改正雇用保険法を税理士が解説|週10時間の壁と給付制限短縮で中小企業はどうなる?

改正雇用保険法を税理士が解説|週10時間の壁と給付制限短縮で中小企業はどうなる?
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改正雇用保険法で「週10時間の壁」が創設。中小企業の負担増と退職者急増のリスクを解説します。

厚生年金の106万円の壁(週20時間)が話題になる中、雇用保険にも大きな改正が入りました。2024年5月に成立した改正雇用保険法は、地味な印象を受けるかもしれませんが、個人にとっても中小企業にとっても非常に影響が大きい内容です。今回は改正の目玉2点を中心に、具体的な数字を交えて解説します。

雇用保険とは?加入する目的と保険料率をおさらい

まず「労働保険」には労災保険雇用保険の2種類があります。労災保険は事業所で働く人全員が加入し、業務上の怪我や災害を補償するものです。一方、雇用保険の主な目的は以下のとおりです。

  • 失業給付(失業保険):離職後の生活を支える給付
  • 教育訓練給付:キャリアアップのための学習費用の補助
  • 育児休業給付:育休中の収入を補助する給付

雇用保険料率は事業の種類によって多少異なりますが、農林水産・建設業以外の一般事業の場合、ハローワーク公式サイトによると以下のとおりです。

負担者保険料率
労働者(個人)負担0.6%
事業主(会社)負担0.95%

健康保険・厚生年金を合わせると合計で約30%にもなる社会保険料と比較すると、雇用保険料率は一見小さく見えます。しかし、パートやアルバイトをたくさん抱えている企業にとっては、人数が増えるほど負担も積み上がっていきます。

📝 このセクションのまとめ

  • 雇用保険は失業給付・教育訓練給付・育児休業給付などが財源
  • 一般事業の保険料率は個人0.6%、会社0.95%
  • 健康保険・厚生年金より率は低いが、多人数雇用では無視できない

改正の目玉①「週10時間の壁」創設で加入対象者が大幅拡大

今回の改正雇用保険法の最大のポイントのひとつが、雇用保険の加入対象者の拡大です。これまでは週20時間以上勤務が加入の基準でした(厚生年金の106万円の壁でも登場する基準)。それが今回の改正で週10時間以上に引き下げられます。

📌 ポイント

週10時間以上勤務するアルバイト・パートは、これまで雇用保険の対象外でしたが、改正後は加入義務が生じます。ちょっとしたバイトでも対象になる可能性があります。

項目改正前改正後
雇用保険加入の労働時間基準週20時間以上週10時間以上
新たに加入対象となる人数全国で約500万人
適用開始時期2028年10月~

適用開始は2028年10月と、約4年後です。すぐに対応が必要というわけではありませんが、今から準備を始めておくことが大切です。

また、今回の雇用保険の改正を受けて、厚生年金の加入基準も同様に週20時間から週10時間へ改正される可能性があります。雇用保険と厚生年金の両方が週10時間基準になれば、企業の負担はさらに大きくなります。

⚠️ 注意

雇用保険の改正に続き、厚生年金の加入基準も週10時間以上に改正される恐れがあります。中小企業はダブルで負担増になる可能性があるため、早めのシミュレーションが必要です。

週10時間の壁で雇用保険料はいくら増える?具体的な試算

では実際に、企業と個人の負担がどれくらい増えるのかを試算してみましょう。東京都の最低賃金は1,100円を超えており、今後も上昇傾向が続くため、ここでは時給1,200円で計算します。

週の労働時間月収(4週換算)個人負担(月)個人負担(年)会社負担(月)会社負担(年)
週10時間(時給1,200円)48,000円288円3,456円456円5,472円
週15時間(時給1,200円)72,000円432円5,184円684円8,208円
週19時間(時給1,200円)91,200円547円6,564円866円10,392円

1人あたりで見ると月数百円の負担増に見えますが、これがパート・アルバイトを10人抱える事業所であれば10倍になります。週19時間・時給1,200円のパートが10人いる場合、会社の年間負担増は約10万円超になります。

📌 ポイント

「1人あたりは小額」でも、多くのパート・アルバイトを雇用している中小企業では合計負担が大幅に増加します。人件費全体のコスト見直しが急務になる可能性があります。

📝 このセクションのまとめ

  • 週10時間以上勤務のパート・アルバイト約500万人が新たに雇用保険加入対象に
  • 適用開始は2028年10月(約4年後)
  • 1人あたりの負担は小額でも、多人数雇用では企業の総負担が大きくなる
  • 厚生年金も同様に週10時間基準へ改正される可能性あり

改正の目玉②「給付制限期間」の短縮と撤廃とは?

改正雇用保険法の2つ目の目玉が、給付制限期間の短縮と撤廃です。「給付制限期間」という言葉を聞いたことがない方も多いと思いますので、まず仕組みから説明します。

会社を辞めると、会社から離職票が発行されます。その離職票をハローワークに持参して失業給付の申し込みをします。そこから待機期間(7日間)が設けられており、その後に失業給付が受け取れる流れになります。ただし、自己都合退職の場合は「給付制限期間」が追加で設けられており、その間は失業給付を受け取ることができません。

退職の種類給付開始までの目安
会社都合退職待機7日間のみ → 約1ヶ月で振り込み
自己都合退職(改正前)待機7日+給付制限2ヶ月+手続き約1ヶ月 → 約3ヶ月後
自己都合退職(改正後)待機7日+給付制限1ヶ月+手続き → 約2ヶ月後
自己都合退職+国指定の教育訓練受講(改正後)待機7日のみ → 給付制限期間ゼロ(即時給付)

給付制限期間はもともと3ヶ月でしたが、約4年前の改正で2ヶ月に短縮されました。今回の改正ではさらに1ヶ月に短縮されます。

さらに注目すべきは、国が指定する教育訓練を受けた場合は給付制限期間がゼロになるという点です。つまり、退職後すぐに失業給付が受け取れるようになります。

📌 ポイント

給付制限期間の変遷をまとめると:3ヶ月 → 2ヶ月(4年前の改正)→ 1ヶ月(今回の改正)。さらに教育訓練を受けた場合は0ヶ月になります。

給付制限短縮が中小企業に与える「退職者続出」リスク

働く人の立場から見れば、自己都合退職後の失業給付がスムーズに受け取れるようになるのは非常に良い改正です。しかし、人を雇用する中小企業の立場からは、これが死活問題になりかねません。

給付制限期間が短縮・撤廃されることで、退職・転職へのハードルが下がります。これまでは「辞めても3ヶ月は給付がもらえない」というブレーキがありましたが、そのブレーキが弱まることで、転職を考えている人が行動に移しやすくなります。

⚠️ 注意

政府の方針として、DX化・IT化が整った最新の企業への転職を促す意図があるとされています。古き良き中小企業から、生産性の高い企業への人材移動を加速させる政策的な狙いがあると考えられます。

つまり、この改正は単なる「給付ルールの変更」ではなく、日本全体の労働市場の流動化を促す政策の一環と捉えることができます。中小企業が生き残るためには、以下のような対応が求められます。

  • 収益性を高め、給与水準を引き上げる
  • 労働環境を整備し、休日・福利厚生を充実させる
  • DX化・IT化に取り組み、生産性を向上させる
  • 社員が「ここで働き続けたい」と思える職場づくりを進める

口で言うのは簡単ですが、これらを実現することは非常に難しいのが現実です。それでも、こうした取り組みを怠ると、本当に生き残りが厳しくなる時代が来ると言えます。

📝 このセクションのまとめ

  • 自己都合退職の給付制限期間が2ヶ月→1ヶ月に短縮
  • 国指定の教育訓練を受けた場合は給付制限期間がゼロに
  • 退職・転職のハードルが下がり、中小企業は人材流出リスクが高まる
  • 政府は古い体質の中小企業からIT・DX企業への人材移動を促す方向性

労働者にとってのメリット:教育訓練給付率の引き上げも決定

今回の改正雇用保険法には、労働者にとって嬉しい内容も含まれています。給付制限の短縮・撤廃に加えて、教育訓練給付金の給付率の上限引き上げも決定しています。

項目改正前改正後
教育訓練給付金の給付率上限受講費用の70%受講費用の80%

リスキリング(学び直し)を後押しする観点から、教育訓練にかかる費用の補助が手厚くなります。転職を考えている方や、スキルアップを目指している方にとっては、非常に活用しやすい制度になります。

📌 ポイント

教育訓練を受けることで、①給付制限期間がゼロになる+②教育訓練給付金が受講費用の最大80%補助される、という二重のメリットがあります。転職を考えている方はこの制度を積極的に活用しましょう。

📝 このセクションのまとめ

  • 教育訓練給付金の給付率上限が70%→80%に引き上げ
  • 教育訓練受講で給付制限期間ゼロ+給付率80%の二重メリット
  • リスキリング・スキルアップを目指す労働者には追い風の改正

改正雇用保険法まとめ:個人・中小企業それぞれへの影響

今回の改正雇用保険法の内容を、個人(労働者)と中小企業(雇用主)それぞれの視点で整理します。

改正内容個人(労働者)への影響中小企業への影響
週10時間以上で雇用保険加入義務(2028年10月~)短時間勤務でも失業給付・育休給付などが受けられるパート・アルバイトの保険料負担が増加
自己都合退職の給付制限期間:2ヶ月→1ヶ月退職後の生活不安が軽減、転職しやすくなる退職・転職が活発化し人材流出リスクが高まる
教育訓練受講で給付制限期間ゼロスキルアップしながら即座に給付が受けられるさらに転職促進につながる可能性がある
教育訓練給付金の給付率:70%→80%学び直しの費用負担が軽減される社員の離職・転職意欲が高まる可能性

今回の改正は、労働者にとっては非常に手厚い内容になっています。一方で、中小企業にとってはコスト増加人材流出リスクの上昇という二重の課題を突きつけられる形になっています。

なお、今回解説した改正雇用保険法の詳細については、厚生労働省の公式資料も参考にしてください。

📝 全体まとめ

  • 【週10時間の壁】週10時間以上勤務で雇用保険加入義務。2028年10月施行で全国約500万人が新たに対象
  • 【給付制限短縮】自己都合退職の給付制限期間が2ヶ月→1ヶ月に短縮
  • 【給付制限撤廃】国指定の教育訓練受講で給付制限期間がゼロに
  • 【給付率引き上げ】教育訓練給付金の給付率上限が70%→80%に
  • 中小企業は保険料負担増と人材流出の両面で対策が急務

終わりに

本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。
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