医療費控除vs高額療養費どっちがいい?税理士が解説する優先順位と確定申告の手順
医療費控除と高額療養費は全く別の制度。正しい順序で使えば両方受けられます。
医療費控除・高額療養費・セルフメディケーション税制:3つの制度の全体像
「医療費控除」と「高額療養費」、名前は似ていますが、この2つは全く異なる制度です。税理士にとってこの時期のあるあるとして、両者を混同されている方が非常に多いというのが実情です。何かしらお金が返ってくるもの、という捉え方をされている方は多いのですが、中身・手続き先・計算方法がそれぞれ異なります。
また、医療費控除と非常によく似た制度として「セルフメディケーション税制」というものもあります。この3つの制度を整理してから、それぞれの詳細を見ていきましょう。
| 制度名 | 性質 | 対象 | 手続き先 |
|---|---|---|---|
| 高額療養費 | 医療費の払い戻し | 月単位で自己負担が限度額超過した場合 | 健康保険組合・協会けんぽ・市役所(国民健康保険) |
| 医療費控除 | 所得税・住民税の節税(所得控除) | 年間医療費が原則10万円超の場合 | 税務署(確定申告) |
| セルフメディケーション税制 | 所得税・住民税の節税(所得控除) | 特定医薬品の購入費が年間1万2,000円超の場合 | 税務署(確定申告) |
📌 ポイント:受けるべき手順
- まず高額療養費を使えるなら使う(医療費の払い戻し)
- 次に医療費控除またはセルフメディケーション税制のどちらかを使う(節税)
条件を満たしていれば高額療養費と医療費控除はダブルで受けることができます。ただし、医療費控除とセルフメディケーション税制のダブル適用は不可です。
📝 このセクションのまとめ
- 高額療養費=医療費の払い戻し(健康保険の制度)
- 医療費控除・セルフメディケーション税制=税金の節税(税務署で確定申告)
- 高額療養費→医療費控除の順番で使うのが基本
- 医療費控除とセルフメディケーション税制の併用は不可
高額療養費制度とは?自己負担限度額の仕組みを解説
高額療養費制度は、ある1ヶ月(月の1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合の返金制度です。健康保険で適用される部分を除いた純粋な自己負担額が、所得に応じて定められた「自己負担限度額」を超えた場合、申請することで後から払い戻しを受けることができます。
⚠️ 注意:対象となる医療費の範囲
高額療養費の対象となるのは保険適用となる医療費のみです。以下は対象外となります。
- 保険が適用されない自費部分の医療費
- 食事療養費
- 入院時の差額ベッド代
手続きに必要な書類は、マイナンバーのほか、非課税世帯の方は非課税証明書、課税世帯の方は課税証明書などが必要です。申請の時効は2年間ですので、過去の分を忘れている方はご確認ください。
また、医療費が毎回高額になることが事前にわかっている場合は、限度額適用認定証を医療機関に提示することで、後から払い戻しを受けるのではなく、最初から自己負担限度額までの支払いで抑えることができます。
自己負担限度額は年齢や所得によって異なります。以下は70歳未満の方の区分(協会けんぽの基準)です。
| 所得区分(標準報酬月額) | 自己負担限度額(月額) | 年収の目安 |
|---|---|---|
| 83万円以上(区分ア) | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% | 約1,160万円以上 |
| 53万〜79万円(区分イ) | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% | 約770万〜1,160万円 |
| 28万〜50万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% | 約370万〜770万円 |
| 26万円以下(区分エ) | 57,600円 | 約370万円以下 |
| 住民税非課税(区分オ) | 35,400円 | 非課税世帯 |
たとえば年収500万円の方は区分ウに該当します。月間の医療費(10割負担)が26万7,000円の場合、自己負担限度額は約8万100円となります。年収1,000万円の方は区分イに該当し、目安として月間約17万円程度が限度額となります。所得が高いほど限度額も上がる構造です。
なお、世帯全員の医療費を合算して申請することも可能です。入院を伴う手術などの場合は、医療機関のスタッフから高額療養費制度の案内を受けることもありますが、すべての医療機関で案内されるとは限らないため、自分で制度を把握しておくことが重要です。
📝 このセクションのまとめ
- 高額療養費は月単位で計算する医療費の払い戻し制度
- 保険適用外(差額ベッド代・食事代など)は対象外
- 申請の時効は2年間
- 事前に限度額適用認定証を使えば窓口負担を抑えられる
- 世帯合算での申請も可能
医療費控除とは?所得控除の仕組みと税金計算の構造
医療費控除は経費ではなく所得控除です。所得控除とは、個人の生活的事情を考慮して課税所得を減らす仕組みで、配偶者控除・扶養控除などと同じ仲間です。所得税だけでなく住民税も節税対象になります。
所得税の計算構造を整理すると、次のようになります。
| 計算ステップ | 内容 |
|---|---|
| 給与収入(年収) | 額面の年収 |
| - 給与所得控除 | 会社員のための経費相当額 |
| = 給与所得 | |
| - 所得控除 | 医療費控除・配偶者控除・扶養控除など(ここに医療費控除が入る) |
| = 課税所得 | |
| × 所得税率 | 超過累進税率:最低5%〜最高45% |
| - 税額控除 | 住宅ローン控除・配当控除など |
| = 所得税額 | さらに復興特別所得税(税額の2.1%)が加算 |
| 住民税 | 同様の計算で10%課税 |
所得税率は課税所得が大きくなるほど税率も上がる超過累進税率で、最低5%・最高45%です。住民税10%を合わせると、実質的な税負担率は最低約15%〜最高約55%となります。
医療費控除の計算式は次のとおりです。
| 計算要素 | 内容 |
|---|---|
| 年間支払医療費 | 1月1日〜12月31日の合計 |
| - 保険等で補填された金額 | 生命保険・医療保険・出産育児一時金・高額療養費なども含む |
| = 純粋な自己負担額(A) | |
| - 10万円(または所得の5%) | 所得が200万円未満の場合は所得×5%が基準額(10万円より低くなる) |
| = 医療費控除額 | 上限200万円 |
📌 ポイント:高額療養費は医療費控除の計算でも差し引く
高額療養費で払い戻しを受けた金額は、医療費控除の計算において「保険等で補填された金額」として差し引く必要があります。純粋な自己負担額のみが医療費控除の対象です。
医療費控除は同一生計の親族(配偶者・子供など)の医療費も合算して申請できます。申告期限はその年の翌年1月1日から5年間(還付申告)です。1月からでも申告可能ですが、住民税への反映が遅れないよう、3月15日までに申告を済ませることをおすすめします。
📝 このセクションのまとめ
- 医療費控除は所得控除で、所得税・住民税の両方が節税対象
- 年間医療費から高額療養費など補填額を引いた純粋な自己負担が10万円超えた部分が控除対象
- 所得200万円未満の場合は所得×5%が基準額(10万円より有利になる場合あり)
- 控除上限は200万円、同一生計親族の医療費も合算可
- 還付申告は翌年1月1日から5年間可能
医療費控除の対象になるもの・ならないもの
医療費控除の対象かどうかは非常にわかりにくいため、代表的な例を整理します。基本的にはお医者さんや歯医者さんによる診療・治療の対価が対象で、予防目的のものはNGです。
✅ 医療費控除の対象となるもの
- 医師・歯科医師による診療・治療費
- 公共交通機関を使った通院費用(やむを得ない事情があればタクシー代も可)
- 入院費・食事代・部屋代(差額ベッド代は自己都合のものは除く)
- 出産費用・不妊治療費
- 6ヶ月以上寝たきりの人のおむつ代(医師の証明が必要)
- 風邪の治療など、治療目的の医薬品購入費
- 治療目的の歯列矯正・インプラント代
- はり師・柔道整復師などによる治療目的の施術費
❌ 医療費控除の対象にならないもの
- 美容整形・脱毛など美容目的のもの
- 美容目的の歯列矯正・インプラント
- 健康診断の費用(ただし、健診結果を受けて治療が必要となり治療費も支払っている場合は健診費も含めてOK)
- 通院のためのタクシー代(原則NG)
- 自己都合で選んだ差額ベッド代
- 予防接種・マスク代
- コンタクトレンズ・メガネ代(近視の治療目的でない場合)
- 普通のマッサージ代
- 医師・看護師への謝礼
📌 ポイント:ひげ脱毛・インプラントはどうなる?
ひげ脱毛は美容目的のため医療費控除の対象外です。一方、治療目的のインプラントは医療費控除の対象になります。「治療目的か美容目的か」が判断の分かれ目です。
節税効果の目安を確認しておきましょう。年間医療費が15万円の場合と30万円の場合で、課税所得に応じた節税額は次のとおりです。
| 課税所得の税率(所得税+住民税) | 年間医療費15万円の場合の節税額 | 年間医療費30万円の場合の節税額 |
|---|---|---|
| 約15%(最低税率) | 約7,500円 | 約3万円 |
| 約43% | 約2万1,500円 | 約8万6,000円 |
地味ではありますが、家計費としての医療費の負担を和らげることができる制度です。年間の医療費の合計が15万円を超えるようであれば医療費控除のチャンスがあります。医療費の通知書(健康保険組合から届くもの)を参考に、まずどれぐらいかかっているかを確認してみましょう。
📝 このセクションのまとめ
- 治療目的の医療費はOK、予防・美容目的はNG
- 通院交通費(公共交通機関)・出産費用・不妊治療費・歯列矯正(治療目的)なども対象
- 健診費は単独ではNGだが、治療につながった場合はOK
- 年間医療費が15万円超なら節税効果を確認する価値あり
セルフメディケーション税制とは?医療費控除との違い
セルフメディケーション税制は、医療費控除と非常によく似た制度ですが、対象となるのは医薬品の購入費用です。ただし、この制度を使うには健康の保持増進・疾病予防等の一定の取り組みを行っている人であることが前提条件となります。
対象となる医薬品は、医師が処方する医療用医薬品からドラッグストアで購入できるよう転用されたスイッチOTC医薬品です。薬局で購入した際のレシートに「セルフメディケーション税制対象商品」と記載されているかどうかが判断の目安になります。
| 比較項目 | 医療費控除 | セルフメディケーション税制 |
|---|---|---|
| 対象 | 医療費全般(診療・治療費など) | スイッチOTC医薬品の購入費 |
| 控除の下限 | 原則10万円超(所得200万未満は所得×5%超) | 1万2,000円超 |
| 控除の上限 | 200万円 | 8万8,000円 |
| 家族分の合算 | 同一生計親族の分も合算可 | 同一生計親族の分も合算可 |
| 申告方法 | 還付申告(5年間) | 還付申告(5年間) |
| 医療費控除との併用 | ― | 不可(どちらか一方のみ) |
優先順位としては、高額療養費を受けた後の純粋な自己負担の医療費が10万円に達していないという場合に、初めてこのセルフメディケーション税制を検討するという流れが一般的です。通常は医療費控除の方が控除上限が大きいため有利ですが、医薬品購入費が多い場合はシミュレーションして比較してみましょう。
📝 このセクションのまとめ
- セルフメディケーション税制はスイッチOTC医薬品の購入費が対象
- 年間1万2,000円超で控除適用、上限は8万8,000円
- 医療費控除との併用は不可(どちらか一方を選択)
- 医療費が10万円に届かない場合の選択肢として検討する
確定申告の手順と必要書類:医療費控除の申告ガイド
医療費控除を申告するために必要な書類は次のとおりです。
- 確定申告書(令和4年分からA様式・B様式の区別がなくなり、実質B様式に統一)
- 医療費控除の明細書
- 医療費通知書(健康保険組合等から届くもの)
- 領収書(提出は不要だが5年間の保管が必要)
- 源泉徴収票
- マイナンバーカード
- おむつ使用証明書(該当者のみ)
確定申告書の第一表・第二表に加えて、医療費控除の明細書を作成・添付する必要があります。明細書には医療費通知に記載された金額を転記し、通知に記載されていない分は領収書から治療を受けた方・医療機関ごとに集計して入力します。
e-Taxでの入力方法は3パターンあります。
- 医療費通知(お知らせ)をマイナポータル等で取得して取り込む(最も簡単)
- 医療費集計フォームを読み込む(Excelなどで事前に整理した場合に便利)
- 領収書から直接入力する(通知書をなくした場合など)
📌 ポイント:医療費控除かセルフメディケーション税制か迷ったら
e-Taxの入力画面では「どちらの控除を選択していいかわからない人へ」というシミュレーションコーナーが用意されています。有利な方を選べるよう試算できますので、ぜひ活用してください。
実際の明細書の記載例を見てみましょう。医療費通知に記載された金額(例:15万300円)を転記し、そのうち保険等で補填される金額(例:2万1,860円)を差し引きます。通知に記載されていない医療費(例:領収書から1万2,560円・交通費5万円など)を追記し、保険等で補填された分(例:5万円)を引きます。
最終的に、合計医療費から保険等補填額を差し引いた純粋な自己負担額(例:14万5,000円)から10万円を引いた4万5,000円が医療費控除額となります。確定申告書の27番「医療費控除」欄にこの金額が記載されていれば申告OKです。
⚠️ 注意:住民税への反映タイミング
還付申告は翌年1月1日から5年間いつでも可能ですが、申告が遅くなると住民税への反映が遅れます。どうせ申告するなら3月15日までに済ませることをおすすめします。
📝 このセクションのまとめ
- 確定申告書・医療費控除の明細書・医療費通知・源泉徴収票・マイナンバーカードを準備
- 領収書は提出不要だが5年間保管が必要
- e-Taxではマイナポータル連携による自動取り込みが最も便利
- 医療費控除かセルフメディケーション税制か迷ったらe-Taxのシミュレーション機能を活用
- 住民税への反映のため3月15日までの申告が望ましい
まとめ:正しい手順で医療費の負担を最小限に
高額療養費と医療費控除は、名前は似ていますが全く異なる制度です。
| 制度 | 何が返ってくる? | 手続き先 | タイミング |
|---|---|---|---|
| 高額療養費 | 払いすぎた医療費 | 健康保険組合・協会けんぽ・市役所 | 月単位・申請後に払い戻し |
| 医療費控除 | 所得税・住民税の還付・軽減 | 税務署(確定申告) | 年単位・翌年1月〜申告 |
金額次第ではありますが、高額療養費を受けた後の純粋な自己負担の医療費について、医療費控除またはセルフメディケーション税制を受けることは問題ありません。家計の資金繰りを考えて、医療費をたくさん払っているという場合はぜひ確定申告での医療費控除の検討をしてください。
また、今後医療機関でそれなりの高額な医療費を支払わなければならない事態になった場合は、高額療養費制度の検討を忘れないようにしましょう。事前に限度額適用認定証を準備しておくことで、窓口での支払い負担を大きく抑えることができます。
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。 本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
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