社会保険料削減スキームが崩壊秒読み?事前確定届出給与の仕組みとリスクを税理士が解説
中小企業オーナーの間で広まった社会保険料削減スキームが、ついに規制強化の秒読み段階へ。仕組み・崩壊の背景・デメリットを徹底解説します。
社会保険料削減スキームとは何か?
社会保険料は、皆さんの月給(標準報酬月額)をもとに計算されます。月給の金額が高くなればなるほど社会保険料も上がっていきますが、それぞれ上限(天井)が設けられています。
| 保険の種類 | 上限ライン(月給ベース) |
|---|---|
| 健康保険料 | 約135万円で頭打ち |
| 厚生年金保険料 | 約65万円で頭打ち |
この「月給で社会保険料が決まる」という仕組みを利用したのが、今回取り上げる削減スキームです。主に中小企業のオーナー(役員)が活用しており、役員報酬(月給)を極端に低く抑え、残りを役員賞与として受け取るという方法です。
📌 ポイント
賞与にも社会保険料はかかりますが、賞与の標準賞与額には上限が設けられています。健康保険は年間573万円、厚生年金保険は月間150万円が上限です。この上限を超えた部分には社会保険料がかかりません。この「抜け穴」を活用するのがこのスキームの核心です。
📝 このセクションのまとめ
- 社会保険料は月給(標準報酬月額)をもとに計算される
- 健康保険・厚生年金ともに月給には上限がある
- 賞与にも社会保険料の上限があり、超過分にはかからない
A社長 vs B社長:削減額を具体的な数字で比較
年収1,200万円を取る2人の社長を例に、社会保険料の差を見てみましょう。
| 項目 | A社長(通常パターン) | B社長(スキーム活用) |
|---|---|---|
| 月給(役員報酬) | 100万円 | 5万8千円 |
| 賞与 | 0円 | 約1,130万円 |
| 年収合計 | 1,200万円 | 1,200万円 |
| 健康保険料(個人負担・年間) | 約68万円 | 約37万円 |
| 厚生年金保険料(個人負担・年間) | 約71万円 | 約23万円 |
| 個人負担合計 | 約139万円 | 約60万円 |
| 個人負担の差額 | 約80万円の削減 | |
| 会社負担も含めた合計削減額 | 約160万円の削減 | |
B社長の月給5万8千円は、社会保険料計算上の最低等級に該当します(40歳以上で介護保険も含む場合)。健康保険料の月額個人負担は約3,300円、厚生年金保険料は約8,052円にとどまります。
一方、賞与約1,130万円に対しても社会保険料はかかりますが、健康保険の賞与上限は年間573万円のため、それを超えた部分には健康保険料がかかりません。厚生年金も月間150万円が上限です。この上限効果により、賞与が多額でも社会保険料の増加が抑えられます。
📌 ポイント
社会保険料が下がると、税金計算上の社会保険料控除も下がるため、税負担はやや増加します。ただし、社会保険料の削減額がその税負担増を上回るため、トータルの手取りは増える効果があります。
📝 このセクションのまとめ
- 年収1,200万円の場合、個人負担だけで年間約80万円の削減効果
- 会社負担分も合わせると年間約160万円の削減
- 税負担は増えるが、社会保険料削減額がそれを上回る
なぜ今バレたのか?厚生労働省の調査で判明した異常データ
厚生労働省の社会保障審議会が2024年9月30日に公表した資料「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用のあり方について」の中で、このスキームが統計データから浮かび上がってきました。
現在、社会保険に加入するためには週の所定労働時間が20時間以上であることが要件となっています。月給5万8千円をこの週20時間(月間約80時間)で割ると、時給換算で725円になります。これは全国的に引き上げが進む最低賃金を大きく下回る水準であり、「なぜこんなに低い月給の被保険者がいるのか」と注目されることになりました。
標準報酬月額5万8千円〜7〜8万円の被保険者には、以下の3パターンが考えられます。
- 最低賃金の減額特例許可制度が適用されている方(精神・身体障害者など)
- 経営者の配偶者など家族従業員として扱われているケース
- 代表取締役や役員が報酬を極端に低く設定し、高額な賞与を支給しているケース
1番目・2番目は最低賃金の問題が生じにくいため実態として問題視されにくいですが、3番目の役員のケースが問題視されています。
さらに、協会けんぽに加入している被保険者全体の年間標準賞与の分布データを見ると、賞与が少ない層が圧倒的に多い一方で、賞与が年間570万〜573万円のラインに突如として人数が急増していることが確認されました。その数は約4万5,819人(全体の約0.19%)で、前後のラインと比べて明らかに不自然な集中を示しています。しかも、その比率は毎年増加しており、年間千人ペースで増えている年もあります。
⚠️ 注意
このスキームは20年以上前からコンサルタントや社会保険労務士の資格を持たない人たちが推奨してきた経緯があります。近年はブログやYouTubeでも積極的に紹介されるようになり、活用者が急増したことで統計データ上で明確に可視化されてしまいました。
📝 このセクションのまとめ
- 月給5万8千円は時給換算725円となり、最低賃金と乖離して不自然
- 賞与年間573万円ライン付近に被保険者が異常集中(約4万5千人)
- その比率は毎年増加しており、当局に統計的に把握された
このスキームをお勧めしない5つの理由
このスキームは税務的には合法ですが、グレーな部分が多く、デメリットも非常に多いです。動画内で詳しく解説されている5つの理由を順番に見ていきましょう。
【理由①】届出タイミングのミスで賞与が全額経費に落ちない
役員が賞与を経費として計上するためには、事前確定届出給与という制度を使う必要があります。これは税務的には合法な特例ですが、届出の要件が非常に厳格です。
- 決算終了後3ヶ月以内に届出を提出しなければならない
- 届出には「何月何日にいくら支給するか」を未来の日付で事前申請する必要がある
- 届出通りの日付・金額で支給しなければならない
- 1円でも金額が違ったり、日付がずれたりすると、賞与が1円も経費に落ちない
⚠️ 注意
自己管理が苦手な方、資金繰りが不安定な会社には特に危険なスキームです。届出通りに賞与を支払えなかった場合、多額の賞与が全額損金不算入となり、法人税の負担が一気に増える可能性があります。
【理由②】資金繰りへの影響が大きい
賞与を年間で数百万〜1,000万円以上取るということは、そのタイミングで会社から一度に多額のキャッシュが流出することを意味します。
儲かっていてキャッシュが潤沢にある企業であれば問題ありませんが、そうでない場合は資金繰りに深刻な影響を及ぼします。賞与支給のタイミングで会社に十分な資金があるかどうかを事前に精密に計画しておく必要があります。
【理由③】役員退職金が大幅に下がる
役員退職金の計算式は、実務上よく以下の算式が使われます。
| 計算要素 | 内容 |
|---|---|
| 最終報酬月額 | 退任時の役員報酬の月額 |
| 在任年数 | 役員として在任した年数 |
| 功績倍率 | 代表取締役(社長)の場合、一般的に3倍前後 |
| 退職金の目安 | 最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率 |
月給が5万8千円のままでこのスキームを使い続けると、退任時の最終報酬月額が5万8千円になってしまいます。その結果、将来受け取れる役員退職金が大幅に低くなってしまうリスクがあります。
1〜2年など期間を決めてスキームを活用し、退任前には役員報酬を適正な水準まで引き上げる計画があるなら問題ありませんが、何も考えずにスキームを使い続けることは損につながります。
【理由④】将来の年金受給額・傷病手当金が減る
社会保険料の削減は、将来受け取れる給付にも直接影響します。
| 給付の種類 | 影響 |
|---|---|
| 老齢年金(厚生年金) | 収めた厚生年金保険料が少ないため、将来の受給額が大幅に減少する可能性がある |
| 傷病手当金 | 月給の約7割が支給されるが、月給5万8千円では受給額も極めて低くなる |
【理由⑤】月給5万8千円では生活できない→税務リスクが発生
月給5万8千円は学生アルバイトと同水準です。実際の生活費が足りない場合、会社から個人への貸付金(役員貸付)で補填するケースが多く見られます。
⚠️ 注意
事前確定届出給与を採用しているにもかかわらず、毎月生活費を補填するために会社からの貸付金がどんどん積み上がっている場合、税務調査において「これは実質的に毎月の給与(役員報酬)ではないか」と認定されるリスクがあります。きちんと毎月返済していれば別ですが、残高が積み上がり続けるようであれば非常に危険です。
📝 このスキームが向いている人・向いていない人
- ✅ 向いている人:個人資産が豊富で月5万8千円でも生活できる/会社のキャッシュが潤沢で一度の大きなキャッシュアウトに耐えられる/期間を決めて計画的に活用する
- ❌ 向いていない人:毎月きちんと給与を取って会社を伸ばしたい人/自己管理が苦手な人/資金繰りが不安定な会社/将来の退職金・年金を重視する人
今後どう改正される?スキーム崩壊の予想シナリオ
現時点では、このスキームの廃止はまだ決定していません。しかし、厚生労働省の審議会で問題として取り上げられた以上、何らかの規制強化は避けられない見通しです。
過去の経緯を振り返ると、賞与への社会保険料はかつてはかかりませんでした。その後、年間200万円という上限が設けられ、現在の健康保険年間573万円まで段階的に引き上げられてきました。
今後の改正として最も可能性が高いのは、賞与の標準賞与額の上限をさらに引き上げる(例:年間1,000万円以上に)ことです。このスキームが有効に機能するのは主に年収1,000万円以上の方であるため、上限を1,000万円超に引き上げることで、スキームの節税効果をほぼ消滅させることができます。
📌 マイクロ法人スキームにも注意
今回の社会保険料削減スキームと連動して問題視されているのがマイクロ法人スキームです。個人事業主が法人を設立し、法人からの役員報酬を最低限に抑えることで社会保険料を削減する手法ですが、こちらも規制強化の俎上に載っています。今後は個人の所得と法人の役員報酬を合算して社会保険料を決める方向になる可能性があります。いずれも廃止決定ではありませんが、遅かれ早かれ規制がかかることを念頭に置いておく必要があります。
📝 このセクションのまとめ
- 廃止・規制強化はまだ決定ではないが、秒読み段階に入っている
- 最も有力な改正シナリオは「賞与の標準賞与額の上限引き上げ」
- マイクロ法人スキームも同様に規制強化が検討されている
- ブログ・YouTubeの情報だけで安易に手を出すのは非常に危険
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
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