年金受給者が株式譲渡損失を確定申告すると住民税非課税世帯から外れる?税理士が解説

年金受給者が株式譲渡損失を確定申告すると住民税非課税世帯から外れる?税理士が解説
e_zeirishi

確定申告で税金が戻っても、各種軽減措置を失うと大損になるケースがあります。

確定申告をすると損をするかもしれない理由

上場株式等の譲渡損失は、確定申告をすれば3年間繰り越すことができ、翌年以降の譲渡利益と相殺することができます。しかし、安易に確定申告をすると、とんでもない落とし穴にはまることにもなりかねません。

具体的には、次のようなデメリットが生じる可能性があります。

  • 住民税非課税世帯から外れてしまう
  • 介護保険料が上がる
  • 国民健康保険料が上がる

これは年金受給者にとって特に厳しい問題です。年金生活をしながら株式投資をしている方は、十分に注意が必要です。

⚠️ 注意

譲渡損失の繰越控除のための確定申告は、税金の還付だけでなく、住民税非課税世帯の認定や各種保険料の軽減措置に大きく影響します。申告前に必ずトータルの損得を確認してください。

📝 このセクションのまとめ

  • 上場株式等の譲渡損失は確定申告で3年間繰り越せる
  • 確定申告によって住民税非課税世帯から外れるリスクがある
  • 介護保険料・国民健康保険料が上昇するデメリットも生じる

なぜ損失の申告で所得金額が増えるのか

不思議に思う方も多いと思いますが、確定申告するのは「損失」なのに、なぜ所得金額が増えるのでしょうか。その鍵は「合計所得金額」と「総所得金額等」の定義にあります。

合計所得金額とは、給与所得・利子所得・雑所得等の「総合所得」と呼ばれる所得と、譲渡所得・山林所得・退職所得等の「分離所得」と呼ばれる所得を合計した金額です。要は、すべての所得の合計です。なお、特定口座を複数持っていて損益通算をした人は、損益通算をした後の金額になります。

📌 ポイント:合計所得金額の盲点

合計所得金額は、譲渡損失の繰越控除をする「前」の金額です。前年からの繰越損失を控除しようとして当年の譲渡利益を確定申告すると、その確定申告した譲渡利益はまるまる合計所得金額に含まれてしまいます。これが大きな盲点になっています。

一方、総所得金額等とは、合計所得金額から譲渡損失の繰越控除をした「後」の金額です。譲渡損失の繰越控除をしてもなお残った当年の譲渡利益だけが、総所得金額等を増加させます。

所得金額の種類定義主な判定基準
合計所得金額すべての所得の合計(繰越控除前)住民税非課税世帯の判定
総所得金額等合計所得金額から繰越控除をした後の金額国民健康保険料の算定基準

📝 このセクションのまとめ

  • 合計所得金額は繰越控除「前」の金額→住民税非課税世帯の判定に使われる
  • 総所得金額等は繰越控除「後」の金額→国民健康保険料等の算定に使われる
  • 確定申告した譲渡利益は全額、合計所得金額に算入される

特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告不要で所得にカウントされない

株式投資をしている方の多くは、証券会社で源泉徴収ありの特定口座を開設されているのではないでしょうか。

源泉徴収ありの特定口座では、証券会社が20.315%の税率で所得税・住民税を源泉徴収し、税務署に納付して完了します。確定申告をする必要がありません。

📌 ポイント:申告不要制度の驚くべき効果

源泉徴収ありの特定口座で確定申告をしないでいれば、株式の利益は所得としてカウントされない仕組みになっています。そのため、年金受給者の方が株式投資でいくら利益を得ても、住民税非課税世帯の認定を維持できます。国からの給付金も受け取れますし、介護保険料や国民健康保険料等も安く済むという、大きなメリットがあります。

問題が生じるのは、源泉徴収ありの特定口座で損失が出た場合です。損失を翌年以降に繰り越して繰越控除を受けるためには、確定申告をしなければなりません。この確定申告が、さまざまな不都合な事態を招くのです。

📝 このセクションのまとめ

  • 源泉徴収ありの特定口座は確定申告不要で所得にカウントされない
  • 申告不要のままなら株式利益があっても住民税非課税世帯を維持できる
  • 損失の繰越控除を受けるには確定申告が必要→そこにリスクが生じる

住民税非課税世帯の判定基準と対象者

住民税非課税世帯とは、世帯全員の前年の合計所得金額が自治体の定める金額以下の場合に該当します。東京都を例にすると、判定基準は次のとおりです。

世帯の状況合計所得金額の上限(東京都の場合)
扶養している人がいない場合45万円以下
扶養している人がいる場合35万円×(本人+被扶養者数)+31万円以下

具体的な目安としては、次のとおりです。

  • 65歳以上の独身で収入が年金のみの場合:年金収入が155万円以下のとき(合計所得金額が45万円以下)
  • 65歳以上の夫婦2人家族で収入が年金のみの場合:扶養している人の年金収入が211万円以下、かつ扶養されている人の年金収入が155万円以下のとき

📌 ポイント:住民税非課税世帯の割合

65歳以上の世帯のうち約35%が住民税非課税世帯に該当するとの統計があります。また、全住民税非課税世帯の約75%を65歳以上の高齢者世帯が占めており、高齢になるほど住民税非課税世帯の割合は増加しています。

住民税非課税世帯に該当すると、次のような支援・軽減措置を受けることができます。

  • 介護保険料の減免
  • 国民健康保険料の減免
  • 介護サービス費の負担軽減
  • 高額療養費の負担軽減
  • 国からの各種給付金の受給

なお、この判定基準はお住まいの地域によって異なりますので、自治体のホームページで確認してください。

📝 このセクションのまとめ

  • 住民税非課税世帯の判定は「合計所得金額」が基準
  • 65歳以上独身・年金のみなら年金収入155万円以下が目安(東京都)
  • 介護・医療費など年金受給者に重要な軽減措置が多数ある
  • 基準は自治体により異なるため、居住地のホームページを確認すること

具体例:繰越控除の確定申告で何が起きるか

ここからは具体的な数字で、繰越控除の確定申告がどのような影響をもたらすかを見ていきましょう。

前提条件:東京在住・65歳独身・年金収入150万円の方を想定します。年金収入から公的年金等控除額110万円を差し引けるため、所得金額は40万円です。この方は現状、住民税非課税世帯に該当しており、各種支援・軽減措置を受けられています。

この方が源泉徴収ありの特定口座1つだけで株式運用していたとします。

【初年度】損失200万円が発生→繰越申告

意に反して200万円の損失が出てしまったため、損失を翌年以降に繰り越すための確定申告をしました。譲渡損失は年金所得とは損益通算できないため、所得金額には影響しません。合計所得金額・総所得金額等はともに従前と変わらず40万円のままです。

【繰越1年目】利益100万円→確定申告で相殺

この年は譲渡利益が100万円出ました。この譲渡利益100万円を確定申告して、前年から繰り越された譲渡損失200万円のうち100万円を使って相殺しました。その結果、源泉徴収された約20万円の税金が戻ってきました。

⚠️ 注意

成功したように見えますが、合計所得金額が40万円→140万円に増加してしまいました。確定申告した譲渡利益の100万円分が増えたのです。合計所得金額は繰越控除「前」の金額であることを思い出してください。税金の還付と引き換えに、住民税非課税世帯から外れてしまい、各種軽減措置が失われました。

【繰越2年目】利益200万円→確定申告で残り100万円を相殺

この年は譲渡利益が200万円出ました。確定申告して前年から繰り越された残りの損失100万円で、譲渡利益200万円のうち100万円を相殺できました。税金約20万円が戻ってきましたが、今度は次のとおり所得金額が大幅に増加しました。

所得金額の種類繰越前(年金所得のみ)繰越2年目(確定申告後)
合計所得金額40万円240万円(+200万円)
総所得金額等40万円140万円(+100万円)

合計所得金額は確定申告した譲渡利益200万円がそのまま加算され240万円に。さらにこの年は、総所得金額等も増加しました。総所得金額等は繰越控除後の金額のため、譲渡利益200万円から繰越損失100万円を控除した残り100万円だけが増加し、140万円になりました。国民健康保険料や後期高齢者医療保険料等がかなり上がってしまいました。

【繰越3年目以降】繰越損失を使い切り、元の状態に戻る

繰越2年目で繰越損失を使い切ったため、繰越3年目以降は繰越損失がありません。合計所得金額も総所得金額等も年金所得だけの40万円に戻り、再び住民税非課税世帯に戻りました。

📝 このセクションのまとめ

  • 繰越損失の初年度申告は所得金額への影響なし
  • 繰越控除で利益と相殺した年は、確定申告した利益全額が合計所得金額に加算される
  • 繰越控除後に残った利益分だけ総所得金額等も増加する
  • 税金の還付を受けても、住民税非課税世帯から外れて軽減措置を失う可能性がある

令和5年分から「住民税だけ申告不要」が使えなくなった

実は、令和4年分まではデメリットを回避する方法がありました。所得税の確定申告をしても、住民税については「申告不要」を選択できたのです。つまり、住民税の所得金額を増加させないようにすることができました。

⚠️ 注意:令和5年分からルール変更

令和5年分からは、所得税と住民税の課税方式を一致させることになりました。住民税だけを申告不要にすることはできなくなっています。このため、令和5年分以降の申告では、所得税で確定申告した内容が住民税にも反映され、合計所得金額・総所得金額等が増加するデメリットを回避できなくなっています。

📝 このセクションのまとめ

  • 令和4年分まで:住民税のみ申告不要を選択でき、デメリットを回避可能だった
  • 令和5年分から:所得税と住民税の課税方式が一致し、住民税のみ申告不要は不可
  • 現在は確定申告すると必ず住民税にも影響が出る

合計所得金額・総所得金額等が影響する主な制度

合計所得金額と総所得金額等は、年金受給者にとって重要な多くの制度の判定基準になっています。以下に主なものをまとめます。

制度・費用判定基準となる所得金額
住民税非課税世帯の認定合計所得金額
介護保険料の段階区分合計所得金額
介護サービス費の自己負担上限合計所得金額
高額療養費の自己負担上限総所得金額等
国民健康保険料の算定総所得金額等
後期高齢者医療保険料の算定総所得金額等

介護費用関係や医療費関係など、どれも年金受給者にとっては低額に抑えておきたい費用ばかりです。住民税非課税世帯になっている方は、その認定から外れないよう特に注意が必要です。

📌 ポイント:繰越控除の申告を避けた方がいいケース

譲渡損失の繰越控除の確定申告を避けた方がよい方は、決して少なくありません。税金の還付額よりも、住民税非課税世帯から外れることによる各種軽減措置の喪失額が上回る場合は、申告しない方が有利になります。申告前に必ずトータルの損得を試算することをおすすめします。

📝 このセクションのまとめ

  • 合計所得金額は住民税非課税世帯認定・介護保険料等の基準
  • 総所得金額等は国民健康保険料・高額療養費等の基準
  • 繰越控除の申告は税金還付だけでなく、これらすべての制度への影響を考慮する必要がある
  • 住民税非課税世帯の方は、その認定を維持することを最優先に検討すること

終わりに

本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士KOBAYASHIちゃんねる の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。
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