インボイス未登録が有利?独占禁止法と経過措置を税理士が解説
公正取引委員会の見解により、免税事業者への消費税全額カットは独占禁止法違反とほぼ確定。インボイス未登録が有利な理由を詳しく解説します。
インボイス登録をする必要がない理由とは
今、国税庁は法人や個人事業主の皆さんに対してインボイス登録をするよう呼びかけています。ところが、つい最近公正取引委員会から出された資料によると、免税事業者に対して消費税分を全額カットするのは違法だということがほぼ確定しました。
その結果、年間売上1,000万円以下の免税事業者にとっては、インボイスを登録しない方が有利だということもほぼ確定しました。一体どういう事情なのか、どういう仕組みなのかをこれからお話しします。
⚠️ 注意
インボイス未登録の方が有利というのは、現状インボイスが始まってから3年間限定のお話です。また一部例外もありますので、最後までご確認ください。
今回は、インボイス制度についてある程度ご存じの方を前提にお話しします。年間売上が1,000万円超の課税事業者(消費税をもともと納めている方)にとっては、インボイス登録をしても基本的にそれほど変化はありません。
ところが、年間売上1,000万円以下の免税事業者と呼ばれる方々にとっては、かなり重大な問題です。一般消費者向けの事業をされている方にとっては、インボイスを登録するかしないかについて、現状登録しなくても変化はないだろうと言われています。ただし、これは実際にインボイス制度が始まってみないと分からない状況ではあります。
明らかに登録するかしないかで大きく状況が変わるのが、対企業向けの仕事をされている個人事業主・フリーランスの方々です。インボイスを登録すれば消費税の納税がスタートしてしまいます。しかし、インボイスを登録しなかったら売上がカットされる可能性が高くなります。
📝 このセクションのまとめ
- 国税庁はインボイス登録を推奨しているが、公正取引委員会の見解で状況が変わった
- 年間売上1,000万円以下の免税事業者にとってはインボイス未登録が有利とほぼ確定
- 特に対企業向けのフリーランス・個人事業主に大きく影響する
インボイス制度の仕組み:登録した場合としなかった場合
まず、2023年10月以降にインボイス制度が開始された場合に何が起きるのかを説明します。
例として、ある個人事業主がインボイスを登録した(課税事業者になった)ケースを見てみましょう。取引先に対して1万円の仕事をしたとすると、消費税10%を加えた1万1,000円を受け取れます。インボイス登録済みなので、Tから始まる13桁のインボイス番号がついた請求書を取引先に送ります。
この個人事業主はさまざまな仕入れをしており、店舗からインボイス(レシートタイプ)を受け取ります。このインボイスは納税証明書の代わりになるもので、消費税200円を払ったという証明書として機能します。
| 状況 | 受取消費税 | 支払消費税 | 納税額 |
|---|---|---|---|
| インボイス登録あり(課税事業者) | 1,000円 | 200円(証明可) | 800円 |
| インボイス未登録(免税事業者) | もらえない可能性あり | 200円(証明不可) | 0円(免税) |
一方、この個人事業主がインボイス未登録(免税事業者のまま)だった場合、インボイスを発行できないため、消費税分をもらえるかどうかが分かりません。これまで1万1,000円もらっていたのが、1万円になってしまう可能性があります。つまり売上が約10%減る可能性があるというのが、インボイス制度の問題点でした。
取引先(発注側)の視点から見るインボイスの影響
なぜインボイスを発行できないだけで消費税がもらえなくなってしまうのか、今度は取引先の目線で見てみましょう。
取引先の会社は、先ほどの個人事業主に1万1,000円の仕事を発注していたとします。この個人事業主がインボイス登録済みの課税事業者だった場合、納税証明書の代わりであるインボイスを受け取ることができます。この会社が一般消費者や他の会社に5万円の仕事をして5万5,000円を受け取った場合の消費税納税額は次のようになります。
| 外注先の状況 | 受取消費税 | 控除できる消費税 | 納税額 | 会社の損益 |
|---|---|---|---|---|
| インボイス登録あり | 5,000円 | 1,000円 | 4,000円 | 損失なし |
| インボイス未登録(経過措置なし) | 5,000円 | 0円(証明不可) | 5,000円 | 1,000円の損失 |
インボイスがもらえない場合、消費税1,000円を払ったという証明ができないため、控除が認められません。その結果、この会社は消費税を5,000円受け取ったのに、外注先に1,000円+税務署に5,000円で合計6,000円支払うことになり、1,000円の損失が発生してしまいます。
だからこそ、取引先の会社は外注先にインボイス登録をお願いすることになります。ただし、お願いしてもすべての外注先がインボイス登録してくれるとは限りません。
インボイス未登録の外注先に対して、取引先がとれる対応は主に以下の3つです。
- 消費税をそのまま払い続ける(外注先はこれまで通り消費税10%をもらえる)
- 消費税を8割(80%)だけ払う(経過措置を考慮した減額)
- 消費税を全額カットする(外注先は消費税分がまるごとゼロになる)
売上の10%が失われるというのは社会的影響も非常に大きく、この問題に対して経過措置という特例が設けられました。
📝 このセクションのまとめ
- 外注先がインボイス未登録だと、発注側の会社が消費税を余分に納税しなければならない
- 発注側は外注先への消費税支払いについて「全額支払い」「8割支払い」「全額カット」の3択に直面する
- この問題を緩和するために経過措置が設けられた
3年間の経過措置(80%控除)とは何か
2023年10月から2026年9月までの3年間は、「経過措置」として発注側の会社に80%控除という特例が認められています。これは、0か100かという極端な状況による社会的混乱を緩和するための措置です。
具体的には、インボイスがない場合でも払った消費税の80%分は控除を認めるというものです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 受取消費税 | 5,000円 |
| 外注先への支払い消費税(実際) | 1,000円 |
| 80%控除で認められる額 | 800円 |
| 納税額(5,000円-800円) | 4,200円 |
| 会社の実質損失 | 200円(1,000円払って800円しか控除されない差額) |
経過措置がある結果、会社の損失は1,000円から200円に大幅に圧縮されます。200円程度の損失であれば許容できるとして、消費税をこれまで通り全額払い続けてくれる取引先も多くなります。
もう一つの考え方として、この経過措置を踏まえて外注先に消費税の8割(約8%相当)だけ支払うという方法もあります。この場合、会社は消費税5,000円受け取り、外注先に800円、税務署に4,200円支払うことで、損失がゼロになります。実際には外注先に払う額は本体価格に約7.85%を足す計算になり、ちょうど会社が損をしない金額になります。
📌 ポイント
経過措置(80%控除)があることで、インボイス未登録の外注先への消費税支払いは「全額(10%)」か「約8%(8割)」のどちらかになります。「全額カット(0%)」は経過措置を無視したやりすぎな対応として問題視されます。
📝 このセクションのまとめ
- 2023年10月〜2026年9月の3年間は「80%控除」の経過措置がある
- 経過措置により、発注側の損失は1,000円→200円に圧縮される
- 外注先が受け取る消費税は「10%(全額)」か「約8%(8割)」のどちらかが現実的な選択肢
公正取引委員会の見解:消費税全額カットは独占禁止法違反
ここで、公正取引委員会のメスが入りました。最近公表された「独占禁止法に関する相談事例(令和4年版)」において、免税事業者に対して消費税をいくら払うべきかという相談への回答が示されました。
内容をざっくりまとめると、先ほどの3番目の選択肢「消費税分を全額カット」するケースについて、次のような見解が示されています。
- 正当な減額であればOKという回答
- ただし、経過措置(80%控除)があるにもかかわらず消費税分を全額カットするのはやりすぎであり違法
- 違反する法律は独占禁止法(不公正な取引方法・優越的地位の濫用)
「優越的地位の濫用」とは、力がある側が一方的に取引条件を不利に変更することを指します。経過措置を考慮した上での若干の減額は認められるものの、消費税分のまるごとカットはダメだということが、今回初めて明示されました。これまでもふわっと「ダメ」という雰囲気はありましたが、経過措置もきちんと考慮するよう名言されたのは今回が初めてです。
⚠️ 注意:違反した場合のペナルティ
公正取引委員会にこの違反が発覚した場合、まず会社に対して「直しなさい」という指導が入ります。それを無視した場合、その会社の責任者は2年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑事罰の対象になります。
この見解により、先ほどの3択のうち3番目「消費税全額カット」の選択肢がほぼ消えました。もちろん、両者の合意があれば可能ですが、外注先が喜んでカットに同意するケースはほぼないでしょう。
結果として、免税事業者が直面する選択肢は実質的に次の2つに絞られました。
- ①これまで通り消費税10%をもらえる
- ②経過措置を考慮して消費税を8割(約8%)もらえる
📝 このセクションのまとめ
- 公正取引委員会が、免税事業者への消費税全額カットは独占禁止法違反と明示した
- 違反した場合、責任者は2年以下の懲役または300万円以下の罰金
- これにより「消費税全額カット」の選択肢がほぼ消え、免税事業者の受け取りは10%か約8%のどちらかになった
インボイス登録するかしないか:結論の比較
消費税全額カットの選択肢がほぼなくなったことで、インボイス登録するかしないかの比較がシンプルになりました。
| ケース | インボイス登録あり | インボイス未登録 | 有利なのは? |
|---|---|---|---|
| ①消費税10%をもらえる場合 | 消費税10%受取+消費税納税が発生 | 消費税10%受取+納税なし | 未登録が有利 |
| ②消費税8割(約8%)をもらえる場合 | 消費税10%受取+消費税納税が発生 | 売上が約2%減るだけ+納税なし | 未登録がほぼ有利(手間・費用も考慮) |
①のケースでは、インボイス未登録のままでも消費税10%をもらえるのであれば、わざわざ登録して消費税を納税し始める必要はありません。未登録の方が明らかに有利です。
②のケースでは、インボイスを登録すると消費税10%(もしくはそれ以上)を受け取れる一方で消費税の納税が始まります。未登録のままだと売上が約2%減少するだけです。登録して売上の消費税の20%を納める(2割特例)のと、売上が2%減るのとは、ほぼ同程度の影響です。さらに消費税申告の手間や税理士費用なども考慮すると、未登録の方が有利という結論になります。
📌 ポイント:2割特例とは
インボイス登録した場合、2023年10月〜2026年9月の3年間は「2割特例」として、売上にかかる消費税の20%(2割)だけ納めればよいという特例が設けられています。それでも、未登録で約2%の売上減少と比べると、手間や費用を含めると未登録の方が有利な場合がほとんどです。
なお、インボイス登録することで現状より消費税分の収入が増えるケースもあります。例えば、これまで消費税を請求していなかった方がインボイス登録を機に消費税を請求できるようになったというケースです。実際にこんなコメントもありました。「インボイスを機に消費税を請求させてもらうことになりました。実質3年間で8%アップ、その後も今より5%アップ。インボイスには感謝しかない(笑)」。このようなプラスアルファがある場合はインボイス登録を検討してよいでしょう。
📝 このセクションのまとめ
- 消費税全額カットの選択肢消滅により、①②どちらのケースでも未登録が有利
- ②のケースは売上約2%減少 vs 2割特例での納税でほぼ同等だが、手間・費用を考慮すると未登録有利
- インボイス登録で収入が増えるケースは例外的に登録を検討する価値あり
3年後(2026年10月以降)の問題:経過措置の変化と再検討の必要性
ここまでは2023年10月〜2026年9月の3年間の経過措置期間中の話でした。2026年10月以降になると、また状況が変わります。
| 期間 | 経過措置の控除割合 | 2割特例 | 免税事業者が受け取れる消費税の目安 |
|---|---|---|---|
| 2023年10月〜2026年9月 | 80%控除 | あり | 10%または約8% |
| 2026年10月〜2029年9月 | 50%控除 | なし | 10%または約5% |
| 2029年10月以降 | 控除なし | なし | 10%または0% |
2026年10月以降は経過措置が80%控除から50%控除に縮小されます。そのため、②のケースで受け取れる消費税も8割から5割(50%)に減り、売上が約5%減少する可能性があります。
この場合、インボイスを登録した方がいいのか未登録のままでいいのかは、業種や個々の状況によって異なります。2割特例もなくなり、原則課税か簡易課税かの選択になります。
📌 ポイント:簡易課税制度とは
簡易課税制度とは、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を使って消費税を計算する方法です。例えば、売上にかかる消費税の50%だけ納めればよい業種や、40%だけ納めればよい業種など、業種によって異なります。実際の仕入れの計算をせずに済む、簡便な計算方法です。
②のケースに該当する方にとっては、今回の経過措置と2割特例で問題が3年間先送りになっただけとも言えます。3年後にまた大きな混乱が起きる可能性があります。
個人的には、3年という期間ではなく、国税庁がインボイス制度によって実際にどれだけの事業者が損をしているかをきちんと調査した上で、混乱が大きいようであれば経過措置や2割特例を5年・10年と延長することも検討すべきだと思います。ただ現状では、3年後に再検討が必要になることは覚えておいてください。
📝 このセクションのまとめ
- 2026年10月以降、経過措置の控除割合が80%→50%に縮小される
- 2割特例もなくなり、原則課税か簡易課税かの選択になる
- 3年後に再度インボイス登録の有利不利を検討し直す必要がある
例外:インボイス登録した方が良いケース
ほとんどの免税事業者にとってはインボイス未登録の方が有利という結論になりましたが、一部例外もあります。インボイス登録を検討すべきケースをまとめます。
- インボイス登録によって現状より消費税分の収入が増える人:これまで消費税を請求していなかった方が、登録を機に消費税を請求できるようになるケースです。
- インボイス未登録だと仕事が減りそうな人:消費税を減額されるのではなく、「インボイス登録していない人には仕事を振らない」という方針の取引先がいる業界の方です。人手が余っている業界ほどこの圧力がかかりやすい傾向があります。例えばエンタメ業界のスタイリストやヘアメイクの方などはこのケースに当てはまることがあります。逆に、建築業界の一人親方・大工さんなど人手不足の業界では、インボイス未登録でも「他の会社に行かれては困る」という状況から、消費税をこれまで通り払ってもらえるケースが多いようです。
- 独占禁止法・下請法を無視する取引先と取引している人:このような取引先に対しては、泣き寝入りしてインボイス登録するか、あるいは公正取引委員会や商工会議所・商工会の「独占禁止法相談ネットワーク」窓口に相談することも選択肢の一つです。相談することで取引先に注意が入ることもあります。
📌 ポイント:相談窓口の活用
取引先が独占禁止法や下請法を無視した対応をしている場合は、公正取引委員会やお近くの商工会議所・商工会の独占禁止法相談ネットワークに相談することができます。相談することで、その会社に対して公正取引委員会から是正指導が入ることがあります。
結局のところ、インボイス登録するかしないかは業界のパワーバランスにも大きく左右されます。人手不足の業界ほど未登録でも消費税をもらいやすく、人手が余っている業界ほど登録を求められる圧力が強い傾向があります。
📝 このセクションのまとめ
- 登録で収入が増えるケース、未登録で仕事が減るケース、法律を無視する取引先がいるケースは例外的に登録を検討
- 人手不足の業界は未登録でも消費税をもらいやすく、人手が余っている業界は登録圧力が強い
- 理不尽な対応をする取引先には公正取引委員会や商工会議所の相談窓口を活用できる
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル オタク会計士ch【山田真哉】 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは オタク会計士ch【山田真哉】を応援しています!
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