月以降)の実質上限は税抜き換算で4,545円
  • 同じ接待をするなら課税事業者の飲食店を利用した方が有利
  • 接待費を経費計上する際は、利用した飲食店がインボイス登録済みかどうかの確認が必要になる

まとめ:インボイス未登録飲食店が避けられる時代へ

以上を踏まえて、飲食店の3大苦境を改めて整理します。

苦境内容影響を受ける人
①消費税負担の増加インボイス登録済みの会社・個人事業主がお客様だった場合、そのお客様の消費税負担が増える飲食店を利用する会社・個人事業主
②クレーム・値下げ交渉インボイス未登録がバレることでクレームや値下げ交渉が起きる可能性がある免税事業者の飲食店
③5,000円基準の縮小接待交際費の会議費扱い上限が実質4,545円に下がり、接待交際費的に不利になる会社の接待で飲食店を利用する会社員

これらの結果、インボイス未登録の飲食店は今後避けられる可能性があります。ただし、実際にどうなるかはこれから判明してきます。会社の方でインボイス未登録の飲食店について「行ってもいい」「行くな」といった方針がすでに発表されているケースがあれば、ぜひ参考にしてください。

なお、先にインボイスを導入したヨーロッパでは、インボイス導入時に小さな事業者がたくさん廃業したという事例があったそうです。日本でも同様の事態が起きないか、今後の動向を注視する必要があります。

⚠️ 注意

本記事の情報は2023年8月21日時点のものです。今後の制度変更については、国税庁のホームページで最新情報をご確認ください。

📝 このセクションのまとめ

  • インボイス未登録飲食店の3大苦境は「消費税負担増」「クレーム・値下げ交渉」「5,000円基準の縮小」
  • 接待飲食費を経費計上する会社員・個人事業主も、利用する飲食店のインボイス登録状況を意識する必要がある
  • ヨーロッパの先例では、インボイス導入時に小規模事業者の廃業が相次いだ

終わりに

本記事の内容は YouTubeチャンネル オタク会計士ch【山田真哉】 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。
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