130万・106万円の壁が崩壊へ?社会保険の適用拡大を税理士が徹底解説
社会保険の「年収の壁」が次々と崩壊しようとしています。パート・アルバイトや個人事業所で働く方への影響を、元が取れるかどうかの試算も含めて詳しく解説します。
そもそも「扶養の壁」には2種類ある
「扶養の壁」と一口に言っても、税金(所得税・住民税)の扶養と社会保険の扶養では概念がまったく異なります。まずはこの違いを整理しておきましょう。
配偶者が夫の税金上の扶養に入ると、夫本人の税金が安くなります。一方、配偶者が夫の社会保険上の扶養に入ると、夫が支払う社会保険料だけで済み、妻の社会保険料はゼロになります。妻は自ら保険料を負担しなくても、国民年金に加入した状態が保たれるというものです(第2号被保険者の配偶者に限る)。
📌 ポイント:税金の扶養 vs 社会保険の扶養
- 税金の扶養:配偶者が扶養に入ると、夫(世帯主)の税金が安くなる
- 社会保険の扶養:配偶者が扶養に入ると、妻の社会保険料がゼロになる(国民年金には加入した状態を維持)
国民年金の3つの区分とは?
日本で働く方の人口は約6,756万人ほどいますが、国民年金の加入者は次の3つのカテゴリーに分かれています。
| 区分 | 対象者 | 保険料の扱い |
|---|---|---|
| 第1号被保険者 | 自営業者・学生・無職・一部の個人事業所勤務者など | 自ら国民健康保険+国民年金に加入・負担 |
| 第2号被保険者 | 会社員・会社経営者など | 国民年金+厚生年金に加入(保険料は会社と折半) |
| 第3号被保険者 | 第2号被保険者の配偶者(主に専業主婦・主夫) | 自ら保険料を負担しなくても国民年金に加入した状態を維持 |
今回の政府の方針は、第1号被保険者の一部・第3号被保険者の一部を第2号被保険者の範囲に引き込み、厚生年金保険料を払ってもらおうというものです。国の財政事情もあるかと思いますが、家計への影響はかなり大きなものになります。
📝 このセクションのまとめ
- 税金の扶養と社会保険の扶養は概念がまったく異なる
- 国民年金の加入者は第1号・第2号・第3号の3区分に分かれる
- 政府は第1号・第3号の一部を第2号(厚生年金加入)に移行させようとしている
4つの「年収の壁」を整理する
「年収の壁」には大きく分けて4種類あります。税金の壁2つ、社会保険の壁2つです。
| 壁の種類 | 年収ライン | 超えるとどうなるか |
|---|---|---|
| 税金の壁① | 103万円 | 配偶者・扶養親族が扶養から外れ、世帯の税金が増える |
| 税金の壁② | 150万円 | 配偶者特別控除が減少し、世帯主の税負担が増える |
| 社会保険の壁① | 106万円 | 一定規模以上の事業所勤務者は勤務先で厚生年金に加入が必要 |
| 社会保険の壁② | 130万円 | 社会保険の扶養から外れ、自ら社会保険料を負担 |
税金では150万円が基準なのに、社会保険では130万円とバランスが合っていないと感じる方もいるかもしれません。今日の本題はこの社会保険の壁、特に106万円の壁と130万円の壁についてです。
📌 ポイント:2024年中の特例措置
今年いっぱいまでは「年収の壁・支援強化パッケージ」として、130万円の壁を一時的に超えた場合でも、収入が一時的に増加したと認められれば扶養に入ったままでOKという特例があります。
📝 このセクションのまとめ
- 年収の壁は税金と社会保険でそれぞれ2種類、計4種類ある
- 社会保険の壁は106万円と130万円の2段階
- 2024年中は130万円超えの一時特例あり
106万円の壁の現行要件と2024年10月からの変更
106万円の壁は、以下の要件をすべて満たす場合に、勤務先での社会保険(厚生年金・健康保険)加入が必要となるルールです。
- 正社員が101人以上の会社に勤務していること
- 収入が月8万8,000円以上(年収換算で約106万円)
- 雇用期間が2ヶ月超見込まれること
- 所定労働時間が週20時間以上
- 学生でないこと
これらを全て満たすと、130万円の壁は一切関係なく、勤務先で厚生年金に加入しなければなりません。当然、手取りは減ります。
そして2024年10月からは、この「101人以上」という企業規模要件が「51人以上」に引き下げられます。これはすでに確定している話です。
| 時期 | 企業規模要件 | 対象となる新規加入者数(目安) |
|---|---|---|
| 106万円の壁 創設前 | (要件なし) | 約4,500万人(従来の適用対象者) |
| 106万円の壁 創設時 | 正社員501人以上→後に101人以上 | 新たに約90万人が対象追加 |
| 2024年10月〜 | 正社員51人以上 | さらに約20万人が対象追加 |
⚠️ 注意
正社員が51人以上100人以下の事業所で働く方は、2024年10月以降、これまで130万円の壁だけを気にしておけばよかったのが、106万円の壁が適用されるようになります。収入や労働時間を確認しておきましょう。
📝 このセクションのまとめ
- 106万円の壁の要件は5つあり、すべて満たすと厚生年金加入が必須
- 2024年10月から企業規模要件が「101人以上」→「51人以上」に変更(確定)
- 新たに約20万人が106万円の壁の対象に加わる見込み
さらなる拡大へ:企業規模要件・労働時間要件の撤廃も議論中
2024年7月1日に開催された「第8回 働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用のあり方に関する懇談会」では、さらなる適用拡大の方向性が議論されました。まだ最終決定ではありませんが、方向性はかなり固まってきています。
現在議論されているのは、企業規模要件の完全撤廃です。51人以上かどうかに関わらず、月収8万8,000円・週20時間以上という基準で一律に厚生年金加入を義務付けるという方向性です。
さらに、週20時間という労働時間要件についても、それ未満の短時間労働者を社会保険の対象とする可能性も議論されています。
📌 今後の見通し(予測)
- 2024年10月:51人以上の事業所に106万円の壁が適用(確定)
- 数年後:企業規模要件が完全撤廃され、130万円の壁がなくなる可能性(予測)
- さらに将来:労働時間要件も撤廃され、年収の壁そのものがなくなる可能性(予測)
完全に壁がなくなるのはかなり先の話だと思いますが、この流れは加速していく可能性が高いと言えます。
📝 このセクションのまとめ
- 企業規模要件(51人以上)の完全撤廃が議論されている
- 労働時間要件(週20時間以上)の撤廃も検討中
- 将来的に「年収の壁」そのものがなくなる可能性がある
個人事業所でも社会保険の適用が拡大される
パート労働者への適用拡大に加え、もう1つ大きな変化が議論されています。それが個人事業所への社会保険適用拡大です。
現在、社会保険(健康保険・厚生年金)の適用ルールは、法人と個人事業所で大きく異なります。
| 事業形態 | 従業員数 | 現行ルール |
|---|---|---|
| 法人 | 人数問わず | 強制適用(必ず社会保険に加入) |
| 個人事業所(法定17業種) | 5人以上 | 強制適用 |
| 個人事業所(法定17業種) | 5人未満 | 任意(加入しなくてよい) |
| 個人事業所(法定17業種以外) | 5人以上でも | 任意(加入しなくてよい) |
| 個人事業所(法定17業種以外) | 5人未満 | 任意(加入しなくてよい) |
「法定17業種以外」に該当する業種の例としては、以下のものが挙げられます。
- 農業・林業
- 宿泊業
- 飲食サービス業
- 理美容業
- デザイン業
- 警備業
- 士業(税理士事務所など)
これらの業種では、5人以上を雇用していても社会保険に加入する義務がありませんでした。ところが今回、法定17業種以外であっても、5人以上の従業員がいる個人事業所は社会保険の強制適用対象とする方向で議論が進んでいます。
これにより、そうした事業所で働く方々は、これまで自ら国民健康保険・国民年金に加入していたのが、今後は勤務先が保険料の半分を負担する形で健康保険・厚生年金に加入することになります。
⚠️ 注意:事業主側の負担増に注意
個人事業所が社会保険の強制適用対象になると、事業主は従業員の社会保険料の半分を負担しなければなりません。多くの従業員を雇用している中小企業・個人事業主にとっては、資金繰りに大きな影響を与える死活問題になりかねません。
📝 このセクションのまとめ
- 現在、法定17業種以外の個人事業所は5人以上雇用していても社会保険加入義務なし
- 今後は法定17業種以外でも5人以上の個人事業所を強制適用対象にする方向で議論中
- 事業主・従業員ともに保険料負担が発生し、資金繰りへの影響が大きい
厚生年金に加入すると本当に元が取れるのか?試算してみた
政府の広報サイトでは「社会保険に加入すると手厚い保障が受けられます」とアピールされています。傷病手当金が受け取れるようになったり、将来の老齢年金が増えたりするメリットは確かにあります。しかし、本当に得なのでしょうか?
モデルケースとして、月収8万8,000円の方が新たに厚生年金に加入した場合を試算してみます。
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 個人負担の厚生年金保険料(目安) | 約8,100円 | 約97,200円 |
| 個人負担の健康保険料(40歳以上・目安) | 約5,095円 | 約61,140円 |
| 合計負担額(年) | — | 約158,340円 |
| 厚生年金加入で増える年金額(月・目安) | 約9,000円 | 約108,000円 |
20年間加入した場合の総負担額と、増える年金で元を取るまでの年数を計算してみます。
| 計算項目 | 厚生年金のみで計算 | 健康保険料も含めて計算 |
|---|---|---|
| 20年間の総負担額 | 約194万4,000円 | 約316万6,800円 |
| 年間で増える年金額 | 約10万8,000円 | 約10万8,000円 |
| 元を取るまでの年数 | 約18年 | 約30年 |
厚生年金保険料だけで計算すると元を取るまで約18年ですが、健康保険料も含めると約30年かかる計算になります。
⚠️ 注意:政府の試算は「厚生年金のみ」の数字
政府広報の資料では「将来もらえる年金が増えます」として元が取れるように見える試算が掲載されていますが、健康保険料の負担が含まれていません。健康保険料も加算すると、元を取るまでに約30年かかる計算になります。物価変動などの要素も加味する必要がありますが、単純計算では元を取るのはかなり難しいと言えます。
もちろん、傷病手当金や出産手当金など、厚生年金・健康保険に加入することで受け取れる保障が増えるという側面もあります。手厚い保障に安心感を感じる方もいれば、元が取れないなら払いたくないと感じる方もいるでしょう。
📝 このセクションのまとめ
- 月収8万8,000円の場合、厚生年金保険料の個人負担は月約8,100円
- 厚生年金のみで計算すると元を取るまで約18年、健康保険料も含めると約30年
- 政府の試算は健康保険料が含まれておらず、実態より有利に見える点に注意
今後の対策と心構え
今回の社会保険適用拡大の流れは、個人レベルの問題にとどまらず、多くの従業員を雇用している中小企業にとっても資金繰りに大きな影響を与えます。事業主が社会保険料の半分を負担しなければならなくなるため、死活問題になりかねません。
この方向性はおそらく変わらないと思われます。できることは限られますが、悲観的に将来の資金繰りの準備を進めておくことをお勧めします。
📌 今後の流れを整理
- 2024年10月(確定):51人以上の事業所で働くパートに106万円の壁が適用。新たに約20万人が対象に
- 数年後(議論中):企業規模要件の完全撤廃→130万円の壁がなくなる可能性
- さらに将来(議論中):労働時間要件の撤廃→年収の壁そのものがなくなる可能性
- 個人事業所(議論中):法定17業種以外でも5人以上の個人事業所が強制適用対象に
今まで国民年金保険料だけで済んでいた方、あるいは第3号被保険者として保険料を払わなくてよかった方にとっては、格差是正という名目のもと、負担が増えていく流れです。パートで働く方も、個人事業所の事業主・従業員の方も、今後の動向を注視しておく必要があります。
📝 このセクションのまとめ
- 社会保険適用拡大は個人・企業ともに大きな影響がある
- この流れは加速していく可能性が高く、早めの資金繰り準備が重要
- パートで働く方・個人事業所の方ともに、今後の動向を注視すること
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
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