インボイス制度で免税事業者はどうなる?3000人アンケートと企業対応を税理士が解説
インボイス制度で損を回避した免税事業者が急増。3000人アンケートと大手企業の最新対応から、登録すべきか否かの最適解を探ります。
インボイス制度の基本:消費税バトンリレーの仕組み
消費税はよく「バトンリレー」と表現されます。消費者・商店・運送会社・工場のように、それぞれがバトンを渡すかのように消費税を受け渡していく仕組みです。最終消費者は消費税を納税しなくていいのですが、その間に立つ事業者、たとえば商店であれば消費者からもらった消費税と運送会社に払う消費税の差額を税務署に納めます。このようにそれぞれの事業者がもらった消費税と払った消費税の差額を納めていくのが消費税の基本スタイルです。
これまでの計算方式は「帳簿保存方式」と言い、もらった消費税・払った消費税の金額を帳簿にきちんと記載しておけばよく、さらに課税事業者と呼ばれる人だけが納税すればよいというルールでした。たとえば、この仕組みの中の運送会社が年間売上1,000万円以下の免税事業者だったとしても、消費税のバトンリレー自体はこれまで通り渡されていきます。その運送会社は規模が小さいから消費税を収めなくていいですよ、と認められているので、ただ単に税務署に収めなくて済んだという仕組みでした。
ところが、このルールが一変するのが2023年10月からスタートするインボイス制度です。インボイスは日本語で「適格請求書」と訳されます。インボイス方式でも納税するのは課税事業者だけという点は変わりません。ただし、計算方法がこれまでのように帳簿だけでOKというわけではなく、インボイスが必須になります。
📌 インボイス(適格請求書)とは?
消費税をもらった側が発行する書類で、納税証明書の代わりになります。もらった消費税・払った消費税をこのインボイスを使って計算します。インボイスを発行できるのは課税事業者のみです。
問題となるのは、このバトンリレーの中に免税事業者が入っている場合です。たとえば運送会社が免税事業者だった場合、インボイスを発行できません。そのため、商店が運送会社に消費税を渡したとしても、インボイスがないので「消費税を払った」という納税証明がないことになります。結果として、払った消費税が認められないため、その分だけ商店が納める納税額が増えてしまいます。
つまりインボイス制度とは、バトンリレーの途中に免税事業者がいた場合、その免税事業者が本来払うべきだった消費税を誰かが代わりに収めてね、という制度なのです。
📝 このセクションのまとめ
- 消費税は事業者間でバトンリレーのように渡されていく
- これまでは帳簿保存方式で計算でき、免税事業者は納税不要だった
- インボイス制度では適格請求書(インボイス)が必須となり、免税事業者はインボイスを発行できない
- 免税事業者がバトンリレーに入ると、取引先の納税額が増える構造になる
誰が消費税を負担するのか:3つのパターン
免税事業者が取引に関わる場合、消費税の負担の方法には大きく3つのパターンがあります。
| パターン | 内容 | 実質的な負担者 |
|---|---|---|
| ① | 取引先(商店など)が消費税を渡すが、納税額が増える分を自社で負担する | 取引先(商店) |
| ② | 取引先が免税事業者に消費税を渡さない(消費税分を支払わない) | 免税事業者(運送会社など) |
| ③ | 取引先はこれまで通り消費税を渡し、増えた納税額分を消費者への値上げで補う | 最終消費者 |
この①②③のどれかで誰かが消費税を負担しなければならないという意味で、インボイス制度は「納税の連帯責任」のような形をしています。その結果、税務署的には実質的な増税という形になります。消費税の税率を上げずに増税できるのが、このインボイス制度導入の本質と言えます。
⚠️ 注意
インボイス制度は強制ではなく任意の制度です。消費税増税をしたいなら強制すればよいとも思えますが、納税の連帯責任制度であるため、あえて強制にしなくても税務署的には税金が取れる仕組みになっています。
📝 このセクションのまとめ
- 消費税の負担は「取引先が負担」「免税事業者が負担」「消費者への値上げ」の3パターン
- インボイス制度は消費税率を上げずに実質増税できる仕組み
- 制度への参加は強制ではなく任意
インボイス登録は必要?売上規模別の基本的な考え方
インボイスに登録した方がいいかどうかは、まず年間売上によって判断が変わります。
| 事業者の区分 | インボイス登録の考え方 |
|---|---|
| 年間売上1,000万円超(課税事業者) | 登録しても税金的な変化はないため、登録しておいた方がよい。未登録だと取引先が消費税を負担することになり、関係性が悪化する可能性がある。 |
| 年間売上1,000万円以下・対消費者向けビジネス | 一般消費者はレシートがインボイスかどうかをあまり気にしないため、登録しなくても変化がない可能性が高い。 |
| 年間売上1,000万円以下・対企業向けビジネス(BtoB) | インボイス登録して消費税の納税をスタートさせるか、免税事業者のままでいるかを選択。ただし免税事業者のままだと消費税分がカットされるリスクがある。 |
特に問題となるのは対企業向けビジネスを行う免税事業者です。インボイス登録をしない場合、2023年10月以降の消費税の扱いは取引先企業の方針によって以下のように分かれていきます。
- 引き続き消費税10%がもらえる
- 消費税が約8%もらえる(企業側の経過措置に基づく)
- 消費税がまるまるカットされる
この3つの未来のどれに当てはまるかを把握することが、インボイス登録を判断するうえで最も重要なポイントです。
📝 このセクションのまとめ
- 課税事業者(年間売上1,000万円超)はインボイス登録を推奨
- 対消費者向けの免税事業者は登録しなくても影響が少ない場合が多い
- 対企業向けの免税事業者は取引先の対応によって消費税の扱いが3パターンに分かれる
3000人アンケート結果:3ヶ月前と何が変わったか
2023年4月23日〜28日にTwitterおよびYouTubeコミュニティで実施したアンケートの結果を発表します。約3,000票が集まりました。対象は個人事業主と企業の方々で、設問は「2023年10月以降、免税事業者のままでも消費税分をもらえる感じですか(企業側からするといくら消費税を免税事業者に支払いますか)」というものです。
選択肢は以下の4つです。
- ①これまで通り消費税分10%がもらえそう
- ②消費税分7.8〜8%がもらえそう(企業側の経過措置を考慮した数字)
- ③消費税分がまるまるカットされてしまう
- ④企業から連絡がまだ来ない、または連絡はあったが消費税についての言及がない
なお、複数の取引先がある場合は年間取引が最も大きい企業を基準に回答していただきました。
3ヶ月前(前回)と今回の結果を比較すると、以下のようになりました。
| 選択肢 | 3ヶ月前の結果 | 今回の結果 |
|---|---|---|
| ①消費税10%もらえる | 18% | 30% |
| ②消費税約8%もらえる | 6% | 8% |
| ③消費税がまるまるカット | 15% | 23% |
| ④連絡なし・未決定 | 53% | 39% |
約6割の方が10月以降の対応が決まったという状況になりました。そのうち全体の30%が消費税10%をそのままもらえるという結果になっており、これは個人的にも予想外の数字でした。①と②を合わせると約4割の方がそれなりに消費税をもらえそうだということになります。
📌 ポイント
実際にお客様を見ていても、取引先から「消費税はこれまで通りもらえる」という方がかなりの数出てきています。ただし逆に消費税が全カットというケースも23%に増加しており、業種によってかなり二極化していると感じています。
📝 このセクションのまとめ
- 3ヶ月前と比べ、10月以降の対応が決まった割合が約6割に増加
- 消費税10%をもらえると回答した人が18%→30%に大幅増
- 一方、消費税が全カットと回答した人も15%→23%に増加し、二極化が進んでいる
大手企業の対応事例:各社の判断と本音を読み解く
各企業から届いているインボイス登録のお願い書類をもとに、企業がどういう判断をしたのかを読み取っていきます。各社の対応は本当にバラバラです。代表的な事例を紹介します。
某大手総合エンタメ企業(上場企業)の場合
「消費税分を引き続きお支払いする」という文章が書かれていました。つまり免税事業者のままでも、インボイス登録をしなくても、消費税がそのままもらえるという会社です。
ただし、その社員の方に聞くと、新規取引の場合は取引価格をよく検討するとのことでした。つまり既存の外注先は大事にするが、新規の免税事業者に対しては10%分ほど取引価格を低めに設定する可能性があるということです。
なぜそうなったかというと、本音のところは「とにかく揉めたくない」ということのようです。インボイス反対運動がこれだけある中で消費税カットを言うとトラブルになりやすく、それは避けたい。さらに政府は「消費税をカットするなら個別交渉しなさい」と言っていますが、大企業にとっては取引している免税事業者が数千人・数万人いたりするわけで、個別交渉は到底無理です。そういった個別交渉のコストを考えると、消費税は企業側で負担するしかないという選択なのだと思われます。
📌 コメント欄の声(IT系フリーランスエージェント)
「自分の知っているIT系のフリーランスエージェントは消費税10%払うとのこと。中抜き額と企業側の経過措置も踏まえると、ITのこの形態をやっているところは払う企業が多いと思います。」
→ 企業にとって免税事業者に10%払ったとしても、経過措置があるから実際の負担増は約2%分程度というのが背景にあります。
なお、コメントの中には「消費税はもらえそうだが、免税事業者は消費税を請求しないよう誘導するようなお達しが来た」という声もありました。巧妙というか、グレーな対応と言えるでしょう。
某大手芸能事務所の場合
「普段お支払いしている報酬・ギャラから2%を引いた額を支払う」という内容でした。この2%は「インボイス調整控除」と呼ばれるものです。先ほどのアンケートで言うと②の「約8%もらえる」に相当する対応です。
その理由として、「わざわざインボイスを登録した人が、免税事業者と比較して不利益を被らないようにするため」という文言が書かれていました。つまり、インボイスを登録した人と登録しなかった人が同じ金額ではそれは不公平だから差をつけますよ、という理由です。
登録した人の報酬を上げればよいのでは、とも思いますが、それは企業のコスト増になるためしないということです。企業が損をしないのがこの2%控除ですので、企業の経営判断としてはありかなという感じです。
⚠️ 注意:インボイス調整控除は段階的に拡大します
この2%控除は経過措置に基づくものです。経過措置が進むにつれて控除率が上がります。
- 現在(2023年10月〜):2%控除
- 3年後(2026年10月〜):5%控除
- 6年後(2029年10月〜):10%控除(消費税分がまるまるカット)
某著作権管理団体(JASRAC)の場合
「普段払っている分配使用料は2023年10月以降、消費税分を含めずに支払う」というお達しが来ました。ここは純粋な仕事の対価というより権利の分配なので考え方が違うのかもしれませんが、下請法なども関係ないのでしょう。2023年10月以降、免税事業者には消費税が支払われないようです。
その他のコメントから見えてきた事例
| 企業の対応 | 内容 |
|---|---|
| 大手メーカー | 「未登録である場合は支払わない」と通達。消費税を全カット。 |
| 別の企業(支払い側) | 「弊社では未登録個人事業主様にも支払う予定」と表明。同じ業種でも対応が分かれている。 |
| 一部の企業 | 「登録しない業者とは取引しない」と宣言。インボイスがない免税事業者との取引自体を打ち切る選択肢も。 |
📝 このセクションのまとめ
- 大手企業の対応は「10%継続支払い」「2%控除(約8%支払い)」「全カット」「取引打ち切り」と各社バラバラ
- 10%継続支払いの背景には「個別交渉コストの問題」や「トラブル回避」という本音がある
- 芸能事務所の2%控除は経過措置に基づくもので、将来的には控除率が拡大していく
- 同じ業種・業界でも企業によって対応が大きく異なる
結局どっちが有利?取引先の対応別・インボイス登録の判断基準
免税事業者は結局インボイスに登録するのとしないのとどちらが有利なのか、取引先の対応パターン別に整理します。
①消費税10%をこれまで通りもらえる場合
登録すると消費税10%はもらえますが、納税が増えます。ただし「2割特例」があるため消費税の納税額は少なく抑えられます。一方、登録しなくても10%もらえるわけですから、登録しない方が当然有利です。
ただし、注意点があります。今後消費税が12%・15%・20%と上がることが予測されています。その場合、免税事業者のままだと「10%で打ち止め」という企業が多いと思われます。つまり今の金額が税込みの上限価格になり、消費税が上がってもその額から変わらなくなる可能性があることは、覚悟しておいた方がよいでしょう。
②消費税約8%がもらえる場合
登録すれば約8%ではなく10%もらえます。ただし納税が増えます。2割特例で約2%納税することになるため、結局8%もらうのと変わらないなら、登録しない方が有利と考えられます。
ただしこれはあくまでも経過措置に基づいたものです。経過措置の終了スケジュールは以下の通りです。
| 時期 | 企業側が仕入税額控除できる割合 | 免税事業者への実質的な影響 |
|---|---|---|
| 2023年10月〜2026年9月 | 80% | 消費税の約8%はもらえる |
| 2026年10月〜2029年9月 | 50% | 消費税の約5%しかもらえない |
| 2029年10月〜 | 0% | 消費税が全くもらえなくなる |
つまり、インボイス登録を検討するタイミングとして、3年後(2026年10月)または6年後(2029年10月)を目安に考えるという形で、判断の期間が延びたと捉えることができます。当面は登録しても手間が増えるだけなので、登録しないを選択する方向でよいでしょう。
③消費税がまるまるカットされる場合
登録しないと売上が約10%減るわけですから、登録して10%もらった方が有利になります。ただし納税は増えてしまいます。
📌 取引先パターン別:インボイス登録の判断まとめ
- ①消費税10%もらえる → 登録しないが有利
- ②消費税約8%もらえる → 当面は登録しないが有利(3年後・6年後に再検討)
- ③消費税がまるまるカット → 登録する方が有利
もちろん、取引先が一社ではなく複数ある場合、これらのパターンが混在するケースもあるでしょう。また、プレッシャーで「登録しなければいけない雰囲気がある」という方もいらっしゃるかと思います。
⚠️ 注意
現時点ではまだ2023年10月まで期間があります。決めかねている方は夏ごろまで様子を見て、周りの状況を確認するというのも一つの選択肢です。焦って登録する必要はありません。
📝 このセクションのまとめ
- 消費税10%もらえる・約8%もらえる場合は当面「登録しない」が税金的に有利
- 消費税がまるまるカットされる場合は「登録する」方が有利
- 経過措置は2026年10月・2029年10月と段階的に縮小されるため、登録タイミングはそのタイミングで再検討するとよい
- まだ10月まで時間があるため、夏ごろまで様子を見るのも一つの選択
まだ迷っている方へ:無料相談窓口の活用を
周りにインボイスに詳しい方がいない場合は、現在税務署がインボイス登録・相談会を開始しています。以前はインボイスの説明会が各地の税務署などで行われていましたが、現在は個別に税務職員や税理士が相談に乗ってくれるようになっています。
また、インボイス相談受付窓口も設置されており、オンライン相談も利用できるようになっています。「インボイス発行に伴う税負担や登録費用などのご相談」を個別の事情に応じて電話・オンラインで受け付けています。
- 税務署のインボイス登録・相談会(個別対応)
- インボイス相談受付窓口(電話・オンライン相談対応)
こういった無料の窓口を活用しながら、インボイスについてまだ考える時間はありますので、焦らずに調べていただければと思います。
📝 このセクションのまとめ
- 税務署によるインボイス登録・相談会(個別対応)が開始されている
- インボイス相談受付窓口では電話・オンラインで無料相談が可能
- 2023年10月まで時間があるため、無料窓口を活用しながら慎重に判断することを推奨
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル オタク会計士ch【山田真哉】 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。 本サイトは オタク会計士ch【山田真哉】を応援しています!
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