相続・贈与

不動産を使った相続税対策が崩壊危機?通達6項問題を税理士が解説

不動産を使った相続税対策が崩壊危機?通達6項問題を税理士が解説
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不動産を活用した相続税対策に国税が本格的にメスを入れようとしています。マンション一棟買いや不動産小口化による評価圧縮スキームが封じられる可能性があり、これからの相続税対策を考えている方は必読です。

相続税はどうやって計算するのか?基本の仕組み

相続税の計算は、個人版の貸借対照表(バランスシート)で行います。プラスの財産から負債(マイナスの財産)を差し引いた純財産に対して相続税がかかる仕組みです。シンプルに言えば、純財産が大きければ大きいほど相続税の負担は重くなります。

そこで資産家の方々が考える相続税対策は、大きく次の2つです。

  • 対策①:財産そのものを減らす、または評価方法を工夫して評価額を下げる
  • 対策②:負債(借金)を増やして純財産を圧縮する

この①と②を組み合わせるのが、不動産を活用した相続税対策の基本的な考え方です。借金をして不動産を購入することで、「債務控除」と「不動産の評価圧縮」という2つの効果を同時に得られます。

📌 ポイント

相続税の計算では、現金1億円をそのまま持っているのが最も税負担が重い状態です。現金は評価額の圧縮ができないため、相続税対策上は不利な資産とされています。

📝 このセクションのまとめ

  • 相続税は「純財産(資産-負債)」に課税される
  • 対策の方向性は「評価を下げる」か「負債を増やす」の2つ
  • 不動産投資はこの両方を同時に実現できるスキームとして活用されてきた

不動産購入で相続税がどこまで圧縮できるのか?具体的な仕組み

具体的な事例で確認してみましょう。手持ち現金が1億円ある状態から、銀行融資1億円を加えた合計2億円でマンションを購入するケースです。

タイミング資産負債純財産
対策前(現金のみ)現金 1億円0円1億円
融資直後現金 2億円借入金 1億円1億円
不動産購入後土地・建物 約1.4億円借入金 1億円約4,000万円

2億円で購入したマンションの相続税評価額が購入直後から約70%に下がるため、純財産が一気に6,000万円も圧縮されます。なぜここまで評価が下がるのか、その仕組みを整理します。

  • 土地の評価(都市部):路線価を使用。路線価は時価相場の約7割に設定されている
  • 土地の評価(郊外):固定資産税評価額を使用。同様に時価の約7割程度
  • 建物の評価:固定資産税評価額を使用。時価の約7割程度
  • 貸家・貸付地の評価減:他人に貸している建物(貸家)やその敷地(貸付地)は、借家人の支配権による利用制約を考慮してさらに評価が下がる
  • 小規模宅地等の特例:貸付事業を継続するなどの要件を満たせば、200平米まで50%の評価減が適用可能

場所や条件によっては、評価額を時価の約3割にまで圧縮できる事例もあります。さらに、更地に建物を建てることで固定資産税も「住宅用地に係る土地の課税標準の特例」により圧縮できるというおまけ効果もあります。

📝 このセクションのまとめ

  • 不動産は購入した瞬間から相続税評価額が時価の約7割に下がる
  • 賃貸用不動産はさらに貸家・貸付地評価減が加わる
  • 小規模宅地等の特例を使えば最大50%の追加評価減も可能
  • 借入金による債務控除と評価圧縮の組み合わせが強力な節税効果を生む

令和4年最高裁判決の事例:13.8億円のマンションで相続税ゼロ

国税庁が公表した資料の事例1として、令和4年4月19日の最高裁判決が取り上げられています。内容は次のとおりです。

物件購入価格借入金額通達評価額購入時期
杉並区の一棟賃貸マンション8.3億円6.3億円2.0億円相続開始の3年前(平成21年)
川崎市の区分所有マンション5.5億円3.8億円1.3億円相続開始の2年前(平成21年)

2つの物件を合計すると、購入価格13.8億円が通達評価では3.3億円に圧縮。さらに借入金約10億円の債務控除も加わり、相続税の試算は次のようになります。

ケース課税対象額の目安相続税額(概算)
通達評価を使わなかった場合(購入価格ベース)13.8億円規模約2億4,000万円
通達評価+債務控除を活用した場合大幅圧縮後0円

相続税の節税効果は約2億4,000万円。これだけの金額が合法的なスキームによって生み出されていたわけです。

当然ながら税務調査が入り、税務当局は不動産鑑定士を連れてきて鑑定評価を算出しました。その結果は次のとおりです。

物件購入価格鑑定評価額通達評価額通達評価の倍率(鑑定比)
杉並区マンション8.3億円7.5億円2.0億円4.18倍
川崎市マンション5.5億円5.1億円1.3億円4.11倍

鑑定評価額に対して通達評価額が4倍以上かい離していたことが問題視されました。購入価格と鑑定評価額の差は1.06〜1.11倍程度であり、市場価格と通達評価の乖離がいかに大きかったかがわかります。

⚠️ 注意

この事例でアウトとなった決定的な理由の1つが、90歳を超えてから相続開始のわずか2〜3年前に不動産投資を行っていたという事実です。様々な事実関係から「相続税対策のためだけに投資した」と判断され、最終的に鑑定評価によって税額が認定されることになりました。

📝 このセクションのまとめ

  • 13.8億円のマンションが通達評価で3.3億円に圧縮され、相続税が2.4億円→0円になった事例が最高裁で争われた
  • 通達評価額と鑑定評価額の乖離が4倍超という事実が問題視された
  • 「相続直前の駆け込み購入」という事実が否認の決め手の一つとなった

不動産小口化商品による贈与税圧縮スキームの事例

国税庁の資料には、不動産小口化商品(信託受益権)を活用した贈与税圧縮スキームの事例も掲載されています。

概要は次のとおりです。68歳の方が一棟物件の信託受益権(不動産そのものではなく、不動産から得られる収益を受け取る権利)を3,000万円で購入し、それを9歳の孫に贈与しました。贈与直後、孫はその信託受益権を市場価格で売却して現金化しています。

項目金額
信託受益権の購入価格3,000万円
贈与時の通達評価額480万円
通達評価額で計算した贈与税約49万円
本来の価格(3,000万円)で計算した贈与税約1,195万円
贈与税の圧縮効果約1,146万円
評価圧縮率80%以上

3,000万円で購入したものを480万円の評価で孫に贈与し、孫はすぐに市場価格で売却して約3,000万円を手にする——この一連の流れが「明らかな贈与税回避スキーム」として問題視されました。

⚠️ 注意

「もらってすぐ売却」という行為が、贈与税回避の意図を明確に示す証拠となります。贈与後すぐに現金化するスキームは、税務当局から租税回避と認定されるリスクが極めて高いです。

📝 このセクションのまとめ

  • 不動産の信託受益権(小口化商品)を使い、3,000万円の財産を480万円の評価で贈与するスキームが問題視された
  • 贈与税の圧縮効果は約1,146万円、評価圧縮率は80%以上
  • 贈与後すぐに売却して現金化したことが租税回避の証拠となった

通達第6項問題とは何か?なぜ今問題になっているのか

以上の2つの事例に共通するのは、市場価格(時価)と通達評価額の大幅な乖離です。なぜこのような乖離が生まれるのか、仕組みから説明します。

まず、収益物件の市場価格は収益性(稼働率・賃料水準)によって決まります。良い物件であれば市場価格は高くなります。一方、相続税の通達評価では「借家人がいることによる利用制約」を考慮するため、賃貸率が高いほど通達評価額は低くなるという逆転現象が起きます。

その結果、国税庁の資料によれば次のような乖離率が確認されています。

取得のタイミング市場価格と通達評価の乖離率
相続開始前の駆け込み取得事例3倍超
生前贈与を活用した事例5倍超

ここで登場するのが財産評価基本通達の第6項です。相続税法第22条には「財産は時価で評価する」とだけ書かれており、「時価とは何か」の具体的な定義は通達に委ねられています。通達は法律ではなく、税務署の調査官が現場運営する際の指針(手続き書)に相当するものです。

📌 通達第6項とは

財産評価基本通達の第6項には、「通達の評価方法が著しく不適当な場合は、国税庁長官が最終的な評価権限を持つ」という趣旨の規定があります。これが「くせ者」と言われる部分で、税務当局が通達評価によらず独自に評価(鑑定評価等)を使って課税できる根拠となっています。

納税者側は税法に沿った正しい評価をしているにもかかわらず、「評価の圧縮が著しすぎる」と判断された場合に第6項が適用されてしまう——これが通達第6項問題です。「どの程度の圧縮までが許容されるのか」の線引きが曖昧なため、現場でも混乱が生じています。

📝 このセクションのまとめ

  • 収益物件は「収益性が高いほど市場価格が上がる」一方「賃貸率が高いほど通達評価が下がる」という構造的矛盾がある
  • 乖離率は駆け込み取得で3倍超、生前贈与活用で5倍超に達する事例が確認されている
  • 通達第6項は「評価が著しく不適当な場合は国税庁長官が評価権限を持つ」という規定で、課税当局の切り札となっている
  • どこまでの圧縮が許容されるかの基準が不明確なことが問題の本質

今後の影響と不動産市場への懸念

今回の動きは、税理士業界だけでなく不動産業界にも大きな影響を及ぼすと考えられます。主な懸念点を整理します。

  • 個人の不動産マンション需要の低下:借金をして一棟マンションを購入する相続税対策スキームが封じられると、資産家の不動産購入意欲が低下し、不動産価格の下落につながる恐れがある
  • 外国人・外国法人による購入の加速:個人の国内需要が減少した分、外国人や外国法人による購入が増加する可能性がある。外国人が法人を通じてマンションを購入した場合、相続税の対象外となるケースもある

一方で、プラスの方向に変化する可能性もあります。これまでは「タワーマンションや一棟マンションを購入し、相続後に市場価格で売却するキャピタルゲイン狙い」の投資が主流でしたが、今後は収益性の高い物件を選んでインカムゲイン(家賃収入)をしっかり確保した上で相続税を支払うという方向にシフトしていく可能性があります。

📌 今後も活用できる可能性のある対策

今回のターゲットは主に「都心の一棟マンション・タワーマンション・不動産小口化商品」とみられます。郊外の土地を活用したアパート建築や、ガレージハウスのような収益性の高い小規模建物は、引き続き評価圧縮の効果を得られる可能性があります。地主の方にとっては、このようなスキームがまだ活用できる余地があります。

また、一棟マンション投資が使えなくなった場合の定番の相続税対策として、生前贈与生命保険の活用が改めて注目されることになりそうです。

📝 このセクションのまとめ

  • スキームの封じ込めにより都心マンションの個人需要が減少し、外国人・外国法人による購入が加速する恐れがある
  • 今後の不動産投資はキャピタルゲイン狙いからインカムゲイン重視にシフトする可能性がある
  • 郊外の土地活用(アパート・ガレージハウス等)は引き続き対策として有効な可能性がある
  • 生前贈与・生命保険が改めて定番の相続税対策として浮上してくる

今後の見通しと注意点

今回の改正はまだ確定ではありません。一棟マンションの評価算定方法を変えるのか、不動産小口化商品の評価方法を変えるのか、あるいは通達第6項の運用基準を明確化するのか、最終的にどのような形に落ち着くかは現時点では不明です。

ただし、税制改正大綱は毎年12月下旬に正式発表されます。不動産を活用した相続税対策を検討している方は、発表内容を必ず確認し、その後の動向を注視してください。

⚠️ 注意

既にマンション一棟買いや不動産小口化商品を使った相続税対策を進めている方は、税制改正大綱の発表を待ってから次の手を打つことを強く推奨します。改正前後で対策の有効性が大きく変わる可能性があります。

📝 このセクションのまとめ

  • 改正内容はまだ確定していないが、方向性としては評価算定方法の見直しが濃厚
  • 税制改正大綱は毎年12月下旬に発表される
  • 対策を急いで進めるのではなく、発表内容を確認してから動くことが重要

終わりに

本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。
本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!

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