事前確定届出給与で社会保険料削減スキームの落とし穴6選を税理士が解説
社会保険料削減スキームは一見お得に見えて、実はデメリットだらけです。
この記事で解説すること
マイクロ法人という言葉を聞いたことがある方も多いかと思います。個人事業主が小さな法人を立ち上げるというもので、今回の事前確定届出給与を活用したスキームも、節税ではなく社会保険料の削減のためにやるものです。
特にこの事前確定届出給与を使った社会保険料削減スキームは、税理士・会計士・社会保険労務士といった資格を持たない、よくわからないコンサルタントが勧めているケースがあるようです。このスキームは本当にごく一部の人、あるいは一定の時期にしかお勧めできないものであり、脱法行為とは言い切れませんが、限りなくグレーに近い内容です。
確かに社会保険料を削減できるかもしれませんが、実はそこには様々なデメリットがあります。今回はなぜこの制度をお勧めしないのか、その理由を解説していきます。
今回の解説の流れは以下のとおりです。
- 役員報酬と役員賞与の概念の違い
- 事前確定届出給与の注意点
- 社会保険料削減スキームとその落とし穴6選
📌 ポイント
事前確定届出給与という制度そのものは全然悪くありません。問題はこれを使った社会保険料削減スキームに潜む落とし穴です。この点は勘違いなさらないようにご注意ください。
📝 このセクションのまとめ
- 事前確定届出給与を使った社会保険料削減スキームは、資格なしのコンサルが勧めているケースがある
- 脱法行為とは言い切れないが、限りなくグレーに近い
- 制度自体は問題ないが、スキームとして使う際の落とし穴が多い
役員報酬(月給)と役員賞与の違い
まず基本的な概念を整理します。一言で言うと、役員報酬は月給、役員賞与はボーナス(年に数回ある臨時的なもので退職金以外のもの)です。
従業員の給与については厳しいルールはありませんが、役員に関しては様々な条件があります。
| 区分 | 内容 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 役員報酬(月給) | 毎月支払われる定期的な報酬 | 毎月同額であること/不相当に高額でないこと |
| 役員賞与 | 年に数回の臨時的な賞与 | 原則として経費に落とせない(例外あり) |
役員報酬(月給)については、法人税法上、基本的に毎月同額であること、そして不相当に高額でないことという要件があります。役員報酬を変更することはできますが、原則として年に1回、決算を終えて3ヶ月以内に変更しなければ、それ以降は原則として変更できません。
もちろん、業績の著しい悪化など資金繰りが非常に厳しい状況になった時は役員報酬を下げるという選択肢もあります。また「不相当に高額」については、税務調査において中小企業が引っかかるケースは非常に少ないですが、世間相場以上に取り過ぎていないかどうかも大事なポイントです。基本は毎月同額であるというところを守っていただければ大きな問題はないかと思います。
一方、役員賞与については税法上厳しいルールがあります。賞与の支給は自由ですが、原則として経費に落とすことができません。役員の賞与は利益処分、つまり利益が出て法人税を払ったその残りの利益から払うという概念があるためです。払うのは自由ですが経費には落ちない、ただし賞与である以上、源泉徴収として役員に対して所得税・住民税がかかります。
📝 このセクションのまとめ
- 役員報酬(月給)は毎月同額が原則で、変更は年1回・決算後3ヶ月以内
- 役員賞与は原則経費に落とせないが、事前確定届出給与の要件を満たせば経費計上できる
- 賞与も支払えば所得税・住民税の課税対象になる
事前確定届出給与とは?制度の概要と届出の手順
役員賞与を経費に落とすための例外として、事前確定届出給与という制度があります。これを利用するためには以下の要件を満たす必要があります。
- 株主総会の決議を行い、議事録をきちんと作成する
- 事前確定届出給与に関する届出書を期限内に税務署へ提出する
- 届出書の記載内容通りに支給を実行する
届出書には何を書くかというと、未来の年月日に何月何日にいくら賞与を取りますという宣言をします。決算が終わった後、定時株主総会を開いて「賞与をこれだけ支給します」と議事録に残し、かつ税務署にこの届出書を提出します。その宣言通りに実行すれば経費に落とすことができますが、実行できないと全額経費に落とせません。
📌 届出期限について
届出期限は以下のいずれか早い日です。
- 株主総会等の決議の日から1ヶ月を経過する日
- 会計期間開始日から4ヶ月を経過する日
新設法人の場合は2ヶ月以内です。大体、決算が終わってから3ヶ月以内にはこの届出を出す必要があります。
⚠️ 注意:支給日・金額がずれると全額アウト
- 支給日が届出と1日でもずれると全額経費アウト
- 資金繰りの都合で金額を変えると全額経費アウト
- 例:7月10日支給の予定が7月12日になった→アウト
- 例:100万取る予定が資金繰り悪化で50万しか取れなかった→50万だけ経費になるのではなく全額アウト
要件を満たせば届出の提出によって変更することも可能ですが、これは本当にレアケースです。「臨時改定事由」といって、役員の職制上の地位の変更や重大な職務の変更などがないと認められません。
よくいただくご質問として「とりあえず届出を出しておいて、取れなかったら賞与0にすれば問題ないのでは?」というものがありますが、そんなに甘いものではありません。次のセクションで詳しく解説します。
📝 このセクションのまとめ
- 事前確定届出給与は「未来の支給日と金額を事前に宣言する」制度
- 届出書は決算後おおむね3ヶ月以内に提出が必要
- 支給日・金額が届出と1円・1日でもずれると全額経費不算入
- 変更できるのは臨時改定事由がある場合のみ(非常にレア)
社会保険料削減スキームの仕組み
そもそも会社経営者の健康保険料・厚生年金保険料(社会保険料)は何で決まるかというと、月給(標準報酬月額)で決まります。給与が高くなればなるほど社会保険料も上がっていきますが、賞与については一定の率をかけて算定し、上限があります。
| 保険の種類 | 賞与にかかる保険料の上限 |
|---|---|
| 健康保険 | 年間累計 573万円(超える部分は保険料なし) |
| 厚生年金保険・子ども・子育て拠出金 | 月間 150万円(超える部分は保険料なし) |
また、事前確定届出給与による支払いが年3回までであれば、社会保険の計算上も賞与として扱われます。つまり、健康保険料の算定については年間の賞与が573万円を超える部分に対しては一切健康保険料がかかりません。厚生年金保険料については月間150万円を超える部分については社会保険料がそれ以上増えません。
この上限を利用したのが社会保険料削減スキームです。具体的には以下のようなやり方です。
📌 スキームの具体例
通常:毎月役員報酬100万円×12ヶ月=年収1,200万円→毎月社会保険料の負担が発生
スキーム適用後:月給を5万〜8万円程度に下げ、代わりに賞与(事前確定届出給与)で1,000万〜1,100万円を一括支給→社会保険料を大幅に削減
社会保険料の最低額(東京都の場合):
- 健康保険料(月給9万3千円未満):会社・個人合計で5,800円(介護保険加入者は6,856円)
- 厚生年金保険料(月給9万3千円未満):16,000円
社会保険料は税金以上に高いため、削減したいという気持ちは分からなくもありません。しかし、この裏に隠されたデメリットがたくさんあります。
📝 このセクションのまとめ
- 社会保険料は月給(標準報酬月額)で決まり、賞与には上限がある
- 健康保険は年間賞与573万円超、厚生年金は月間賞与150万円超の部分は保険料がかからない
- 月給を極限まで下げて賞与に振り替えることで社会保険料を大幅削減できるのがスキームの仕組み
落とし穴①②:経費計上リスクと資金繰りの悪化
【落とし穴①】支給タイミングや金額がずれると全額経費に落ちない
事前確定届出給与のスケジュール管理は顧問税理士がアナウンスしてくれると思いますが、支給のタイミングと資金繰りは経営者の責任です。金額がずれたり日付がずれたりすると全額アウトというかなりリスキーな制度なので、正直、月給にした方が気分は楽です。
また「とりあえず届出を出しておいて、賞与0にすれば問題ないのでは?」という考えもありますが、これはお勧めしません。賞与0とした場合の仕訳を見てみましょう。
| タイミング | 借方 | 貸方 | 説明 |
|---|---|---|---|
| 賞与を計上した時 | 役員賞与(費用) | 未払金 | 賞与を認識するが未払い |
| 支払わないことにした時 | 未払金 | 債務免除益(収益) | 債務が消滅→収益発生→法人税課税 |
⚠️ 賞与0で放置すると二重課税リスク
- 届出通りに賞与を支給しなければ、役員賞与は1円も経費に落とせない
- さらに債務免除益として法人税が課税される
- 何もしないと社長個人に役員賞与を取ったものとして所得税・住民税も課税される
これを防ぐ方法:支給日到来前に取締役会などで全額不支給の決議を行い、社長が賞与の受給を辞退する旨の届出書を社内に保管しておく。(法人税・所得税の基本通達に基づく対応)
こういったことをご存知のないまま届出を出したのに、役員賞与を0で放置している方が結構いらっしゃいますので、くれぐれもご注意ください。
【落とし穴②】一度に多額のキャッシュアウトを伴うので資金繰りが悪化する
毎月100万円の役員報酬を取るのと、一括で1,000万円をドンと取るのとでは大きく違います。お金が余っている会社であればいいですが、一気に1,000万円が出ていくのは、駆け出しの法人にとっては非常に辛い場面があります。
📝 このセクションのまとめ
- 支給日・金額がずれると全額経費アウト。月給の方が管理は楽
- 賞与0で放置すると債務免除益が発生し法人税・所得税の二重課税リスクがある
- 防ぐには支給日前に不支給決議+社長の辞退届が必要
- 大型賞与の一括支給は資金繰りを圧迫する
落とし穴③:役員退職金が少ししか取れなくなる
将来、会社を畳む時や自分が退任する時に役員退職金をドンと取って退任される方が多いです。現行税制では役員退職金は退職所得扱いになり、税制上非常に税負担が軽い所得になります。
この役員退職金の上限については、法人税法で目安が決められており、実務的な計算式として以下のものがよく使われます。
📌 役員退職金の実務上の計算式(功績倍率法)
最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率
- 功績倍率:代表取締役であれば3倍前後が目安
- 最終的には同じ税務署管轄内の同業種・同規模法人の役員退職金の金額をもとに「不相当に高額でないか」を判断
- 役員退職金規定を作成し、その算式に基づいて支給するのが慣行
⚠️ スキームを使い続けると退職金がほぼゼロになる
例えばスキームにより役員報酬を毎月5万円しか取っていないとすると、いくら在任年数が長くても、計算式の「最終報酬月額5万円×在任年数×功績倍率」となり、役員退職金がほんのわずかしか取れないという事態が起こります。スキームはいつまでも使えるものではありません。
📝 このセクションのまとめ
- 役員退職金は「最終報酬月額×在任年数×功績倍率」が実務上の計算式
- 月給を極端に下げると退職金の計算基礎が小さくなり、退職金がほぼ取れなくなる
- 退職金は退職所得として税負担が軽いため、この機会を失うのは大きなデメリット
落とし穴④⑤:将来の年金減額と傷病手当金の激減
【落とし穴④】将来の年金受給額が減る
年金については将来どれぐらいもらえるか正直わかりませんし、そのコスパが果たして良いものかどうかも分かりません。しかし普通に考えれば、それだけ払う厚生年金保険料が低くなるということは、将来受け取る年金は当然低くなります。
【落とし穴⑤】いざという時の傷病手当金が減る
社会保険には非常に重要な機能があります。それが傷病手当金です。怪我や病気で仕事を休まなければならなくなった時に、国が保証してくれる給付金です。
| 月給の水準 | 傷病手当金の給付額(目安) | 影響 |
|---|---|---|
| 通常(月給100万円) | 月給の約2/3程度 | 十分な保障 |
| スキーム適用後(月給5〜8万円) | 極めて少額 | 本当にピンチの時に大変 |
生命保険をかけている方もいらっしゃいますが、国が保証してくれる傷病手当金は月給の約3分の2程度です。月給が5万円や8万円だと、この保証額も非常に小さくなってしまいます。本当にピンチになった時に大変な状況になります。
📝 このセクションのまとめ
- 厚生年金保険料が低くなれば、将来受け取る年金額も低くなる
- 傷病手当金は月給の約2/3が給付されるが、月給が低いと給付額も激減する
- 万が一の時のセーフティネットが大幅に弱体化するリスクがある
落とし穴⑥:役員貸付金が膨らみ、役員賞与と見なされるリスク
これがスキームの最大のデメリットと言えるかもしれません。月給5万円や8万円で生活できますか、という話です。
1周して賞与1,000万円をドンと取ってそれを取り崩して生活することはできるかもしれませんが、会社の拡大に合わせて生活水準を上げていくとなると、月5万〜8万円では到底生活できません。その結果、会社から社長個人への貸付金が発生するケースがあります。
⚠️ 役員貸付金の連鎖リスク
- 生活費が足りないからといって安易に会社から貸し付けるのはNG
- 貸し付けた金額が返済もなくそのまま放置されると、税務当局から役員賞与と見なされる可能性がある
- 「経理処理上は役員貸付金にして経費に落としていないから大丈夫」と思っていても、源泉徴収リスク(所得税・住民税の課税対象)になる
- バランスシート上、役員貸付金は資産に計上されるが、返済がないと架空の資産扱いになる
- 融資審査における評価が非常に低くなる
📝 このセクションのまとめ
- 月給を極端に下げると生活費が不足し、会社からの借入が膨らむ
- 返済されない役員貸付金は役員賞与と見なされ、所得税・住民税の課税リスクがある
- 役員貸付金が多いと銀行融資審査に悪影響を与える
結論:このスキームをお勧めできる人・できない人
社会保険料削減スキームをお勧めしない理由をまとめると、以下の6つの落とし穴があるからです。
| 番号 | 落とし穴 | リスク内容 |
|---|---|---|
| ① | 支給タイミング・金額のズレ | 全額経費アウト、二重課税リスク |
| ② | 一度に多額のキャッシュアウト | 資金繰りの悪化 |
| ③ | 役員退職金の減少 | 最終報酬月額が低いと退職金がほぼゼロ |
| ④ | 将来の年金受給額の減少 | 老後の受取年金が低下 |
| ⑤ | 傷病手当金の激減 | 病気・怪我時のセーフティネット弱体化 |
| ⑥ | 役員貸付金の膨張と役員賞与認定リスク | 所得税課税・融資審査への悪影響 |
なお、世間ではこのスキームが加熱しつつありますので、そろそろ税制改正が入ってもおかしくないと思っています。
このスキームが検討できるのは、以下のすべての条件を満たす方に限られます。
📌 スキームを検討できる条件(すべて満たす必要あり)
- 会社が儲かっていて、会社にお金が余っている
- たくさんの賞与を取ることができる(賞与1,000万円超でないとメリットが出にくい)
- 月給がいらないくらい個人の貯蓄がある
これらに該当しない方は、6つの落とし穴に引っかかることになりますので、くれぐれもご注意ください。
参考までに、私自身がこのスキームをやらなかった理由もお伝えします。毎月の生活費を平準化・安定化したいという点、個人的に株式投資などをコツコツ積み上げていきたいという点、そして何より会社の資金繰りが一番大事なので、そういった無理はしませんでした。
周りの経営者仲間からこのスキームを勧められた時には、ぜひこの6つのデメリットを確認して、本当に自分に合っているかどうかを慎重に判断してください。
📝 まとめ:社会保険料削減スキームの結論
- このスキームは「会社に余裕があり、賞与1,000万円超を取れる一部の人」向け
- 大多数の経営者には6つの落とし穴が待っており、お勧めできない
- 世間での加熱を受け、今後税制改正が入る可能性もある
- 資格を持たないコンサルに勧められた場合は特に慎重に判断を
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
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