マイクロ法人を解散する前に知っておくべき税金の落とし穴|税理士が解説
マイクロ法人を安易に解散して個人事業に戻す「個人なり」には、思わぬ税負担が発生するリスクがあります。
そもそも「個人なり」とは?マイクロ法人を作った理由のあるある
「法人なり」という言葉はご存知の方も多いと思いますが、その逆、つまり法人から個人事業に戻すことを「個人なり」と呼んだりします。法律用語ではありませんが、実務ではよく使われる表現です。この個人なりを安易に行うと、色々と損してしまうことがあります。
まず、そもそもなぜマイクロ法人を作ったのか、よくある理由を整理してみましょう。
- 稼ぎが大きくなったときに国民健康保険料がむちゃくちゃ高くなるのを避けたかった
- 個人事業には大きな節税手段がなかった
- YouTubeやブログでマイクロ法人を勧める情報が多く、影響を受けた
マイクロ法人とは法律用語ではありませんが、個人事業主が稼ぎが大きくなったときに新たに法人を設立し、その代表に就任して月5〜6万円程度の最低限の役員報酬を取ることで社会保険料の負担を下げる、という仕組みです。
個人事業を続けながら法人を経営している場合、基本的にはその法人の方で社会保険に強制加入となります。つまり国民健康保険から脱退することができ、役員報酬を少額に抑えれば毎月の社会保険料の負担も下げられるということで、特に5年ほど前からYouTubeでも「マイクロ法人おすすめですよ」と盛んに紹介されてきました。
📌 ポイント
マイクロ法人の主な目的は国民健康保険料の節約です。法人の代表者として社会保険に加入することで国保から脱退でき、役員報酬を低く設定することで社会保険料の負担も抑えられます。
しかし実際にやってみると、国保は下がったものの、均等割りという税負担が増えたり、申告の手間が大変だったりと、「デメリットだらけだった」と感じる方も少なくありません。
📝 このセクションのまとめ
- マイクロ法人は国保削減を目的に設立されるケースが多い
- 「思ったよりメリットがなかった」と感じる方も多い
- 個人なりを安易に行うと損をすることがある
マイクロ法人・1人社長のよくある不満とデメリット
実際にマイクロ法人を運営してみて感じるデメリットとして、よく挙げられるのが以下の点です。
- 均等割り(法人住民税):法人の稼ぎに関係なく、都道府県・市町村に事業を構える場所代のような税金がかかる。赤字でも課税され、最低でも年間7〜8万円かかる
- 会計・申告の手間:個人の確定申告は頑張れば自分でできるが、法人はハードルが高く、税理士に依頼せざるを得なくなり費用がかかる
- 登記による情報公開:法人の場合、代表者の個人住所が登記簿に掲載される(株式会社は2023年10月から代表者住所の非表示措置が可能になったが、合同会社はそうはいかない)
⚠️ 注意
法人の均等割りは赤字でも必ず課税されます。最低でも年間7〜8万円の負担が発生するため、節約できた国保の金額と比較して本当にトクなのかをしっかり確認することが重要です。
📝 このセクションのまとめ
- 均等割りは赤字でも年7〜8万円かかる
- 法人の申告は複雑で税理士費用が別途発生する
- 登記による情報公開もデメリットの一つ
個人なりのメリット・デメリット比較
個人なり(法人から個人事業に戻すこと)を検討する際には、メリットとデメリットをしっかり比較することが大切です。
| 項目 | 個人事業のメリット(=法人のデメリット) |
|---|---|
| 維持コスト | 確定申告を自分でできる場合もあり、均等割りも数千円程度で済む |
| 社会保険 | 業種によっては事業所としての社会保険強制加入義務がない |
| 税務申告 | 手続きが比較的シンプルで、ツールを使えば自力申告も可能 |
| 税務調査 | 大規模な事業所よりもターゲットになりにくい傾向がある |
| 小規模事業の税負担 | 課税所得が低ければ所得税+住民税の最低税率は約15%で済む |
| 項目 | 個人事業のデメリット(=法人のメリット) |
|---|---|
| 高所得時の税負担 | 所得税+住民税の最高税率は55%と非常に高い |
| 信用力 | 法人より低くなる。賃貸オフィスの入居審査で不利になる場合も |
| 節税の選択肢 | 法人特有の節税策(役員報酬の分散、生命保険、出張旅費規程、役員退職金など)が使えない |
| 相続・事業承継 | 個人名義の資産(車・機械・不動産・通帳など)をすべて名義変更する必要があり手間と税負担が発生 |
一言で言うと、大規模な事業であれば法人の方が有利です。売上規模で言うと年間1億円以上が目安ですが、年5,000万円でも利益が2,000万円あるような利益率の高い事業であれば、法人化のメリットの方が大きくなります。
また、課税所得が900万円を超えると所得税+住民税の税率が43%になります。法人税率は中小企業で25〜30%程度なので、「900万円を超えたら法人化すべき」と思われがちですが、注意点があります。
📌 ポイント:超過累進税率のしくみ
課税所得が900万円を超えたからといって、その人の税率が全額43%になるわけではありません。900万円を超えた部分だけに43%が適用されます。どんな人でも課税所得195万円までは15%、195万〜330万円の部分は20%というように、階層ごとに計算します。
| 課税所得 | 所得税+住民税の合算税率(目安) |
|---|---|
| 〜195万円 | 約15% |
| 195万〜330万円 | 約20% |
| 330万〜695万円 | 約30% |
| 695万〜900万円 | 約33% |
| 900万〜1,800万円 | 約43% |
| 1,800万〜4,000万円 | 約50% |
| 4,000万円超 | 約55% |
また、税率だけでなく、法人になった瞬間に節税の選択肢が広がります。役員報酬、生命保険、社宅、旅費規程、経営セーフティ共済なども活用しやすくなるため、単純に「900万円のライン」ではなく、課税所得500万円前後でも法人化が有利になる場合があります。事業の拡大を見越して500万円程度で法人化を準備される方が多いのが現状です。
📝 このセクションのまとめ
- 個人事業の最低税率は約15%、最高税率は55%
- 税率は超過累進構造のため、900万円超でも全額43%になるわけではない
- 節税の選択肢の広さを考えると、課税所得500万円前後から法人化を検討する方も多い
- 大規模事業(年商1億円以上、または高利益率)は法人の方が有利
会社の閉め方には3つの方法がある
個人なりを決断した場合、会社の閉め方にはいくつかの方法があります。
- 会社の清算(解散):正式な手続きを経て会社を完全に消滅させる
- 休眠(眠らせる):清算はせず、活動を停止した状態で維持する
- M&A・事業承継:第三者に会社や事業を売却・譲渡する
実務的には、正式な清算手続きは手間とコストがかかるため、休眠を選ぶケースが非常に多いのが現状です。ただし、休眠にも注意が必要です。
⚠️ 注意:休眠させても「何もしなくていい」は間違い
- 税務署に休眠の届け出を提出する必要がある
- 法人税の申告はきちんと行わなければならない
- 役員の任期(株式会社は最長10年)が来たら役員変更登記が必要。怠ると罰金が発生する
- 放置していると約12年で自動的に解散扱いになるが、その間に役員変更登記を怠った場合の罰金は免除されない
M&Aや事業承継については、仕組み化がなされていて継続性の高いビジネスであれば成立しますが、社長がいないと成り立たないような属人性の高いビジネスだと、うまくいかないか、金額を大幅に下げられてしまうことになります。
📝 このセクションのまとめ
- 会社の閉め方は「清算」「休眠」「M&A」の3種類
- 実務では休眠を選ぶケースが多いが、届け出・申告・役員変更登記は必要
- M&Aは属人性の高いビジネスには向かない
会社清算の手続きの流れと費用
きちんと会社を清算したい場合、以下のステップを踏む必要があります。
- 株主総会で解散決議:マイクロ法人や1人社長の場合は書面に残すだけでOK
- 財産目録・貸借対照表の作成:会社にどんな財産がいくら残っているかを明らかにする
- 債権者保護手続き:会社を解散するにあたり、債権者(お金を借りている先・未払いがある先)に対して公告を行い、返済手続きを進める
- 解散事業年度の確定申告
- 残余財産の分配:会社に残った財産を代表者・株主に分配する
- 清算確定申告・清算結了登記
これらのステップはトータルで約3〜4ヶ月かかります。また、税理士や司法書士のサポートも必要となり、費用は10〜20万円程度かかるのが一般的です。時間もお金もかかるため、自分でやる方もいますが、なかなか大変な作業です。
📝 このセクションのまとめ
- 清算手続きは全6ステップ、約3〜4ヶ月かかる
- 専門家費用として10〜20万円程度が必要
- 自力でも可能だが、かなり手間がかかる
最大の落とし穴:みなし配当課税で120万円超の税負担が発生するケースも
会社を清算する際に、特に注意しなければならないのがみなし配当課税です。
会社をスタートするとき、社長はお金を法人に入れます。これが資本金となります。法人の純資産(自己資本)は「資本金」と「剰余金」に分かれており、剰余金とはこれまで法人が稼いできた税引き後の利益のことです。ずっと業績が順調だった会社はこの剰余金がたっぷりある状態になります。
会社を清算する際には、この純資産を代表者・株主に返還します。これを残余財産の分配といいます。
📌 みなし配当のしくみ(具体例)
例えば、最初に資本金100万円で会社を設立し、長年の経営で純資産が1,000万円になっていたとします。この場合、清算時に受け取る残余財産1,000万円のうち、資本金100万円を超える差額900万円が「みなし配当」として配当所得扱いになります。
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 純資産(残余財産) | 1,000万円 | 清算時に受け取る金額 |
| 資本金(出資額) | 100万円 | 当初入れたお金 |
| みなし配当(課税対象) | 900万円 | 差額が配当所得扱い |
| 税負担(配当控除前) | 約240万円 | 所得税+住民税+復興特別税 |
| 配当控除適用後の税負担 | 約121万円 | 所得税約56万円+住民税約65万円 |
上場企業の株式配当や売却の場合は一律20%の分離課税ですが、非上場株式の配当の場合は総合課税・超過累進税率が適用されるため、税負担が非常に重くなります。
なお、配当控除という制度があります。配当の原資は法人税を支払った後の税引き後利益なので二重課税を考慮して税負担が少し下がりますが、それでも約121万円の税負担が発生します。
⚠️ 注意
「もう法人でやっていくメリットがないから解散しよう」と焦って清算すると、その瞬間にこれだけの税金がかかることがあります。清算費用(10〜20万円)に加えてみなし配当課税で121万円超の税負担が発生するケースもあります。純資産が残っている会社を解散する際は、必ず事前に税理士に相談してください。
📝 このセクションのまとめ
- 清算時に純資産が資本金を上回る場合、差額がみなし配当として課税される
- 非上場株式のみなし配当は総合課税・超過累進税率が適用される
- 配当控除後でも税負担は重く、純資産900万円超過のケースでは約121万円の税負担になる
税負担を最小化しながら会社を畳む方法:役員退職金と計画的な純資産の取り崩し
では、純資産が残っている会社を清算する際に税負担を抑えるにはどうすればいいのでしょうか。ポイントは焦らず、ゆっくり計画的に進めることです。
まず、赤字が続いて純資産が全くない(債務超過の)会社であれば、気にせず解散してもいいですし、そのまま休眠でも構いません。問題は純資産がたっぷりある会社です。
具体的な対策として、以下の2つを組み合わせることが効果的です。
- 役員報酬を少しずつ取りながら純資産を削る:超過累進税率はその1年間の稼ぎの高さで決まるため、慌てて解散してみなし配当をドーンと受け取るより、小分けにして役員報酬として受け取る方が税負担を抑えられる
- 役員退職金を活用する:法人のオーナーは会社をやめる際に退職金を受け取ることができ、比較的大きな金額の計上が可能で、かつ税負担も非常に軽い
役員退職金の計算方法は、税務上認められる目安として以下の算式が使われます。
📌 役員退職金の目安計算式
退任直前の最終役員報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率
功績倍率は代表取締役の場合、おおむね最大3倍程度が目安とされています。
【計算例】月額役員報酬5万円 × 在任30年 × 功績倍率3倍 = 450万円の役員退職金
ただし、役員退職金には注意点があります。
- 世間相場(同業・同規模・同税務署管轄の法人の退職金)と比べて不相当に高額な場合は税務上否認されることがある
- 役員退職金規程を事前に整備しておく必要がある
- もっと大きな退職金を取ろうと思うなら、役員報酬を事前に適正な水準(数十万〜100万〜200万円)に設定しておく必要がある
⚠️ 注意:数年前からの計画が必要
会社を本当に清算して役員退職金を活用するのであれば、数年前から計画を立て、役員報酬の設定や退職金規程の整備をしておかなければなりません。思い立ってすぐに実行できるものではありません。
最終的には、役員報酬での少しずつの取り崩しと役員退職金を組み合わせながら、純資産を計画的に削っていき、最終的に残った金額が小さければみなし配当で受け取ったとしても税負担は軽くなります。このように税負担を考えながら少しずつ自己資本を削っていくやり方が有効です。
📝 このセクションのまとめ
- 純資産がある会社を解散する際は、焦らず計画的に進めることが最重要
- 役員報酬で少しずつ純資産を削ることで、みなし配当の税負担を分散できる
- 役員退職金はみなし配当より税負担が圧倒的に軽く、有効な節税手段
- 役員退職金を活用するには、数年前から役員報酬の設定と退職金規程の整備が必要
まとめ:個人なりを検討するなら、まずメリット・デメリットをしっかり比較しよう
今日は「個人なり」というテーマで、そのメリット・デメリットと会社の閉め方を中心に解説してきました。
最大のポイントは、何も考えずに会社をすぐに閉めることだけはやめてくださいということです。まずは本当に個人なりが自分にとって有利なのかどうか、このメリット・デメリット比較をしっかり行ってください。
- 純資産がない(債務超過の)会社 → 気にせず解散または休眠でOK
- 純資産がある会社 → みなし配当課税に注意。役員報酬の取り崩しと役員退職金を組み合わせて計画的に進める
- 休眠を選ぶ場合 → 届け出・申告・役員変更登記を忘れずに
個人なりについてご質問やご意見があれば、ぜひコメント欄にお書きください。
終わりに
本記事の内容は YouTubeチャンネル 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士 の下記動画を参考に作成しています。AIによる書き起こしを活用しているため、誤字脱字がある可能性があります。ご了承ください。本サイトは 税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士を応援しています!
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