中小企業でもホールディングス設立が増加している理由を専門家が解説
中小企業でもホールディングスを作る会社が急増しています。その背景にある手法の普及と、設立に至る5つの目的をわかりやすく解説します。
中小企業でホールディングスが増えている背景
皆さんの周りでも、取引先や仕入先などでホールディングスを設立している会社が増えてきたと感じる方も多いのではないでしょうか。大企業がホールディングス体制を採用するのはよく知られていますが、最近では中小企業でもホールディングスを作るケースが目立って増えてきています。
その大きな理由のひとつが、ホールディングスを作る方法が非常にメジャーになってきた、つまり広く浸透してきたという点です。銀行や信用金庫の担当者からも「株式移転」「株式交換」という言葉が自然に出てくるようになってきました。
💡 補足:動画では触れていませんが…
ホールディングス設立件数は2010年代後半から中小企業でも増加傾向にあります。金融機関が事業承継支援の一環として積極的に提案するようになったことも、普及を後押しした大きな要因のひとつです。
📝 このセクションのまとめ
- 中小企業でもホールディングスを設立するケースが増加している
- 背景には「株式移転・株式交換」という手法の浸透がある
- 銀行・信用金庫からも積極的に提案されるようになってきた
従来の持株会社設立手法とその問題点
以前、銀行が勧めていたホールディングス(持株会社)を作る手法は、主に次のような流れでした。
- 現社長が持っている会社の株式を、新たに設立した子ども名義の会社が買い取る
- 買い取り資金は銀行が融資する
- 融資を元の会社の利益の中から返済していく
この手法では、事業承継や株価対策のスキームとしてよく使われていましたが、いくつかの問題点がありました。
| 問題点 | 内容 |
|---|---|
| 借金が残る | 子ども名義の会社に買い取り資金の借入が残り、元の会社の利益から返済し続けなければならない |
| 譲渡所得税・住民税の負担 | 株式を売却する際に約20%の譲渡所得税・住民税がかかる |
| 資本金の拠出が必要 | 新会社設立にあたって個人資産を資本金として拠出する必要がある |
⚠️ 注意
従来の手法では、たとえ手元に現金が入ったとしても、子ども名義の会社に借金が残り、さらに株式売却時に約20%の税負担が生じるため、実質的なメリットが大きく損なわれるケースがありました。
📝 このセクションのまとめ
- 従来の手法は「子ども名義会社が株式を買い取る」方式が主流だった
- 買い取り資金の借入・約20%の譲渡税・資本金拠出という3つの負担があった
- これらの負担がネックとなり、事業承継が進まないケースも多かった
株式移転・株式交換とは?コストゼロでホールディングスを作る方法
従来手法の問題を解決するのが、「株式移転」と「株式交換」という手法です。この2つを使うと、買い取り資金・銀行借入・譲渡所得税のいずれも不要で、ホールディングスを設立することができます。
📌 ポイント
株式移転・株式交換を使えば、自己資金ゼロ・銀行借入なし・譲渡税なしで、ある日突然ホールディングスという親会社を既存の会社の上に作ることができます。
この2つの手法の違いを整理すると、以下のようになります。
| 手法 | 対象 | 仕組み | 主な活用場面 |
|---|---|---|---|
| 株式移転 | 既存の1社(または複数社) | 既存会社の上に新たな100%親会社(ホールディングス)を設立する。株主が持つ株の銘柄が既存会社からホールディングスに切り替わる | 1社の上に親会社を作りたい場合、または兄弟会社の上に共同の親会社を作りたい場合(共同株式移転) |
| 株式交換 | 既存の2社以上 | 兄弟関係にある複数の会社を上下関係に組み替え、一方を他方の親会社にする | すでに複数の会社を経営しており、そのうち1社を親会社にしたい場合 |
例えば、A社を経営している場合に株式移転を使うと、A社の上に「Aホールディングス」という100%親会社が誕生します。社長はA社の株ではなく、ホールディングスの株を持つようになります。株主構成(持株比率)はそのまま維持されるため、親御さんやご兄弟と株を共有していた場合も、持つ株の銘柄がA社からAホールディングスに変わるだけで、比率は変わりません。
また、B社とC社という兄弟会社を持っていて、それぞれに別の社長がいる場合は、共同株式移転という手法で、2社の上に共同の親会社(ホールディングス)を作ることもできます。上下関係を作らずに、対等な兄弟会社のまま、その上に共通の親会社を置くイメージです。
手続きとしては、法務局で株式移転・株式交換の登記を司法書士に依頼して行うだけです。会社設立のコストはかかりますが、個人として所得税・住民税の負担は生じません。
💡 補足:動画では触れていませんが…
株式移転・株式交換は会社法に基づく組織再編行為であり、適格要件を満たせば法人税・消費税の課税も繰り延べられます。税制適格の要件(支配関係・事業継続要件など)を事前に税理士・司法書士と確認することが重要です。
| 比較項目 | 従来の買い取り方式 | 株式移転・株式交換 |
|---|---|---|
| 買い取り資金 | 必要(銀行借入) | 不要 |
| 銀行借入 | 必要 | 不要 |
| 譲渡所得税・住民税 | 約20%かかる | 不要 |
| 資本金の拠出 | 必要 | 不要 |
| 手続き | 複雑 | 法務局登記(司法書士依頼) |
📝 このセクションのまとめ
- 株式移転は既存会社の上に新たな親会社を作る手法
- 株式交換は兄弟会社を上下関係に組み替える手法
- どちらも自己資金・借入・譲渡税が不要でホールディングスを設立できる
- 手続きは法務局への登記(司法書士に依頼)のみ
ホールディングスを作る5つの目的
では、なぜ中小企業はホールディングスを作るのでしょうか。主な目的を5つ紹介します。
- ① 先代社長の「花道」を作る(事業承継の円滑化)
- ② 後継者選択の多様性を持つ組織を作る
- ③ 新事業を既存事業から切り離してリスクを分散する
- ④ 不動産投資を本業から切り離す
- ⑤ グループファイナンスで資金調達を一元管理する
以下でそれぞれ詳しく解説します。
📝 このセクションのまとめ
- ホールディングス設立の目的は事業承継だけでなく多岐にわたる
- 経営戦略・財務・組織設計の観点から活用できる
目的① 先代社長の「花道」を作る(事業承継の円滑化)
事業承継の場面で、先代社長に退職金を支払う際、税務署に退職金を正式な経費として認めてもらうためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
- 常勤の取締役だった方は非常勤役員になること
- 出勤日数を大幅に減らすこと(例:週1〜2日程度)
- 給与を大幅に減額すること
- 肩書きを「顧問」や「相談役」などに変更すること
- 経営への口出しを控えること
これらの条件を満たさないと、退職金が経費として認められないリスクがあります。しかし実際には、長年会社を育ててきた創業者にとって、「会社から追い出されるような感覚」を持つ方も少なくなく、なかなか経営の実権を手放せないケースも多いです。
そこでホールディングスを活用すると、先代社長はA社を退職して退職金を受け取った後も、ホールディングスの社長や取締役としての立場を持つことができます。ホールディングスとして、グループ全体の月次報告を受けてアドバイスをするといった役割を担うことで、創業者としての「居場所」と「役割」を正式に確保できます。
⚠️ 注意
ホールディングスの役員になった後も、事業会社(A社)の銀行交渉に同席したり、社内の人事(部長・課長の任命)に口を出し続けたりすると、退職金の経費性が否認されるリスクがあります。役割分担を明確にし、面談記録などにも注意が必要です。
また、ホールディングスに専用のスペース(パーテーションで区切ったエリアに机・椅子を用意するなど)を設けることで、先代社長が「グループの後見人・経営アドバイザー」として機能する組織図を作ることができます。これにより、創業者が生みの苦しみで育ててきた会社から疎外感を感じることなく、円滑なバトンタッチが実現しやすくなります。
💡 補足:動画では触れていませんが…
退職金の適正額は「最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率」で算定するのが一般的です。功績倍率は代表取締役で3.0倍程度が目安とされており、過大な退職金は税務調査で否認されるリスクがあります。
📝 このセクションのまとめ
- 退職金を経費として認めてもらうには、先代社長の実質的な退任が必要
- ホールディングスの役員として「グループアドバイザー」の立場を作れる
- 創業者の「居場所」を確保しながら円滑な事業承継が実現できる
- ホールディングスでの経営関与の範囲は明確に線引きすることが重要
目的②③ 後継者育成・新事業のリスク分離
ホールディングス体制では、創業家がグループ全体の経営理念や企業文化を守りながら、事業会社(ホールディングスの下にぶら下がる会社)の経営は内部昇格者や外部のプロ経営者に任せるという体制を作ることができます。
創業家の中から常に後継者が生まれ続けるとは限りません。子どもたちがそれぞれのやりたいことを見つけるケースも多い現代では、後継者選択の多様性を持つ組織体制を整えておくことが重要です。社員が経営者の立場・ポストを経験できる機会を増やし、後継者を多く育てていく組織文化を作るためにも、ホールディングス体制は有効です。
また、新事業を始める際のリスク分離という観点でも、ホールディングス体制は大きなメリットをもたらします。
📌 ポイント:新事業の切り離し効果
A社1社の中で新事業を始めると、新事業のリスクがA社全体のバランスシートに影響します。A社の経営を任せた内部昇格の社長にとっても、自分の責任範囲外のリスクを負うことになります。
ホールディングス体制では、新事業を別会社として立ち上げることで、A社の社長はA社だけに専念でき、新事業のリスクはホールディングス(=現社長)が責任を持って管理できます。うまくいったら合併、うまくいかなければ別会社のまま整理という柔軟な対応が可能です。
なお、始めてからうまくいかなかった後に「やっぱり分けよう」とするのは、税務上・法務上の手間が生じるため、最初から別会社として切り離してスタートし、うまくいったら合併するという順序が望ましいとされています。
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新事業を別会社で行う場合、グループ内での取引(内部取引)については移転価格の観点から適正な価格設定が必要です。恣意的な利益移転とみなされないよう、グループ内取引の価格設定ルールを事前に整備しておきましょう。
📝 このセクションのまとめ
- ホールディングスは創業家が経営理念を守りつつ、事業会社はプロ経営者に任せる体制を作れる
- 社員が経営者ポストを経験できる機会が増え、後継者育成につながる
- 新事業は別会社として切り離すことで、既存事業へのリスク波及を防げる
- 「最初から別会社→うまくいったら合併」の順序が実務上スムーズ
目的④⑤ 不動産投資の切り離しとグループファイナンス
近年、特に若い経営者の方から「将来の売上・利益が読めないので、安定した家賃収入をグループ全体で確保したい」という声が増えています。しかし、A社1社の中で不動産を購入し続けると、バランスシートが本業と不動産でごちゃ混ぜになり、銀行担当者もどのローンがどの不動産と紐づいているか把握しにくくなります。
そこで、不動産はホールディングスや別会社で管理し、事業会社は本業に専念するという形にすることで、貸借対照表を明確に切り離すことができます。財務の透明性が高まり、銀行との交渉もスムーズになります。
また、グループファイナンスという考え方も、ホールディングスを活用する重要な目的のひとつです。
| グループファイナンスの仕組み | 内容 |
|---|---|
| 資金調達 | ホールディングスが銀行から一括して資金を調達する |
| 資金配分 | 調達した資金を各事業会社(A社・B社・C社)に必要に応じて貸し付ける |
| 銀行交渉の担当 | 銀行交渉の経験豊富な現社長(ホールディングス)が一手に担う |
| 事業会社の役割 | 各社の社長は銀行交渉に時間・集中力を割かれず、本業に専念できる |
内部昇格で社長になった方は、営業スキルや新商品開発スキルは高くても、銀行交渉に慣れていないケースも多いです。銀行との面談に緊張してしまい、本業への集中力がそがれることもあります。グループファイナンスの仕組みを使えば、銀行交渉はホールディングスが担い、各事業会社の社長は本業に集中できるという体制が実現します。
📌 ポイント
グループファイナンスはホールディングスから各社への「貸し付け」という形になりますが、これは税務上も認められた正当なスキームです。ただし、金利の設定(無利息や著しく低い利率は問題になる場合がある)や、貸付の目的・条件を書面で明確にしておくことが重要です。
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ホールディングスを設立すると、グループ通算制度(旧:連結納税制度)の適用も検討できます。グループ内の黒字会社と赤字会社の損益を通算することで、グループ全体の法人税負担を軽減できる可能性があります。
📝 このセクションのまとめ
- 不動産をホールディングスや別会社で管理することで、本業の貸借対照表をシンプルに保てる
- グループファイナンスにより、銀行交渉をホールディングスに集約できる
- 各事業会社の社長は本業に専念でき、経営効率が上がる
- グループ通算制度など、税制上のメリットも併せて検討する価値がある
ホールディングス設立の5つの目的まとめ比較
| 目的 | 主な効果 | 特に有効なケース |
|---|---|---|
| ① 先代社長の花道を作る | 退職金支払い後も先代が「グループアドバイザー」として活躍できる | 事業承継を検討中の創業者がいる会社 |
| ② 後継者選択の多様性 | 社員が経営者ポストを経験できる機会を増やし、後継者を育成できる | 創業家以外から後継者を育てたい会社 |
| ③ 新事業の切り離し | 新事業のリスクを既存事業から分離し、既存事業の社長は本業に専念できる | 新規事業に積極的な成長志向の会社 |
| ④ 不動産投資の切り離し | 貸借対照表を本業と不動産で明確に分離し、財務の透明性を高める | 不動産投資を拡大したい会社 |
| ⑤ グループファイナンス | 銀行交渉をホールディングスに集約し、各社社長は本業に集中できる | 複数の事業会社を持つグループ経営の会社 |
📝 このセクションのまとめ
- ホールディングス設立の目的は「切り離し効果」がキーワード
- 事業・リスク・ポスト・財務・資金調達をそれぞれ切り離し、グループ全体として成長を目指す
- 1社単独での経営が間違いというわけではなく、切り離し効果が必要になったタイミングで検討するのが現実的
📋 この記事を読んだら次にやること
- 自社にとってホールディングス設立の目的(事業承継・リスク分散・後継者育成など)が当てはまるか確認する
- 顧問税理士・司法書士に「株式移転・株式交換」の適格要件と手続きについて相談する
- 現在の株主構成・自社株評価額・事業会社の財務状況を整理し、ホールディングス設立後のグループ設計図を描いてみる
- グループ通算制度の適用可否や、グループファイナンスの金利設定など、税務上の論点を事前に確認する
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 中小企業の財務チャンネル の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 中小企業の財務チャンネルを応援しています!
