経常利益の目安はいくら?債務償還年数から逆算する方法を専門家が解説
経常利益の目安は「債務償還年数」を逆算すれば見えてくる。
債務償還年数とは何か?銀行が重視する指標
損益計算書の経常利益を一体いくら出せばいいのか、というのはよくいただくご質問です。今回は、銀行員の方も非常に重視している「債務償還年数」という指標から逆算する計算方法について解説します。
まず、この債務償還年数が何かというと、「債務を償還する年数」、つまり借金を何年で返せるのか、あるいは何年で返せるくらいの借金を今抱えているのかを示す指標です。
📌 ポイント:銀行によって計算方法が異なる
債務償還年数の計算方法は各銀行によって異なります。担当者に「御行ではどのように債務償還年数を計算されていますか?」と直接確認することをおすすめします。今回紹介するのは一般的な計算方法ですが、全ての銀行に通用するとは限りません。
📝 このセクションのまとめ
- 債務償還年数=借金を何年で返せるかを示す指標
- 銀行員が融資審査で非常に重視する
- 計算方法は銀行ごとに異なる場合がある
借入金は「全額を利益で返す」必要はない
借入金=借金というと「利益で返すのは当たり前」と思っている方が多くいらっしゃいます。しかし実は、利益以外で借金を返す手段があります。それが「資産」です。
最も典型的なのはお手元の現金です。たとえば2億円の借金があっても1億円の現金があれば、その1億円分は「返そうと思えばいつでも返せる」わけです。もちろん現金を全部返済に充ててしまうと商売が続けられませんが、考え方として、現金で返せる分は「利益で返す借入金」から除外できます。
⚠️ 注意:借入金を全額「利益で返す」と目標が高すぎる
借入金の全額を利益で返そうとすると、目標利益が高くなりすぎます。その結果、経営者も社員も疲れ果て、達成できない目標に苦しむという悪循環に陥ります。借入金の正しい分類を理解することが重要です。
借入金の種類としては、短期借入金・長期借入金・社債(社債で資金調達している場合)の3つを合計したものが対象となります。
💡 補足:動画では触れていませんが…
「必要以上の現預金を持ちすぎている」と銀行に判断されるケースもあります。業種・規模に応じた適正な現預金水準を把握しておくことも重要です。
📝 このセクションのまとめ
- 借入金=短期借入金+長期借入金+社債の合計
- お手元の現預金で返せる分は「利益で返す借入金」から除外できる
- 全額を利益で返そうとすると目標が高すぎて経営が疲弊する
正常運転資金とは何か?借入金から引ける理由
現預金に加えて、もう一つ借入金から差し引けるものがあります。それが「正常運転資金」です。
正常運転資金とは、貸借対照表の以下の項目から計算します。
| プラスする資産 | マイナスする負債 |
|---|---|
| 受取手形 | 支払手形 |
| 売掛金 | 買掛金 |
| 棚卸資産 | 前受金 |
正常運転資金=(受取手形+売掛金+棚卸資産)-(支払手形+買掛金+前受金)
「運転資金」と聞くと「日常の支払いに当てるために準備している現金」のようなイメージがあるかもしれませんが、銀行員がいう運転資金は資産のことです。
なぜこれを借入金から引けるかというと、商売をやめた時に確実に現金化できる資産だからです。売掛金は翌月には現金になり、棚卸資産も仕入れ値(原価)で現金化できます。その分を仕入先・外注先への支払いで差し引いたものが正常運転資金です。
📌 ポイント:「折り返し融資」が行われる理由
銀行が返済が進んだタイミングで「また借りませんか」と声をかけてくる「折り返し融資」はよく知られています。これは正常運転資金に見合う借入金については、商売をやめた時に現金化して返せばいいと銀行が考えているからです。つまり、この部分の借入金は普段から利益で返す必要はなく、ずっと借り続けることが想定されています。
💡 補足:動画では触れていませんが…
棚卸資産の中に不良在庫(売れない・陳腐化した在庫)が含まれている場合は、その分は現金化できないため、正常運転資金から除いて計算するのが実務上の注意点です。同様に、回収見込みのない売掛金も除外して考えましょう。
📝 このセクションのまとめ
- 正常運転資金=(受取手形+売掛金+棚卸資産)-(支払手形+買掛金+前受金)
- 商売をやめた時に現金化できる資産のため、借入金から差し引ける
- 折り返し融資はこの正常運転資金に見合う借入金が対象
要償還債務の計算方法と銀行が目安とする10年以内
ここまでの内容を整理すると、本当に利益で返すべき借入金(=要償還債務)は次の計算式で求められます。
📌 要償還債務の計算式
要償還債務=借入金合計 - 現預金 - 正常運転資金
(借入金合計:短期借入金+長期借入金+社債)
要償還債務とは、利益で返すべき借入金のことで、大半は設備投資のために借りた借入金が該当します。
次に、この要償還債務を何年で返せるかを示す「債務償還年数」の計算式は以下の通りです。
| 項目 | 計算内容 |
|---|---|
| 直近キャッシュフロー | 経常利益 × 0.6 + 減価償却費 |
| 債務償還年数 | 要償還債務 ÷ 直近キャッシュフロー |
| 銀行の目安 | 10年以内 |
「経常利益に0.6をかける」のは、法人税等(約4割)を差し引いた手取り分を見るためです。銀行員は税金を少し高めに見て、やや保守的・悲観的に計算します。
また、減価償却費を加算するのは、減価償却費は損益計算書上で費用として引かれていますが、実際には現金が出ていかないためです。つまり、その分だけ実際に手元に残るお金が多いことになります。
💡 補足:動画では触れていませんが…
減価償却費は税務上の計算と会計上の計算が異なる場合があります(特に中小企業の特例を使った即時償却など)。実際の資金繰りを把握するには、税務申告書の別表と合わせて確認することが重要です。
📝 このセクションのまとめ
- 要償還債務=借入金合計 - 現預金 - 正常運転資金
- 直近キャッシュフロー=経常利益×0.6+減価償却費
- 債務償還年数=要償還債務 ÷ 直近キャッシュフロー
- 銀行の目安は10年以内
不動産購入のための借入金は別で考える
ここで一つ重要な注意点があります。不動産を購入するための借入金は、要償還債務の計算から除いて別で考えるべきです。
不動産購入の際、銀行は20年・25年という長い返済期間を設定します。つまり銀行自身が「20〜25年かけて利益で返してください」と組んでいるわけです。
⚠️ 注意:不動産借入を含めると債務償還年数が過大になる
不動産購入の借入金を要償還債務に含めてしまうと、債務償還年数が10年を大幅に超えてしまい、「もうダメだ」と誤解してしまいます。不動産借入は当初設定した返済期間(20年・25年)と一致していれば全く問題ありません。
正しい考え方としては、不動産購入のための借入金は要償還債務から除外し、その不動産を使用することで生じた利益と合わせて別途管理するのが適切です。当初組んだ返済期間と債務償還年数が一致していれば問題ありません。
📝 このセクションのまとめ
- 不動産購入の借入金は要償還債務から除いて別で管理する
- 20〜25年の返済期間で組まれた不動産借入は、その返済期間と債務償還年数が一致していれば問題なし
- 不動産借入を含めて10年超えと判断するのは誤り
具体的な数値例:経常利益の目安を逆算する手順
ここからが今回の本題です。債務償還年数から逆算して、損益計算書の経常利益をいくら出せばよいかを求めてみましょう。
以下の数値を例として使います(金額の単位:万円)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 借入金合計(短期+長期+社債) | 1億円(10,000万円) |
| 現預金 | 3,000万円 |
| 正常運転資金 | 2,000万円 |
| 減価償却費(年間) | 500万円 |
| 目標とする債務償還年数 | 5年 |
まず要償還債務を計算します。
📌 ステップ1:要償還債務を求める
要償還債務=1億円 - 3,000万円 - 2,000万円 = 5,000万円
次に、目標年数を5年と設定した場合に必要な年間キャッシュフローを計算します。
📌 ステップ2:必要な年間キャッシュフローを求める
必要キャッシュフロー=要償還債務 ÷ 目標年数 = 5,000万円 ÷ 5年 = 1,000万円
続いて、経常利益を逆算します。直近キャッシュフローの計算式は「経常利益×0.6+減価償却費」でした。これを経常利益について解くと次のようになります。
- 経常利益×0.6 + 500万円 = 1,000万円
- 経常利益×0.6 = 1,000万円 - 500万円 = 500万円
- 経常利益 = 500万円 ÷ 0.6 = 約833万円(≒800万円)
📌 ステップ3:目標経常利益を確認する
目標経常利益=約800万円
800万円×0.6=480万円(税引後利益)+ 減価償却費500万円 = 980万円 ≒ 1,000万円となり、5,000万円÷1,000万円=債務償還年数5年が達成できます。
銀行の目安は10年以内ですので、この例では目安の半分程度(5年)という十分な水準で、利益で返すべき借入金を返済できる状態になります。
💡 補足:動画では触れていませんが…
目標年数は現状の債務償還年数を確認してから設定するのが現実的です。直前の決算書で現状の年数を計算し、それより短い年数を次の目標にするというアプローチが実務では取り組みやすいです。
| 目標債務償還年数 | 必要年間CF(要償還債務5,000万円の場合) | 必要経常利益(減価償却費500万円の場合) |
|---|---|---|
| 10年(銀行目安) | 500万円 | 約0万円(減価償却費のみで達成) |
| 7年 | 約714万円 | 約357万円 |
| 5年 | 1,000万円 | 約833万円 |
| 3年 | 約1,667万円 | 約1,945万円 |
📝 このセクションのまとめ
- 要償還債務(5,000万円)÷ 目標年数(5年)= 必要年間CF(1,000万円)
- 目標経常利益=(必要CF-減価償却費)÷ 0.6
- この例では経常利益約800万円で債務償還年数5年が達成できる
「付き合いで借りた借入金」を利益で返そうとしてはいけない
ここで一つ、よくある落とし穴についてお話しします。たとえば信用金庫の担当者から「付き合いで3,000万円借りてくれませんか」と頼まれて借りたとします。そのお金はお手元の現預金にそのまま置かれているケースもあります。
この場合、3,000万円の借入金はお手元の3,000万円の現預金で返せばいいだけです。利益で返す必要はありません。
⚠️ 注意:月日が経つと「付き合い借入」を忘れてしまう
借りた直後は「これは現預金で返せばいい」と分かっていても、月日が経って目標を立てる時に「3,000万円の借金を5年で返す=年600万円を利益で返さなければ」と思い込んでしまうケースが多くあります。現預金で返せる借入金を利益で返そうとしないよう、借入金の性質を常に整理しておくことが重要です。
お手元でダブついている3,000万円は、借入金の返済が進むにつれて少しずつ減っていくだけです。現預金で返すべき借入金を利益で返す必要はありません。
皆さんが本当に利益で返すことを意識すべきなのは、要償還債務(設備投資などのための借入金)だけです。借入金の捉え方には十分ご注意ください。
💡 補足:動画では触れていませんが…
「付き合い融資」で借りた資金は、決算書上では借入金として計上されます。税理士や顧問会計士と連携して、借入金の目的別に一覧表(借入金台帳)を整備しておくと、要償還債務の計算が格段にしやすくなります。
📝 このセクションのまとめ
- 現預金が裏付けになっている借入金は、現預金で返せばよく利益で返す必要はない
- 「付き合いで借りた借入金」を利益で返そうとすると目標が過大になる
- 利益で返すべきは要償還債務(設備投資等の借入金)のみ
経常利益の目安を求める全体の流れ:まとめ
ここまでの内容を整理して、経常利益の目安を求めるための全体の手順を確認しましょう。
- 借入金合計を確認する(短期借入金+長期借入金+社債)
- 現預金を差し引く(お手元の現預金で返せる分を除外)
- 正常運転資金を差し引く(受取手形+売掛金+棚卸資産 - 支払手形 - 買掛金 - 前受金)
- 要償還債務を算出する(不動産購入の借入金は除外)
- 目標債務償還年数を設定する(現状の年数を確認し、それより短い年数を目標に)
- 必要年間キャッシュフローを計算する(要償還債務 ÷ 目標年数)
- 目標経常利益を逆算する((必要CF-減価償却費)÷ 0.6)
この逆算の流れを知ることで、「なんとなく多ければ多いほどいい」ではなく、根拠のある経常利益の目標を設定できるようになります。
📌 ポイント:必要以上の利益目標は経営を疲弊させる
必要以上に高い利益目標を設定すると、必要以上の努力・苦労・疲弊が生まれます。経営者だけでなく社員も疲れ果て、銀行員からは「なぜそんなに疲れているのか」と不思議がられるような状況が生まれてしまいます。数字に対する正しい理解が、健全な経営の第一歩です。
| 借入金の種類 | 返済の原資 | 要償還債務に含めるか |
|---|---|---|
| 現預金の裏付けがある借入金(付き合い融資等) | 現預金 | 含めない(現預金で差し引く) |
| 正常運転資金相当の借入金 | 売掛金・棚卸資産等の現金化 | 含めない(正常運転資金で差し引く) |
| 不動産購入のための借入金 | 不動産収益・利益(長期) | 含めない(別途管理) |
| 設備投資等のための借入金 | 利益(キャッシュフロー) | 含める(要償還債務) |
📋 この記事を読んだら次にやること
- 直前の決算書を用意し、借入金合計・現預金・正常運転資金・減価償却費を確認する
- 要償還債務を計算し、現状の債務償還年数が何年かを算出する
- 目標とする債務償還年数(現状より短い年数)を設定し、必要な経常利益の目安を逆算する
- 取引銀行の担当者に「御行での債務償還年数の計算方法」を確認する
- 借入金を目的別(設備投資・付き合い融資・不動産等)に分類した借入金台帳を整備する
📝 このセクションのまとめ
- 経常利益の目安は「債務償還年数から逆算する」という考え方で求められる
- 全ての借入金を利益で返そうとすると目標が高すぎ、経営が疲弊する
- 現預金・正常運転資金・不動産借入を除いた要償還債務だけを利益で返す対象と考える
- 銀行の目安は10年以内。現状の年数を確認し、それより短い年数を目標に設定する
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 中小企業の財務チャンネル の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 中小企業の財務チャンネルを応援しています!
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