株式譲渡と事業譲渡の違い|税金・手続き・メリットデメリットを徹底比較
M&Aで最もよく使われる手法が「株式譲渡」と「事業譲渡」です。どちらを選ぶかで税金、手続き、リスクが大きく変わります。本記事では両者の違いを網羅的に比較し、最適な手法の選び方を解説します。
📑 この記事の目次
株式譲渡とは?基本的な仕組み
株式譲渡とは、会社の株主が保有する株式を第三者に売却することで、会社の経営権を移転させるM&A手法です。
会社そのものは存続し、法人格、契約関係、許認可、従業員の雇用契約がすべてそのまま引き継がれます。中小企業のM&Aでは最も多く採用される手法で、全体の約8割を占めています。
📌 株式譲渡のポイント
- 売り手は「株主個人」、取引対象は「株式」
- 会社はそのまま存続(法人格の変更なし)
- 取引先との契約や許認可はそのまま承継
- 従業員の再雇用手続きは不要
事業譲渡とは?基本的な仕組み
事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を、資産・負債・契約を個別に選別して売買するM&A手法です。
株式譲渡が「会社の箱ごと売る」のに対し、事業譲渡は「中身を選んで売る」イメージです。買い手は必要な資産・契約だけを選んで取得できるため、不要な負債やリスクを引き継がないというメリットがあります。
📌 事業譲渡のポイント
- 売り手は「法人」、取引対象は「事業(資産・負債・契約等)」
- 資産・負債を個別に選別して譲渡可能
- 許認可は原則として再取得が必要
- 従業員は個別に同意を得て転籍
株式譲渡と事業譲渡の比較一覧表
両者の違いを主要な項目ごとに比較します。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 取引の主体 | 株主(個人または法人) | 法人 |
| 取引の対象 | 株式(会社全体) | 事業の全部または一部 |
| 手続きの複雑さ | 比較的シンプル | 個別の資産・契約移転が必要で複雑 |
| 許認可の承継 | そのまま承継 | 原則として再取得が必要 |
| 従業員の扱い | 雇用契約は自動承継 | 個別に同意が必要(転籍扱い) |
| 簿外債務リスク | あり(会社ごと引き継ぐため) | なし(選別して取得するため) |
| 競業避止義務 | なし(別途契約で設定可能) | 会社法上20年間の制限あり |
| 売り手の税金 | 個人:20.315%(分離課税) | 法人:約30〜34%(法人税等) |
| 買い手の消費税 | 非課税 | 課税資産に対して課税 |
| のれん償却 | 不可 | 税務上5年で均等償却可能 |
| 対象会社の存続 | 存続する | 存続する(売り手法人に残る) |
税金の違いを具体的にシミュレーション
同じ条件で株式譲渡と事業譲渡を行った場合の税金の差を比較してみましょう。
前提条件
- 譲渡価格:1億円
- 取得費(簿価):1,000万円
- 株主:創業オーナー(個人)
| 項目 | 株式譲渡(個人) | 事業譲渡(法人→個人への分配) |
|---|---|---|
| 譲渡益 | 9,000万円 | 9,000万円 |
| 法人税等 | — | 約3,060万円(34%) |
| 株式譲渡所得税 | 約1,828万円(20.315%) | — |
| 残余財産分配時の税金 | — | 約832万円(みなし配当課税) |
| 合計税負担 | 約1,828万円 | 約3,892万円 |
| 手取り額 | 約8,172万円 | 約6,108万円 |
⚠️ 注意:二重課税に要注意
事業譲渡の場合、まず法人に法人税が課され、その後オーナーに利益を分配する際にさらに所得税が課される「二重課税」が発生します。上記の例では、株式譲渡と比べて約2,064万円も手取りが減少します。この差は金額が大きくなるほど拡大するため、手法選択は慎重に行いましょう。
💡 専門家のワンポイント
ただし、事業譲渡にも税務上のメリットはあります。買い手側はのれん(資産調整勘定)を5年間で損金算入できるため、将来の法人税を削減できます。売り手と買い手の税メリットを総合的に判断し、譲渡価格の交渉に反映させることが重要です。
株式譲渡を選ぶべきケース
以下のような場合は、株式譲渡が適しています。
- 会社全体を売却したい場合(事業の一部だけを残す必要がない)
- 許認可が重要な業種(建設業、介護事業、薬局等)で許認可を引き継ぎたい場合
- 手続きをシンプルにしたい場合(個別の資産移転手続きが不要)
- 売り手の手取りを最大化したい場合(個人の税率20.315%が有利)
- 従業員の雇用をスムーズに維持したい場合
事業譲渡を選ぶべきケース
一方、以下のような場合は事業譲渡が適しています。
- 一部の事業だけを売却したい場合(コア事業を残して非中核事業を切り離す)
- 簿外債務や偶発債務のリスクが大きい場合(買い手がリスクを限定したい)
- 買い手がのれん償却の税メリットを得たい場合
- 売り手が法人として存続し、別事業を継続したい場合
- 特定の契約やリスクを除外して取引したい場合
📝 手法選択の判断フロー
- 会社全体を売りたい → 株式譲渡
- 一部事業だけ売りたい → 事業譲渡
- 許認可を引き継ぐ必要がある → 株式譲渡
- 簿外債務リスクを遮断したい → 事業譲渡
- 売り手の手取りを最大化 → 株式譲渡
- 買い手が節税したい → 事業譲渡(のれん償却)
📋 この記事を読んだら次にやること
- 自社のM&Aの目的を整理し、全部売却か一部売却かを明確にする
- 顧問税理士に株式譲渡・事業譲渡それぞれの税額シミュレーションを依頼する
- 自社の簿外債務リスク(退職給付引当金、訴訟リスク等)を棚卸しする
- 許認可の承継可否を所管官庁に確認する
終わりに
株式譲渡と事業譲渡は、どちらが優れているというものではなく、売り手・買い手双方の状況に応じて最適な手法が異なります。特に税金面の影響は非常に大きく、手法選択だけで手取り額が数千万円変わることも珍しくありません。
M&Aの手法選択は、M&A仲介会社だけでなく、税務に精通した税理士に早期に相談することが重要です。税理士であれば、売却スキームの設計から税務申告まで一貫してサポートできます。
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