個人事業主・マイクロ法人・法人、どれが正解?税理士が徹底比較
「売上1,000万超なら法人がいい」は本当?個人事業主・マイクロ法人・普通の法人の3形態を、税率・社会保険・節税策まで税理士が数字で徹底比較します。
「売上1,000万以上なら法人がいい」は嘘?まず結論から
これから起業される方にとって、個人事業と法人のどちらで行くべきか、これは非常に悩むところです。さらには「マイクロ法人という形態がいいんじゃないか」とか「売上1,000万以上見込めるなら法人の方がいい」とか、いろんな噂が飛び交っています。これは税理士にとっても必ず聞かれる質問で、ベスト5に絶対入ってくるような質問です。
⚠️ 注意
「売上1,000万以上なら法人がいい」は嘘です。税金は売上ではなく、そこから経費を引いた利益に対して税率をかけて計算するものです。売上がいくらかだけでは、税金がどれぐらいかかるか判断できません。
正しい答えは「ケースバイケース」です。個人か法人かについては、これから皆さんが事業をどれぐらいの規模まで大きくしたいかによって、どちらがベストなのかが変わってきます。
今回は、個人事業主・マイクロ法人・普通の法人の3パターンを比較し、数字を使ったシミュレーションで「自分に合っているのはどれか」を見ていきたいと思います。
📝 このセクションのまとめ
- 「売上1,000万超なら法人」という判断基準は誤り
- 税金は売上ではなく「利益(課税所得)」にかかる
- 正解はケースバイケース。事業規模の目標や事情による
個人事業主と法人の基本的な違いを一覧比較
まず、個人事業主と法人の基本的な違いを整理しましょう。個人事業主とは、個人名あるいは屋号を作って活動するものです。法人には一般的に株式会社と合同会社という形態があり、それ以外にも一般社団法人・合資会社・税理士法人などがあります。
| 比較項目 | 個人事業主 | マイクロ法人 | 普通の法人 |
|---|---|---|---|
| 主な税金 | 所得税・住民税・事業税 | 法人税・法人住民税・法人事業税+所得税等 | 法人税・法人住民税・法人事業税 |
| 税率 | 約15%〜55%(累進課税) | 法人税率+個人税率 | 約23%〜32% |
| 融資審査 | やや弱い | 弱い | 比較的強い |
| 経理業務 | 比較的簡易 | 複雑(2つ管理が必要) | 複雑 |
| 社会保険 | 任意加入(一定の場合を除く) | 強制加入 | 強制加入 |
| 事業承継 | 財産の名義変更が必要 | 株式を渡すだけ | 株式を渡すだけ |
| 節税対策の幅 | 限られる | 限界がある | 幅広い |
| 税務調査 | 入られにくい | 入られにくい | 入られやすい |
📝 このセクションのまとめ
- 個人事業主は経理が簡易で税務調査リスクが低いが、節税の幅が狭い
- 法人は節税の選択肢が広く、融資審査にも有利だが経理が複雑
- 事業承継の観点では法人(株式を渡すだけ)の方がシンプル
個人と法人の税率の違い:累進課税vs比例課税
両者の最大の違いのひとつが税率の構造です。個人の場合は所得税と住民税を合わせて約15%〜55%の累進課税になっています。法人の場合は約23%〜32%という比較的緩やかな税率構造です。
個人の所得税・住民税の合算税率(課税所得別)は以下の通りです。
| 課税所得の区分 | 所得税+住民税の合算税率 |
|---|---|
| 195万円以下 | 15%(所得税5%+住民税10%) |
| 195万円超〜330万円以下 | 20% |
| 330万円超〜695万円以下 | 30% |
| 695万円超〜900万円以下 | 33% |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 43% |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 50% |
| 4,000万円超 | 55% |
⚠️ 注意:「900万超えると損する」は都市伝説
「課税所得が900万円を超えると43%の税率になるから、900万円以上稼がない方がいい」という話を信じている方がいますが、これは嘘です。43%の税率が適用されるのは900万円を超えた部分だけです。課税所得1,000万円の人に対して43%をかけた430万円を全額払うわけではありません。
一方、法人の税率(法人税・法人住民税・法人事業税の合算)は以下の通りです。
| 課税所得の区分(中小企業) | 実効税率の目安 |
|---|---|
| 400万円以下 | 約23% |
| 400万円超〜800万円以下 | 約25% |
| 800万円超 | 約30%〜32% |
📌 ポイント
単純に税率だけで判断するなら、課税所得が低いうちは個人事業の方が税負担が低く、課税所得が900万円前後を超えてくると個人の税率が大きく上がり、法人の方が有利になってくる可能性があります。ただし、税率だけで判断するのではなく、使える節税策の種類も大きく異なる点が重要です。
📝 このセクションのまとめ
- 個人は15%〜55%の累進課税で、稼ぐほど税率が上がる
- 法人は23%〜32%程度で、個人より税率の上昇が緩やか
- 課税所得900万円前後が、個人と法人の税率逆転ポイントの目安
- 「900万超えると損」は誤解。超えた部分にだけ高い税率がかかる
マイクロ法人とは何か?そのメリットとリスク
マイクロ法人とは、正式な法律用語ではありません。一言で言うと、社会保険料削減スキームのために株式会社または合同会社を作って活用するものです。株式会社・合同会社と並んで「マイクロ法人」という組織形態があるわけではありません。
具体的には、個人事業をそのまま残しつつ法人を設立して社会保険に加入するという仕組みです。法人を作ると、今まで個人事業主として加入していた国民年金・国民健康保険が、協会けんぽの健康保険と厚生年金に切り替わります。
個人事業の所得(利益)に基づいて計算されていた国民健康保険料は、法人を作ることで役員報酬(月給)をベースに計算されるようになります。役員報酬を月5万〜6万円などの低額に設定すれば、社会保険料の負担を大幅に下げることができます。
⚠️ マイクロ法人のリスク・デメリット
- 法的には違法ではないがグレーゾーンであり、年金事務所も注目している
- 事業実態がなければ税務調査で否認されるリスクがある
- 小規模な法人を想定しているため、節税メリットが非常に限定的
- 役員報酬を低額にすると傷病手当金(怪我・病気の際の手当)が少なくなる
- 役員報酬が低いと将来の退職金も少なくなる(退職金は退任直前の月給をベースに計算)
- 個人事業と法人の2つを管理・申告する手間がかかる
- 税理士への顧問料・申告費用がダブルでかかる場合がある
- 融資審査が弱く、信用力も小さい
📌 今後の制度改正リスク
現在、政府は社会保険料の対象者を拡大しようとしており(年収106万円の壁の撤廃など)、遅かれ早かれマイクロ法人スキームにも何らかの改正措置が講じられる可能性があります。例えば、法人の所得と役員報酬を合算して保険料を決めるといった改正が考えられます。
また、マイクロ法人はあくまで事業拡大には適さないスキームです。いつまでもマイクロ法人で月給5万円のまま運営していると、退職金をほとんど取れないという事態になりかねません。
📝 このセクションのまとめ
- マイクロ法人は正式な法人形態ではなく「社会保険料削減スキーム」の通称
- 役員報酬を低額に設定することで社会保険料を抑える仕組み
- グレーゾーンであり、傷病手当・退職金・融資審査などのデメリットも大きい
- 事業拡大を目指すなら、マイクロ法人という考え方は捨てた方がよい
利益900万円のシミュレーション:個人と法人で税負担はどう違う?
ここからは具体的な数字でシミュレーションをしてみましょう。モデルとなるのは以下の方です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上 | 1,500万円 |
| 経費 | 600万円 |
| 利益 | 900万円 |
この利益900万円から様々な控除を引いて、税率を当てはめて所得税・住民税等を算定します。個人事業のままの場合、所得が900万円になると国民健康保険料が100万円超になります。国民年金は約20万円、所得税が100万円強、住民税も70万円超、さらに個人事業税が30万円強かかります。
| 税金・保険料の種類 | 個人事業主の場合 | 法人化した場合(役員報酬900万円) |
|---|---|---|
| 法人税(法人の利益に対して) | ― | 0円(利益ゼロのため) |
| 法人住民税(均等割) | ― | 約7〜8万円(赤字・利益ゼロでも発生) |
| 所得税 | 約100万円超 | 約60万円 |
| 住民税 | 約70万円超 | 約50万円 |
| 事業税 | 約30万円強 | 0円(給与になるため不要) |
| 国民健康保険料 | 約100万円超 | ―(社会保険に切替) |
| 国民年金 | 約20万円 | ―(社会保険に切替) |
| 社会保険料(個人負担分) | ― | 約125万円 |
| 社会保険料(会社負担分) | ― | 約125万円(法定福利費として経費計上可) |
| 税・保険料の合計(個人負担) | 約336万円 | 約240万円(個人負担のみ) |
| 会社負担分を含めた合計 | 約336万円 | 約360万円超(会社負担の社会保険料含む) |
📌 ポイント:法人化の本当のメリットは「節税策の幅」
役員報酬を900万円まるごと取ると、個人の税負担は個人事業とほぼ同水準(約330万円前後)になります。しかし、法人化の真のメリットは税率の差ではなく、使える節税策の種類が大幅に増える点にあります。
- 給与所得控除:個人事業主には使えないが、役員(給与所得者)になると最大195万円の控除が受けられる
- 中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済):全額損金算入が可能
- 出張旅費日当:非課税で支給可能
- 社宅:法人契約で経費化が可能
- 企業型DC(確定拠出年金):掛金が全額損金
これらの節税策を駆使して役員報酬を適切に設定することで、個人の税負担を大きく下げることが可能になります。
また、法人化すると給与所得控除195万円が受けられるようになります。個人事業主やフリーランスには適用できないこの控除が、役員(給与所得者)になるだけで受けられるというのは大きなメリットです。さらに、個人事業主にかかっていた事業税も、給与所得になることで不要になります。
なお、会社員の時は会社が社会保険料の半分を負担してくれていましたが、オーナー企業の場合は結局自分が全額負担することになります。この点は法人化の際に見落としがちなポイントです。
📝 このセクションのまとめ
- 利益900万円を役員報酬でそのまま取ると、個人と法人の税負担はほぼ同水準
- 法人化の真価は「税率の差」ではなく「使える節税策の幅の広さ」にある
- 給与所得控除195万円・事業税ゼロなど、法人化で得られる恩恵は大きい
- 社会保険料は個人・会社合わせて約250万円の負担になる点に注意
自分に当てはまるのはどれ?事業形態の選び方・8つのパターン
個別の事情によって最適解は異なりますが、考え方の目安として以下のパターンを参考にしてください。
- 売上1,000万円でも利益が少ない場合(例:利益100万円):節税の必要性も低く、個人事業のままで十分な場合が多い
- 売上1,000万円で利益が800万円残る場合:節税の観点から法人化を検討する価値がある
- 節税の必要性も取引先からの法人化要望もない場合:無理に法人化する必要はない
- 個人事業主で国民健康保険料の負担が大きくて困っている場合:まず業種・都道府県ごとの国民健康保険組合(例:飲食国保組合など)を確認する。それでも解決しなければマイクロ法人を検討する余地もある
- 個人事業主で国保だけでなく節税もしっかりしたいそこそこ儲かっている場合:法人を作って経営セーフティ共済などの節税策を活用する
- 適度に節税しながら1人でこぢんまりやりたい場合:利益が100〜200万円程度なら個人のままでも可。法人を作っても1人でこぢんまり経営できる。法人化はそれほど大変なものではない
- 節税したいが個人事業とマイクロ法人の2つを管理するのは面倒という場合:普通に法人経営する方がシンプルでよい
- 社員を増やしてガンガン事業を拡大したい場合:当然、法人一択。節税対策を考えるよりも、事業に必要な投資をして会社を拡大することを優先する
📌 事業の成長ステージに合わせて形態を変えていけばよい
個人事業主・マイクロ法人・普通の法人のどれか1つを絶対に選ばなければならないわけではありません。事業の成長ステージに合わせて変えていくことも選択肢のひとつです。
- まず個人事業主としてスタートして様子を見る
- 社会保険料が重くなってきたらマイクロ法人を試してみる
- 事業を拡大していくなら、マイクロ法人の「社会保険料削減」という考え方を捨てて、普通の法人として役員報酬もしっかり取りながら運営する
📝 このセクションのまとめ
- 売上ではなく「利益(課税所得)」と「今後の事業規模の目標」で判断する
- 国民健康保険料が重い場合は、まず国民健康保険組合の活用を検討する
- 事業拡大を目指すならマイクロ法人という考え方は早めに捨てる
- 3つの形態はどれか1つを固定する必要はなく、成長ステージに合わせて変えていける
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
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