厚生年金保険料の上限引き上げがほぼ確実!税理士が解説する負担増のシミュレーション
年収178万円の壁の議論の裏で、厚生年金保険料の上限引き上げがほぼ確実な情勢です。メディアではほとんど取り上げられていませんが、会社員・会社役員にとって非常に重要な改正が迫っています。
税金の議論の裏で進む「社会保険料」の負担増
定額減税や年収178万円の扶養の壁など、税金に関しては一応議論が行われています。しかし残念ながら、社会保険料に関しては政府に減税するという考えは一切ありません。今後あらゆる手段を講じて、皆さんの社会保険料負担はどんどん増えていくことが間違いない状況です。
さらに、106万円の社会保険の壁もなくなりそうな流れになっており、良いニュースがなかなか見当たりません。そんな中、今回お伝えしたいのは厚生年金保険料の上限(標準報酬月額の上限)引き上げについてです。
📌 ポイント
厚生労働省の「社会保障審議会 年金部会」において、標準報酬月額の上限引き上げに関する議論が本格的に進んでいます。今回の内容は特に会社員・会社役員に関係する話です。
📝 このセクションのまとめ
- 税金(所得税・住民税)については減税議論があるが、社会保険料は増加一方
- 厚生年金保険料の上限引き上げが社会保障審議会で本格議論中
- 会社員・会社役員にとって見逃せない改正が迫っている
社会保険料の計算の仕組み|標準報酬月額表とは
社会保険料は「標準報酬月額表」に基づいて決まります。一言で言うと、健康保険料も厚生年金保険料も、給与が高ければ高いほど保険料負担も上がっていくという仕組みです。
まず健康保険料の等級と上限を確認しましょう。
| 保険の種類 | 等級数 | 下限(月額) | 上限(月額) | 保険料率の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 健康保険料 | 50等級 | 5万8,000円 | 139万円(月給135万5,000円以上) | 約10〜11%(都道府県により異なる) |
| 厚生年金保険料 | 32等級 | 8万8,000円 | 65万円(月給63万5,000円以上) | 18.3%(労使折半) |
健康保険料の上限は月給135万5,000円以上でそれ以上稼いでも増えない仕組みになっています。一方、厚生年金保険料の上限は月給63万5,000円以上で頭打ちになります。この健康保険料と厚生年金保険料の上限の格差が非常に大きいことが、今回の議論の背景にあります。
📌 上限の自動引き上げルール
政府のルールとして、各年度末時点での全被保険者の平均標準報酬月額の2倍(例:平均30万円なら60万円)が現在の上限(65万円)を上回った場合、政令でさらなる上限を追加できることになっています。賃上げや物価上昇・最低賃金引き上げにより平均給与は上昇しており、このルールが発動しやすい状況です。
なお、厚生年金保険料の32等級・65万円という区分は、令和2年9月に新設されたばかりです。それ以前は62万円が上限でした。
📝 このセクションのまとめ
- 健康保険料の上限は月139万円(50等級)、厚生年金保険料の上限は月65万円(32等級)
- 両者の上限に大きな格差がある
- 平均給与の2倍が上限を超えると、政令で上限を追加できるルールがある
- 厚生年金の現行上限65万円は令和2年9月に設定されたばかり
上限に引っかかる人が急増|278万人が65万円超え
標準報酬月額別の被保険者数分布割合のデータを見ると、問題の深刻さがよく分かります。
| 保険の種類 | 上限超えの割合 | 備考 |
|---|---|---|
| 健康保険料(上限139万円) | 6.2%(うち最上位等級は1%未満) | 上限が幅広く設定されているため、最上位に集中しにくい |
| 厚生年金保険料(上限65万円) | 6.5%(約278万人) | 上限が低いため、最上位等級に大量に集中している |
厚生年金保険料の上限(65万円)を超えている方が全国に約278万人もいます。これはあまりにも多すぎるとして、さらに上限等級を追加しようという議論が起きているのです。
健康保険料は平成16年以降、98万円→121万円→現在の139万円と段階的に上限が引き上げられてきました。厚生年金保険料も同様の流れをたどる可能性が高い状況です。
📝 このセクションのまとめ
- 厚生年金保険料の上限65万円を超える被保険者が全国に約278万人存在する
- 健康保険料は過去に段階的に上限を引き上げてきた実績がある
- 厚生年金保険料も同様の引き上げが行われる可能性が高い
政府が上限引き上げを進める理由|年金財政と所得再分配
政府が上限等級の追加を検討する理由として、主に以下の点が挙げられています。
- 新たな上限等級に該当する人の報酬比例部分が増加する:保険料をたくさん払うようになった分、将来の年金が上乗せされる
- 保険料収入が増加する:国としての収入が増え、積立金の運用益も増加する
- 厚生年金受給者全体の将来の給付水準が上昇する:所得再分配の観点から、上限超えの方の保険料を運用して、広く受給者に還元する
📌 ポイント
新しい上限に引っかかる方(高所得の会社員・役員)は負担が増えて辛い改正ですが、それ以外の方にとっては積立金の運用益が増えることで将来の給付水準がわずかに改善される可能性があります。
📝 このセクションのまとめ
- 上限引き上げにより、該当者の将来年金は増加する建前
- 保険料収入・積立金運用益の増加により、受給者全体の給付水準向上を狙う
- 所得再分配の仕組みとして機能させる意図がある
上限はいくらに上がるのか|4つの案と負担増シミュレーション
現在、厚生年金保険料の上限を現行の65万円からいくらに引き上げるか、具体的に4つの数字が浮上しています。
| 案 | 新しい上限(月額) |
|---|---|
| 案① | 75万円 |
| 案② | 79万円 |
| 案③ | 83万円 |
| 案④ | 98万円 |
では、これらの案が実施された場合、実際にどれくらい負担が増えるのでしょうか。年収1,200万円(月給100万円)の方を例にシミュレーションしてみます。
現行の保険料(東京都の保険料月額表に基づく、40歳以上・介護保険対象の場合)は以下のとおりです。
| 保険の種類 | 等級 | 月額保険料(本人負担) | 年間保険料(本人負担) |
|---|---|---|---|
| 健康保険料(介護保険含む) | 43等級 | 5万6,742円 | 約68万円 |
| 厚生年金保険料 | 32等級(上限) | 5万9,475円 | 約71万円 |
| 合計(本人負担) | 約140万円 | ||
なお、これはあくまで本人(個人)負担分であり、会社が同額を負担する仕組みになっています。
次に、上限が引き上げられた場合の厚生年金保険料の変化を見てみましょう。厚生年金保険料率は18.3%で、労使折半(会社と個人が半分ずつ)です。
| 上限の案 | 年間厚生年金保険料(本人) | 現行比の増加額(本人) | 会社負担も含めた増加額合計 |
|---|---|---|---|
| 現行(65万円) | 約71万円 | ― | ― |
| 案①(75万円) | 約82万円 | 約11万円増 | 約22万円増 |
| 案④(98万円) | 約108万円 | 約37万円増 | 約74万円増 |
⚠️ 注意
上限が98万円まで引き上げられた場合、年収1,200万円の方は厚生年金保険料だけで本人負担が年間約37万円増加します。会社負担を合わせると年間74万円もの負担増となります。高給与の社員を多く抱える会社にとっては、1人当たり年間30万円以上の会社負担増となり、経営への影響が非常に大きくなります。
なお、保険料負担が増えると、税金の計算上は社会保険料控除が増えるため、所得税や住民税は若干減少します。ただし、その減税効果は保険料増加分を大幅に下回ります。
📝 このセクションのまとめ
- 上限引き上げの案は75万円・79万円・83万円・98万円の4案
- 年収1,200万円の方は、75万円案で本人・会社合計年22万円増、98万円案で年74万円増
- 保険料増加により所得税・住民税はわずかに減少するが、焼け石に水
払った保険料は元が取れるのか|年金受給額との比較
政府の説明では「保険料を多く払えば将来の年金も増える」とされています。では、実際に元が取れるのでしょうか。
例として、上限が75万円に引き上げられた場合を考えてみます。月の保険料負担は約9,000円増加します。これを10年間払い続けると、本人負担の合計は約110万円(年11万円×10年)です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 月の保険料増加額(本人負担) | 約9,000円 |
| 年間の保険料増加額(本人負担) | 約11万円 |
| 10年間の保険料増加額(本人負担) | 約110万円 |
| 会社負担も含めた10年間の増加額 | 約220万円 |
| 増加分の年金受給額 | 年間約6万1,000円 |
| 元を取るのに必要な年数 | 約35年 |
10年間で払い込んだ保険料(本人負担分)約110万円に対して、増加する年金受給額は年間わずか6万1,000円。元を取るには35年以上受給し続ける必要があります。
⚠️ 注意
年金は長生きして初めて恩恵が受けられる仕組みです。元を取るまでに35年以上かかるという試算は、多くの方にとって現実的ではない可能性があります。早くに亡くなってしまった場合には、払い損になってしまうリスクがあります。
📝 このセクションのまとめ
- 上限75万円案で10年払い込んでも、増加する年金は年6万1,000円にとどまる
- 元を取るには受給開始から約35年以上かかる計算
- 年金は長生きリスクへの備えという側面が強く、投資対効果では見合わない場合が多い
役員報酬を下げて社会保険料を削減するのはNG?
会社役員の方から「役員報酬をコントロールできるなら、報酬を下げて社会保険料の負担を減らせばいいのでは?」というご質問をよくいただきます。しかし、これは基本的におすすめできません。
役員報酬を下げて社会保険料を削減する場合、以下のデメリットがあります。
- 将来の役員退職金が少額しか取れなくなる:役員退職金は最終月額報酬を基準に計算されるため、報酬が低いと退職金も低くなる
- 将来の年金受給額が減少する:報酬比例の年金が少なくなる
- 傷病手当金が減少する:怪我や病気で休業した際の傷病手当金も標準報酬月額に基づくため、報酬が低いと補償も少なくなる
特に大きな問題は役員退職金です。役員退職金は一般的に「最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率(最大3倍前後)」という計算式で算出されます。月給が低ければ退職金も低くなり、経費として損金算入できる額も制限されます。
📌 ポイント
会社設立当初や駆け出しの時期に役員報酬を低く設定することは問題ありません。しかし、会社を大きくしていく段階でいつまでも役員報酬を低く抑え続けることは、上記のデメリットが積み重なるため現実的ではありません。
社会保険料削減スキームへの規制強化にも注意
「役員報酬を最低限(例:5万8,001円)に設定して社会保険料を抑え、残りを賞与でまとめて1,000万円取る」といったスキームが一部で流行しています。
⚠️ 注意
このような社会保険逃れのスキームは、すでに厚生労働省の目に止まっています。遅かれ早かれ廃止・規制されることが予想されます。現時点で使っていても直ちに問題になるとは限りませんが、今後長期にわたって使い続けることは非常に難しいと考えるべきです。社会保険逃れの「網」はどんどん塞がれていく状況です。
📝 このセクションのまとめ
- 役員報酬を下げて社会保険料を削減する方法には、退職金・年金・傷病手当金の減少という大きなデメリットがある
- 役員退職金は「最終月額報酬×在任年数×功績倍率」で計算されるため、報酬が低いと退職金も低くなる
- 社会保険料削減スキームは厚生労働省が注目しており、今後規制が強化される見込み
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
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